電気自動車になった新型「インサイト」に長距離試乗しました。中国で発売されている「e:NP2」をベースにした中国生産のモデルですが、日本製ではないことによるネガティブな面は感じませんでした。もはや製造国は関係ない時代です。
「インサイト」という車種の歴史
インサイトという車名はもともと1999年に発売されたハイブリッド車に使われていたものです。初代インサイトは徹底して燃費を追求したモデルでした。パワーユニットは1リットルのハイブリッドで、空気抵抗を減らすためにリヤタイヤを隠した3ドアクーペスタイルを採用。乗車定員は2名として、ラゲッジルームの容積も小さくされました。代わりに得られた空気抵抗係数は0.25、10・15モード燃費で35km/Lという当時として驚異的な燃費性能を誇りました。先進的なクルマではありましたが、実用性は度外視された実験的なクルマという印象が強いモデルでした。
対して2009年に登場した2代目はコンセプトを一変。ボディは5ドアハッチバックとなり、5名の乗車が可能。パワーユニットは1.3リットルエンジンを用いたハイブリッドシステムとなりました(2011年のマイナーチェンジで1.5リットルを積んだインサイト・エクスクルーシブを追加)。
2018年のフルモデルチェンジで登場した3代目は5ドアハッチバック風のスタイルが与えられましたが、トランクは独立したタイプに変更。つまり、リヤハッチを開けてもガラス部分は残る状態の3ボックススタイルとなりました。3代目インサイトは2022年をもってカタログから消え、一度廃盤となります。
4代目インサイトはBEVとして日本発売
2026年、4代目のインサイトはピュアEVとして再登場することになりました。ベースとなったのは東風ホンダが中国市場向けに販売している「e:NP2」(タイではe:N2)で、日本仕様として各部を変更したモデルです。ボディサイズは全長×全幅×全高が4785×1840×1570(mm)。ボディタイプはふたたびリヤハッチがガラスごと持ち上がるタイプの5ドアハッチバック。現在のカテゴリーでいえばクロスオーバーSUVに属し、ホンダもそのように位置付けています。
パワーユニットは最高出力150kW、最大トルク310Nmのモーターで、これをフロントに搭載。フロントタイヤを駆動するFWD方式を採用します。バッテリーはリチウムイオンで、カタログ値は195Ah、355.3Vとなっているので計算上の総電力量は約69.3kWhとなります。
動きがスムーズな駐車支援システム
試乗はホンダの広報車両管理場所である和光市から筆者自宅のある中野区を経由して、静岡県富士宮市へ往復といった行程です。それまで試乗していたスーパーワンとの入れ替えでインサイトを受け取ったこともあり、乗り出した直後はボディの大きさには少々戸惑いました。とはいえ1840mmという全幅は今やミドルサイズのクルマとしては標準的なサイズといえます。最近のクルマの大型化には、全幅1700mm以下のクルマを長年の愛車にしている筆者としてはちょっと驚きです。
動かしてすぐに気になったのが、ウインカーの作動音です。なんだか懐かしい、実際のリレー音を思わせる音なのです。
昔のウインカーはリレーを使って点滅させていましたが、現在は電子制御に置き換わっています。そのため、ウインカーの「カチカチ」という音も人工的に作り出されています。にもかかわらず、インサイトの音は実際のリレー音を思わせる仕上がりです。こうした音は開発者やデザイナーの好みが反映される部分なのでしょうが、上質な室内空間には少し似合わないように感じました。もう少し高級感のある音でもよかったのではないでしょうか。小さいことですが、運転するたびに聞く音なので、意外と大切なディテイルだと思います。
和光市でクルマをピックアップし、途中で買い物などをしながら自宅に向かいました。大きめなボディにはちょっと気を遣う場面もありましたが、ボディ各部の見切りもよく、車庫入れなどもカメラ&モニターを利用すれば無理なく行えます。
インサイトには駐車支援システムが装備されていて、セレクトレバー近くのボタンを押して作動させます。駐車枠を見つけられれば、あとは自動で駐車が行われます。何度か試しましたが駐車が苦手な人には便利でしょう。以前に比べるともたつき感もなく、すんなりと駐車してくれます。最初に体験したのはたぶん20年近く前だったのだと思いますが、おもちゃのような動きだったのが今やちゃんと実用的になっているのだから、新しい技術はまず実用化し、改良を積み重ねることの大切さを改めて感じます。
そういえば、インサイトを借りる際、広報担当者に「アロマディフューザーとインテリアヒーターはぜひご体感下さい」と念を押されていました。アロマディフューザーは欧州車などではときどきみかける機構で、その名のとおりスイッチオンで香りが放出されるものです。
インサイトのアロマディフューザーがおもしろいのは、6種類用意された香りのうち、3種類のカートリッジを同時にセットでき、気分によって使い分けられるところです。このカートリッジは透明な円筒形でスティックのり程度の大きさがあります。SF映画に出てきそうな雰囲気があって、ちょっと遊び心をくすぐります。
インテリアヒーターは、インパネ下部とフロントドアの内張りに設けられた発熱面からの輻射熱を利用する装置です。さすがにこの季節では使うことができませんでした(広報さんごめんなさい)が、EVでは電力消費を抑えながら、車内をいかに効率よく快適な温度に保つかが重要な課題です。さまざまな方向から解決策を探るホンダの姿勢は歓迎したいところです。
今回は真夏の試乗です。エアコン(冷房)は常時オン状態としました。インサイトはセレクター横のシーソースイッチで、スポーツ、ノーマル、ECON、スノーの4種のドライブモードが選べるようになっています。今回の試乗では基本的にはECONで走りました。ECONはエアコンの効きを弱くしたり、アクセルレスポンスを落としたりして、電費を稼ぐモードとなっていますが、普段使いではなんら不足を感じることはありませんでした。スーパーワンの場合はエアコンが弱くなったときに「暑い」や「ぬるい」と感じることもありましたが、インサイトではそうしたこともなく、空調能力やバッテリー容量に十分な余裕があるように感じました。
中野区の自宅から富士宮市の朝霧高原へ往復
メインの試乗コースは首都高永福ICから中央道に入り、相模湖ICで降りて一般道を走り朝霧高原へ、帰路は逆ルートという予定です。
首都高に入り、合流のためにアクセルペダルを踏んでいくとEVらしいインバーターからの「ヒュイーン」という音とともに強い加速が得られます。先にも書いたとおり、ドライブモードはECONですが、そんなことは気にならない力強さとアクセルペダル操作に対するトルクの出方です。
高速道路は基本的にACCを作動させて走行しました。最近のACCはEVであってもICEであってもかなり性能が高くなっていて、使わないのはもったいないという印象です。ホンダのACCはメインスイッチをオンにしてから、セットボタンを押して作動させシーソースイッチで速度を調整するという手順です。もちろんアクセル操作で速度を合わせてからセットボタンを押してもかまいませんが、前者のような使い方のほうがスムーズだと思います。
先行車との車間距離は、ステアリング上のボタンで調整します。多くの車種のACCで採用されている方式です。ボタンを押すと車間距離が短くなり、4段階で調整できます。もっとも短い設定からもう一度押すと、最大車間に戻ります。
ただ、個人的にはこれがどうも使いづらいのです。車間距離調整をシーソースイッチにして、上向きで短く、下向きで長くという操作にすれば、最大や最小の設定も選びやすくなります。速度調整との区別がつきにくいというのであれば、配置を変えることで対応できるでしょう。ACCに関係するスイッチをすべて同じ場所に集約せず、速度調整は右スポーク、車間距離調整は左スポークという配置もありだと思います。
スポーツモードでの走りが力強い
高速道路を走りながらドライブモードを切り替えてみました。ECONとノーマルはさほど大きな差はありません。ECONはエアコンが弱くなることもあるモード、と思って使うのがいいでしょう。エアコンをつねに快適に使いたいと感じるならECONではなくノーマルを使うのがいいという感じです。
スポーツモードを選ぶとアクセルレスポンスがよくなります。パドル操作による回生ブレーキの減速も強くなりました。スポーツモードでアクセルを強く踏んでみるとインバーターからの「ヒュイーン」音がさらに大きくなって、一気に力強い加速を得られました。
相模湖ICで中央高速を降りて一般道で河口湖を目指します。国道20号線を使ってしまっては面白みに欠けるので、県道を使います。県道クラスの道に入るとさすがにクルマの大きさが気になります。対向車がいないときはいいのですが、対向車が来るとそれなりに気を遣います。対向車はほとんどが軽自動車です。「この道を使うには軽自動車サイズが使いやすいのだろうなあ」と感じます。おそらく5ナンバーサイズでも使い勝手はいいでしょう。しかし、今の日本では5ナンバーサイズのクルマを選ぶことすら難しくなって(車種が少ない)います。
狭いながらも対向車がいない開けたコーナーではハンドリングのよさを楽しめました。やはり、こうした道ではスポーツモードが似合います。スポーツモードにすると回生ブレーキの強度が固定となります。スーパーワンのように疑似シフトとはいきませんが、状況に応じて左パドルを引けば強く減速しながら走るということができて、なかなかスポーティです。このあたりの味付けはじつにホンダらしいものです。
SOC約60%からでも60kW程度の急速充電性能を確認
河口湖で少し撮影して、道の駅朝霧高原を目指します。ここには最大出力150kWの充電器があるとの情報があったからです。残りの充電量はまだたっぷりありますが、充電も試乗の一環です。しかし、道の駅朝霧高原の充電器はPowerXアプリ専用だったのです。もちろんアプリをインストールすれば使えますが、手元にe-Mobility Powerの充電カードがあるので、それを使いたい。道の駅朝霧高原での充電はキャンセルして、30分ほど移動したセブンイレブンで充電を行いました。こちらの充電器は出力90kWです。
和光市をスタートしたときのオドメーターは930km、SOCは94%でした。富士宮市内のセブンイレブンに到着した時点では、オドメーターが1101km、SOCが57%でした。走行距離は171kmです。30分間の充電でSOCは88%まで回復し、増加量は31ポイントとなりました。
充電開始直後の出力は60kW程度でした。インサイトの充電性能は最大80kWと公表されています。急速充電の出力はバッテリー残量が増えるにつれて下がっていくのが一般的です。SOCが約60%とやや高いところから、走行直後の充電開始時に60kWを示したことを考えれば、まずまず良好な結果と評価してよいでしょう。
中国生産であってもホンダ車のクオリティを確保
インサイトを試乗していて、日本で生産されたホンダ車に比べて何かが劣るという印象はありませんでした。また中国生産であることを意識する場面は最後までありませんでした。どこの工場で生産されようとも、ホンダ車として求められるクオリティがしっかり確保されていることを確認できました。
インサイトの価格は550万円。国のCEV補助金は130万円です。
取材・文/諸星陽一







