【ついに公開】メルセデス・ベンツの完全電気自動車『EQS』から読み解く「世界の本気」

4月15日18時(日本時間16日午前1時)にワールドプレミアが行われたメルセデス・ベンツの完全電気自動車『EQS』。4月3日にはスペックを含む概要が公開されました。自動車電動化に対する世界の本気を感じる内容です。

公開されたスペックを紹介

※2021年4月18日追記(初出:4月11日)

予定通り、オンラインワールドプレミアが開催されてEQSの全貌が明らかになりました。公開された動画は「メルセデス・ベンツの電動化への気概を示す」というよりは「電動化? 当然でしょ」というスタンスで淡々と先進機能などが紹介されている印象でした。

World Premiere of the All-Electric EQS(YouTube)

『CAR AND DRIVER』によると、アメリカでの価格は『450+』が9万6000ドル(約1040万円)〜、『580 4Matic』が11万6000ドル(約1260万円)〜。イギリスの『AUTO CAR(AUTO CAR JAPAN)』では「英国での販売は2021年後半に開始される予定で、価格は標準的なSクラスとほぼ同じ」約9万ポンド(1351万円)〜であることを伝えています。

発表された2グレードのスペックを表にしておきます。

メルセデス・ベンツ EQS スペック

**EQS 450+****EQS 580 4MATIC**
駆動方式後輪駆動(RWD)全輪駆動(AWD)
車体サイズ

(全長/全幅/全高)

5216/1926/1512 mm
車重2480 kg2585 kg
最高出力235 kW385 kW
最大トルク568 Nm855 Nm
0-100km/h 加速6.2秒4.3秒
最高速度210 km/h
バッテリー容量107.8 kWh
システム電圧396 V
普通充電最大出力22 kW
急速充電最大出力

※CCS

200 kW
航続距離770 km(WLTP)

約687 km(EPA推計)

※未公表

約716 km(WLTP推定)

約639 km(EPA推計)

580 4Matic の航続距離は、まだ正式に公表されていないので、「DC charging in 15 minutes」として発表されている数値の比率から推計しました。『EV DATABASE』によると、450+ の Real Range が640km、580 4Matic が610kmとされています。

※追記ここまで。

史上最高レベルの電気自動車が今週世界初公開

ドイツのダイムラーグループはグローバルメディアサイトで、3月31日、メルセデス・ベンツブランドのフラッグシップである「Sクラス」の誇りを受け継ぐ完全な電気自動車である『EQS』のオンラインワールドプレミアを4月15日18時(日本時間16日午前1時 ※ドイツと日本の時差は+7時間)に行うことを発表しました。

EQSのワールドプレミアは『メルセデスミー』のメディア向けサイトでライブ中継されたのち、同じサイトでオンデマンド公開されることになっています。

【ワールドプレミア会場】

EQS World Premiere on Mercedes me media

メルセデス・ベンツの「S」クラスが世界最高レベルの自動車であることは、誰もが認めるところでしょう。完全な電気自動車として「世界最高峰」を目指して開発されたに違いない『EQS』が、大袈裟に言えば人類史上最高レベルの電気自動車として完成していることは、まず間違いないはずです。

ワールドプレミアに先駆けてスペックなどを発表

さらに4月3日には『The new EQS: passion for electromobility(電気自動車への情熱)』と題したプレスリリースを公開。15日のワールドプレミアに先駆けて、EQSを8月に欧州で発売することとともに、かなり詳細なスペックなどを発表しました。新型自動車の発表手順として、ワールドプレミアの数週間も前にスペックを明らかにするのは、かなり異例なことでしょう。

『passion for electromobility』の内容には、電気自動車に対するメルセデス・ベンツの本気を感じるポイントがいくつもありました。エクステリアのカモフラージュを外す前にスペックを公開したことには、自動車の電動化が「待ったなし」の状況であると覚悟を決めて、それでもメルセデス・ベンツが世界をリードする気概を示し、社会の理解を広げたいという思いがあるように感じます。15日のワールドプレミアは、決意を示すセレモニーとなるのでしょう。

発表された内容は多岐にわたり長大なので、「本気」や「決意」を読み解くべきポイントをいくつかピックアップして紹介します。

2030年代前半には50%以上を電動車に

まずは大きなビジョンについて。「Sustainability=持続可能性」を語る見出しを立てた説明のなかで、メルセデス・ベンツは『Ambition2039』イニシアチブで示した目標として「2030年代前半までに販売する自動車の半分以上を電動車とする」としています。日本では「電動車にはハイブリッド車も含まれる」ような認識もあるようですが、メルセデス・ベンツが定義している電動車は「this includes fully electric vehicles and plug-in hybrids」、つまり外部から走行用のエネルギーとして電気を補給できる「電気自動車とプラグインハイブリッド車」であると明示しています。

さらに工場の屋根への太陽光発電システムの導入、車両用バッテリーの再利用による定置型蓄電池の接続、バッテリー製造のカーボンニュートラル化、工場の電力利用をDC(直流)化して太陽光発電電力を活用することによる効率向上などの施策を進め、2039年までに自動車生産のカーボンニュートラル達成を目指すとしています。

電気自動車専用のアーキテクチャを採用

EQSは、電気自動車専用に新開発されたプラットフォーム(アーキテクチャ)を採用します。リリースでは「EQSのユーザーは電気自動車用アーキテクチャによって、スペースやデザインの利点を享受できる」ことが強調されています。

メルセデス・ベンツでは「メルセデス EQ」と名付けた電動車ブランドの構築を進めており、第一弾である『EQC』はすでに日本にも導入されています。3月23日に発信されたリリース『Mercedes-EQ starts production of battery systems for the new EQS and expands EV expertise』によると、今回発表される『EQS』に加えて、今後『EQE』『EQA』『EQB』などのEQファミリーが新たな電気自動車用アーキテクチャで発表される(EQAはすでにコンバージョンですでに発表されましたが)とのこと。また、すでに多くの車種をラインアップしているプラグインハイブリッド車にも改良を加えつつ、EQファミリーには「2年以内に10車種以上の完全な電気自動車モデル」が揃うとしています。

エンジン車のプラットフォームを流用した、つまり「改造電気自動車」であったEQCには試乗したこともありますが、フロントのボンネットを開けると衝突安全の強度を確保するためという無骨な太い鉄パイプが見えていたりして、正直「ベンツなのに?」と感じる点がありました。最初から電気自動車として開発されたEQS、そしてそれに続く電気自動車専用開発の車種は、きっとメルセデス・ベンツならではの高い完成度を誇る電気自動車になっているはず、と思います。

電気駆動システムの進化

EQSのパワートレインには『eATS』と名付けられた電気駆動システムを採用。リアアクスルのみを駆動する後輪駆動(RWD)モデルに加え、フロントアクスルにも『eATS』を搭載した全輪駆動(AWD)モデルが用意されます。全輪駆動の説明ではエンジン車の「機械式全輪駆動よりもはるかに速い応答」であると強調されています。

駆動システムについて、コンパクトで強力なモーターであることや、ローターを冷却する「water lance」を備えていることなどが紹介されています。私はエンジニアではないので詳細な項目の評価はできないですけど、細部にわたる説明には、メルセデス・ベンツが威信を賭けて開発した電動パワートレインなんだなと、リリースタイトル通りの「パッション」を感じます。

「NMC811」のバッテリーを採用

搭載するバッテリーの容量は90kWhと約108kWh(正確には107.8kWh)の2タイプをラインナップ。108kWhバッテリー搭載モデルの一充電航続距離は770km(WLTP ※EPA換算推計値=約687km)と発表されました。100kWh超のバッテリー搭載は、フラッグシップサルーンとして「航続距離700km」を実現するために必要だった、ということでしょう。

目を引かれたのが、リチウムイオン電池のケミカルが「ニッケル、コバルト、マンガンを8:1:1の比率で構成」していること、いわゆる「NMC811」であることが明言されていたことです。

リチウムイオン電池を持続可能にするためにも、電極材料のコバルトの使用量を減らすのは重要な課題になっています。テスラが上海工場で製造するモデル3スタンダードレンジの電池として、コバルトフリーのリン酸鉄(LFP)バッテリーを採用したのも記憶に新しい話題です。

詳細は下に関連記事へのリンクを貼っておくので参照いただくとして。ニッケル、コバルト、マンガンを使用する三元系「NMC」バッテリーにおいても、現在の主流である「NMC622」から「NMC811」への進化が急がれていました。とはいえ、多くの自動車メーカーではこうした電池のケミカルは非公表としているケースがほとんどでした。

今回、メルセデス・ベンツがあえてNMC811であることを強調したのは、自らが高性能電池へのチャレンジに取り組んでいることを明示する意図があるのだろうと思います。

【関連記事】

新世代電池セル「NMC811」の大量生産に遅れ(2018年8月9日)

電気自動車の電池にも使われる「コバルト」は石油より早く枯渇する?(2020年9月19日)

エレクトリックインテリジェンス

たとえば、フォルクスワーゲン『e-Golf』やレクサス『UX-300e』、あるいはプジョー『e-208』など、エンジン車に軸足を置いて開発され市販された電気自動車に乗って感じるのが、電池残量の「SOC(%)」がわかりにくいことです。もちろん「航続可能距離」はメーターパネルに表示されるのですが、電気自動車に慣れてくると「もっと電池と対話しながら走りたい(電池を上手に使いこなしたい)」と思うので、ちょっと不満に感じてしまうのです。

EQSのインターフェースについて、実際の細かな使い心地はまだわからないですが、リリースでは「エレクトリックインテリジェンスによるナビゲーション」を採用することが強調されていました。地形や気温、充電スポットの出力まで考慮して、最速で快適なルートを提示してくれる、らしいです。

テスラ『モデル3』では、かなりの精度で同様の残量予測を知ることができます。でも、ほかのEVでは残念ながら……というのが現状でした。つまり、ほとんどの既存自動車メーカーは「まだエンジン車の常識に囚われている」と言えるでしょう。

EQSが「エレクトリックインテリジェンス」を採用したのは、メルセデス・ベンツがきちんと電気自動車に向き合ったことの証であると感じます。さらに、バッテリー管理システムをOTA更新できたり、充電器のケーブルを繋ぐだけで充電が開始されて課金が行われる(おそらく欧州の IONITY 施設のみの利便)など、「テスラにできて既存メーカーにできなかったこと」にチャレンジしているな、という点が少なくありません。

「できない理由」をぼやくより……

EQSに関する発表は、メルセデス・ベンツの「Sクラス」がいよいよ電動化するということ以上に、メルセデス・ベンツが、ひいては世界が電気自動車に本気であることを痛感すべき内容だったと感じます。

「できない理由」をぼやいていても世界は先へ進みません。そして世界は、自動車の電動化(もちろんガソリン車であるハイブリッド車は含まない)で、どんどん先へ進んでいるのです。世界を引っ張る電気自動車が、日本のメーカーからもどしどし登場することを祈ります。

(文/寄本 好則)