日本の軽自動車市場に、魅力的な電気自動車が大陸から渡来してきました。BYD Auto Japanが2026年7月28日に発売した軽EV「BYD RACCO(ラッコ)」の試乗会に参加し、公道での走りを確かめてきました。結論としては、素直に「誕生を祝福したい」と思わせてくれる一台です。
EV「だからこそ」のスムーズな走りと静粛性を実現
走り出してすぐに実感できた魅力は、電気自動車ならではの静粛性の高さです。もちろん、加速などの走りはスムーズ。ラッコは、シャシからボディ、駆動・制御システムまですべてを新設計した、BYD初、海外メーカーとしても初の日本専用設計の軽EV。EV専用プラットフォーム「e-Platform 3.0」をベースに、リン酸鉄リチウムイオン「ブレードバッテリー」をボディ構造の一部として組み込む「CTB」技術と、ラッコ専用に新開発した統合型EVユニット「X-PACK」を組み合わせ、約70%の高強度鋼板とレーザー溶接によるシームレスな車体で、スーパートール×両側電動スライドドアという構造ながら高いボディ剛性を実現しているとのこと。乗ってみると、狙い通りの質感の高さがしっかり伝わってきます。
スーパーハイトワゴンならではの余裕ある空間も印象的でした。アイポイントが高く見晴らしがよいうえ、軽自動車であるという先入観を超えた余裕の室内空間(床面積は約2.96平方メートル)が広がります。試乗前のプレゼンテーションでは「力強い」「パワフル」といったキーワードでこの車を作っておらず、しなやかで毎日の運転が疲れにくいことを目指したという説明がありましたが、まさにその通りの乗り味。ADASの設定も運転者を驚かさないよう配慮されているとのことで、終始落ち着いた印象で走らせることができました。
多くのレガシーメーカーが「エンジン車から違和感なく」を追い求めている風潮のなか、「EVだからこそ」を突き詰めて開発しているのはBYDの強さだと、しみじみ感じました。
補助金のハンディキャップを凌駕するコストパフォーマンス
発表会直後「BYDが本気になった軽EV「RACCO」を発売/国のCEV補助金15万円でも実質100万円台を実現」という記事で紹介したように、軽EVの先駆者である日産サクラと比べると、ラッコは補助金面でハンディキャップを抱えています。国のCEV補助金はラッコが全グレード一律15万円なのに対し、サクラは満額の58万円。その差は43万円にもなります。
しかし、搭載するバッテリー容量や一充電走行距離、両側電動スライドドア、完成度の高いADASなどの装備を勘案すると、この補助金格差を凌駕するコストパフォーマンスを実現していることを、実際に試乗してみて確かめることができました。改めて、価格とスペックを比較しておきます。
| RACCO 200 | RACCO 300Plus | RACCO 300Premium | サクラ G | |
|---|---|---|---|---|
| 価格(税込) | 214.5万円 | 239.8万円 | 249.7万円 | 299.86万円 |
| CEV補助金 | 15万円 | 15万円 | 15万円 | 58万円 |
| 実質価格 | 199.5万円 | 224.8万円 | 234.7万円 | 241.86万円 |
| バッテリー容量 | 22.4kWh | 35.84kWh | 35.84kWh | 20kWh |
| 航続距離(WLTC) | 210km | 320km | 320km | 180km |
| 電動スライドドア | 両側標準 | 両側標準 | 両側標準 | なし |
最上位の300Premiumは実質234.7万円と、サクラGの実質価格である241.86万円より安く、バッテリー容量は1.8倍近く、航続距離も320kmと余裕があります。40万円以上の補助金格差があるものの、実質価格でも国産軽EVの先駆者を下回ってくるあたり、BYDの本気を感じます。ベースモデルの「200」と最上位の「300Premium」の価格差が35万円程度と小さいこともポイントです。試乗後、東福寺社長と少しお話しできたので確認すると、「300Premium」の価格は「日本で売れている大衆車の中心価格帯である250万円程度」をターゲットにして戦略的な値付けとなったとのこと。正直、ラッコを買うなら「300Premium」がお買い得だと思います。
充電性能の実用性は改めて確認したい
「300」グレードは普通充電が最大6kW、急速充電が最大49kWに対応します。50kW級の急速充電器を使う場合、10%から80%までを最短34分で充電できるとのこと。ただし総電圧が低い設計のため、同じ出力を得るには電流を大きくする必要があり、実際には最大電流が大きい高出力の充電器を使いたくなる場面も出てきそうです。
今回の試乗会では満充電に近いSOC90%からのスタートだったので、無理に充電を試すことはしませんでした。改めて長距離ドライブでの経路充電の実感はレポートしたいと思います。ともあれ、35.84kWhのバッテリーで最大49kWの充電出力に対応しているのは、日常使いはもちろん、ちょっとした遠出でも十分実用的なスペックだと思います。
車載ナビは割愛してスマホ連携ってことも好感触
ラッコには純正の車載ナビがあえて用意されておらず、Apple CarPlayやAndroid Autoなどのスマホ連携になっています。実際に使ってみると、むしろ使いやすいと感じました。
初めての試乗で少しだけ戸惑ったのが、自分のスマホでApple CarPlayを使っていたときに、ステアリングの音声認識スイッチを押しても、今システムが聞いているのかどうかがちょっとわかりにくかったこと。地図画面にレインボー風のアニメーションが流れるだけで、はっきりと「聞いていますよ」という表示が出ないので少し戸惑いました。とはいえ、マイカーになれば慣れるでしょうし、OTAなどのひと手間さえなしで地図が常に最新という安心感は、スマホ連携ならではの魅力になると思います。
カップホルダーや後席用の折りたたみテーブル、300シリーズには雨の日にシートを濡らさない傘立てスペースまで用意されているなど、日常的な使い勝手に配慮満載のインテリアは秀逸です。後席足もとのスペースも広々としています。
ひとつ、とても気になったのが運転席の肘掛けが低すぎること。手足がコンパクトな私でも、肘を置こうとすると、身体を傾ける必要がある感じでした。また、シートベルトをする時に倒した肘掛けが邪魔になります。ここはぜひ改善を期待したいポイントです。
日本でヒットする軽EVはかくあるべしという提案
初試乗の結論として、エンジンのコンパクトカーや軽自動車からEVへの乗り換えを思案している人は、ぜひ一度ラッコに試乗してみるべきだと感じました。
日本でヒットする軽EVとはどのようなクルマであるべきなのか。それをBYDが提示してくれていると感じます。古来から中央集権国家の設立など、日本は大陸から多くの教示を得て発展してきました。まずはラッコが日本で売れることを応援しつつ、日本の自動車メーカーが、ラッコの教えを活かしてくれることに期待しています。
取材・文/寄本好則








