2021年2月26日、韓国の現代自動車が全世界で販売した電気自動車(EV)約8万2000台をリコール。約950億円の費用を掛けて搭載する駆動用バッテリーを交換することが報じられました。状況を整理して「課題」を考えてみたいと思います。
自動車史上最高額レベルのリコールか
ここのところ立て続けとなりますが、現代自動車のニュースです。2月22日(日本時間23日)に魅力的な新型電気自動車『IONIQ5』を発表したばかりの現代自動車に関して、2月26日、さらに衝撃的なニュースが報じられました。
欧米メディア各社の報道によると、韓国の自動車メーカーである現代自動車が、全世界で販売した電気自動車である『KONA Electric』約8万2000台に対してリコールを実施することを発表。15件の出火事故が報告されたことを受け、全車両が搭載している駆動用バッテリーを交換するとしています。KONA Electric には、バッテリー容量39.2kWhと64kWhのモデルがありますが、CNNの報道によると1台当たりの交換費用は平均で約117万円(1万1000ドル)程度、総額では約950億円となります。
台数としてはもっと規模の大きいリコールは今までにもたくさんありますが、バッテリー交換という大きなコストが掛かる対応であり、自動車史上最高額レベルのリコールになると複数のメディアが強調していました。
リコールの対象となっている車両は、韓国国内で約2万7000台、アメリカや欧州など世界各国で5万5000台とのこと。日本では現代自動車が乗用車販売から撤退しているので、KONA Electric は市販されていません。
リコールそのものは騒ぎ立てることじゃない
幸いなことに、KONA Electric 出火事故で死傷者などは出ていないそうです。現代自動車は出火原因について、同じ韓国の「LG化学製電池に何らかの欠陥があり、電池内部でショートを起こした可能性がある」としています。さらに詳細な原因などについては、改めて何らかの発表がされるのでしょう。
自動車用大容量蓄電池として使用されているリチウムイオン二次電池は、破損によるショートや過充電などが原因で出火する可能性があることが知られています。電気自動車に限らず、スマートフォンやモバイルバッテリー、デジタルカメラ、電子タバコなど身近なプロダクトにもリチウムイオン電池が使われており、東京消防庁管内では電池の発火が原因の火災件数が急増しているということで、ウェブサイトには『リチウムイオン電池からの火災に注意しよう』と題した注意喚起のページもありました。日常生活で使う小型のリチウムイオン電池を廃棄する際は必ず自治体で決められた方法でリサイクルに出し、不燃ゴミなどに混入させないように気をつけましょう。
今回リコールとなった KONA Electric の場合、何らかの原因で電池内部でのショートが起きやすい不良なセルが紛れていた可能性が高いと推察できます。言うまでもなく駆動用電池は電気自動車の最重要部品ですから、15件の火災を受けて8万2000台全ての電池を交換するという損得勘定抜きにした対応(まあ、当然のなすべきことではあるのですが)には、現代自動車、そしてLG化学の「モビリティ電動化」への本気、そしてその主導権を握るんだという覚悟を感じます。現状の報道をみる限りでは不具合や出火原因の詳細は定かではありませんが、現代自動車とLG化学には誠実かつ迅速な情報の公開を望みたいと思います。
そもそもリコール制度とは、国土交通省の定めによると「設計・製造過程に問題があったために、自動車メーカーが自らの判断により、国土交通大臣に事前届出を行った上で回収・修理を行い、事故・トラブルを未然に防止する制度」のこと。問題に対処する方法や部品があり、メーカーが自主的に改善できるということなので、「韓国メーカーだから」とか「電気自動車だから」といった感情的な非難をするべきでないことは言うまでもありません。
ちなみに、日本における令和元年度のリコール件数は、国産車が229件で対象台数は約990万台、輸入車が186件、約65万台、合計で415件、約1053万台に及んでいます。
国産車主要メーカーのリコール件数および対象台数
短期間で2回目のリコールというのがちょっと気になる
ただし、今回のリコール報道で気になるのが、現代自動車の KONA Electric は、ほんの数か月前である2020年10月に「14件の火災事故」発生を受けて、電池に関するリコールを行っていた点です。リコール対象台数はほぼ同じ規模。この時のリコールでは、対象車両のバッテリーを制御するBMS(Battery Manegement System)をアップデート、電池セルに異常が認められた場合は交換するといったものでした。このリコールに対して一部ユーザーから「BMSアップデートがリコールと呼べるのか」といった声が上がり、ちょっとした論争になったことが伝えられています。日経クロステックで趙章恩さんというITジャーナリストさんがわかりやすくまとめた記事があったのでリンクを貼っておきます。
ところが、BMSアップデートを行った車両で「15件」目の火災事故が発生。ついに全車バッテリー無償交換という今回の巨額リコールに踏み切ったという経緯があるのです。過充電など不適切な使用状況の防止はある程度BMSで制御することができるのだと思います。でも、もし現代自動車が昨年のリコール時にはすでに電池セル不良が火災の原因と認識していながら、費用を節約することを優先してBMSアップデートのみで切り抜けようとしていたのなら、メーカーとして無責任と非難されてもやむを得ないでしょう。今まさに発展途上の電気自動車だからこそ、メーカーにはエンジン車以上に誠実な対応を期待します。
結果的に、現代自動車は今回のリコールに1000億円近い費用を掛けることになりました。リコール費用はLG化学も分担することになるのでしょうが、現代自動車、もしくはLG化学にとって痛恨の出費であることでしょう。
一方で、こんな大問題を抱えていながらも、『IONIQ5』をローンチしてさらなる電動化への意欲は揺らぐことのない現代自動車やLG化学、すなわち韓国自動車業界には、電気自動車に対する本気と覚悟を垣間見る思いがするのです。いわゆる勉強代は高く付きましたが、死傷者が出ていないのは不幸中の幸い。電池製造、電気自動車パッケージングへの貴重な知見を蓄積したのではないかと推察します。
それにしても、今までのエンジン車で、たとえば「エンジン丸ごと交換」なんていうリコールは私は聞いたことがありません。電池という心臓部を抱える電気自動車だけに、その電池が不具合を起こすと大変だということが痛感できる事件ではありました。
航続距離を増やすため電池の大容量化が進めば進むほど、電池がNGとなった際のリスクは高まります。たとえば日本の自動車メーカーにとっては、電池容量は30〜40kWh程度と少なめでも、日常的な使い勝手が良くてデザインも魅力的で、いろんな意味で財布に優しい電気自動車を開発するのもひとつの道、という教訓でもある気がしています。
(文/寄本 好則)



