EVの車種や台数が増えるにつれて、長距離ドライブ時の充電インフラの脆弱さが悩ましい課題になっています。ことに、高速道路SAPAへの高出力な急速充電器の複数台設置は日本のEVユーザーの悲願です。新たにEVsmartブログ著者陣に加わった、八重さくらさんが解説します。
モデルXとアイミーブのEV2台を活用
皆さま初めまして、環境系バーチャルユーチューバー(vTuber)の「八重さくら」です。これまではTwitter(@yaesakura2019)やYoutube、自身のブログ(エコレボ)などで「EV」や「環境」に関する情報を発信してまいりましたが、この度EVsmartブログにも寄稿することになりました。
筆者の事務所では2018年にテスラ モデルXを購入、その後2020年に三菱アイミーブを増車し、現在はEV2台体制で運用しています。屋根には7.77kWの太陽光発電、そして合計27kWhの蓄電池(パワーウォール2台)を設置し、エネルギーの自給自足を目指しています。
これまでの約4年間に渡るEVの使用経験に加え、日々収集している海外のEVや環境に関する情報をもとに「EVユーザーとして正直な記事」をお届けしてまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。
記念すべき1回目となる本記事では、「すべてのEVが快適に充電できる」高速道路の急速充電インフラについて考えてみます。
日本国内のEV充電インフラの現状
本題に入る前に、まずは国内のEV充電インフラの現状をおさらいしておきましょう。
すでにEVに乗っている方ならご存知かと思いますが、EVの充電には大きく分けて「普通充電(基礎充電)」と「急速充電(経路充電)」の2種類が存在します。
普通充電は基礎充電とも呼ばれ、自宅や目的地(宿泊施設や商業施設など)において駐車中に充電し、満充電の状態で出発できるようにするための充電方法です。戸建ての持ち家であれば比較的容易に設置でき、多くの場合で数万円~十数万円程度で設置可能です。
集合住宅についても、近年では補助金の申請から管理組合との交渉まで一括で代行してくれる業者が複数登場し、一昔前と比べればかなりハードルが下がりました。東京都など一部の自治体では設置を義務付ける動きもあり、普通充電の環境は、今後さらに充実すると予想されます。
一方で利用者の力だけでは整備が難しいのが、遠出をする際に利用する高速道路上などの急速充電器、すなわち経路充電です。高速道路を管轄するNEXCOや都市高速道路各社はe-Mobility Powerと一緒にSAPAに急速充電器の整備を進めているものの、2022年10月現在では多くのSAPAでは出力50kW(ごく一部で90kW)以下、かつ1カ所に付き1口~2口(ごく一部で3〜6口)の設置に留まっています。出力50kWの場合、30分充電した場合は約20kWh程度となり、おおよそ100km~140km程度の航続距離が追加できる計算ですが、混雑する時間帯は充電待ちが発生する頻度が高くなっています。
そんななか、希望の光として登場したのが首都高速の大黒PAに設置された、6口タイプの新型の急速充電器です。1口の最大出力は90kWですが、6口合計で最大200kW(設置後に400kWまで増強可能)に制限され、6台同時に充電した場合は1台あたり20kWまで低下する可能性があります。結果的に30分充電しても10kWh弱しか入らない可能性もあり、追加される航続距離は50km~70km程度まで減少します。ただし、「現時点では」6台同時に充電を開始することはほぼなく、実際にこのような状況に遭遇するのは、かなり稀なケースかもしれません。
【関連記事】
首都高大黒PAでEV6台が同時充電可能な新型急速充電器が運用開始(2021年12月17日)
※冒頭写真は大黒PAで充電する筆者のモデルX。最大出力90kWの新型6口器だが、車種によって充電不可のケースがあり、テスラ車では20kW以下での充電となる。
なぜ「超」急速充電器が必要なの?
e-Mobility Powerでは今後、上記の6口タイプの充電器をはじめ、56kWの2口器などを全国に設置していく計画で、一見すると順調に整備が進んでいるようにも思えます。とはいえ、150kW以上の出力をもつ「超」急速充電器の設置計画は聞こえてきません。欧米などでは350kW級の超急速充電器の拡充が進む中、EV普及だけでなく充電インフラの整備でも日本は遅れを取り始めているのです。
なぜ「超」急速充電器が必要なのでしょうか?
EVはガソリンスタンドで給油する内燃機関車とは異なり、自宅や目的地などでの「駐車時間を使った充電」が基本ですが、この考え方は遠出でも同じです。車で遠出する際には一気に500kmや1,000kmを走る人は少なく、たいていの人は途中で数回休憩を取ると思います。この休憩時間で充電を終わらせることができれば、充電時間は実質ゼロにできます。
例えばプロのトラックドライバーなら4時間毎に30分以上の休憩が法律で義務付けられていますが、自家用車では休憩の頻度や時間は人によってまちまちかもしれません。
一つの参考となる研究結果があります。
「251~300kmを移動する人の86%が少なくとも30分以下の休憩を取り、46%の人は30分以上の休憩を取る」
※ETC2.0プローブデータを活用した都市間高速道路における休憩行動分析(平井氏ほか)より
これを言い換えると、30分以内で300km分以上を走れるだけ充電できれば、(少なくとも)約半分の人は充電時間を実質ゼロにできることになります。人によっては「充電時間をゼロにする必要はない」という考え方もあるかも知れませんが、より多くの人にEVを普及させるには「内燃機関車よりEVのほうが便利」という状況が必要だと筆者は考えています。
そして最大でも90kW、場合によっては20kWまで落ちるような充電インフラでは、充電時間を実質ゼロにすることは非常に難しくなってしまうのです。
充電時間を実質ゼロにできる充電速度は?
それでは「30分で300km分」を充電するには、どれくらいの充電速度が必要でしょうか。
もちろん電費(車種や走り方などの違い)にも左右されますが、仮に比較的電費が悪い条件となる「1kWhあたり5km走れる」場合を想定して計算してみましょう。単純計算で300kmを走るには60kWhの電力量が必要となり、仮に平均出力120kWの充電器があれば30分で充電が完了することになります。
ただし、この計算を根拠に出力120kWで十分かと言われると、必ずしもそうとは言い切れません。理由の一つとして「充電量が少ないときは速く、充電量が多いときは遅い」という電池の充電特性を考慮する必要があります。例えば筆者がテスラ モデル3のロングレンジで急速充電をテストした結果は以下の通りで、充電開始直後に出力220kWに達したあと速度は下がり続け、充電量が80%に達した頃には出力50kWまで低下しています。
このグラフを見ると、例えば約200kmの走行分にあたる10%~50%の充電であれば、約10分で完了しています。仮に200kmごとに10分の休憩で済むならば、多くの人が休憩時間だけで充電が終わり、充電時間を実質ゼロにできることになります。テスラの最新のV3スーパーチャージャーは最大250kW(4口で350kW)の充電に対応していますが、電池の特性を考慮した上での一つの答えと言えるでしょう。
【編集部注】 急速充電の出力と充電量は、充電時のロスや充電するEVのバッテリー電圧なども関係してくるので単純な割り算通りではありませんが、ここでは基本的な仕組みをわかりやすくするために単純化して考察しています。
設置してから最低5年は使われる急速充電器
もう一つ考慮しなければならないのは、多くの急速充電器が設置してから最低でも5年以上は使われるということです。例えば今から10年前の2012年頃は国内のEVは日産リーフや三菱アイミーブしかなく、充電速度は最大でも50kWしか対応していませんでした。確かに当時の車種に合わせて充電器を設置するならば出力50kWで十分ですが、これらの充電器は出力100kW~150kW以上の急速充電に対応した車種が登場した2022年現在も使われています。
車両の性能は急激に進化しており、本来ならば高性能な車両を導入すればより便利になることが期待されていますが、残念ながら「設置した時点の車両性能に合わせて整備された」国内の急速充電インフラでは、最新の車両の性能を発揮できません。このような理由から、充電器を設置する際は今後5年~10年程度の車両の性能向上を考慮する必要があると筆者は考えています。
それでは今後全国への展開が予定されている6口タイプの新型急速充電器について、ここでもう一度振り返ってみましょう。仮に将来的に6口合計で400kWに増強した場合は4台までなら最大の90kWで充電できる計算ですが、1台あたり最大90kWの制限は変わりません。例えばテスラのV3スーパーチャージャーなら10分で200km分を充電できるのに対し、90kW充電器では2倍以上(約21分)の時間がかかる計算になり、やはり充電時間を実質ゼロにすることは難しいのです。
もしかしたら「なぜそこまで充電時間にこだわるのか」と疑問に感じた人もいるかもしれません。参考までに、充電インフラがEVの購入に与える影響について、筆者がTwitterで取ったアンケートを紹介します。
スーパーチャージャーとテスラの購入に関するアンケート(筆者Twitteより)
【テスラオーナーへアンケート】私は輸入EVで最多となったテスラが売れている理由の一つとして、スーパーチャージャー網が重要だと考えています。
皆さんはもしテスラにスーパーチャージャー網がなく、CHAdeMOのみで展開した場合、テスラを購入していましたか?
— 🌸八重 さくら🌸 (@yaesakura2019) January 12, 2022
実にテスラオーナーの40%を上回る人(YES/NOの回答比では4/7以上)が「スーパーチャージャーがなかったらテスラを購入していなかった」と回答しており、これは「超」急速充電インフラの重要性を示していると言えるでしょう。
筆者からの提言
欧米など海外では出力250kW~350kW以上の「超」急速充電器が一定間隔で整備されていますが、これは将来登場する車両を考慮した性能だと言えるでしょう。
近い将来、より高出力の急速充電に対応できる車両が登場したときに「こんな充電インフラでは車両性能を活かせない!」とならないためにも、今から5年後や10年後の車両性能を活かせるような充電インフラの整備が必要不可欠です。たとえ海外のような250kW~350kWが難しいとしても、最低でも現在発売されている車両が対応している150kW程度は確保すべきでしょう。何も「すべての充電器を150kWに対応しろ」と言っているわけではありません。遠出するときに困らないよう一定間隔に、そして1箇所に複数台設置されていれば良いのです。
(長くなるので今回は触れませんでしたが、プラグを挿すだけで充電が始まるプラグ&チャージや、従量課金問題も議論する必要があるでしょう)
今世界では急速にEVへの移行が進んでいます。国や地域によっては2030年には内燃機関車を禁止する動きもあり、ノルウェーなどいくつかの国ではすでに新車の半分以上がEVに置き換わっています。国内の自動車メーカーは販売の約8割を海外向けが占めており、このような海外市場で魅力的なEVを発売できなければシェアを大きく失うことになります。海外でEVの販売ランキングに入る国内メーカーの車種はごくわずかであり、多くの国内メーカーが海外メーカーと比べてEVで出遅れていることは既知の事実ですが、急速充電インフラの整備が進んでいないことも一因だと筆者は考えています。日本の基幹産業を維持するためにも、早急な「超」急速充電インフラの整備は必須と言えるでしょう。
筆者はこの思いをもとに署名キャンペーンを立ち上げ、お陰さまで間もなく最低目標である500筆に達する見込みです。私たちの声を国や高速道路各社、そしてインフラ整備の主役を担うe-Mobility Powerに届けるためにも、どうか引き続き以下の署名キャンペーンへの賛同、並びに拡散をよろしくお願いいたします。
【署名キャンペーン】
すべてのEVが快適に充電できるよう、高速道路に「超」急速充電器を整備してください!
【編集部注】 EVsmartブログ編集部としては、150kWを超えるような急速充電インフラの整備は高性能EVを発売する自動車メーカーの責務でもあり、公共の充電インフラとしては90〜150kW程度でも十分に「実質充電時間」の短縮に繋がると考えています。従って、著名キャンペーンの要望にある「最低150kW、将来的には350kW」や、「一部の車両のみに対応した規格(テスラ・CCSなど)の超急速充電器の設置」といった点については異論もあります。
とはいえ、ことに高速道路SAPAを中心に「高出力器複数台設置」を急ぐべきという要望の根本的な主旨に賛同し、社会的に議論が広がり状況が進展して欲しいという思いを込めて、編集長として署名いたしました。(寄本)
(文/八重さくら)

