電気自動車(EV)の課題を解決する可能性が高いとして『全固体電池』への注目が高まっています。全固体電池とは何か。それによってEVがどう変わるのかなど、基礎知識から最新情報まで、わかりやすく整理してみることにしました。
今後、全固体電池についてのニュースなどをチェックしながら、よりわかりやすく役立つ記事となるよう、追記や改訂を重ねていきたいと思います。
全固体電池とはどんな電池?
『全固体電池』とは「電解液を使わず電極間を固体で繋ぐ電池」のことです。電解液というのは、正極と負極(電極)間で電気をやりとりするための電気を通す液のこと。自動車の12Vバッテリーなど鉛蓄電池には希硫酸液が使われているのは、長く自動車に乗っている方ならご存じですよね。現在の電気自動車のほとんどで動力用蓄電池として使われているリチウムイオン二次電池の多くに「有機溶媒(非水)系電解液」と呼ばれる電解液が使われています。
「有機溶媒系電解液」にもさまざまな種類がありますが、おおむね、この「有機溶媒」の可燃性が高いことから、リチウムイオン電池は「発火のリスクが高い」と言われる原因になっています。また、温度によってリチウムイオン電池の充放電性能が左右される要因でもあります。
全固体電池では電解液を使わないので、発火のリスクが小さく、幅広い温度域で安定した性能を発揮することが期待されています。
「リチウムイオン電池」というのは電気のやりとり(電荷移動)にリチウムイオンを使う、つまり電極材料を示す名称です。一方で全固体電池は電解質が固体であることを示す名称で、呼び名の基準が異なります。現在のところ、多くの全固体電池においても電極材料としてはリチウムイオン電池とあまり違いはなく「全固体リチウムイオン電池」と呼ぶこともできます。
【関連情報】
●“燃えない”電解液を新開発、リチウムイオン電池の性能・寿命向上も実現(スマートジャパン/2020年3月6日)
一般的に有機溶媒が可燃性でリチウムイオン電池発火の元凶と表現されます。ただし、有機溶媒の危険度は灯油程度でガソリンより危険のレベルは低いといえます。
また、リチウムイオン電池の発火には正極の活物質の熱安定性が大きく関与しており、リチウム等も関与するため、有機溶媒が無くても燃焼する可能性は否定できません。
リチウムイオン電池だけが危険ということでもなく、たとえば鉛電池など水溶液系の二次電池は充電時に副反応として水の電気分解が起こっており、充電の方法や充電環境(密閉された狭い空間)が適正でない場合は、水素ガスに引火して爆発することがあります。鉛電池も容量が大きい場合は、消防法で規制を受けます。
全固体電池のメリット
なぜ、現状のリチウムイオン電池ではダメで、全固体電池の開発に本格的なEV普及への期待が寄せられているのか。一般的に挙げられている全固体電池のメリットを列記しておきます。
●発火のリスクが低い。
可燃性の高い電解液を使わず、固体電解質が燃えにくいものであれば、発火のリスクが小さくなります。
●超急速充電が可能になる。
大きな電力で充電する際、発熱リスクがあまり問題でなくなることから、超高速の急速充電に対応しやすいとされています。
ただし、多くの研究発表では超急速充電が可能になることの理由が明確に説明されていません。雨堤さんのご指摘によると「おそらくは有機電解液に比べて固体電解質の方が、高イオン電導度が高いということから急速充電が可能としているのではないかと思います。ただし、固体電解質>有機電解液 ということではなく、現状の有機電解液の限界より高いイオン電導度を呈する固体電解質が開発された」場合のことであり、優れた特性をもつ固体電解質の開発が不可欠です。
●エネルギー密度が高い。
さまざまな研究発表などの状況から、既存のリチウムイオン電池よりもエネルギー密度が高い、つまり、小さな電池に大きな電力を蓄えることができると期待されています。
ただし、多くの研究発表で「エネルギー密度算出のベースとなった、具体的なセルの容量や特性、サイズ、質量が開示された例は見られない」ことを雨堤さんは指摘しています。
【関連情報】
●固体電池: 室温でのリチウムイオン伝導率の記録を更新(東北大学材料科学高等研究所/2020年9月28日)
●幅広い温度域で安定して性能を発揮できる。
温度によって性質などが影響されにくく、充放電時の内部抵抗を低減できる固体電解質が開発できれば、氷点下の低温や水沸点(100℃)に近い高温でも性能の低下が起こりにくいとされています。
●劣化しにくく長寿命。
現状のリチウムイオン電池では、電解質の劣化(分解)や電極活物質の劣化などの「副反応」によって劣化しやすい特性がありますが、固体電解質では副反応が起こりにくく、より長寿命の電池が実現できることが期待されています。
全固体電池開発の課題
メリットを挙げていくと、なるほど、全固体電池がEV普及の切り札として期待されるのも当然です。でも、実用化を実現するためには、解決すべき課題があります。
●固体電解質の開発。
電池として性能を発揮するためには、電極と電解質が常に密着している必要があります。電気のやりとりによって電極の体積などは変動します。液体の電解質であれば電極が少々変化しても密着し続けることができますが、固体同士では常に密着することが難しく、電極と電解質が接する「界面抵抗」が大きくなりやすいという課題があります。
●電極物質の開発。
既存のリチウムイオン電池より大幅なエネルギー密度の向上を実現するためには、同じ重さ、大きさでより大きな電力を蓄えられる電極物質を開発する必要があります。
●コストパフォーマンスに優れた量産技術の開発。
実験室レベルや小さな電池でこうした課題が解決できたとしても、電気自動車に搭載する大容量電池を大量に生産するための、コストパフォーマンスに優れた量産技術を確立することが必要です。
電気自動車用のリチウムイオン電池は、どんどん改良が進み、エネルギー密度が向上しながら価格は次第に下がっています。いくら理想的な全固体電池が作れるとしても、価格がリチウムイオン電池の数倍! では、電気自動車普及に貢献することは難しいのは言うまでもありません。
以前、EVsmartブログで紹介したインタビュー記事でも、電池研究者の雨堤徹さんがそうした課題を指摘しています。
【関連記事】
●電気自動車の進化に必須といわれる「全固体電池」は実用化できない?(2019年11月19日)
テスラが2020年に開催した「バッテリーデイ」では、リチウムイオン電池のkWh単価を「56%削減」できることを発表しました。全固体電池が電気自動車普及の切り札となるためには、改良と低廉化が進むリチウムイオン電池を凌駕することが必要です。
【関連記事】
●テスラ「バッテリー・デー」のポイントを解説(2020年9月23日)
●テスラ「バッテリー・デー」の発表を電池研究者はどう評価するのか?(2020年10月3日)
●超急速充電は電池だけでは実現不可能。
一点、書き忘れていたので追記します(2021年1月23日)。
充放電性能に優れた全固体電池が開発されると、たとえば「5分で充電できる」といった曖昧な表現でそのメリットが語られていることがあります。でも、充電時間の短縮は、電池の性能というよりも、充電器への電力供給や、充電器出力のほうが課題になることを理解しておかなければいけません。
たとえば、100kWhの大容量全固体電池を搭載したEVに、20〜80%、つまり、60kWhを5分で充電するためには、単純計算で720kWの高出力が必要になります。本当に、こんな性能が必要でしょうか? 現状で、日本国内に設置されている最も高出力の急速充電器はテスラスーパーチャージャーの250kW。実に、その約3倍です。トラックやバスなどの大型車をEV化して、限定的なステーションにチャデモ3.0規格900kW出力の充電器を設置する、のはさもありなんと思いますが、高速道路SAPAなどにあまねく700kWとか、強いて言えば250kWや350kWといった超急速充電器を並べていくのは、あまり合理的とは思えない、と私は感じています。
全固体電池になったからといって超急速充電ができるわけじゃない、というのがひとつ。また、一充電で500km以上走れるような大容量電池の電気自動車ばかりが増えていくべきなのか。急速充電インフラはどのくらいの出力でどのように拡充していくのか。充電時間については、電力会社や自動車メーカー、そして社会全体がきちんと考えながら進めていかなきゃいけない「課題」であると心得ておきましょう。
全固体電池〜気になる最新情報
電気自動車に搭載する大容量の全固体電池開発は、今、世界が注目する「目標」となっています。全固体電池への理解を深め、正しく期待するために、気になるニュースなどをピックアップしておきます。
●いよいよ21年初めに量産へ!村田製作所の全固体電池は何に使われる?(ニュースイッチ/2020年08月14日)
日本国内のメーカーとしては、村田製作所、TDK、そしてトヨタなどが全固体電池開発に注力していることが知られています。村田製作所では、2020年内にも滋賀県内の工場で月間10万個の全固体電池量産を始めることを発表しました。ただし、この全固体電池は補聴器やIoT機器向けの小型で容量が小さい電池です。
村田が作る全固体電池
●新型EV電池、官民で実用化 トヨタ20年代前半に搭載車(日本経済新聞/2020年12月10日)
日本の自動車メーカーの中では、トヨタが全固体電池の開発に注力しており、新聞などの報道では2020年代前半の市販化を目標としていることが伝えられています。
●VWが米QuantumScapeに2億ドルを追加投資、固体電池開発を推進(日経クロステック/2020年6月22日)
●EVバッテリーで世界最先端を走る米「クアンタムスケープ」の強み(フォーブス/2020年12月28日)
もちろん、海外の自動車メーカーも全固体電池開発に無関心ではありません。ドイツのフォルクスワーゲンは、アメリカの電池開発ベンチャーであるQuantumScape(クアンタムスケープ)に巨額の投資を行い、2025年に実用化することを目指しています。
QuantumScapeは昨年11月、ニューヨーク市場に上場を果たし、電気自動車用全固体電池開発に関する明るい話題も報じられています。
●宁德时代:固态电池至少要到2030年以后(搜狐/2020年1月1日)
●「全固体電池は必要なのか」最大手CATLの真意(日本経済新聞/2019年7月26日)
リチウムイオン電池の製造販売シェアで世界トップレベル(昨年、韓国のLG化学に1位の座を明け渡した)に位置する中国のCATL(寧徳時代新能源科技股份有限公司)の幹部が「全固体電池は本当に必要ですか? 現在のリチウムイオン電池は効率やコスト、航続距離の観点からも電気自動車に最適です」「全固体電池は開発中ですが、商品化されるのは2030年以降になるでしょう」と語ったニュースです。
●『ET7』発表の『NIO Day 2020』に痛感した「世界は前進している」事実(EVsmartブログ/2021年1月11日)
そのCATLがバッテリーを供給している中国のEVスタートアップ『NIO(上海蔚来汽車)』が、2021年1月、従来モデルと同じサイズで交換可能な容量150kWhの「固体電池」を発売することを発表しました。
CEOのWilliam Li氏は、この電池は「Solid State Battery=固体電池」であり、「All Solid State Battery=全固体電池」ではないとしており、詳細や価格はまだ明らかではないものの、従来のリチウムイオン電池に比べて約1.5倍となる「360 Wh/kg」という高いエネルギー密度を実現していることがアナウンスされました。
この「固体電池」のkWh単価がリチウムイオン電池とさほど変わらないなら、「全固体電池」を実用化するためのハードルはさらに高くなったといえるでしょう。
●全固体電池の界面不純物制御により電池容量を2倍に(東工大ニュース/2021年1月26日)
最新情報の追記です。(2021年2月22日)
おかげさまで、この記事公開から数日でGoogleで「全固体電池」と検索すると1位表示されていたのですが、今日(1/29)見たら『東工大ら、全固体電池の容量を従来の2倍に』と題したニュースに抜かれて2位になってました。このニュースの元情報となっているのが、上にリンクした『東工大ニュース』です。
「不純物を含まない清浄な界面を作製すると、全固体電池の電池容量が倍増することを発見」して「電気自動車の航続距離の増加や定置蓄電など、応用範囲の拡大に向けて」容量が2倍になったという研究結果です。ただし、先に雨堤さんが指摘しているように、具体的なセルのサイズや容量などは明示されておらず、まだ「実験室レベル」の研究結果であることがわかります。
レポート末尾には「本研究は、トヨタ自動車株式会社、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)、日本学術振興会(JSPS)科研費の支援を受けて行った」という謝辞が記されています。
同じ東工大ニュースでは、2018年11月26日に『全固体電池実現のネックを解明〜界面抵抗低減の指針を確立し実用化の道拓く』と題したレポートが掲載されており、今回の発表は「界面抵抗低減の指針」確立を目指して進められている研究のひとつの成果であろうと思われます。
このニュースの「背景」として、「LiCoO2を電極に用いた現在のリチウムイオン電池の理論容量(357 Wh/kg=重量エネルギー密度)は、次世代電気自動車が500 km走行するのに必要とされる容量(500 Wh/kg)には及ばないため、より高性能な革新的二次電池の開発が期待」されていると説明されています。もちろん、エネルギー密度の高い安全で高性能な電池開発には期待したいのですが、なぜ「500 km走行するのに必要とされる容量(500 Wh/kg)」が次世代自動車にとって必須な性能なのかといった点はとくに説明されていませんでした。
●電気自動車普及のカギを握る電池技術の現在地(東洋経済オンライン/2021年2月3日)
東京大学工学研究科の山田淳夫教授が、記事中でEVsmartブログのこの記事を「比較的冷静に分析している一般向けの記事」としてご紹介くださっています。
最新情報の追記です。(2021年4月29日)
●レアメタル不要の電池、日本製紙が開発へ 容量も2.5倍〜木質材料を活用(日本経済新聞)
木質材料を活用した新しい電池のアイデアです。「電解液を使わない」とあるので、全固体電池と呼んでいいものかと推察します。まだ詳細は謎ですが、実現すれば画期的な発明だと思います。
いろんな情報お待ちしてます
というわけで、この記事は今後もアップデートを重ね、電気自動車用全固体電池を素速く理解するのに役立つものとしていきたく思っています。
新たなニュース、あるいは専門家の方からのご指摘や情報提供など、コメントでお寄せいただければ幸いです。
【2021年1月25日追記】
以前、全固体電池に関するインタビュー記事をご紹介した電池研究者、「Amaz(アメイズ)技術コンサルテイング合同会社」の雨堤徹さんにこの記事をご一読いただき、補足説明などをいただきました。本文中に適宜補足を加え、最後に雨堤さんの見解をご紹介します。
電池研究者、雨堤さんのご意見
液体とか固体とか、リチウムイオン電池とかいう呼称が問題なのではなく、安全で安価で高エネルギー密度の電池の開発は不可欠です。新しい技術は必要ですが、普遍的な技術もあり、それは新しい技術で変えることができないものもあるということも同時に認識しておく必要があります。
例えば、化合物には色々な可能性はありますが、元素自体の物性は変えられません。電池の電気容量は物質から取り出せる電子の数を意味しており、96500クーロンの電気を取り出すのにLiの場合は約7gで済みますが、Naの場合は約23g必要です。水素の場合は1gで済みますが、気体のため体積密度が低くなってしまいます。ここまでは中学で習う理科の知識で理解できる内容です。
ミライでは700気圧まで上げることで体積を小さくしています。ニッケル水素電池では水素吸蔵合金に水素を吸収することで、大幅に体積を軽減していますが、残念ながら合金の比重が大きいため、質量的なメリットがLiを下回ってしまいます。
さらにそれぞれの元素や化合物が持つ電位(電圧は電位の差なので、単独物質の場合は電位と呼びます)も固有で、理論的な電位は変えることはできません。色々な工夫次第で実際に得られる値を理論値に近づけられます。この電位面でもLiは有利となります。
コスト比較でも電池に必要なのは、最終的にはWh当りの価格となりますので、化合物が有する電気量や電位も考慮する必要があり、材料の㎏当たりを比較しても意味がありません。例えばNaはLiに対して㎏当たりの単価が1/3でほぼ同等ということになります。
全固体電池に関する現状での多くの発表は部分的な観点からの判断が多く、総合的な観点で判断されたものは非常に少なく、故意かそうでないかは別としても不都合な情報は開示されていないのが残念です。
社会がデジタル化することに反対ではありませんが、人の判断も0/1となり、中間がないが残念です。一方で多様化を認めましょうという動きもあり、矛盾だらけの世の中になりつつあると思います。モノには完全なものは極一部で、必ずメリットとデメリットがあり、マイナス要因を十分に補えるメリットがあれば、そちらに舵を切る必要があると思います。
ICEから全面的にEVへという動きにも違和感を覚えます。一定の比率で共存しても問題はないのではないかと思いますし、全てが変わるということが色々な軋轢を生んでしまうのではないかと思います。
多くのユーザにとって電池は電池であり、リチウムか水素かとか、液か固体かということは関係ありません。
豊田章男社長が発表した「日本の火力発電」問題は事実ですが、水素燃料の水素生成や圧縮のためのエネルギーには電気が不要と思わせる表現には「違和感」を感じます。火力発電所から排出される炭酸ガスは将来技術で固定化される可能性もあります。出さないことも重要ですが、適正に処理する技術が重要です。仮にこれらの技術ができたとしてもこれを小型・軽量化かつ安価に製造するためにはさらなる期間と技術が必要となります。
初出/2021年1月22日 (文/寄本 好則)

