フォルクスワーゲン『ID.4』発表〜日本導入は2022年以降で検討中

,

フォルクスワーゲンが電気自動車IDシリーズで2車種目となるSUVの『ID.4』の詳細を発表しました。電池容量77kWh。日本の広報部に確認したところ限定車仕様の価格は4万9950ユーロ(約615万円)〜。自動車評論家の御堀直嗣氏による解説をお届けします。

日本への導入は2022年以降で検討中

ドイツのフォルクスワーゲン(VW)の電気自動車(EV)『IDシリーズ』で2車種目となるID.4が、9月23日にドイツで発表、発売された。年内に欧州で納車される予定のID.4は限定車仕様で、4万9950ユーロ(約615万円)と、上級版の5万9950ユーロ(約738万円)の2車種。合計で2万7000台の販売を見込んでいる。仕様や台数を限定しない標準車の価格などは、欧州でもまだ公表されていない。とはいえ、ベースモデルの欧米での価格が日本円で400万円台前半〜とする報道もあり、VWが価格面でも意欲的であることが感じられる。

先に発表されたID.3が、VW社の中核となるゴルフを継承するような小型2ボックス車で登場したのに対し、ID.4は、日本を含め世界の市場で高い人気を誇る小型SUVのEVとして誕生した。国内市場へは、ID.3かID.4になるかを含め、2022年以降に導入の方向で現在検討中であると、フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン広報は答えた。

ID.4の車両全長は4.58mというから、メルセデス・ベンツEQC(全長4.77m)やテスラ・モデルY(4.75m)と、プジョーe2008(4.305m)の中間的な寸法といえる。ID.3の全長が4.261mなのでそれよりやや大柄で、既存のエンジン車のSUVであるティグアンが4.5mだから、そのEV版と位置付けられそうだ。

上記のほかにも、他銘柄ではジャガーI-PACEや、アウディe-tron、また導入予定が公表されているボルボXC-40など、SUVのEVが海外から目白押しである。欧州各社がSUVでEV化を進める背景にあるのは、床下にリチウムイオンバッテリーを搭載するうえで、部品配置や造形の面で背の高いSUVが比較的容易にEV化しやすいからである。

EQSコンセプトのデザイナーは来日の折、「EVは床下にリチウムイオンバッテリーを搭載するため、4ドアセダンのEQSを調和のとれた背の低い姿に見せるのに苦労した」と語っている。

まずは市場で人気の高まっているSUVをEVにすることで販売に勢いをつけ、テスラのモデルSやモデル3の動向を見据えながら、次にはメルセデス・ベンツもEQSを出してくるし、ジャガーも最上級4ドアセダンの次期XJSがEVになる予定だ。

電動SUVとして省エネにも配慮した開発姿勢

さて、ID.4は、EV専用のプラットフォームであるMEB(モジュラー・エレクトリックドライブ・マトリックス)を用い、ID.3と同様に後輪駆動になる。エンジン車で前輪駆動(FWD)を主体としてきたVWだが、合理的な車両構成を追求するに際して、EVになると必ずしもFWDにこだわる必要はないということだろう。そこは、ホンダeにもいえる。ちなみに、4輪駆動の話はまだ発表されていないとのことだ。

搭載するリチウムイオンバッテリーは77kWhで、WLTPによる一充電走行距離は520km(EPA換算推計値=約464km)とのことだ。この数値は、ID.3の最上級車種の性能と一致し、走行距離は車体が大きくなることも関係してか、30km少な目の数値となっている。それでも、わずか30kmの差でしかないところに、電動機構の効率の高さや、車体外観の空気抵抗係数(Cd値)が0.28という優れた造形を実現していることなど、単にEVであれば、あるいはSUVの実用性が満たされればというだけでない、電動車両時代の省エネルギー化に幅広い視野を持って開発されたことが伝わってくる。

外観を象徴するフロントグリルは、ID.3に通じる造形であるとともに、VWのバッジを中央に置きながらラジエターグリルレスに近い表現で、独自性をよく表わしている。そこには、LEDを活用し、デイタイムランニングライトを効果的に使った表情が織り込まれている。その印象は、後ろのリアコンビネーションランプの造形にも通じる。エンジン車に別れを告げ、EVを牽引する一連のIDシリーズの造形は、VW社のEVに対する思いを強く表す証ともなっている。

メルセデス・ベンツのEQCや、昨年の東京モーターショーで公開されたEQSコンセプトも、EV専用の造形といえるが、どこかにまだエンジン車時代のメルセデス・ベンツの面影を残す。もちろん、VWのIDシリーズもボンネットフードを持つ姿はエンジン車の名残ではあるが、ラジエターグリルレスの採用と、その洗練された造形処理が同社の本気度をよりいっそう明らかにしていると思う。そして、まだEVを経験したことのない人にも、買うかどうかはともかく、一度は運転してみたいとの思いを起こさせるのではないか。

世界の小型車の規範とうたわれてきたゴルフに対する信頼を思い出させるだけでなく、2015年のディーゼル排出ガス偽装で信頼が揺らいだことに対する真摯な反省と、そこから反転攻勢に出たという狼煙にもなりそうだ。

V2Hやバッテリー再活用への取組にも期待

一方で、EV導入に際し取り組みの視点に抜けがあることも思わせる。それは、日産自動車や三菱自動車工業がすでに取り組みをはじめている、ヴィークル・トゥ・ホーム(V2H)への対応がなされていないことだ。日本は、三菱i-MiEVや日産リーフが発売されたあとに東日本大震災を経験し、電力確保の重要性を身に染みて実感した。そこから、V2Hの取り組みは加速してきた。このことは、家庭での電力利用の効率化や経済性を改善するだけでなく、将来的には送電網との連携によって、地域や国における電力需給の平準化と効率化を促し、発電の無駄を省く道に通じる第一段階だ。

ID.4の製造や充電において、排出ガスゼロの取り組みがあることは素晴らしいが、EVがエンジン車と異なる最大の価値は、単なる移動手段だけで終わらないことだ。世界的にクルマの利用は1割ほどで、あとの9割は駐車場に止まっているだけといわれている。その9割の時間を活用し、効率的な電力需給によって未来を築こうという枠組みにクルマが入ることに、EVのもうひとつの価値がある。

また、EV後のリチウムイオンバッテリーはまだ60~70%の容量を残すとされ、蓄電機能の価値は残されている。それを効果的に再利用する構想も不可欠だ。日産は、リーフを発売する前にEV後のリチウムイオンバッテリーを再利用するためフォー・アール・エナジー(4R)社を設立している。それから約10年を経て、ようやく本格的な事業にたどり着いた。他の自動車メーカーは、10年後にようやく4R社の水準に至るかどうかというのが実情だ。

電動化時代に向けたあり方を示すモデル

ID.4は、電動化の時代へ向け、要素技術があるからEVは明日にでも作れるという奢りではなく、世界で自然災害が甚大化する今、自動車メーカーとして何を成すべきか、またEVへの移行に際して経営をどう存続させるかを両立させる道を示したモデルだともいえるのではないか。

まだ市場が成熟していないので売れ行きが読めないとして、販売計画を小出しにするような姑息な発想ではなく、成熟していないのなら市場を喚起する意気をIDシリーズに感じずにはいられない。だからこそ、ブランドとして消費者に信頼されるのである。ブランドとは、自ら語ることではなく、消費者が決めることだ。その名誉を勝ち得るには、自らの立場を明確にし、人々に希望を与える志がなければならない。それが形となって表れるのが、商品である。

欧州では、来年からの二酸化炭素(CO2)排出量規制の強化へ向け、一刻の猶予もなく電動化の強化が求められている。この秋から来年型の新車を発売しなければならない緊張感を伴う。それでも、作ればいいではなく、喜んで買ってもらえるEVとは何かの答えの一つが、IDシリーズだろう。その情熱は、テスラにもある。テスラの成功が、欧州自動車メーカーを強く刺激していると見受けられる。

それに対し、鈍感なのが日本の自動車メーカーだ。しかも、補器用の鉛バッテリーが高価になるからと、アイドリングストップ機構を持たない新車まで販売する有り様だ。環境基準は満たしているからと答える無神経さには呆れるしかない。

ある一つのメーカーだけでなく、軽自動車にまだマイルドハイブリッドを採用しない姿勢も含め、国内の自動車メーカーの経営陣の鈍さには開いた口が塞がらない。世界で最初に量産市販EVを発売しながら、日本がここにきて大きく後れを取り始めている。このままでは、大手自動車メーカーといえども存続しえない時代が10年後には来ると私は見ている。

(取材・文/御堀 直嗣)