出光興産とタジマモーターが、超小型EVと次世代モビリティサービスの開発と提供を行う新会社『株式会社出光タジマEV』を2021年4月に設立することを発表しました。新型車登場だけでなく、電気自動車を活用した次世代モビリティ実現に向け、期待が膨らむニュースです。
オンラインで緊急プレス発表会実施
2021年2月16日、「日本発のエネルギー共創企業」である出光興産株式会社(以下、出光)と、モータースポーツファンにはモンスター田嶋の愛称で知られる田嶋伸博社長が率いるタジマモーターコーポレーション(以下、タジマ)が、独自の超小型EV(電気自動車)を開発し、その超小型EVを核とした次世代モビリティサービスの開発と提供を行う新会社として『株式会社出光タジマEV』(代表は田嶋伸博氏)を2021年4月に設立することを発表しました。
オンラインプレス発表会の案内がリリースされたのは前日の2月15日。zoomの参加URLがメールで届いたのは開始のわずか2時間前という、まさに緊急会見の様相でした。新会社設立は4月なのでまだ少し時間があるのに、緊急会見となった理由は定かではないですが、参加した感想から想像するに「素晴らしいプロジェクトを一日も早く世の中にお披露目したい!」という強い思いが込められていたのではないかと思います。
日本中の町を走れる超小型EVを独自開発
発表されたのは、新会社のビジョンと開発中の超小型EVについてのあらましです。誰もがまず気になるのは、どんな超小型EVが登場するのかということでしょう。発表されたスペックを表にしておきます。
| 開発中の超小型EV概要 | |
|---|---|
| 全長×全幅×全高 | 2,495×1,295×1,765(mm) |
| 乗車定員 | 4 名(カーゴタイプは1 名) |
| 最大出力 | 15kW |
| 最高速度 | 60km/h以下 |
| バッテリー電圧 | 60V |
| バッテリー容量 | 10kWh |
| 推定航続距離 | 100km程度 |
| 充電時間 | 8時間(100V) |
| 価格 | 150万円以下が目標 |
出光タジマEVが開発しているのは、国土交通省が2020年に発表した「超小型モビリティ」の規格に準拠した車両です。超小型モビリティ規格には、事前に認定された限られたエリアだけしか走行できない「認定車」と、高速道路などは走れないものの全国どこでも自由に走れる「型式指定車」があります。先だってトヨタが発表した『C+pod(シーポッド)』は型式指定車。出光が飛騨高山(岐阜県)や館山・南房総(千葉)で行っているオートシェアの実証実験(関連記事にリンク)で使われているタジマ『ジャイアン』は、事前に許可を得た自治体の中しか走れない認定車です。
リリースや発表では詳しい説明がなかったので挙手して質問したところ、開発中の超小型EVはシーポッドと同じ「型式指定車」。また、ジャイアンは中国製の車両を改良したモデルですが、今回はプラットフォームから独自開発。高い技術をもったサプライヤーと連携して日本国内で生産することを目指しているそうです。
【関連情報】
●超小型モビリティについて(国土交通省)
バッテリー容量は10kWhを想定。航続可能距離は120km程度がターゲットとしています。
車両価格は「コストダウンを追求して150万円以下を目指したい」(田嶋氏)とのこと。田嶋社長に「中国では100万円以下で10kWhくらいの電池を搭載した小型EVが登場している」ことを例示して「100万円以下にはならないですか?」と質問したところ、「かつてスズキが47万円のアルトを発売(1979年)しました。当時実現できたことが、今の我々にできないはずはないと思っています。コストダウンには数の課題もあり、その意味でも出光と連携してチャレンジできることには大きな可能性があります。サプライヤーとも協力しながら汗をかき、いずれは中国の5000ドルEVに匹敵するモデルを実現したいと思っています。(そのためのステップとして)今回はまず100〜150万円を目指しています」と、力強い回答をいただくことができました。
新開発の超小型EVは、今年(10月を想定)開催予定の東京モーターショーで市販モデルを公開することを目指し、生産開始はそれ以降になる見込み。詳細はこれから検討と調整を進める段階だということです。
全国約6400カ所のSSを拠点にサービスを展開
今回の発表で刮目したいのは、ただ新型車開発の発表ではなく、超小型EVを核とした次世代モビリティサービスの開発と提供が示されたことです。
発表会ではタジマの田嶋社長と、出光の木藤俊一社長が登壇。まず、それぞれの思いやビジョンを語りました。
田嶋社長は、雪と氷の祭典として知られるモンテカルロラリーに長年出場する中で、気候変動の影響で毎年コースが変更されてせっかく蓄積した前年のコースデータが使えないなど、モータースポーツの世界で気候変動を実感。「このままでは地球が壊れてしまう」という危機感を抱いて電気自動車開発事業に取り組み始めたことを紹介。「モータースポーツ活動で培ってきた自社のモビリティ開発のノウハウを発揮して、出光の新素材技術などと連携することで、最短の時間で最高のモビリティを生み出したい」という決意が語られました。
出光の木藤社長が強調したのが、新会社で次世代モビリティサービスを開発し展開することで、地域のエネルギーセキュリティとモビリティの課題解決に貢献するというビジョンと意欲でした。
出光は昭和シェルと昨年経営統合。『apollostation(アポロステーション)』という名称に統一された、約6400カ所の系列SS(サービスステーション)のネットワークをもっています。新開発の超小型EVは、このSSを拠点にしたシェアリングや定額で利用可能なサブスクリプションなど、利用者のニーズに応じたMaaSのツールとして展開することが想定されています。
超小型EVが発売された初年度、仮に全国のSSがそれぞれ5台ずつ導入すれば、それだけで3万2000台が売れることになります。超小型EVとしては今までに前例のない大ヒットといえるでしょう。前述した「型式指定車」の超小型モビリティとするためには衝突実験などが不可欠で巨額の開発費が必要ですが、いきなり3万台以上売れることがわかっていれば、開発費の捻出もよりスムーズになるはずです。
発表会では、この超小型EVには「年間100万台相当の新たな需要」があると見込んでいることも強調されました。従来の軽自動車需要を置き換えるだけでは100万台は「???」ですが、例示されたのは「新しい需要」です。
【想定しているターゲット層】
●電動アシスト自転車を使っている人(販売台数年間約68万台)
●大きな自動車の運転が不安なペーパードライバー(約2700万人)
●大きな自動車の運転を不安に感じるシニア層(免許返納者年間約60万人)
●限定されたエリアで短距離移動の営業用車両
大きな母数を考えて、まずは「年間100万台相当の新たな需要」創出を目指すということです。
カーシェアリングのサービスを想像してみると、従来のカーシェアリングの場合、せっかく入会しても地方に行くとステーションがなくて利用しづらいといった課題がありました。でも、6400カ所のSSネットワークがそのままシェアリングの拠点となり、SSが位置する各地域の駅前などにステーションが設置されるとすれば、かなり利便性の高いサービスになるのではないでしょうか。
なにより、新会社が開発する超小型EVは、多くの地域が抱える社会課題を解決するためのツールとして位置付けられていること。つまり、その使い方を含めたソリューション、仕組みを提案していることが、今回の発表で最も着目すべきポイントだと感じます。
既存の自動車メーカーとテスラの最大の違いは、テスラは太陽光発電を軸に再生可能エネルギー企業を標榜し、その仕組みを構成するツールのひとつとして電気自動車を位置付けていることといえます。今回の発表はテスラとはまたアプローチが違う「仕組み」の提案であり、電気自動車=電動モビリティの普及と活用を考える上で「そうそう、こういうことだよね」と感じる素晴らしいチャレンジだと思います。
ちなみに、出光は話題の全固体電池開発を進めていることも知られています。田嶋社長から超小型EVには「出光で開発する次世代電池の活用も」というコメントがあったので、「それは全固体電池ですか?」と質問してみましたが、そこは「未定で白紙です」とのことでした。もしかすると、トヨタより先に「出光タジマの全固体電池EV」が実現するのかも知れません。
超小型EVに搭載するリチウムイオンバッテリーは、中国や韓国を含めてさまざまなメーカーの電池を試しながら、安全性やコスト、性能のベストバランスを実現できる電池を模索中。「超小型EVは低速で近距離移動の用途であり、リユースバッテリーを有効活用することも視野に入れている」(田嶋氏)そうです。
発表会に参加した翌日、「そうか、出光の株を買っておくのもアリだな」と思い立って株価を確認してみたら、すでにしっかり高騰してました。株への投資はひとまず見送りますが、出光タジマEVの今後に期待しています。
(取材・文/寄本 好則)






