スズキが同社初のBEVとなる「eビターラ」の日本仕様をメディアに公開、千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイにて試乗会を行いました。公式サイトでは7月10日から車種情報サイトを公開。今年中に日本発売するとしています。
インド工場で生産される「輸入車」という位置付けに
2025年6月某日、スズキが同社初のBEVとなる「e VITARA(ビターラ)」の日本仕様(プロトタイプ)をメディアに公開し、袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗会を開催しました。日本で多くの人が待望しているであろう、国内メーカーによる、四駆モデルをラインアップしたコンパクトSUVの電気自動車。先に結論的な印象をお伝えすると、とても出来のいい新型EVでした。あとは、価格です。
試乗インプレッションの前に、概要を紹介しておきます。「ビターラ」というのはスズキのSUV、エスクードの海外仕様に使われていたネーミングです。ビターラという名前での系譜は1988年にはじまり、現在は4代目モデルが継続して販売されています。
ただし、ビターラとeビターラの間にはとくに関係はなく、eビターラは独立したモデルです。EV専用のHEARTECT-eと名付けられたプラットフォームが採用されて、製造工場はインドのグジャラート工場なので、日本では輸入車という扱いになります。
eビターラはすでに欧州では発表されており、欧州、インド、日本などを中心に販売される予定です。日本仕様のプロトタイプとしては発表されたモデルは全長×全幅×全高が4275×1800×1640(mm)、ホイールベースが2700mm、トレッドは前後ともに1540mmでBセグメントSUVに属します。
グレード構成は49kWhのバッテリーを搭載する標準グレードと、61kWhの上級グレードがあり、標準グレードはフロントに106kWのモーターを積むFWDのみ、上級グレードはフロント128kWモーターのFWDと、フロント128kW & リヤ48kWの4WDと、2種の駆動方式が用意されます。
タイヤサイズは225/55R18で、ホイールはアルミホイールに樹脂フルカバーを組み合わせたものです。ホイール素材をアルミとすることで軽量化を実現しつつ、樹脂カバーを組み合わせることで空力特性を向上しようという考え方で、トヨタのbZ4Xやプリウスなども採用しています。古くは1980年代初頭のBMW5シリーズ(E28型)でも採られた手法です。
駆動用バッテリーにはBYDのLFPを採用
バッテリーはBYDの子会社であるフィン・ドリーム・バッテリー製のリン酸鉄リチウムイオン(LFP)を採用。モーター(eアクスル)はアイシンとデンソーが45%ずつ、トヨタが10%の出資をしたBluE Nexus(ブルーイーネクサス)製です。
普通充電性能は、49kWhモデル、61kWhモデルともに最大6kW(200V×32A)。急速充電性能は「最大200A=400Vシステムとして出力90kW相当」であることが示されました。ただし、詳細な受け入れ最大出力はまだ公表されませんでした。
試乗会で配布された資料では、充電性能について次のような表が紹介されていました。
| 電池パック | |||
|---|---|---|---|
| **充電種別** | **出力** | **49kWh** | **61kWh** |
| 普通充電
10→100% | 16A(3kW) | 約15時間 | 約22時間 |
| 32A(6kW) | 約8.5時間 | 約10.5時間 | |
| 急速充電
10→80% | 125A(50kW) | 約55分 | 約55分 |
| 200A(90kW) | 約45分 | 約45分 | |
急速充電の項目を見ると、49kWhモデルと61kWhモデルの出力別の所要時間が同じになっています。つまり、大容量バッテリーのアドバンテージとして、充電性能は61kWhモデルのほうが高いことが推察できます。
今回のスズキに限らず、EVに関するメーカーの発表で「10→80%に何分間」といったデータが提示されることが多いですが、とてもわかりにくいと感じます。とくに、急速充電はさまざまな条件次第で一定時間の充電電力量が変動します。EVユーザーとしては、普通充電、急速充電それぞれ、シンプルに受け入れ可能な最大出力を明示してくれるのがわかりやすいと感じます。
寒冷時には急速充電時間を短縮するため、あらかじめ走行中や急速充電中にバッテリーを温める「寒冷時バッテリー昇温機能」を搭載。電池温度が20℃未満の場合、電池温度を20℃まで温めることが可能でセンターディスプレイで設定が可能です。また寒冷時に電池の出力を確保するため、走行前にバッテリーを温める「バッテリーウォーマー機能」も搭載。スズキコネクトのリモートエアコンと同時に設定でき、バッテリー温度がー15℃以下で動作可能でバッテリー温度をー10℃まで温めます。また、普通充電時の高温時バッテリー冷却機能も備えられます。
サーキットでも爽快なEVらしい走りを披露
ひと通りの説明を聞いた後、いよいよ試乗の時間です。今回の試乗車両はプロトタイプのためナンバーの取得はまだで、試乗はサーキットのコース内を走行するというもの。コース上、ストレート部分は100km/hまで、それ以外は80km/hが最高速度として設定され、高速コーナーの入り口には速度を落とすためのシケインも設けられました。
最初に試乗したのは61kWhバッテリーのFWDモデル。スタートはもちろんスムーズです。eビターラには「エコ」「ノーマル」「エス」と、3つの走行モードがありますが、基本であるノーマルで走ります。
ピットロードを抜けて右1コーナーをインベタで走りコーナーの頂点を過ぎたところでアクセルペダルを床まで踏み込みます。FWDの出力は128kWということなので馬力だと170ps程度でさほど力強い印象は受けませんが、かえって躊躇なくアクセルを踏める印象で、袖ヶ浦フォレストレースウェイぐらいのサーキットだとちょうどいい感じです。
回生ブレーキのフィーリングを確かめようと、フットブレーキに頼ることなくアクセルペダルを戻しつつコーナーに進入してみましたが、少し減速感が足りない感じでした。ワンペダルドライブモードもあるのでスイッチをオンにしてみましたが、ワンペダルドライブモードは高速域ではあまり効果を発揮しません。こうしたときにもっとも使いやすいのは、パドルシフトによる回生量調整ですが残念なことにeビターラには装備されていません。このため、ブレーキをチョン掛けしてコーナーに進入。十分に機敏でしっかりしたコーナリングを披露してくれました。
コーナー進入はもちろんなのですが、長めのコーナーでフルロールした際の踏ん張り感のよさにはとくに感心させられました。eビターラはフロントがストラット、リヤがマルチリンクのサスペンションを採用しています。スズキ車でのマルチリンクのサスペンション採用例は少ないのですが、よく動いてしっかりロードホールディングしてくれるフィーリングがありました。
コーナリングの印象や直進安定性も上出来の4WD
ピットインして、クルマを4WDに乗り換えます。4WDは走り出した瞬間から全体的にスッキリまとまっている印象を受けます。1コーナー先の加速もFWDにくらべて安定して加速していきます。eビターラ4WDの駆動力配分は自動的に変化する方式で、定常走行時は前/後が54/46なのに対し、加速時は50/50、滑りやすい路面では70/30です。減速時はフロントタイヤの回生力が強い70/30という設定です。
タイヤというのは面白い特性を持っていて加減速に全性能を使っていると曲がる力を得られません。その逆も同じです。eビターラ4WDの場合、FWDと違って加速時に使うフロントタイヤの能力を抑えられるので、曲がるための性能を十分に発揮。加速しながら曲がるという2つの仕事を上手にこなせます。このためコーナーの頂点を抜けてからの加速も速く、サーキットを楽に、速く走れます。
シケインのようなステアリングを大きく切る必要のある場面でも4WDのほうが安定して速い印象です。おそらく前後重量バランスも4WDのほうが理想に近いのだと思います。直進安定性も4WDのほうがいい印象でした。
サーキットという非常に路面状況のいい場面での試乗でしたが、ノイジーな不快さはほとんど感じることがありませんでした。サーキット試乗では路面から感じるタイヤノイズなどは低減される一方、逆に風切り音などが目立つことも多いのですが、今回はそうしたネガティブさもあまり感じませんでした。
フロントシートは左右ともに十分な空間が確保され、カップルディスタンスも適度な印象。リヤシートはヘッドクリアランスが少し足りず、外側の側頭部がボディ内側に触れるようなこともあります。座面とフロアの位置関係はよく、膝の曲がり具合もちょうどいい感じなので、座面を下げてヘッドクリアランスを稼ごうとすれば今度は膝に窮屈さを感じてしまうでしょう。かといって全高を上げれば重心も高くなりますし、スタイリング上の問題も出てくるでしょう。
バッテリーをフロア下に収めているEVの宿命でもありますが、このあたりは軽自動車でミラクルパッケージングを実現しているスズキの腕のみせどころ、さらなる改良に期待したいところです。
日本での価格は、今まさに検討が重ねられているそうです。多くの人が買えるEVとして、攻めた価格設定となることを期待します。
取材・文/諸星 陽一







