先日の記事で、日本国内での電気自動車のライフサイクルCO2排出量について、マツダさんの論文を検証した結果、電気自動車のほうがトータルで排出が少ないことが分かりました。では米国・EU・中国ではどうでしょうか?
電力の再エネ化が進めば電気自動車の排出量はさらに削減
**結論:日本・米国・EU・中国のどの地域においても、電気自動車のCO2排出量は、ガソリン車のそれより少ない。**これは自動車(バッテリー含む)および、燃料の採掘・発電に必要な資源の採掘から、燃料輸送・送電までの全ての過程の排出を含んだ条件である。
当記事では、前回ご紹介したマツダさんの論文にあったように、各地域ごとのガソリンの排出原単位・電力の排出原単位を用いて、日本・米国・EU・中国のそれぞれの地域のデータを一覧表で計算したうえで、グラフにしてみます。排出原単位とは、ガソリンなら原油の採掘・輸送・精製・ガソリンスタンドまでの輸送にかかるCO2排出量を、ガソリン1kg当たりに換算したもの。電力の場合は、発電に必要な石炭や天然ガス(石油も少ないですが含まれます)などの採掘から輸送・精製まで、そしてその後の送電にかかるCO2排出量の合計を、電力量1kWh当たりに換算したものです。
【前提条件】
この排出原単位のデータはマツダさんの論文と同様、GaBiという会社のデータを購入して使用しており、データの年度は2016年度となっています。ガソリンはレギュラーガソリンを想定しています。比較する車両は、前回と同様、MAZDA 3 X PROACTIVE(SKYACTIV-X搭載)とテスラ モデル3ロングレンジ(75kWhバッテリー)とします。
電気自動車のバッテリーの製造にかかる製造時排出は、最も最近のデータであるIVL 2019の平均値83.5kg-CO2eq/kWhを使用し、75kWhであれば6262.5kgとしています。
【関連記事】
『マツダさんの Well To Wheel 計算は正しく、電気自動車のライフサイクルCO2排出はガソリン車より多いのか?』
国(地域)別ライフサイクル排出量比較
さっそく表で見てみましょう。(表は指で横スクロールできます)
| 走行距離(km) | 新車 | 10000 | 20000 | 30000 | 40000 | 50000 | 60000 | 70000 | 80000 | 90000 | 100000 | 110000 | 120000 | 130000 | 140000 | 150000 | 160000 | 170000 | 180000 | 190000 | 200000 | 210000 | 220000 | 230000 | 240000 | 250000 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ガソリン車(JP) | 5493 | 7258 | 9023 | 10795 | 12668 | 14452 | 16224 | 17989 | 19862 | 21634 | 23418 | 25190 | 27063 | 28828 | 30600 | 32384 | 34257 | 36029 | 37794 | 39566 | 41458 | 43223 | 44995 | 46760 | 48632 | 50424 |
| 電気自動車(JP) | 12193 | 13204 | 14215 | 15226 | 16346 | 17377 | 18388 | 19399 | 20518 | 21530 | 22561 | 23572 | 24691 | 25703 | 26714 | 27745 | 28864 | 29875 | 30887 | 31898 | 33037 | 34048 | 35059 | 36071 | 37190 | 38221 |
| ガソリン車(US) | 5493 | 7343 | 9194 | 11051 | 13009 | 14879 | 16736 | 18586 | 20545 | 22402 | 24272 | 26129 | 28087 | 29938 | 31795 | 33665 | 35623 | 37480 | 39330 | 41188 | 43165 | 45016 | 46873 | 48723 | 50682 | 52558 |
| 電気自動車(US) | 10505 | 11339 | 12172 | 13006 | 13947 | 14801 | 15634 | 16468 | 17409 | 18243 | 19096 | 19930 | 20871 | 21705 | 22538 | 23392 | 24333 | 25167 | 26000 | 26834 | 27795 | 28629 | 29462 | 30296 | 31237 | 32091 |
| ガソリン車(EU-28) | 5493 | 7311 | 9130 | 10955 | 12881 | 14719 | 16545 | 18363 | 20289 | 22115 | 23952 | 25778 | 27704 | 29522 | 31348 | 33186 | 35112 | 36937 | 38756 | 40581 | 42527 | 44345 | 46170 | 47989 | 49915 | 51760 |
| 電気自動車(EU-28) | 10505 | 11111 | 11717 | 12322 | 13036 | 13662 | 14267 | 14873 | 15587 | 16193 | 16818 | 17424 | 18138 | 18744 | 19349 | 19975 | 20689 | 21294 | 21900 | 22506 | 23239 | 23845 | 24451 | 25057 | 25771 | 26396 |
| ガソリン車(CN) | 5493 | 7226 | 8959 | 10699 | 12540 | 14292 | 16032 | 17765 | 19606 | 21346 | 23099 | 24839 | 26680 | 28412 | 30152 | 31905 | 33746 | 35486 | 37219 | 38959 | 40819 | 42552 | 44292 | 46025 | 47866 | 49625 |
| 電気自動車(CN) | 10505 | 11718 | 12931 | 14145 | 15466 | 16699 | 17912 | 19125 | 20446 | 21660 | 22892 | 24106 | 25427 | 26640 | 27853 | 29086 | 30407 | 31621 | 32834 | 34047 | 35388 | 36601 | 37814 | 39028 | 40349 | 41582 |
ガソリン車と電気自動車を順番に、国ごとに並べてみています。USは米国、EU-28とは、EUの28か国の平均値、CNは中国です。背景色を付けてあるところが、電気自動車のライフサイクル排出が、ガソリン車のライフサイクル排出を下回る走行距離となります。
結果としては、日本では9万キロ、米国とEUでは5万キロ、中国でも10万キロ走行時点で、電気自動車のCO2排出量はガソリン車のトータル排出量を下回る。
ことが分かりました。グラフで見てみましょう。
灰色とブルー系の折れ線はガソリン車、茶(中国)・オレンジ(日本)・黄(米国)・緑(EU)が電気自動車です。電気自動車は走行時の排出が少ないため、新車時の排出はガソリン車より多いのですが、グラフの傾きが緩やかで、5万キロ~10万キロの間でガソリン車の折れ線と交差しています。
上記の計算はあくまで、車両が廃車になるまでの間、ガソリンと電力の排出原単位が変化しないことを前提としていました。
ではもう少し長期的に考えて、将来CO2の排出量を削減するにあたり、どのような努力が必要になるかも検討してみましょう。
まず、ガソリンの採掘・輸送・精製に関わる排出を減らすのは難しいですから、ガソリン車で排出を減らすには燃費を向上させるしかありません。グラフで見てみましょう(ソース:米国EPA)。約15年前の2004年時点で461g/miだった排出は、2019年時点で346g/miになっています。1年あたり7.67g/miずつ減少しているので、同じトレンドが続くと仮定すると、年1.7%ずつ改善できていることになります。
発電の低炭素化は急ピッチになる可能性がある
電気自動車の排出を減らすには、一つはバッテリー製造にかかる排出を減らすことと、発電にかかる排出を減らすことが挙げられます。前回の記事でもバッテリー製造にかかる排出が減少していることに触れましたが、ここでは発電にかかる排出の変化について、ガソリンと比較してみましょう(ソース:原子力・エネルギー図面集)。震災に伴う原発停止の影響が大きいのでグラフは複雑な形状になってしまっていますが、多くの原発が停止状態にある2014-2018年の5年間を見てみると、2014年時点で552g/kWh、2018年時点で463g/kWhとなっており、1年あたり17.8g/kWhずつ減少しているので、同じトレンドが続くとすると、年3.2%ずつ改善できていることになります。
しかも、電力に関して言えば、シンクタンクCarbon Trackerのリリースによると、「Renewables are outcompeting coal around the world and proposed coal investments risk becoming stranded assets which could lock in high-cost coal power for decades. The market is driving the low-carbon energy transition but governments aren’t listening. It makes economic sense for governments to cancel new coal projects immediately and progressively phase out existing plants.」とあります。今後、発電の低炭素化は急ピッチになる可能性があるということですね。
**※日本語訳:**再生可能エネルギーは世界で石炭発電よりコストが安くなっており、これから予定している石炭火力発電所への投資は、何十年にも渡って高コストの電力に縛られ、不良資産になるリスクがある。市場は低炭素化社会への変化に向かっているが、政府は耳を貸していない。国の財政の観点からも、新規石炭火力発電への投資を止め、既存の石炭火力も継続的廃止を進めるのがベターである。
実際に2030年、2050年にはどのくらい排出が減らせるのでしょうか? 先ほどの計算で出した年1.7%/3.2%が毎年続くと仮定して、10年後と30年後の推測値を出してみます。
| 2020年 | 2030年 | 2050年 | |
|---|---|---|---|
| ガソリン車
年1.7%ずつ燃費改善 | 1 | 17%減 | 51%減
※恐らくここまでは減少しない |
| 電気自動車
年3.2%ずつ低炭素化 | 1 | 32%減 | 96%減
※恐らくここまでは減少しない |
保有されている全電気自動車の排出量が削減できる
実はCO2排出削減のために電気自動車が有利な点は、これだけではないのです。日本国内ではおおよそ6千万台の乗用車が保有されており、新車は毎年500万台。総台数が変わらないと仮定すると、全部入れ替わるのに12年。つまりこれから先の10年間では、ガソリン車全体での総CO2排出量は、17%減ではなく8.5%減程度に留まってしまいます。買い替えていない車の燃費は向上しないからです。
電気自動車はどうでしょうか。2030年に仮に発電による排出が32%減少したと仮定すると、2009年に発売された古い電気自動車の排出も、自動的に32%減少します。保有されている全電気自動車の排出が、同時に下がっていくわけですね。
これがまさに、ガソリン車やハイブリッド車ではCO2排出を効果的に減らすことができず、電気自動車が排出量の低減に必須である理由なのです。
(検証・文/安川 洋)
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