電気自動車のバッテリー

電気自動車やPHEVには大容量のバッテリーが搭載されています。本記事ではバッテリーの容量、種類、電圧、重さやバッテリー交換について解説します。

目次

電気自動車のバッテリー容量

電気自動車やPHEV(プラグインハイブリッド車)のバッテリー容量ってイメージがついていない方も多いのではないでしょうか?スマホをお持ちの方はモバイルバッテリーをお持ちの方も多いと思います。モバイルバッテリーとは出先でスマホの充電がなくなった時に、スマホを充電するものですが、大容量のものには20000mAh(にまんミリアンペアアワーと読みます)のものもありますね。20000mAhあるとiPhoneを10回くらい充電できてしまいます。モバイルバッテリーの電圧は3.7Vなので、容量は3.7 x 20000 / 1000 = 74Wh(ワットアワーまたはワット時と読みます)。74Wの電球を1時間つけっ放しにできる電力です。

電気自動車で最も売れている日産リーフのバッテリーは小さいほうで24kWh。リーフのバッテリーは、モバイルバッテリーの24 x 1000 / 74 = 約324倍、容量が大きいということになります。iPhoneの充電回数で言えば3240回分ということになりますね。1kWhは1000Whで、キロワットアワーまたはキロワット時と読みます。

電気自動車やPHEVのバッテリーは、電池のお化けです。日本の一般的な家庭の一か月の消費電力は300kWhですので、一日当たり10kWh(モバイルバッテリー135個分)。リーフのバッテリーがあれば、2.4日分の家庭の電力を賄うことができます。

実際に、緊急時や災害時などに電気自動車やPHEVから電力を家庭に供給するための技術、V2H(Vehicle to Home)も提供されており、対応車両とV2Hパワーコンディショナーという機器があれば、車の電気を家で使うことができます。

電気自動車・PHEVの車ごとのバッテリー容量の一覧は、電気自動車一覧の記事の一番下に表でまとめてありますのでご覧ください。

電気自動車のバッテリーの種類

先ほどの一覧に掲載されている電気自動車・PHEVはすべて、リチウムイオン電池というバッテリーを搭載しています。バッテリーには一番大きく分けると一次電池、二次電池があり、一次電池は乾電池のように充電ができず使いきりの電池、二次電池はスマホの電池のように充電ができて繰り返し使える電池です。リチウムイオン電池はスマホでも使用されており、二次電池の代表格です。

リチウムイオン電池以外にもいくつか二次電池はあります。その中で有名なのは鉛蓄電池とニッケル水素電池です。鉛蓄電池はガソリン車だけでなく、電気自動車やPHEVの補機用バッテリーとしても搭載されています。電気自動車やPHEVは、事故の際には乗員や緊急対応要員の感電を防ぐために定められた米国のFMVSS 305に準拠して、駆動用のバッテリーを自動的に切り離さなければなりません。そのため、もしエアコンやライトなどの電源を駆動用電池から取っていると、ぶつかった瞬間にエアコンもライトも切れてしまい、ドアや窓が開かなくなったりしてしまいます。鉛蓄電池は容量はあまり大きくありませんが、寿命が長く価格が安いので広く用いられています。最近はAGMと呼ばれる液がこぼれないタイプの鉛蓄電池も普及してきました。

ニッケル水素電池はトヨタがプリウスのハイブリッド用駆動用電池として採用していることで有名です。最新のプリウスにはニッケル水素電池のタイプとリチウムイオン電池のタイプの両方があるのですが、その理由はこれらの電池の特性の違いにあります。ニッケル水素電池は安価で、重く大きく、低温に強いのです。すなわち、寒冷地仕様であれば問答無用でニッケル水素電池が用いられ、低位グレードの車両にも用いられます。逆に燃費を重視(=軽くする必要がある)するグレードや高位グレードの車両はリチウムイオン電池です。リチウムイオン電池は高価ですが、軽く小さく、出力も高いのです。

ではどのメーカーも、電気自動車には同じリチウムイオン電池を使用しているのでしょうか?

いえ、違います。実は、電気自動車にとってバッテリーはエンジンと同じ。バッテリーで車の性能が差別化されるのです。そのため、各メーカー、バッテリーの技術開発にしのぎを削っています。

リチウムイオン電池は「ケミストリー」という内部の物質と、形状の違いでいくつかの種類に分けることができます。電池には陽極(カソード)と陰極(アノード)があり、そこから電気が出てきます。大きな一個の電池を作ることもできますが、万が一異常が発生した場合の対処、冷却のしやすさ、製造のしやすさなどを考慮して、通常はセルという一つの電池を複数組み合わせてバッテリーを構成しています。

セルの形状のうちよく使われているものは、円筒型セルとパウチセルがあります。円筒型はその名の通り乾電池のような金属ケースに入った円筒型をしており、小さいことが多いです。パウチセルはケースではなくパウチ、すなわち袋に電池の中身が入っており、柔軟にいろんな形状のセルを作ることができます。ほとんどの電気自動車メーカーがパウチセルを使用していますが、テスラモーターズだけは円筒型セルを使用しています。円筒型セルでも、並べ方を工夫すればある程度好きな形に配置することができますが、製造のコストは増加します。

通常は円筒形セルよりパウチセルのほうが体積当たりの容量は大きくなります。しかしパウチセルは大きいが故、冷却が難しく、円筒型セルでも充電するとわずかに「膨らむ」のですが、パウチセルは膨らむ量が大きく、形状が変わってしまうという問題点もあります。

ケミストリーはまさに、電池の中に入っている電極や電解液の種類の組み合わせを意味しています。電気自動車に使われているバッテリーのケミストリーは大きく分けて三種類あります。NMC(ニッケル-マンガン-コバルト)、NCA(ニッケル-コバルト-アルミニウム)、LTO(リチウム-チタン)です。NMCケミストリーは最もバランスの取れたケミストリーで、多くの電気自動車に使われています。NCAを使っているのはテスラ(モデルS以降、ロードスターはLCO)、LTOを使っているのは三菱自動車(アイミーブMグレードのみ)となります。日産リーフは以前LMO(リチウム-マンガン)を使っていましたが、海外生産版や新型ではNMCに移行しているようです。各ケミストリーをざっくり一覧にしてみましょう。資料はBattery University: リチウムイオン電池の種類にあります。

ケミストリー電圧重量密度充電放電寿命安全性
LMO3.7V100–150Wh/kg0.7-3C1-10C300–700回
NMC3.6-3.7V150-220Wh/kg0.7-1C1-2C1000-2000回
NCA3.6V200-300Wh/kg0.7C1C500回
LTO2.4V70-80Wh/kg1-5C10C3000-7000回超高

この表を見ると、小さいスペースにたくさんの電気を貯め込める=航続距離が長くなるのはNCA、充電が高速なのはLTO、放電が高速で高性能な車が作れるのはLTO、寿命が長いのはLTO、そして安全なのもLTOとなります。あれ?LTOって「密度が低いのだけが欠点」なんですね。

電気自動車で最も重要なのは航続距離。LTOが搭載されているアイミーブMは電池の容量が10.5kWhでJC08航続距離は120km、アイミーブXは16kWhでJC08航続距離は180km。同じ車体で、実はMのほうが高速に充電できてバッテリーの寿命も長いのですが、どちらが売れるかというと言わずもがなですね。

Cというのは、電池に流せる電流の単位で、一定の電流で放電して1時間後に電池が空になるような電流を1Cと呼んでいます。例えばモデルSの電池は85kWhですが、これは85kWの電力すなわち85000(W) / 400(V) = 約212.5(A)で一時間放電すると電池が空になりますので、電池パック全体での値としては、1C=212.5Aとなります。逆に、1Cで電池を充電すると1時間で満タンになるはずなのですが、リチウムイオン電池の特性上、80%を超えると電流を減らさざるを得ず、1Cで充電しても充電時間は1時間を超えることがあります。

NMCやNCAケミストリーでも、実際の充電電流は1Cを超えていることが多いです。例えばリーフ24kWhでは1C=60Aですが、実際には125A=2.1Cでの充電となっており、モデルS 85kWhでは1C=212.5Aですが実際には333A=1.6Cとなっています。これでは電池の寿命が短くなってしまうわけですが、急速充電器は車両側と通信しながら充電を管理しており、2.1Cや1.6Cのままずっと充電を継続するわけではなく、電池の状況特に充電量(SOC=State Of Chargeと呼びます)に合わせて充電電流を減らしていきます。

電池の満タン度=SOCや温度、劣化度に応じて、充電電流を変化させつつ、できる限り短時間でたくさんの電気を充電する一方、電池の劣化を最小限に抑える技術は、各電池メーカーの腕の見せ所です。電気自動車ユーザーはなるべく「満タン放置」時間を最小限に抑える以外はあまり使い方を気にする必要はないのですが、電池メーカーによっては温度の高い状態で急速充電を繰り返すと寿命が短くなるケースもあるようです。電池温度が分かる車種では、電池温度が高温になったら80%以上の充電を避けるなど、少しいたわってあげると10万キロを超えて長持ちしてくれることでしょう。

電気自動車のバッテリー交換

ここまで読んでくださった方には、「じゃバッテリーの形を標準化して、電池が空になったらバッテリー交換スタンドで満充電のバッテリーと交換すればいいじゃないか!」とひらめいた方もいらっしゃると思います。事実、このような質問は大変よく聞きます。実はすでにこのアイディアは大規模に事業化され、失敗しています。最初に試みたのはベタープレイス。この会社はルノー・日産グループの協力を得て日本でも東京の虎ノ門などでバッテリー交換型のリーフ(注、市販はされていません)で実験を行っていました。しかし日本を含め、他の国での実験結果もあまりよいものとは言えず、会社はついに破産してしまいました。

もう一社は電気自動車で有名なテスラモーターズです。テスラは現時点で、世界でたった一か所、サンフランシスコとロサンゼルスの中間地点にあるHarris Ranchでバッテリー交換の実験を行っています。カリフォルニア州ではサンフランシスコとロサンゼルスの間を行き来する方が比較的多いのですが、飛行機を使う方と同時に車で長時間かけて移動する方もいらっしゃいます。もちろんモデルSではスーパーチャージャーがあるので無料で旅行できるわけですが、休憩兼充電時間ももったいないという方のためにこのサービスが提供されています。有料であることが理由かどうか分かりませんが、利用者はそれほど多くはないと聞いています。

なぜバッテリー交換はうまく行かないのでしょうか。

一つには技術的困難があります。バッテリーは非常に重く、リーフのバッテリーで約300kg、モデルSのバッテリーで約550kgあります。人間がよいしょと積み替えることはできず、フォークリフトのような専用の機器を使う必要があります。しかもバッテリーは車の底面にあるため、ベタープレイスでは車が坂を登って高いところに行って下側で交換、テスラは地下にバッテリー交換施設を設けて、車が駐車後、車の下の床のドアが開いてバッテリーを交換しています。またテスラの場合にはバッテリーだけでなく、バッテリー内には冷却液も入っているため、冷却液のコネクターも抜き差しした上で空気を抜く必要があります。

さらにバッテリーをどう保管するかも問題です。100%に充電した電池はそのまま保管しておくと、バッテリーの劣化につながり、寿命が短くなってしまいます。でもバッテリー交換スタンドに車が来たらすぐ交換したいですよね?その時に80%充電のバッテリーを渡すというのはどうでしょうか?テスラでは、この問題を、時間を予約することで回避しており、ほぼ100%充電のバッテリーを渡していますが、ベタープレイスでは100%のバッテリーをそのまま保管していたとみられ、寿命の低下につながっていたと推測されています。

もう一点、このブログでは何度も紹介していますが、ガソリン車にとってのエンジンは、電気自動車にとってのバッテリーだ、ということです。ガソリン車ではエンジンによって車の性能(スピード、加速、燃費など)が決まりますが、電気自動車ではバッテリーによって車の性能が決まるのです。それを標準化したら、どの車も同じになってしまいませんか?ベタープレイスはこれを提案し、ルノー・日産は実験に参加しましたが、他のメーカーは参加しませんでした。

つまり、バッテリー交換ができるようなインフラがあっても、それを利用するためには車を共通化せざるを得ず、広く一般に販売するような乗用車では差別化ができなくなるため、採用するメーカーが出てこないということなのです。