電気自動車の電池にも使われる「コバルト」は石油より早く枯渇する?

コバルトは多くの電気自動車用電池に使われている金属です。テスラが「コバルトフリー」の電池を採用することがニュースにもなっていますが、はたしてコバルトとはどんな「資源」なのでしょう。知っておきたい基礎知識からまとめてみます。

電気自動車の電池にも使われる「コバルト」は石油より早く枯渇する?

その名は魔物に由来する紛争鉱物

コバルトという元素をご存知でしょうか? 電気自動車(EV)やスマートフォンなどのバッテリーに含まれているだけでなく、ジェットエンジンやドリルビットなどの耐熱合金、スピーカーの磁石、意外なところでは石油の精製などにも使われている有能な金属です。

コバルトの名前は、ダンジョン系のSFに頻繁に登場する魔物「コボルト」にちなんでおり、彼らが鉱山に魔法をかけて、扱いが難しくて毒性のある金属を作ったと中世ヨーロッパで信じられていたそうです。

さて、実際に鉱山の中に魔物がいるかは別として、コバルトには毒性があるため適切な個人用防護具を装着しないと塵肺症などの重大な健康被害を引き起こします。そして世界のコバルトの半分以上を産出しているのがコンゴ民主共和国なのですが、仕事がない貧しい人々が何の安全訓練も受けずに簡素な道具で穴を掘っている小規模鉱山(Artisanal mine)では崩落事故も頻繁に起き、子どもたちは1日200円程度の低賃金で長時間働かされ、あまつさえ武装勢力の資金源になっていることから、コバルトは金やタングステン、錫、タンタルと並び、紛争鉱物と呼ばれるようになりました。

一度洞窟に入ると24時間出てこないことも。出典:アムネスティ・インターナショナル

しかしEVとリチウムイオン電池の普及に伴い、近年ではグローバル企業各社がサプライチェーンも含めて不当なルートで生産したコバルトを使っていないか調査を始めるようになりました。

例えばバッテリー大手のCATLやLG化学は、中国が主導する「責任あるコバルト・イニシアチブ(RCI)」に参加し、主に児童労働の撲滅に取り組んでいます。

また、2018年にはコバルト採掘プロセスの透明性と正当性を推進する取り組みとして、コバルトのフェアトレード組織であるフェア・コバルト・アライアンス(FCA)が発足し、前述のRCIの他にも世界で最もリチウムイオン電池を消費するテスラ、ドイツのEVのスタートアップ企業Sono Motors、スイスの資源大手Glencore、中国の華友コバルトなどが参加しています。

国内に目を向けると、パナソニックにリチウムイオン電池の正極材を卸している住友金属鉱山が2020年8月「コバルト原料の責任ある調達に関する方針」を制定し、デューディリジェンスならびにモニタリング等を開始しました。

今後は大手企業が適切に管理された採掘プロジェクトを順次立ち上げるため、労働者はリスクを犯して小規模鉱山に潜る必要も需要も次第に減っていくでしょう。

コバルトの明らかな不足

現在、EVの数はまだまだ少なく、2019年に全世界で販売された210万台を含め、合計で700万台しか存在しません。一方で全世界のエンジン車の総数は10億台とも13億台ともいわれており、今後ガソリン車が廃れてEVにすべて置き換わっていくなら、とてつもない量のコバルトが必要になります。

2019年にEVのバッテリーに使われたコバルトの総量は19,000トンだったので、平均して1台あたり9kgのコバルトが必要だったことになります。1台9kgで10億台のEVを作ると900万トンのコバルトが必要になりますが、世界の合計埋蔵量が710万トンしかなく、冒頭でも触れたように他の産業でも毎年10万トンほど利用される金属のため、このままでは枯渇するのが目に見えています。

2025年にはEVの販売台数が10倍に伸びると考えられており、車載バッテリーの他に特殊合金やその他の用途も含めて年間に25万トンの需要が予想されています。EVの需要が仮にそこから横ばいになったとしても、30年以内に現在判明している埋蔵量をすべて使い尽くしてしまう計算になります。

2025年には他の産業も含め25万トンものコバルト需要が予想される。出典:McKinsey – Lithium and cobalt, a tale of two commodities

こうした背景からバッテリー開発者は、いかにコバルトの量を減らすか、日夜研究に励んでおり、例えばニッケルとマンガン、コバルトを使ったNMCバッテリーは改良を重ねることでNMC111(ニッケル、マンガン、コバルトが1:1:1の割合)からNMC532、NMC811へとコバルトの量を順当に減らしており、現在はNMC9.5.5(コバルト比率が0.5)も開発が進められています。

テスラが使うNCA(ニッケル、コバルト、アルミニウム)はコバルトの含有量が3%まで削り込まれていますが、中国で生産されるモデル3にはコバルトを一切含まないリン酸鉄リチウムバッテリー(LFP)を採用したグレードも存在します。LFPは性能でNCA等に劣る部分もあるのですが、材料が安く安定供給が可能で、寿命が長い特長があります。

そして日本時間で2020年9月23日の朝5:30から予定されている「テスラ・バッテリー・デー」ではコバルトを含まない新型バッテリーが発表され、パナソニックと共に2~3年後から量産体制に入ると予想されています。

ちなみに、日本では「レアメタル」と「レアアース」がしばしば混同して語られています。レアメタルは、「地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属のうち、安定供給の確保が政策的に重要(経済産業省)」で、産業に利用されるケースが多い非鉄金属のことで、リチウム、チタン、クロム、コバルト、ニッケル、白金、希土類などを含む31種の総称です。このうち希土類をレアアースと呼び、永久磁石に用いられるネオジムや、ジスプロシウムなど17種が定義されています。

コバルトからの責任ある脱却

EVへの要求性能が上がるにつれて、今後は全固体電池やリチウム硫黄電池など、コバルトを必要としない電池へと進化していくと予想されるため、幸いにして資源の枯渇には至らないと考えられますが、それはコバルトの需要もどこかで崩れることを意味します。

2030年までに新技術でエネルギー密度500Wh/kgを目指す。出典:Battery 2030 Roadmap

早ければ5~10年でその転換期が訪れるため、鉱業大手もコバルトへの長期投資に二の足を踏んでいる状態です。しかし、終わりが見えているからこそ地元の鉱夫のために、コバルトバブル以前よりも安全な労働環境を残して欲しいところです。

そして現在出回っている電気自動車のバッテリーも、10~20年後に役目を終えた後にリサイクルする必要がありますが、これは住友金属や、テスラの元最高技術責任者JB・ストローベルが設立したレッドウッド・マテリアルズ等がコバルトの回収技術をすでに確立しており、他の資源とともに再利用されるでしょう。

これからも電気自動車の進化の過程で一時的に何らかの資源の需要が高まっても、コバルトのようにしっかりと持続可能性と労働者の人権に向き合い、洞窟に潜むコボルトたちの怒りを買わないような社会になることを願って、この話の結びとさせていただきます。

(文/池田 篤史)

3 thoughts on “電気自動車の電池にも使われる「コバルト」は石油より早く枯渇する?”

  1.  素晴らしいレポートでした。このサイトの真骨頂だと思います。EVはsustainability の脈絡の中に位置づけなければいけないと思うので、こうした問題提起は大切ですね。apple社の新製品に関する報道によれば、iPadのアルミニウムボディは100%リサイクルだと言うことです。テスラのバッテリーについての発表に期待が持たれます。

  2. 世間一般人がリチウムイオン蓄電池の化学物質にいかに無知か思い知らされますねwwww
    コバルトを大量に使うのは電気自動車よりむしろモバイル機器といえそうです(それを言っちゃあおしめぇーですが)紛争鉱物ともいわれるほど物騒なものを使っていると考えるとスマホタブレット・モバイルバッテリーもコワイ存在!!(爆)
    電気自動車に使うリチウムイオン電池は大容量だから高価な材料を使うわけにはいかず、マンガンやニッケルなどコバルトとより一桁安価な材料を使っていることも知らない人が多いです。厳密には多少含まれているといってもその比率を考えてない理系音痴の多さよ!!(爆)
    最近は中国製の燐酸鉄リチウムイオン電池も随分安くなり蓄電式ソーラー発電の主流になるかもしれません。実際鉛蓄電池の代替になるとして有望視されカー用品になりかけてたり。
    電池メーカーの多くがISO14001(環境マネージメント国際規格)に準拠していると考えるとレアアースの取り扱いも慎重にならざるを得ませんね。ではでは

  3. 大変興味深く読ませていただきました。
    エコ=CO2削減=ガソリン自動車が減ることは良い事だと思っていましたが、現実はなかなか上手く行かないようですね。
    環境問題だけでなく、生産者の労働条件改善にも期待したいところです。

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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