日本の電気自動車ベンチャーが独自に開発した『FOMM ONE』が軽自動車として日本のナンバーを取得。さいたま市内でカーシェアのサービスが始まりました。はたして、どんなクルマなのか。いつから買えるようになるのか。鶴巻日出夫社長にお話しを伺ってきました。
※冒頭写真はYouTube『FOMM Promotion』から引用。
あの『FOMM ONE』が軽自動車としてナンバー取得
いつもEVsmartブログを愛読いただいている電気自動車リテラシーの高い方々であれば、『FOMM ONE』の存在はすでにご存じでしょう。日本発の電気自動車ベンチャー企業である『FOMM』が開発。すでにタイで生産・販売されている小型EVで、最大の特徴は「水に浮く!」こと。万が一の水害(津波や洪水)などが起きても、クルマが水没することなく、ゆっくりですが水上を自在に移動することができるのです。
記事タイトルは「いつから日本で買えるのか?」としましたが、最初に結論を示しておくと、FOMM ONE はすでに絶賛発売中です。どんなEVなのかといった詳細をご紹介する前に、まず、FOMM の広報担当者である佐藤俊さんがYouTubeにアップしているプロモーション動画をご紹介しておきましょう。
FOMM 創業者にしてCEOの鶴巻日出夫さんは、もともとは鈴木自動車(現スズキ)の設計者。その後、トヨタ車体で超小型EV『COMS(コムス)』の開発を手がけた方です。2013年にFOMMを起業、FOMM ONE の原型となる『FOMM Concept One Phase Ⅰ』を発表したのは2014年のことでした。
もちろん私も当時から FOMM ONE が気になっていたのですが、きちんと実車に触れたり、試乗するような機会がなく。2019年にタイで量産と市販を開始するというニュースを横目に「頑張ってるなぁ」と感服しつつ、陰ながら応援していました。
そのFOMM ONEが、2021年1月には日本で軽自動車としてナンバー取得に成功。3月からは埼玉県さいたま市でカーシェアリングサービス(実証実験)車両として採用されることとなり、3月26日にメディア向け試乗会を開催(残念ながら別件と重なっていて行けませんでした)したことから、日本国内でも多くのメディアに取り上げられていました。日本国内でもついに市販がスタートするとの情報もあり、満を持して鶴巻社長へのインタビュー取材をオファーしました。
電気モーターなら水中でも回る!
公式サイトには「世界最小クラスで4人乗り、緊急時には水に浮く電気自動車」というキャッチコピーで FOMM ONE が紹介されています。ユニークな「水に浮く(そして自在に移動も可能)」という機能は、おまけのように実現できてしまったものかと思っていたのですが、さにあらず。鶴巻さんによると「最初から水に浮くEVにするという目標を定めて開発した」そうです。
発想のきっかけとなったのは、やはり2011年の「3.11」、東日本大震災の津波による被害です。エンジンは酸素がないと動きませんが、電気モーターなら防水さえしっかりすれば水中でも動きます。「水に浮く自動車があれば、少しでも救える命があったのではないか」という思いは、FOMM を起業するきっかけでもあったのです。
FOMM ONE は前輪にインホイルモーターを採用しています。ホイールがフィンのようになっていて、水中で移動する際にはホイル内部に引き込んだ水を後方に押し出す推進力で進みます。前輪駆動になっているので、ステアリングを切ると水を押し出す方向が変わり、曲がることができる仕組みです。
ただし『水陸両用車』ではないので、FOMM ONE をボートのように使って釣りに行く、のはNGです。あくまでも津波や洪水などの非常時の備えとして「水に浮く」そして「水上を移動できる」性能が与えられていると理解しておきましょう。
どんな電気自動車なのか
FOMM ONE がどんな電気自動車なのか。まず、主なスペックを表にしておきます。
| FOMM ONE 主要諸元 | ||
|---|---|---|
| サイズなど | 全長×全幅×全高 | 2585×1295×1550 mm |
| ホイールベース | 1750 mm | |
| 最低地上高 | 150 mm | |
| 車両重量 | 620 kg | |
| 車両総重量 | 975 kg | |
| 最大積載量 | 55 kg | |
| 乗車定員 | 4人 | |
| 性能 | 最小回転半径 | 3.8 m |
| 最高速度 | 80 km/h | |
| 最高出力 | 10.6 kW | |
| 最大トルク | 560 Nm | |
| 駆動方式 | 前輪駆動
(インホイルモーター) |
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| バッテリー | 種別 | リチウムイオン電池 |
| 総電力量 | 11.84 kWh | |
| 充電方法 | 普通充電(Type2)
※Type1のケーブルからアダプタ変換 |
|
| 航続距離 | 一充電走行距離(NEDC) | 166 km |
| 交流電力量消費率(NEDC) | 78.4Wh/km | |
| 車両価格 | 275万円(税込) | |
バッテリー容量は約12kWh。車重が620kgと軽いこともあり、欧州基準のNEDC基準で、交流電力量消費率78.4Wh/kmという数値が秀逸です。同じくNEDC基準の航続距離は166km。エアコンを使用しながらの実用値でも、おそらく120km以上は走れるだろうと思われます。
「水に浮く」以上に特徴的なのが、床面にはブレーキペダルしかないこと。アクセルはステアリングの両側にあるパドルを操作します。手前に引くとアクセレーション。放すと回生ブレーキも機能します。テスラ モデルSのニューモデルと同じような、スクエアな形状のステアリングを採用しているのも、ユニークなポイントになっています。
タイヤハウスが室内にせり出して足元が狭くなっていたので「アクセルペダルを床に配置しなかったのは床面のスペースを確保するため?」と確認してみましたが、答えはノー。コンパクトな電気自動車としてのユニークさ、運転の楽しさを表現する手段として、当初からこの「パドルアクセル」にこだわって開発を進めたそうです。
もうひとつの特長が、駆動用バッテリーがひとつ約3kWh×4個のカセット式になっていることです。FOMM では、このバッテリー用の充電スタンドも開発。専属スタッフによる『バッテリー交換ステーション』を展開するプランも進めています。ただし、FOMM がイメージするバッテリー交換ステーションは、たとえば中国のNIOのように各地にEV専用のインフラとして配置するというものではなく、まとめてFOMM ONEを導入する企業や自治体などがエネルギー活用としての利便性を高めるための方法、というのが取材の中での印象でした。
最高速度は80km/h。見た目が超小型EVっぽいのでうっかり勘違いしそうになりますが、FOMM ONE は軽自動車登録なので、高速道路や自動車専用道も走れます。
実車に触れてみて、「水に浮く」ための気密性や精度を高めているからでしょう。ドアの開け閉めやシートに座ってみると、かなり剛性感が高いように感じました。今までに、超小型EVのコムスや日産ニューモビリティコンセプト、タジマ ジャイアンなどに乗ったこともありますが、自動車としての質感はかなりハイレベル、という印象です。はたして、その乗り心地や操作性はどうなのか。試乗を兼ねて、さいたま市のカーシェアを体験して、改めてレポートしたいと思います。
日本ではまず「年間100台」が当面の目標
FOMM ONE の工場があるタイでは『バンコク国際モーターショー2018』でデビュー。タイでの価格は66万4000バーツ(約232万円)、モーターショー期間中は59万9900バーツ(約210万円)で販売されました。実際に商談も行うスタイルのモーターショー期間中に350台以上の注文があったそうです。
そして、いよいよ日本にデビュー。価格は275万円(税込)です。次世代自動車振興センター(経産省)のCEV補助金の対象車両ではありますが、航続距離が短いので補助金額は13万2000円で、やはり車格の割にまだ高価な印象は否めません。
鶴巻社長は「まだ生産台数が少量なので難しいが、日本での価格が200万円を切ることを目標にしていきたい」と、タイや日本、そしてヨーロッパまで見据えた販売の拡大で、車両価格を引き下げていく努力を続けていく思いを話してくださいました。
日本での本格的な発売が5月以降といった一部報道もありましたが、FOMM ONEはすでに日本でも絶賛発売中です。ただし、大手メーカーのようなディーラー網や、全国を網羅するような販売店はありません。興味のある方は、FOMMに直接問い合わせを。公式サイトからはFOMM ONEの資料(PDF)のダウンロードもできます。注文から納車までの期間はおおむね2〜3カ月程度ということです。
【問い合わせ先など】
日本では「まず年間100台の販売が当面の目標」と鶴巻社長。個人ユーザーだけでなく、企業や自治体などのCSR活動や、カーボンニュートラルに向けた施策として、カーシェアや物流、観光利用などへの導入を働きかけていく計画です。
FOMM は日本発のベンチャーですが、FOMM ONE はタイ政府の助力もあってタイに工場を作り量産化を実現。日本では軽自動車登録ですが、鶴巻社長は当初から欧州での展開を見据えて欧州の小型車両規格である『L7e』に準拠した開発を進めてきました。日本で販売する車両も当然タイから運んできて、並行輸入車としてナンバーを取得します。
4人乗りにこだわり、ステアリング左右のパドルでアクセル操作を行うなど、小型EVとしての画期的なパッケージングを追求しているのも、FOMM、そして鶴巻社長が社会改革ツールとしての小型EVの価値を理解して、世界を視野に入れたチャレンジをしていることの証と感じます。
全国各地、いろんなカタチで「FOMM ONE 導入!」の朗報が届く日を楽しみにしています。
(取材・文/寄本 好則)







