2026年5月に日本初上陸したKia「PV5カーゴ」で、約820kmにおよぶ長距離試乗を実施しました。商用EVとしての動力性能·電費·充電性能に加え、キャンピングカー·車中泊仕様のベース車両としての素性を、数値と現場の感触から検証します。結論を先に言うと、いずれの観点でも合理的な選択肢になりうるクルマでした。
Kia「PV5」とはどんなクルマか
Kiaは、2025年の世界販売台数でトヨタグループ、フォルクスワーゲングループに次ぐ世界3位となった韓国の「Hyundai Motor Group(ヒョンデ·モーター·グループ)」が擁するブランドのひとつです。同グループはHyundai(ヒョンデ)、Genesis(ジェネシス)、Kiaの3ブランドを展開しており、Kiaは、独自性の高いデザインを特徴とするブランドです。
「PV5(ピー·ブイ·ファイブ)」は、5人乗りのMPV(多目的車。いわゆるミニバンに近い)「パッセンジャー」と、2人乗りの商用バン「カーゴ」をラインナップしており、基本構造やモーター、バッテリーなどのパワートレイン系は2モデルとも共通です。両モデルともバッテリー容量が異なるグレードが設定されており、モーター最高出力もグレードによって異なります。PV5カーゴは、車両総重量3.5t未満かつ最大積載量2t未満のため、現行の普通自動車免許で運転できます。
PV5は2026年5月に国内販売が発表され、Kiaブランドの日本初上陸モデルとなりました。同月、正規ディーラー「Kia PBV 東京西」を東京都西東京市田無にオープン。一般ユーザーからビジネスユーザーへの訴求と並行して、キャンピングカービルダーも正規販売店に加え、キャンピングカーのベース車両としての展開を強化しています。2026年7月11~12日に開催された「東京キャンピングカーショー2026」では、PV5をベースとしたキャンピングカーが4社から計6台出展されました。
ボディサイズと最大積載量
PV5のボディサイズは全長4,695mm×全幅1,895mm×全高1,925mm。トヨタ「ハイエース」の標準的なサイズ(ロング·標準幅·標準ルーフ)と比較すると、全長は同じ、全高はほぼ同じ(PV5のほうが55mm低い)、全幅はハイエースより200mm広くなっています。
標準的なハイエースが「4ナンバー」であることに対して、PV5カーゴは全幅の関係から「1ナンバー」となります。維持費面で影響が出やすいのは高速道路料金です。PV5カーゴは普通貨物自動車として、NEXCOの5車種区分では「中型車」の料金が適用され、4ナンバー·ハイエースの「普通車」よりおおむね20%割高になります。
最大積載量は、ハイエースが1,000kg(2名乗車時)に対して、PV5は550kg(ロングレンジ)·650kg(スタンダード)と少なくなっています。事業用途として見た場合、全長約4mのコンパクト商用バンであるダイハツ「グランマックス」(最大積載量750kg·2WD·2名乗車時)と比較しても積載重量性能は低くなります。ただし、キャブバンの用途では最大積載量より荷室空間の広さが重視されることが多く、一概にデメリットとはなりません。キャンピングカーや車中泊仕様のベース車両としては、後述するように積載重量が少ないことが逆に機能する面もあります。
ボディサイズ比較
| Kia PV5 カーゴ |
トヨタ ハイエース SuperGL ロング/標準幅/標準ルーフ |
ダイハツ グランマックス トヨタ タウンエースバン |
|
|---|---|---|---|
| ナンバー | 1ナンバー | 4ナンバー | 4ナンバー |
| 全長 (mm) | 4,695 | 4,695 | 4,065 |
| 全幅 (mm) | 1,895 | 1,695 | 1,665 |
| 全高 (mm) | 1,925 | 1,980 | 1,930 |
| ホイールベース (mm) | 2,995 | 2,570 | 2,650 |
| 車両重量 (kg) | 1,910/ロングレンジ 1,830/スタンダード |
1,930/ディーゼル2WD 1,770/ガソリン2WD |
1,280/2WD |
| 乗車定員 (人) | 2 | 2/5 | 2/5 |
| 最大積載量 (kg) | 550kg/ロングレンジ 650kg/スタンダード |
1,000kg/2人乗車時 | 750kg/2WD/2人乗車時 |
最小回転半径はハイエース(ロング/標準幅/標準ルーフ·2WD)の5.0m(4WDは5.2m)に対して、PV5は5.5mとなっています。車幅が広い分、小回り性ではハイエースに優位性があります。ただし実際の走行では、大きな支障になる場面は限られる印象でした。
PV5カーゴの荷室寸法は長さ2,255mm×最大幅1,565mm×高さ1,520mm。一方、ハイエース標準タイプ(2WD·2名乗車時)の荷室寸法は長さ3,000mm×幅1,520mm×高さ1,320mmです。比較すると、PV5は室内高が200mm高く、最大幅はほぼ同等です。フロアをフラットに設計しやすいEVならではの構造が、室内高の確保に貢献しています。
また、ハイエースは前席真下にエンジンが収まる「フルキャブ」構造、PV5は短いボンネットを持つ「セミキャブ」構造のため、荷室長はハイエースが745mm長くなっています。ただしPV5はホイールベースがハイエースより425mm長く、実際の試乗でも直進安定性の高さや前後方向の揺れの少なさを感じました。
走りと乗り心地をチェック
PV5カーゴの運転を始めて30秒もしないうちに感じたのは、乗り心地の良さです。空荷でのバン試乗では、硬い後輪サスペンションと貨物車用タイヤ(指定空気圧も高め)により、段差通過時に後輪が跳ね上がるような突き上げを感じることが多いものです。しかしPV5カーゴは、荒れた路面で「タイヤが硬いな」と感じる場面はあったものの、大半のシーンで乗用ミニバンに近い感覚で走れました。
乗用車的な乗り心地の背景には、長いホイールベースや、カーゴ専用に設定されたサスペンションなど複数の要因があると考えられます。この点はキャンパーや車中泊仕様のベース車両として、日常の足としての使いやすさにも直結します。
Kia担当者に試乗後の感想を伝えたところ「我々が乗っても、パッセンジャーとカーゴの足の違いに気がつかないレベル」とのことでした。またサスペンションのセッティングについては「パッセンジャーとカーゴはそれぞれ専用のセッティングとしている」と説明を受けています。
操縦安定性やハンドリングの印象
フロア下に重量物である駆動用バッテリーを搭載するEVは、低重心化しやすい構造です。
PV5カーゴは車高の高いバンですが、重心はガソリン乗用車と同程度かそれより低い水準と感じました。試乗中に峠道を何度か走りましたが、バンとは思えない軽快で素直なハンドリングでした。
動力性能
今回の試乗車はモーター最高出力89kW(121PS)·最大トルク250N·mの「スタンダード」グレードで、空荷での走行でしたが、十分な動力性能を感じました。
バッテリー総電力量は51.5kWh、一充電走行距離は379kmです。Kia公式カタログの交流電力量消費率は149Wh/kmで、電費単位に換算すると約6.7km/kWhとなります。この数値は、控えめな出力·積載量設定と合わせて、航続距離と動力性能のバランスが取れた仕様といえます。
Kia PV5 グレード別主要スペック
| ロングレンジ | スタンダード | |
|---|---|---|
| バッテリー容量 | 71.2kWh | 51.5kWh |
| 航続距離 | パッセンジャー 521km カーゴ 528km |
パッセンジャー 377km カーゴ 379km |
| モーター最高出力 | 120kW(163PS) | 89kW(121PS) |
| 最大トルク | 250N・m | 250N・m |
試乗時の電費と充電
今回の試乗コースは、東京~東名·新東名高速~東海環状道~中央道·中津川IC(岐阜県)~国道19号経由長野県松本市~国道254号(長野県上田市~さいたま市)~国道17号経由で帰京するルートで、走行距離は約820kmとなりました。
全区間の平均電費は6.7km/kWhとなり、カタログスペックの電費換算と同じ数値となりました。前面投影面積が広く車重の重いPV5としては、優秀な数値といえます。参考までに、筆者が日産「リーフ(ZE1型)」で同様の試乗を実施した際の平均電費と同等の水準です。
走行区間別電費一覧
| 区間 | 主な道路種別 | 走行距離 (km) |
電費 (km/kWh) |
SOC | 外気温 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 西東京市(Kia PBV 東京西)〜港北PA | 一般道(都内) | 48 | 5.7 | 76% | 31℃ |
| 2 | 〜海老名SA | 高速 | 17 | 6.1 | 71% | 31℃ |
| 3 | 〜足柄SA | 高速 | 49.3 | 5.1 | 50% | 29℃ |
| 4 | 〜静岡SA【充電】 | 高速(120km/h走行) | 記録忘れ | |||
| 5 | 〜長篠設楽原PA【充電】 | 高速(120km/h走行) | 81.6 | 4.9 | 22% | 30℃ |
| 6 | 〜岡崎SA | 高速(80km/h走行) | 38.5 | 7.9 | 70% | 28℃ |
| 7 | 〜道の駅風穴の里(長野県松本市)【充電】 | 高速・一般道 | 212.8 | 6.6 | 24% | 30℃ |
| 8 | 〜道の駅しもにた(群馬県下仁田町)【充電】 | 一般道(山岳/信号少) | 131.6 | 8.7 | 26% | 27℃ |
| 9 | 〜帰着(東京都新宿区) | 一般道(複合) | 128 | 8.3 | 29% | 27℃ |
PV5のドライブモードはエコノミー·ノーマル·スノーの3種、回生ブレーキモードは3段階です。今回の試乗ではドライブモードはノーマルを基本(山岳路のみエコノミー)として走行。回生ブレーキモードは高速道路のみレベル1、その他はレベル3(最強)で走行しました。
電費が最も良かった区間8(8.7km/kWh)は、山岳路が約2割·夜間で信号の少ない一般道が主体で、平均走行速度は40~50km/h台という条件でした。最も電費が悪かった区間5(4.9km/kWh)は新東名高速を120km/hで走行し続けた区間です。同じ高速でも走行速度を80km/hに落とした区間6では7.9km/kWhと大きく改善しており、速度管理が電費に直結することがデータとしても確認できました。
急速充電の対応状況
PV5の急速充電仕様についてKia広報担当に確認したところ、「CHAdeMOプロトコルバージョン0.9.x~2.0.xに対応(2.1.x以降は未対応)、最大受電150kW」とのことでした。2026年4月30日に一般社団法人チャデモ協議会が公開した、CHAdeMOプロトコルバージョン2.1には未対応ですが、現時点で充電できない公共急速充電器は少なく、QCと車両の互換性は良好と推測できます。また、サービスエリアを中心に150kW急速充電器の設置も進んでおり、高出力充電器を利用できる環境は広がっています。
今回試乗での充電履歴
| No. | 場所 | 充電器 出力 |
充電前 SOC |
充電後 SOC |
充電 電力量 |
目視 最大出力 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 新東名 静岡SA | 90kW | 12% | 58% | 23.7kWh | 59kW |
| 2 | 新東名 長篠設楽原PA | 90kW | 22% | 79% | 29.4kWh | 60kW |
| 3 | 新東名 岡崎SA | 90kW | 61% | 91% | 15.5kWh | 60kW |
| 4 | 道の駅風穴の里(長野県松本市) | 50kW | 24% | 58% | 17.5kWh | 39kW |
| 5 | 道の駅しもにた(群馬県下仁田町) | 50kW | 26% | 58% | 16.5kWh | 37kW |
キャンピングカーのベース車両としての素性
PV5は、キャンピングカーのベース車両として魅力的な選択肢といえます。電装面では、エンジン車のキャンピングカーが必要とするソーラーパネル·走行充電システム·サブバッテリー·ポータブル電源の組み合わせを、駆動用バッテリーからの給電で代替できる可能性があります。
PV5のように駆動用バッテリーから電力を取り出せるEVでは、架装内容や必要電力量にもよりますが、従来のキャンピングカーで用いられるサブバッテリーや走行充電システムを省いた設計ができる可能性が十分にあります。PV5は100Vコンセントを全車標準装備しており、高出力対応ポータブル電源をこのコンセントから常時給電させることで、特別な架装をせずに複数の電気製品を同時使用することも可能です。
今回の試乗では、新東名高速岡崎SAで真夏の熱帯夜に車中泊を実施しました。
※Kia担当者から「PV5カーゴはキャンピングカーなどのベース車両としては最適ですが、荷室で人が過ごすことは想定していない」との説明を受けています。Kiaは荷室での車中泊を推奨していません。今回の車中泊にあたっては、前席と荷室の隔壁周辺に空気の通り道があることを事前に確認したうえで、筆者の判断と責任のもとで実施しました。車中泊時のエアコンは外気導入モードに設定し、常時外気を取り込んだ状態で使用しています。
深夜でも気温28℃·湿度が高い熱帯夜の条件で、エアコンを一晩中約8時間稼働(設定温度23℃·外気導入モード)させた結果、バッテリー残量表示は70%から62%へ、8ポイントの低下にとどまりました。試乗車のバッテリー総電力量は51.5kWh。バッテリー残量表示の8ポイント低下を総電力量に単純換算すると約4.12kWh相当で、8時間で割ると1時間あたり約0.52kWh相当です。
環境省「家庭部門のCO2排出実態統計調査(家庭CO2統計)」における単身·若中年世帯の年間電力消費量を1日あたりに換算した約6.1kWhの約7割に相当する電力量を、車内のエアコン8時間分で消費した計算です。住宅全体と車内では条件が異なるため単純比較はできませんが、消費電力量の規模感を把握する目安になります。
EVにはアイドリングという概念がなく、バッテリーの電力がある限りエアコンをはじめとした電装品を稼働させ続けられます。これがEVとキャンピングカー·車中泊仕様の相性の良さの根幹にあります。
車中泊を主目的とするならカーゴよりパッセンジャーが適しています。Kia PBV正規ディーラーでもあるトイファクトリーから、パッセンジャー専用ベッドキット(33万円~·税込)が販売されています。
PV5は適切なサイズ感に加え、乗り心地·操縦安定性·ハンドリングも良好で、完成度の高いパッケージングと評価できます。商用EVとして、またキャンピングカーや車中泊仕様のベース車両として、いずれの観点でも合理的な選択肢のひとつといえるでしょう。
PV5の車両価格
PV5パッセンジャーは国の補助金(CEV補助金)の対象で、最大26万円の補助が受けられること。東京都、神奈川県など自治体の補助金額は今後決定予定とKiaから連絡を受けました。
PV5カーゴは「商用車等の電動化促進事業(LEVO補助金)」の対象です。貨物運送事業者だけでなく、車両総重量2.5t超の自家用商用車を業務に使用する場合も申請対象となります。国のLEVO補助金が最大196万円、東京都では自治体補助金で最大45万円、補助金合計最大241万円の補助を受けられる可能性があります(補助金額は最大額。補助金申請には条件·審査があり、また予算額に達すると受付終了となります)。
【動画】Kia「PV5カーゴ」車中泊徹底検証(YouTube)
取材・文/宇野智


















