新聞配達用バイクのEVシフト加速へ/三崎未来電子が業務用電動バイク「エルノア」を発売

新興電動バイクメーカーの三崎未来電子株式会社が、配送業向けの新型電動バイク「エルノア」を発売しました。日本新聞販売協会がサポートを表明。全国に約12万台あるという新聞配達バイクの電動化に挑みます。

新聞配達などラストワンマイル用のEVバイク開発に挑む

2026年5月19日、東京・お台場のシティサーキット東京ベイで、三崎未来電子が手がける初の市販車・エルノアの発表・試乗会が開催されました。同社の代表取締役社長、三崎優太さんが「元青汁王子」として知られる著名な実業家ということもあって、多くのメディアが詰めかけました。

発表会の冒頭、三崎さんは「ラストワンマイルを支える業務用車両の新しい選択肢を作りたい」と決意を語りました。

新聞配達やデリバリー、小口配送の現場はいま、シリアスな変化に直面しているそうです。ガソリン原付の新車供給不足、燃料価格や人件費の高騰、環境負荷への配慮などが重なって、事業の存続を脅かされるケースも。その緩和策、解決策として電動バイクの開発に取り組んできたそうです。

「当然ながら、電動バイクであれば何でもいいってわけではないんです。現場で本当に使ってもらえるように、機能性を最優先しました。まず朝から晩までちゃんと走れること、荷物をしっかり積めること、狭い路地で取り回しがしやすいこと、騒音が出ないこと。現場の方からいただいた課題に真摯に向き合って、何度も改良を重ねて、この車両ができました」

「エルノア(L-noa)」という車名には、現場を制約から解放して「大きな自由」を届けたいという思いが託されているとのこと。「noa」はハワイ語で自由という意味。「L」には「ロジスティクス」(物流の効率化)、「ロングライド」(一日の配達を支える走行距離)、「ラージキャパシティ」(優れた積載性)という意味も重ねられているそうです。

約4kWhのバッテリーで実用性を向上

続いて登壇した同社二輪開発事業部の櫛田航汰さんが、エルノアのスペックや特徴を解説してくれました。

「試作段階から配達業者の方に使ってもらい、いろいろフィードバックもいただいて、我々エンジニアも配達の現場に足を運んで、改良を重ねてきました」(櫛田さん)

特徴のひとつは、航続距離に不安を感じさせない大容量バッテリー。配達中に電欠するようでは実用性がありません。現在、国内で販売されている業務用EVバイク(原付一種)の一充電航続距離は50km~100km程度。エルノアは約4kWhのバッテリーを搭載することで、航続距離を155km(予測値)としています。

そのバッテリーを家庭用AC100Vコンセントで充電できるようにしたのは、汎用性を考えてのこと。0→100%充電に約7時間かかりますが、「業務終了後に充電して、翌日また使う」という運用なら問題なさそう。「初期投資をかけずに済みますし、給油に行く業務時間を削減できます」と櫛田さんは説明していました。

バッテリーも着脱式(バッテリーを抜いて室内で充電するタイプ)ではなく、車両に直接充電コードを挿すプラグイン方式を採用しています。「重いバッテリーの積み下ろしが毎日の負担になっている、という声が現場から上がっていました」(櫛田さん)

一般の家庭では駐輪場にコンセントがないというケースもありそうですが、法人用だと駐車場所(充電場所)は固定されやすいので、割り切ってもいいのかもしれません。

現場の声を車両に反映

外観はいかにも業務用。大容量のフロントバスケットと幅広のリアキャリアが標準装備となっています。フロントバスケットは新聞配達でよく使われているサイズに合わせたそうです。ハンドル部には「手元ライト」があって、暗いところでも伝票が確認できるようになっています。また、荷物を満載した時や傾斜地などでも取り回しが楽にできるように、バック(後退)機能もついています。

大きな特徴になっているのが、フットブレーキです。これは意外でした。スクータータイプの車両は、前後輪の制動を左右のブレーキレバーに振り分けることが一般的ですが、頻繁に発進・停止を繰り返すことになる配達業務では足を使うことが疲労軽減につながるそうです。現場の声が反映されているんですね。

発表会には、エルノアを数ヶ月間にわたって新聞販売店でテスト運用してきた、公益社団法人日本新聞販売協会副会長(EV推進担当)の高木康夫さんも登壇しました。

新聞販売店の全国組織である同協会は約4年前から、地球温暖化防止やCO2排出削減への貢献を掲げて、全国の新聞販売店に約12万台あるという配達用バイクのEVシフトを推進してきたそうです。

「音が静かで排ガスも出さない電動バイクは、現場のイメージ向上にもつながると考えています」(高木さん)。しかし、航続距離や積載性、充電設備の問題などをクリアした車両を導入することは容易ではなかったそうです。まだEVの導入実績は約200台だとか。

「朝刊と夕刊を配達する以外にも、配達網を生かして小口配送を行っている新聞販売店が増えています。それだけの走行距離を1回の充電でまかなうEVバイクを求めていたところです。エルノアは積載量も十分で、既存の100Vコンセントが使える。現場で本当に使える電動バイクの選択肢が増えたことを歓迎しています」

バイク事故をきっかけに買収を決意

発表会のあと、三崎さんにインタビューする時間をいただきました。

Q. EVバイクメーカー経営に乗り出した経緯は?

バイクが好きで、いま25台ぐらいコレクションしています。2020年の初め頃に、漠然とバイクメーカーを立ち上げたい、みたいなことをSNSに投稿したんですよ。そうしたら、電動バイクメーカー aidea(アイディア)の社員の方からご連絡があったんです。

Q. 買収することになったんですね?

すぐには決断できませんでした。でも、2024年にバイクで事故に遭って、手が動かせなくなるような怪我をしたんです。手術を2回して、まだちょっと後遺症があります。この体験をなんとかチャンスに変えたい、バイクで世の中に貢献したい、と思って、事故から1カ月後にaideaをスタッフさんを含めて買収することにしました。いまの会社の礎になっています。

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Q. 将来的なビジョンを聞かせてください。

エルノアは、新聞販売店さんから100点という言葉をいただけたので、発売することにしました。年間1000台を目標に、BtoBでしっかり実績を作って、次のステップに行きたい。自分たちにしか作れないような車両でBtoCに乗り出したいと思っています。世界中で使われている日本製のバイクと同じように、MISAKIのバイクが当たり前に走っている、そういう未来を作りたいと思っています。

(インタビューここまで)

試乗では扱いやすさとEVならではの静粛性を実感

最後に、サーキットコースでエルノアを試乗させてもらいました。足を揃えて乗れるスクータータイプでシート高も抑えられている(730mm)ので、身構える必要もなく、乗り出すことができました。走り出したらタイヤの接地音と風切り音しか聞こえてきません。ウインカーも無音。

早朝の住宅街などを走る新聞配達には、この静粛性は大きなアドバンテージになりそうです。サイドスタンドを出し入れする音も、テスト運用中のリクエストによって軽減されているそうです。

車両重量128kgというのは原付一種としては重いほうですが、微速からトルクが太いのでもたつく感じはありません。加速感は控えめ。サーキットではもの足りなかったものの、配達業務用には十分でしょう。コーナリングも含めて安定感を重視したセッティングです。狭い路地や不整地でも不安なく走れそうに感じます。

回生ブレーキは強めです。アクセルを戻せば、エンジンブレーキのようにぐぐっと減速。下り坂などで楽ができそうです。フットブレーキも、最初は戸惑いましたが、場所が違うだけでスポーツバイクと同じ右足操作。試乗を終えるころには違和感なく使えました。

メーカー希望小売価格は67万円(税込)。高木さんによると、新聞配達のバイクをガソリン車からEVに変えた場合、運用コストは6割減になるそうです。長い目で見るとメリットしかなさそうですが「停電になったりすると困るので、保有台数の半分ぐらいがEVになるのがいいのかなと思っています」とのこと。なるほど。半数としたってマーケットは約6万台。まさにブルーオーシャンですね。

エルノア導入の相談や予約は三崎未来電子の公式サイトで受付中。日本郵便の配達用バイクや警備会社の3輪バイクなど、街中で電動バイクを見かける機会が増えてきましたが、これからはエルノアをよく目にすることになるかもしれません。新興バイクメーカーの挑戦に要注目です。

取材・文/篠原知存