電池サプライチェーン協議会設立~日本は電気自動車社会で生き残れるか?

2021年3月8日、日本国内の電池メーカーや素材メーカー28社が参加する『電池サプライチェーン協議会』設立が発表されました。世界の電気自動車シフトが加速する中、電池の製造と供給は事実上の生産台数を決める大切な「力」になっています。はたして、新設される協議会は何を目指しているのでしょうか。

いったい、何が起ころうとしているのか?

一般社団法人 電池サプライチェーン協議会(Battery Association for Supply Chain = BASC)が正式に発足するのは2021年4月1日ですが、すでに公式ウェブサイトがローンチされています。

【関連サイト】

一般社団法人 電池サプライチェーン協議会

設立が発表された3月8日、参加各社は一斉にニュースリリースを配信しました。文面は社名が違うだけでほぼ同じ。まずは、多くの企業が配信したリリースの内容を確認してみましょう。


電池サプライチェーンの国際競争力強化を推進する新たな関連団体「電池サプライチェーン協議会」の加入について

「参加企業名」は、電池サプライチェーン(電池の材料、部品およびその原料に関わる産業)の国際競争力強化を推進する新団体「電池サプライチェーン協議会(以下、BASC)」 (会長:阿部 功(住友金属鉱山(株) 執行役員))に加入することを決定しました。これは、 2021年4月1日に一般社団法人として設立される、脱炭素社会実現に向けて電池サプライチェーンの国際標準化や電池エコシステム構築等の活動をする新団体 BASC に当社が会員として参加するものです。

<加入団体の概要>

・電池サプライチェーン協議会 (Battery Association for Supply Chain; BASC)

・形態:一般社団法人

・設立:2021/4/1

・目的:電池サプライチェーンの健全な発展を図る

・会員:当社含めた電池サプライチェーン関連企業 約 30 社(設立時点)


リリース文から読み取れるのは、BASCは**「電池サプライチェーンの国際競争力強化を推進」するために「電池サプライチェーンの国際標準化や電池エコシステム構築等の活動」**をすることです。

と、この説明だけで「なるほど!」と納得できる方は相当の事情通でしょう。正直、私にはうまく理解できませんでした。参加企業を見渡すと、パナソニックやプライムプラネットエナジー&ソリューションズ、GSユアサなど、いわば競合関係にある電池メーカーが名を連ねています。テスラや欧州メーカー、中国の電池メーカーなどが次々と巨大な電池工場プロジェクトを立ち上げる中、競合する日本メーカーが悠長に協議して足並み揃えている場合なの? と感じてしまったのです。

はたして、何が起ころうとしているのか。鋭意取材を進めたところ、発足に関わる関係者のお話しを伺うことができました。

中国主導のISO規格策定への対抗策

電話でのインタビューでは、率直に「何のための協議会なんですか?」と質問してみました。回答でわかった「理由」は大きく2点に整理できます。

ひとつ目の理由であり目的は、**「リチウムISO規格が中国主導で策定されようとしていることへの対抗策」**ということでした。

ご存じのように、リチウムは電気自動車の駆動用電池として現在の主流であるリチウムイオン二次電池の主要な原料です。2020年7月、スイスのジュネーブに本拠を置く国際標準化機関(ISO)に「新たにリチウムのISO規格を作成する専門委員会」を設置するという中国の提案が承認されて、提案国の中国が幹事局を務めつつ「リチウムISO規格」が決められようとしているのです。

【関連情報】

ISO、リチウムの専門委員会を新設する中国の提案を承認(2020年7月17日/JETRO)

そして、この委員会には国内企業の業界団体がないと参加すらできないとのこと。いわば、日本が蚊帳の外に置かれたまま、中国に都合のいい規格が決まってしまうことを避けるため、新しく業界団体を設立する必要があったということです。リリース文では「電池サプライチェーンの国際標準化」と表現されている部分が、この「リチウムISO規格」に深く関わる部分であると理解できます。

リサイクルを見据えた標準化の策定

もうひとつの目的は**「リサイクルを見据えた標準化の策定」**です。電気自動車が普及するほどに、リチウムイオン電池のリサイクルは重要な課題となっていきます。ところが、リサイクルの規格が各社バラバラでは、電気自動車用として役目を終えた電池を回収してリサイクルするにも余計な手間やコストが掛かってしまいます。コストアップは国際競争力に関わるため、電池メーカー各社が「無駄なこと」をしなくて済むよう、あらかじめ、リリース文でいうところの「電池エコシステム構築」を目指した戦略や規格を策定しようということです。

当初から参加を表明した企業を見ると、日産やトヨタといった自動車メーカーの名前は見当たらず(トヨタは電池を生産する関係会社が参加)、自動車メーカーでは唯一「本田技研工業」が名を連ねています。かねてからホンダは、日本国内や欧州で電気バイク用バッテリーの規格統一を提唱してアクションを続けています。おそらくは電気バイク用バッテリーメーカーとしての参加なのであろうと思われます。あるいは、Honda e の先へと続く「電池自社生産」への狼煙なのかも知れません。

欧州では『EU電池指令』が改正されて前進中

電気自動車シフトが一気に加速する中、リチウムイオン電池を巡る世界の状況は激しく動いています。ヨーロッパでは、2021年12月、バッテリーのカーボン・フットプリント(ライフサイクルを通したCO2排出量)の明示やその上限を定め、種類別のバッテリーの回収義務などの製造者責任を追加した『EU電池指令』の改正案を発表しました。

【関連情報】

欧州委、循環型経済に向けたバッテリー規制の改正案発表(2020年12月14日/JETRO)

アメリカでは、2021年2月、重要部材のサプライチェーンを見直す大統領令に署名。半導体、EV用大容量電池、医薬品、レアアース(希土類)を含む重要鉱物といった4品目のサプライチェーンを100日以内に見直すよう指示したことが伝えられています。

【関連情報】

米、供給網100日以内に見直し 半導体などで大統領令(2021年2月25日/日本経済新聞)

最近なにかと「中国を牽制する狙いがあるとみられます」的なニュースが多いですが、リチウムイオン電池や電気自動車シフトを巡る状況も、まさにアメリカや欧州は中国を牽制しながらすでにアクションを起こし前進しているということです。

リチウムISO規格策定への関与や、電気自動車用電池の国際競争力向上のためには、経産省を中心とした「国」との連携は必須であり、業界として政策提言を行っていくためにも、この「協議会」設立が必要だったということですね。

世界のEVシフトを見据えて「待ったなし!」

関係者の方によると、BASC 設立発表以来、多様な企業からの参加希望を含めて問い合わせが相次いでいるとのこと。あまりの反響の大きさと新型コロナ禍の状況から、4月1日の設立発表などをどうするかも決めかねているらしいです。

業界としても「世界のモビリティ電動化が止まることはない」という認識が広がっているようです。電池の供給能力は、電気自動車の生産台数に直結します。改めて世界の動きを知ると、協議会設立はむしろ遅すぎたのではないかと感じるほどです。電気自動車シフトで日本の電池産業、自動車産業が世界から置いてけぼりを食わないためにも、もはや「待ったなし」の状況といえるでしょう。

ここ数日だけでも、フォルクスワーゲンがスウェーデン企業のノースボルトに1000億円を超える投資をして1兆円を超えるバッテリー調達契約を結んだり(別記事でお伝えする予定です)、カナダでは政府の肝いりでケベック州と電気商用車メーカーが共同出資で電池工場を新設する(日経の関連記事にリンク)。さらには先だって現代のリコール問題で揺れた韓国のLGが5兆ウォン(約4800億円)を投じてアメリカにバッテリー工場を新設するといった、バッテリーへの大きな投資を伝える世界のニュースが続々と飛び込んできます。

「石油」は日本が太平洋戦争に突き進む要因にもなりました。脱炭素、脱化石燃料の時代に向けて、リチウムイオン電池(大容量蓄電池)は石油に替わる国力の基盤になりつつあるのかも知れません。

日本の奮闘を願います。

数社の発信を見て、参加各社のニュースリリースは統一フォーマットの「ペラ1枚」だと思っていたら、豊通リチウムや岩谷産業、住友金属鉱山などのリリースには、設立の背景などを説明するスライドが添えられていました。PDFを切り出してアップロードしておきます。

【参考情報】

電池サプライチェーン協議会(BASC)について ※PDF

最後に、3月4日時点での参加企業は以下の通りです。ニュースリリースを公開している企業については、テキストリンクを貼っておきます。リリースのなかには、それぞれの会社がリチウムイオン電池とどう関わっているかの説明があり(一部ですけど)、社名すら知らなかった企業もあって興味深かったです。

【BASC 会員企業】※五十音順

●出光興産(リリース

●岩谷産業(リリース ※PDF)

●宇部マクセル

●MUアイオニックソリューションズ(リリース ※PDF 三菱ケミカルウェブサイトで連名リリース)

●GSユアサ(リリース

●昭和電工マテリアルズ

●住友金属鉱山(リリース

●セントラル硝子(リリース ※PDF)

●大日本印刷

●田中化学研究所(リリース ※PDF)

●豊通リチウム(リリース ※PDF)

●日亜化学工業(リリース ※PDF)

●日本化学産業(リリース

●日本触媒(リリース

●パナソニック

●阪和興業(リリース ※PDF)

●ビークルエナジージャパン(リリース

●冨士発條(リリース

●プライムアースEVエナジー(リリース

●プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(リリース ※PDF)

●本田技研工業株式会社

●三井金属鉱業

●三井物産(リリース

●三菱ケミカル(リリース ※PDF)

●三菱商事

●明和産業(リリース ※PDF)

●森田化学工業(リリース

●UACJ(リリース

(取材・文/寄本 好則)