2022年3月19日、NHKが『EV充電 マンション設備で最大400万円の補助金の方針 経産省』と題したニュースを報じました。50kW以上の高圧受電設備に「補助金を支給する方針を固めた」ということです。連休中なので確認などできないですが、あまりにも気になるので緊急速報をお届けします。
【補助金最新情報】
マンションに急速充電器? という心配は杞憂でした。経産省CEV補助金の最新情報をまとめたのでご参照ください。
EV普及へ大前進! 電気自動車などの購入と充電設備設置への国の補助金最新情報【2022年4月更新】(2022年4月2日)
まずはニュースの内容を確認
『EV充電 マンション設備で最大400万円の補助金の方針 経産省』というNHKのニュース。NHK NEWS WEB のページはこちらです。
報道サイトの記事ページは一定期間が経過するとリンク切れになることがあり、今回の緊急速報ではこの記事の内容がポイントになるので、ウェブ魚拓的に短信の記事全文を引用しておきます。
『EV充電 マンション設備で最大400万円の補助金の方針 経産省』
2022年3月19日 6時58分
EV=電気自動車の普及に向けて、マンションでの充電インフラの導入がなかなか進みません。
こうした課題に対処するため、経済産業省はマンションでの充電器に欠かせない高圧の受電設備を導入する場合、最大で400万円の補助金を支給する方針を固めました。
政府は、2035年までにすべての乗用車の新車をEVなど電動車にする目標を掲げていて、必要な充電インフラの整備を進めています。
ただ、マンションでは設備を導入するには管理組合の合意が必要で、多くのケースで組合から費用を拠出することになり、合意形成が難しいことが課題となっていました。
マンションでのEV向けの充電器には高圧の受電設備を導入する必要がありますが、経済産業省は最大で400万円の補助金を支給する方針を固めました。
具体的には、出力が50キロワット以上90キロワット未満の設備には最大で200万円、150キロワット以上の設備には最大で400万円を補助する方針です。
さらに、充電器の設置費用なども補助することにしています。
日本ではマンションなど共同住宅で暮らす人が4割を超えています。
政府としては、補助金を充実させることでマンションにも設備を導入しやすい環境を整え、EVの普及を促していく考えです。
パッと見て「50〜150kW出力の急速充電器設置に補助金?」と思ったのですが、補助金支給の対象は「マンションでの充電器に欠かせない高圧の受電設備」ということで、ことさらに急速充電器設置を推し進めようとしているわけではないようです。
NHKニュースの記事では詳細な内容はわからないし、経産省のウェブサイトのニュースリリースなどを探索してもこの件のアナウンスはまだありません。すぐにでも経産省担当部署に確認の取材をしたいのですが、今日、19日は土曜日で、21日(月)の春分の日まで連休です。休み明けには早々に確認して続報を追記することにして、あまりにも気になるポイントを挙げておきたいと思います。
高圧受電よりも先にやるべきことがないですか?
電気自動車用の充電設備には、おもに「自宅(基礎)充電」「目的地充電」そして「経路充電」といったシチュエーションごとに適した方法があり……、といった基礎知識は、今回記事では割愛します。EVsmartブログのアーカイブでもさまざまな情報を紹介していますし、たとえば『目的地充電とは?なぜホテルや旅館に普通充電器が設置されるのか』という記事で解説してあるので、「経路充電って何なんだ?」という方はご参照ください。
マンションへの急速充電器設置、ならば阻止すべき愚策
記事を読んで最も気になったのは**「マンションでのEV向けの充電器には高圧の受電設備を導入する必要がありますが、経済産業省は最大で400万円の補助金を支給する方針を固めました」**という一文です。
高圧受電が必要なのは高出力の急速充電器であり、続く一文で「具体的には、出力が50キロワット以上90キロワット未満の設備には最大で200万円、150キロワット以上の設備には最大で400万円を補助する方針」と説明されているために、急速充電器設置への補助金なのか? という誤解が生じてしまいます。
もし万が一、この記事から読み取れるように「マンションへの急速充電器設置のための高圧受電設備に補助金」ということなのであれば、EVのことをまったく理解していない天下の愚策。個人としてもメディアとしても、全力で反対の声を上げなければいけないと感じています。
マンション駐車場などでの自宅充電(基礎充電、拠点充電とも呼ばれます)は、一般的に「200V 15A=3kW」の出力で行います。仮に残量が0%から充電する場合、満充電となるまでにはバッテリー容量40kWhの日産リーフで「40÷3=約13.3時間」、容量62kWhの日産リーフe+であれば「62÷3=約20.7時間」掛かることになります。大容量バッテリー搭載車ユーザーの場合、充電時間を短縮するために「200V 30A=6kW」といった高出力の普通充電器を設置するケースもありますが、受電契約が……、といった解説も、長くなるので今回は控えておきましょう。
ポイントは、長時間駐車することが当然の、つまり、寝ている間に充電するための自宅マンション駐車場に、急速充電器はまったく必要ないということです。
もっというと、EVやPHEVには基本的に充電用ケーブルが車載されているので、高価なケーブル付きの普通充電器を奢る必要もなく、200V 15A に対応したEV充電用コンセントを設置すれば必要は満たせます。
マンション駐車場に急速充電器のみを設置するのは、逆に「むしろ不便」でさえあります。普通充電設備であれば「全区画に設置」することもできます。でも、さすがに全区画に急速充電器設置はあり得ないので、1台の充電器を多くのEVユーザーが共用することになり、深夜帰宅して充電を開始しても「30分後にクルマを移動しなきゃいけないのかぁ」みたいなことになるからです。
EV向けの充電器には高圧の受電設備を導入する必要がある?
NHKの記事が誤解や憂慮を生み出す最大の元凶は「マンションでのEV向けの充電器には高圧の受電設備を導入する必要がありますが」というところです。
「高圧受電」とは、使用電力が50kW以上の電力契約形態を意味しており、一般的な「低圧受電」とは料金体系が異なる契約となり、キュービクルと呼ばれる「高圧受電設備」を設置する義務があります。
高圧受電契約の場合、1kWhあたりの電気料金は20円未満と、一般家庭の低圧受電料金よりもおおむね安価ではありますが、月額の基本料金が高額(東京電力の高圧電力Aでデマンドが50kWの場合で約6万5000円)になります。また、キュービクルを保守管理するための電気主任技術者を選任して委託する必要があり、それなりの維持コストが掛かります。
では、本当に「マンションでのEV向けの充電器には高圧の受電設備を導入する必要」があるのでしょうか。前述のように、一般的なEV用自宅充電設備1台分に必要な電力は3kWです。つまり、低圧受電の範疇に収まる48kWの電力が確保できれば、16台のEVが同時に普通充電を行うことができます。NHKの記事にある「150kW」の受電設備が必要なケースでは、「150÷3=50台」ものEVによる同時充電を想定していることになります。
たとえば、総戸数200戸で全戸数分の駐車区画を備えたマンションがあって、200台全部がEVになったとしても、その1/4にあたる50台が同時に充電を行う必要がある状況なんてほとんど生じない、と断言してもいいでしょう。複数台分の充電設備をネットワークして、契約容量や使用電力のピークシフトを勘案してコントロールする機器やシステムもすでに登場してきていますから、「まったく生じることはない」と言い換えてもいいくらいです。
結論として、マンションへの充電設備設置に高圧受電は「必要」ではありません。
マンションのEV用高圧受電設備への補助金という話題を中途半端に報じることは、「マンションでのEV向けの充電器には高圧の受電設備を導入する必要」があると勘違いする人を増やし、ひいては「マンションに充電設備を設置するのは大変なんだぁ」という間違った概念を広げてしまうのではないかと危惧します。
マンションへの充電設備普及のロードマップを示してほしい
経産省ではEVをはじめとする次世代車普及に向けた補助事業をすでに行っていて、「CEV補助金」ではマンションなど集合住宅への充電設備設置を進めるための補助金を出しています。すでに受け付けが終了している令和3年度の補助金では、「充電設備導入費の1/2以内」および「充電設備設置工事費の1/1以内 ※上限あり」と規定されていますが、注釈に「高圧受変電設備設置工事費は除く」と明記されていました。
今回、NHKの記者さんが経済産業省の誰かから聞いたのは、今まで補助対象外だった「高圧受電設備設置工事費にも補助金を出すよ」ということだったのだろうと推察します。
ところが、その事実の前後に「マンションでの充電インフラの導入がなかなか進みません」とか「マンションでは設備を導入するには管理組合の合意が必要で、多くのケースで組合から費用を拠出することになり、合意形成が難しい」といった、集合住宅への充電設備導入全体に関わる課題を並べてしまったことで、話がややこしくなっているように思います。
たとえば、30台分のEV用充電設備を増設するために、共用部の受電契約をアップデートして高圧受電が必要になる、といったケースでは、今回の補助金の意義はあるのでしょう。とはいえ、高圧受電設備への補助金が、EV充電専用に限るのか、既存設備の更新でもOKなのかといった詳細はよくわからないので、休み明けに要確認です。
ちなみに、急速充電スポットなどの取材を通じて「50kWのキュービクル設置には400〜600万円程度かかる」と聞いたことがあるので、今回の「50〜90kWで最大200万円」「150kW以上の設備に最大400万円」という補助金は、工事を含めた設置費用のおおむね1/3〜1/2程度かと思われます。高圧受電が必要なほど大規模な台数向け充電設備を導入するマンションオーナー、もしくは住民(管理組合)としては、やはり小さくない負担が必要になるのではないかと思います。と、マンションへのEV充電用高圧受電の必要性には個人的にしつこく懐疑的ですが……。
ともあれ、マンションへのEV用充電設備普及を進めるためには、高圧受電への補助金よりも先に、もっとやるべきこと、やってほしいことがあるように感じます。たとえば、具体的に2030年まで(あと8年しかない!)に集合住宅や賃貸駐車場区画数の50%に充電設備を設置するためのロードマップを示すとか。新築マンションには一定の割合でEV用充電設備設置を義務づけたり、既存マンションでも住民が要望したら管理組合が設置を前向きに検討するためのモチベーションになるような上手い方法(曖昧ですみません)を法制化するといった施策が必要なんだと思います。
というわけで、NHKのニュースを見て「おいおい、大丈夫かぁ?」と感じた緊急速報、でした。
(文/寄本 好則)
