日産の中国市場向けEVシリーズ「Nシリーズ」は2025年のローンチ以来、累計で10万台を売り上げました。今回はそんなNシリーズの最新車種「NX8」に中国で試乗、シリーズ初のSUVであるとともに、レンジエクステンダーモデルをラインナップしたことがもたらす魅力を探りました。
日産初の「EREV」満を持して投入
中国では今、外資メーカーが中国の合弁相手と共同でEVを開発するのがトレンドです。日産も2025年に純電動セダン「N7」を発売し、それに続くピックアップトラック「フロンティア プロ」やPHEVセダン「N6」を投入してきました。
とくにNシリーズではコストを抑えながらも中国のトレンドを捉えた機能や装備を盛り込んでいるのが特徴で、2026年6月にはシリーズ累計で10万台をこれまでに販売したと発表されました。2026年4月には初のSUVモデル「NX8」が加わったことで、Nシリーズが擁する車種は3モデルとなっています。
NX8は水平基調のデイライト&テールライトや「くの字」型のヘッドライトなど、中国の消費者にウケる要素をいくつも盛り込んでいます。ボディサイズはさすが中国向け車種、「エクストレイル」よりも大きい4870×1920×1680 mm(ホイールベース2917 mm)という存在感のある寸法です。一方、全高はこのクラスのSUVにしては抑えている印象で、フラットなルーフと合わせてステーションワゴン的な雰囲気も感じられます。
パワートレイン面で特筆すべき点は電気自動車(BEV)に加え、発電専用の1.5ℓ直4ターボエンジンを搭載するレンジエクステンダー付きEV(EREV)を用意したことです。N7はBEV、N6はPHEVというパワートレイン構成でしたが、NX8では中国メーカーの間ですっかりお馴染みとなった「BEV+PHEV(含EREV)」の2モデル構成となります。日産の発電専用エンジン搭載車と言えば「e-POWER」が思い浮かびますが、これは外部からの給電ができないハイブリッド車(HEV)となります。したがって、日産としては初めてEREVをリリースする形となったわけですが、それだけ中国市場ではEREVが一般化したことの証左とも言えるでしょう。
マッサージ機能など驚きの装備を奮発
インテリアはとても中国らしい仕上げになっています。ダッシュボードの前にはセンター用と助手席用のディスプレイが鎮座、どちらも大きさは15.6インチを誇ります。助手席用ディスプレイはまだ馴染みの薄い存在かもしれませんが、中国では大型SUVやミニバン車種を中心に採用が増えており、最近では2つの役割のディスプレイを1枚の横長ディスプレイにまとめた設計も珍しくありません。
シートの材質の良さは注目したいポイントです。まるでソファのような座り心地を求めて開発されたシートは表面や中身の弾力性に磨きをかけたとしており、実際に体験してみるといつまでも座っていたいような快適性を味わいました。運転席と助手席だけでなく、後部座席でもシートヒーター/ベンチレーションやマッサージ機能を全グレードで標準装備としているのには驚かされました。
メディアやエアコンを操作するボタンはすべてタッチパネル内に集約されており、目につく範囲での物理ボタン類はステアリング上のボタン操作やウィンドウ、ドアの開閉操作ぐらいです。こういう設計はこれまで中国で販売されている何十もの車種を試乗してきたことから慣れてしまいましたが、一方でエアコン送風口の向き調整もディスプレイで行なうのはさすがに煩雑でした。暑がりな筆者にとっては、送風口の向きを指先で素早く操作できることにありがたみを感じるものです。
バッテリー容量はBEVモデルで73 kWh/81 kWh(CLTCモード 純電動航続距離 580 km/650 km)、EREVモデルで21 kWh/43 kWh(CLTCモード 総合航続距離 1320 km/1450 km)のそれぞれ2グレードを用意します。EREVの上位グレードではEREVながらヒョンデ「インスター」といった小型BEVと同程度のバッテリーを搭載しているのが特徴的で、CLTCモードでの純電動航続距離は310 kmと公表しています。これであれば、日常的な移動は完全に電気のみ、複数都市を跨ぐ遠出の時はガソリンにも頼るという使い方が可能になります。
日本メーカーらしい思いやりと優しさ
加速フィーリングや乗り味が未熟な中国メーカー車種が多い中、NX8は「さすが日本車」と評したくなるほど、随所に優しさを感じさせます。日産はN7の時から「酔いにくい乗り心地」を前面に押し出し、医療機関などと連携したデータに基づく加速やコーナリング制御などを特徴のひとつとしてきました。NX8ではこれまでのセダン車種よりボディが大きくなったことで、より車体全体で段差や路面の凹凸に起因するショックを吸収しているようでした。
単にサスペンションの硬さだけでなく、減速や停止時におけるブレーキのコントロール性も同乗する人の快適性に影響します。ブレーキペダルを踏んだ際の感触はしっとりしている印象で、踏んだ分だけ効いてくれるセッティングです。人によっては「効きが弱い」と感じるかもしれませんが、同乗者への思いやりのある運転にはこういったブレーキの塩梅が不可欠だと筆者は思います。
優しさを持ちつつも、力強さが求められる場面ではきちんとパワーを発揮してくれます。今回試乗したのは最高出力 335 hp/最大トルク310 NmのBEVにおけるトップグレードで、2.2トンの車重や大きさを感じさせないダイレクトなドライビングフィールを実現していました。競合する中国勢と比べると出力の数値自体は低いですが、運転のしやすさが重視されるファミリーSUVではこれぐらいがちょうど良いと感じます。
ちなみに、BEVの下位グレードではトルクはそのままに、出力は288 hpに抑えられます。また、EREVモデルでは261 hpの一択となります。全グレード共通で駆動方式はRWDとなりますが、「せっかくSUVならAWDも用意すれば良いのに」とは少しだけ思いました。ただ、これも先述のとおり、出力を抑えて運転しやすいSUVにするためにあえてRWDのみにしたと解釈することもできます。
ハンズオン自動運転でも乗り心地重視
中国で流行りの兆しを見せているハンズオン自動運転も試しました。NX8ではフロントガラス上部にLiDARユニットを1基搭載、ソフトウェアは中国の自動運転ベンチャー「Momenta」と共同で開発しています。「NOA(Navigation on Autopilot)」と呼ばれる機能はナビゲーションで目的地を設定することで、そこまでの行程の運転操作を代わってくれるものです。手でハンドルを持つ必要はありますが、右左折や車線変更、停止・発進はもちろん、中国の大都市部では当たり前の立体交差における流出入もスムーズに行なってくれます。
ハンズオン自動運転時でもアクセルやブレーキはとても穏やかなところに感心しました。というのも、直前に同様の機能をBYDの高級ブランド「仰望」の車種で試していたのですが、そちらでは信号での停止や発進がかなり急に感じてしまいました。この辺りの制御でもNX8における「乗り心地重視」の設計思想が盛り込まれているのでしょう。
例えば、Uターンの後に右折をするシチュエーションでは、Uターン直後に左レーンではなく右レーンにすぐ移動し、そのあと右折する挙動をNX8のシステムは見せました。同時に試乗した他車種ではUターン直後に左レーンへ進んで無理な車線変更を繰り返す、また別の時では交差点で左折することがわかっているのに直前まで直進しようとするなど、ヒヤッとすることが多々ありました。こういった体験も踏まえて、Momentaのソフトウェアがもっとも正確で丁寧だと感じます。
NX8は2026年4月の発売以来、これまでに1万台以上がデリバリーされました。一方でセダン車種のN6やN7は引き続き月間2000台前後を売り上げているものの、かつての勢いと比べると落ち着いている印象です。N7やフロンティア プロは東南アジアや中東への輸出をすでに開始しており、実際に前者はフィリピンで「プリメーラEV」、後者は中東で「ナバラ プロ」として発表されています。
また、NX8ではさらに多くの地域へ輸出することも計画しており、東風日産の工場稼働率の維持にもひと役買うと予想されます。競争の激しい中国市場で磨かれた車種が他の地域へ新たな風をもたらす傾向は今後も拡大していくことでしょう。
取材・文/加藤ヒロト(中国車研究家)






