ホンダの三部敏宏 代表取締役社長は2021年4月23日に記者会見を行い、2040年にグローバルで電気自動車、燃料電池車の販売比率を100%にする目標を発表しました。
※冒頭写真はホンダニュースリリースより引用。
2040年にグローバルでEVとFCEVの販売を100%に
2021年2月19日にホンダの代表取締役社長に就任した三部敏宏(みべ としひろ)氏が、ホンダの長期的な経営方針を記者会見で説明しました。すでに2月の社長就任時に、2050年にカーボンニュートラルを目指すというおおまかな方向性は示していましたが、そのために必要な要素を明らかにしました。
【参考ページ】
●社長就任会見 代表取締役社長 三部 敏宏スピーチ概要(ホンダニュースルーム)
●Honda 社長就任会見(YouTube)
基礎になる考え方は、2050年に、「ホンダの関わる全ての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルを目指す」ことです。そのために「カーボンニュートラル」「クリーンエネルギー」「リソースサーキュレーション」の3つを柱にすえて製品開発や新技術の導入などに取り組むとしています。
具体的には、二輪・四輪を電動化することや、可搬型のバッテリー「Honda Mobile Power Pack(モバイルパワーパック)」を利用することで電動で動く製品の幅を広げたり、インフラと製品を連携させた電力の効率的な運用をしながら、再生可能エネルギーの利用拡大を目指します。
こうしたことを実現するための手段として、「モバイルパワーパックの活用拡大」、「電動車両に搭載された大容量バッテリーの活用」、「FC(燃料電池)システムの応用・展開」を実行していくとしています。
そして2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、まずはTank to Wheelでのカーボンフリーを達成するために、「先進国全体で、EV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%、そして2040年にはグローバルで100%を目指します」(三部社長)と宣言しました。
はい、ここは大事なところです。「電動化」ではなく「EVとFCEV」で100%です。ハイブリッド車(HEV)だけでなく、プラグインハイブリッド車(PHEV)すら入っていません。
さらに三部社長は、こうも話しました。
「ホンダは創業以来高い志と目標を掲げ、チャレンジを続けてきた会社であり、チャレンジングな目標にこそ、奮い立ち、挑戦する人が集う会社です。私もそのひとりとして環境技術の開発に取り組んでまいりました。今回もまだ詰めていかなければならないことがたくさんあります。しかしまず高い目標を掲げることで全員で目指す姿を共有し、実現に向けてチャレンジしたいと考え、目指すべき長期目標を明確に掲げることとしました」
いや、思い切りがいいですね。こういう企業姿勢、ここ20年くらい出ていなかったように思います。久しぶりに日本メーカーから挑戦的、野心的な目標設定が出てきました。
10年ちょっと前に初代『プリウス』の開発経緯をトヨタ関係者に取材していた時に、むちゃくちゃな高い目標に挑戦する姿を見ることができて感動しました。『プリウス』はその後、自動車の歴史に残る車になりましたが、この先10年でホンダがこの目標を実現できれば、新たな歴史になるのではないかと思いました。
北米はGMと連携して2024年モデルのEVを投入
全体の目標達成に向けた個別の目標も発表がありました。まず四輪は、北米、中国、日本のそれぞれの地域事情に合わせたEV、FCEVの販売比率を示しました。
**先進国全体 2030年に40%、2035年に80%
グローバル ****2040年に100%
北米 2030年に40%、2035年に80%、2040年に100%
中国 2030年に40%、2035年に80%、2040年に100%
日本 2030年に20%、2035年に80%、2040年に100%**
日本の2030年の比率が低いことについて三部社長は質疑応答の中で、「日本は世界の中でも突出してハイブリッド車の比率が高く、また電力事情を考えると、2030年くらいまではコンベンショナルな車(既存の内燃機関の車)をハイブリッド車に変えていくというのが現実的な解ではないか」という見方を示しました。
とはいえ、2035年に80%という目標値は世界各国で揃っているので、日本に関してみれば2030年から35年の5年間でEVなどが急増するシナリオが、ホンダの中で描かれていることになります。21世紀になって最初の10年で、ハイブリッド車が爆発的に増えた経緯でも想定しているのでしょうか。
地域別目標の中に欧州が入っていないことについては、ホンダとしての主要3地域を挙げているからとのことでした。加えて、欧州のEVの販売比率はすでにかなり高いため、日本でEV、FCEVの比率が少し低くても全体では2030年に40%になるという説明がありました。
地域ごとに見ていくと、北米ではGMとのアライアンスを柱に、GMのEV向けバッテリー『アルティウム』を搭載した共同開発の大型EVを2車種、2024年モデルとしてホンダ、アキュラの各ブランドで発売予定です。24年モデルということは、早ければ23年中に発売されるかもしれません。
これとは別に、ホンダ独自のEV用プラットフォーム『e:アーキテクチャー』を使ったクルマを、2020年代後半から北米市場に出し、その後は他の地域にも展開していく計画です。
日本は2024年に軽EVを投入
中国市場については、上海モーターショーで5年以内に10車種を投入する計画を公表しています。いずれもホンダブランドになる予定です。その第1弾は『Honda SUV e: Prototype』をベースにした量販車で、2022年春に発売予定です。ただ、『Honda SUV e: Prototype』についての詳細な仕様はまだ公表されていません。
中国市場の車については、バッテリーはすでに連携が発表されているCATLが供給する予定です。
お膝元の日本は、当面のEV、FCEV比率は低いのですが、2024年に軽自動車のEVを発売する計画が発表されました。搭載するバッテリーについては、国内産業の発展にもつながるよう、「地産地消」を目指すそうです。明確に「国産バッテリー」と書いていないのが少し気になると言えば気になりますが、現時点では公表できるほどの材料がないということなのでしょう。
日本市場では他にも、GMと共同開発している『Cruise Origin』を2020年代半ばに投入する予定です、2021年中、つまり今年中には技術的な実証を始めるとしています。
製品開発を進めるとともに、ホンダでも全固体電池の研究開発を進めていて、2021年度内に実証ラインでの生産技術検証を始めるとしています。これも技術の詳細は出ていないので、どういった仕様のものを、どのくらいの規模で生産することを想定しているのかわかりません。
そもそも、現物ができたという話も出ていないので推測もできません。三部社長の説明では、「研究室レベルでの成果がある程度明確になってきた」ので、ラインでの生産技術検証に入るとのことでした。
製品は、生産技術が確立できなければ市場には出せません。以前のEVsmartブログの記事でも全固体電池は生産技術のハードルが非常に高いため、実用化は簡単ではないと指摘したことがあります。ホンダがそこをどのように判断するのか。今後の動向に注目したいと思います。
【関連記事】
●電気自動車の進化に必須といわれる「全固体電池」は実用化できない?(2019年11月19日)
二輪はインドのオートリキシャーの電動化に挑戦
二輪に関しても注目すべき発表がありました。まず電動化への社会的要請が強い先進国では、B2B(企業対象)やB2G(省庁や自治体対象)のビジネスモデルで、可搬型『モバイルパワーパック』を使った二輪(三輪)車の電動化を進めるとしています。
同時に一般ユーザーが利用できるバッテリー交換ステーションを拡充するため、日本と欧州では二輪メーカーでコンソーシアムを設立し、交換式バッテリー技術の標準化を進めています。
具体的な商品についても、2021年に『GYRO e:』『GYRO CANOPY e:』を発売するほか、2024年までに3機種の電動二輪車や、楽しさを追求した、ホンダで言う「FUN領域」のEVも商品化する計画が明らかにされました。
ところで個人的な興味なのですが、発表の中で、ホンダは『モバイルパワーパック』を使ったマイクロモビリティの活用を検討していて、現在、インドで三輪のオートリキシャーの実証実験をしているそうです。
オートリキシャーは、乗る度に運転手と値段交渉で怒鳴りあいみたいになった記憶がありますが、それはともかく、とにかく排ガスがひどくて、インドや、その周辺国で同じ車両を使っている地域では光化学スモッグをはじめとする大気汚染に悩んでいます。だから電動化されるのは、地元民も歓迎だろうし、そもそもガソリン価格が収入に比べて高いので、電動化のメリットは大きいのではないかと思いました。できれば現地に見に行きたいところですが、今はちょっと難しいですね。
この他、FCEVについてはGMとの協業を続けつつ、商用トラックへの展開、定置型や可搬型の電源として利用するなど用途の幅を広げながら、利用拡大を目指すとしています。
PHEVさえも割り切って、日本社会に一石を投じたホンダ
今回のホンダの発表に関して、驚いたというか、感心したというか、目を見張った点が2つありました。PHEVを目標の中に含めていないことと、「e-FUEL」についての三部社長の認識です。
まず、PHEVを目標に含めていないことについては、これは勝手な推測ですが「儲かる車ができなかったのかな……」です。もともとPHEVは、EVの要素と内燃機関の車の要素を、両方とも強く持っているためにコストが高くなる傾向がありました。ハイブリッド車ですらコストが高くなると言われているのに、構成部品の中でも特にコストのかかるバッテリーを増やしたのがPHEVなので、簡単に安くできるわけがありません。
他方で、バッテリーについてはコストダウンが進んできましたが、そうなると今度はエンジンが余計なものになっていきます。しかもバッテリーの性能が上がって航続距離が伸びてくると、「バッテリーだけで走れるならBEVでいいんじゃないの?」となります。
さらにHEVの効率が上がってきてる中では、わざわざ重たくて価格の高いバッテリーを増やすメリットが薄れていきます。そんなこんなで、トヨタはPHEVの市場投入を躊躇していたところがあります。
確かにそれはそうで、筆者もPHEVが出てきた時には、HEVからEVへのつなぎというか、EVに移行するための過渡期的な(ユーザーがEVに慣れる練習用みたいな)車かなと感じていました。
こうしたPHEVの基本的な性格を踏まえると、今から10年後、15年後に向けてPHEVとEVのどちらを優先するのか考える必要があるのは自然でしょう。ホンダはそこで、PHEVよりもEVにメリットがあると判断したということになります。
これは既存の内燃機関の体制を徐々に縮小していくことに他なりません。そうなる可能性は20年ほど前から言われていましたが、言うは易く行うは難しで、今まで明確な言葉にした日本メーカーはありませんでした。今回のホンダの決断は、次の四半世紀の変化と正面から向き合う決意を示したと言え、変化を嫌う日本社会に一石を投げかけるものになると思いました。
内燃機関を延命する自工会はどこへ行くのか
もうひとつの注目は、三部社長の発言でした。実はホンダの社長会見の前日に、日本自動車工業会が記者会見をし、豊田章男会長(トヨタ自動車社長)がカーボンニュートラルについて説明し、「カーボンニュートラルの本質を『正しく理解』した上でみんなで対応することが必要」と強調しました。近日中に、わかりやすく説明したコンテンツも公開するそうです。
中継】日本自動車工業会記者会見(4/22)(YouTube)
記者会見で豊田会長は合成燃料の『e-FUEL』(回収したCO2を水素などと混合して生成する燃料で、水素を再エネで製造するとカーボンニュートラルになる)に言及し、「高効率エンジン+モーターの複合技術にカーボンニュートラル燃料が組み合わされれば、すべての車でカーボンニュートラルが実現できる」と述べています。つまりHEVにe-FUELを使うという趣旨ですが、それだけでなく、世界で動いている車すべてをカーボンニュートラルにするためにはe-FUELが重要になるということも強調していました。この指摘は同感です。
そして記者会見での質疑応答ではe-FUELについて、「2040年くらいまでに既存ガソリンと同等に下げるという考えのようだが、2040年だとEVの電池価格が下がって普及の可能性もある。カーボンニュートラル燃料で延命もできるだろうが新車販売ではリスクがある。BEVが一気に普及する可能性もあり」、もしそうなれば日本車の輸出もできなくなるのではないかという質問が出ていました。現状を考えると、自然な疑問でしょう。
これに対して豊田会長は、こう回答しました。
「カーボンニュートラルがゴールという所はご理解いただきたい。決してEV推販、FCV推販、ハイブリッド延命と言っているわけではない。カーボンニュートラルがゴール。そのためには順番を間違えないでくださいと申し上げている。いろんな国のやり方はその国として最適な方法。日本では日本で最適な方法があるのではないかということを私は申し上げている。その時に、単にガソリン車はダメですよと言うのことではなく、順番を間違えないようにしていただきたいと言うことと、カーボンニュートラルに対して自動車の進化をペースメーカーにしていただけないかというお願いをしている」
正直、これは回答になっていないと思いました。質問のポイントは、日本に適した方法がある一方で、e-FUELの普及を待っている間に規制を強めつつある欧米に車を輸出できなくなるリスクがあるのではないか、という部分です。
豊田会長は会見の中でしきりに、ガソリン車がダメということになると自動車産業の輸出で稼いでいる15兆円の外貨に多大な影響があり、日本の経常収支の黒字も維持できず、金融にも大きな影響があると話していました。もしそうなら、海外に出せる車が必要ではないかというのも質問の趣旨だと思ったですが、そこに対する回答はありませんでした。
この記者会見の翌日、ホンダの三部社長は、自工会での豊田会長の発言を踏まえてe-FUELについての認識を聞かれ、こんなふうに答えました。
「F-1でもすでにe-FUELは使っていて、技術的にはすぐに作ることはできる。ただ、現在は、既存の燃料に比べると何十倍もコストが高い状況で、今後、技術的に化石燃料レベルの価格に下げることができるかどうかというのが非常に大きな課題。さらにそれを大量に作ることができるかということだ」
また、ホンダでもe-FUELの研究はしており、代替手段のない航空機や、一部の特殊車両やドライビングを楽しむ車には有効だろうという認識を述べました。要するに、e-FUELを排除はしないが、地球温暖化防止策のタイムリミットを考えると課題の解決は困難で、それよりもEVやFCEVの方がいいのではないか、と言うことでしょう。
「あー、言っちゃった」と感じました。もちろん、豊田会長の発言は自動車業界全体を見た自工会としての見解であって、三部社長のそれはホンダが株主や投資家に向けた私企業のものという違いがあるのはわかります。それでも、自工会がEVとe-FUELの比較結果について明確な結論を出せていないのに対して、「ホンダの中では結論が出ているんだな」という印象を強く持ちました。
いずれにしても、ホンダの方向性は出ました。この方針が正しいのかどうか、すぐに結論が出るものでもありません。でも、100年以上も続いてきた内燃機関を搭載した自動車の歴史にとって、また、日本の自動車産業にとっては大きな転換点になりそうで、ちょっとワクワクしてきたのでした。
(文/木野 龍逸)




