昨年に続き、今年も11月3日にオーガニックをコンセプトにしたお祭り「木更津オーガニック シティ フェスティバル2022」が開催されました。会場内で使うすべての電気をEVから給電する「EV時代のイベント」を通して、EVの本質と新たな価値を考えます。
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楽しくEVに触れ合える「木更津オーガニック シティ フェスティバル2022」11月3日に開催!(2022年10月31日公開)
EVは単なる「車」や「移動手段」ではない?
EVを内燃機関車と比較したり機能や性能を語る上で、パワーや乗り心地など、従来の自動車としての機能が注目されがちです。しかしEVの本質は「走る蓄電池」としての価値にあり、EVに搭載された大きな蓄電池と給電機能は災害時のみならず、太陽光パネルで発電した電力を貯めたり、EVの蓄電池を住宅の電力と連携させる(V2H)など、日常生活においても重要な役割を果たすことができます。
例えば筆者の事務所でも屋根の太陽光で発電した電気でEVを充電し、季節によっては「事務所で使う電気」と「EVの走行に必要な電気」をほとんど自給自足しています。注意点としてはテスラ車などの一部のメーカーや車種では外部給電に対応していないため、建物に電気を供給するにはパワーウォールなどの定置型蓄電池と組み合わせる必要があります。とはいってもシガーソケットの電源を活用すれば、非常時などにスマホの充電や(100Vインバータを介して)小型の電気製品を動かすことは、すべてのEVで可能です。
そして給電できるEVのもう一つの活用方法が、今回のイベントのように「コンセントがない場所での電気の使用(V2L)」です。このようなイベントではキッチンカーやステージの音響や照明、その他の電子機器を動かす必要があります。従来のイベントで電気を使う際はディーゼル発電機を用いることが一般的でしたが、喫緊の課題となっているCO2などの排出による気候変動だけでなく、来場者にとっても騒音や振動、排ガスの面でも多くのデメリットが存在していました。
一方で従来のディーゼル発電機の代わりにEVの蓄電池から給電することで、このようなデメリットを一気に解消できるのです(当然ながら、気候変動対策には充電にも再エネを使うなど、電力インフラの脱炭素と合わせて取り組む必要があります)。
もちろんイベントだけでなく、今回ヒョンデが展示していたようにアウトドアで調理したり、電気製品を動かすことも可能。EVには大容量な蓄電池が搭載されているため、HV(ハイブリッド車)からの給電のように途中でエンジンがかかることはありません。たとえば深夜のキャンプ場や民家付近でも振動や騒音、排気ガスなどを一切気にせず、文字通り「いつでも」「どこでも」電池残量が許す限り電気を使うことができるのです。
自治体と民間企業の繋がりで「いざ」という時に備える
さて、今回のイベントでは事前の予告通り、会場内で使うすべての電気をEVから供給していました。
当初の計画では上の画像のように日産リーフ4台、ELEMO2台、合計6台のEVを使用する想定でしたが、当日の朝になり、キッチンカーで計画よりも多くの電気が必要になることが判明。急遽、給電用のEVを増やす必要が出てきました。幸い会場には給電に対応したEVである日産サクラを展示する予定だったため、今回車両を提供する日産の販社と連携し、展示用に用意されたサクラを給電用として使うことで無事に乗り切ることができました。
イベントを主催している木更津市は、2020年6月に日産自動車および千葉県内の販社、そして地元の電気工事事業者であるハナダ電機技術工業とともに、千葉県で初となる「電気自動車を活用したまちづくり連携協定」を締結しました。これは災害時の連携に加え、このようなイベントや日常でもEVが活躍できることを市民に啓蒙することが目的ですが、もう一つ重要な点があるといいます。
今回のイベントでは「急遽」追加でEVからの給電が必要になりましたが、よく考えてみると、これは「いざ」という時に迅速な支援が必要となる災害時にも共通しています。協定の締結において木更津市と日産自動車の仲介役となったハナダ電機技術工業の花田さんは、災害時でも戸惑うことなく迅速に支援するためにも、このようなイベントなどでの「日頃からの自治体と民間企業との関係性づくり」が重要だとしています。実際に木更津市では協定を締結する前から毎年このようなイベントを通じて電力供給訓練を行うなど、長年民間企業との関係性づくりを大切にしてきたそうです。
災害大国だからこそ、EVを!
このように自治体と民間が共同で防災に取り組む事例があるなか、SNS上などでたまに「日本は災害大国だからEVは向いていない」という意見を目にすることがあり、特に停電時の充電を心配されているように見えます。
それでは、過去の大規模な災害による停電の復旧時間はどの程度なのでしょうか。例えば資源エネルギー庁の2018年に発生した地震や台風による停電の50%までの復旧時間を見ると、最も長かった北海道地震で30時間程度、台風では20時間程度。99%の復旧時間を見ても最も長かった台風21号で120時間、北海道地震では50時間で復旧しています。
ところで、「走る蓄電池」ともいわれているEVには大容量の蓄電池が搭載されていて、空になるまで使ってそのまま放置することは非常に稀です。EVの電池容量は車種によって様々ですが、登録車では40kWh〜100kWh程度が主流で、一般家庭の数日〜1週間分程度の電力に相当します。言い換えると、停電時は車載コンセントやV2H、V2Lを使いEVから電気を供給することで、多くの場合において、停電が解消するまで持ちこたえることができます。加えて半径数十kmで長時間にわたって停電することは稀であり、充電が無くなりそうな場合でも、停電していない場所で充電して電気を持ち運ぶことも可能です。
また、2022年は12月に入ってから日本海側で大雪に見舞われ、多くの地域で停電が発生しました。停電中に車上で暖を取ったりスマホを充電した際、内燃機関車のマフラーが雪で塞がれ、一酸化炭素中毒により亡くなられたという痛ましい事故も発生しました。毎年のように報道されながらも事故が無くならないないことを考えると、根本的な対策の難しさは容易に想像できるでしょう。一方でSNSなどではよく「EVは立ち往生で凍死する」と指摘されていますが、北欧などの雪国を含む世界で年間数百万台のEVが販売されながらも、筆者の知る限りEVが原因の凍死事故は発生していません。
確かにEVが出始めた10年前は情報が少なく、心配されたことも理解できます。しかし今は実際に雪国でEVを使用している多くの方々がYoutubeやSNSで情報を発信しており、そのような方々から生の声を容易に聞くことができます。一酸化炭素中毒による痛ましい事故を少しでも減らすためにも、ぜひそのような声に耳を傾けてほしいと、切に願います。
もはや「特別」ではない、EVという選択肢
今回の給電に使われた日産リーフやELEMOはイベントでの使用だけでなく、普段は木更津市の公用車として使われています。これまで公用車にEVを採用する理由としては環境性などコンプライアンス目的が大半でしたが、木更津市の例ではこのようなイベントや防災での活用、さらに市民への啓蒙活動など、様々な用途に使えることを示しています。
さらに近年では従来の内燃機関車とくらべて「維持費が削減できる」というメリットが注目されつつあります。例えば米・ケンタッキー州で2021年にパトカーとしてテスラ モデル3を3台導入したベレア警察署では、1年間だけで燃料代とメンテナンス費を24,000ドル(140円/ドル換算で約336万円)も節約できたそうです。この警察署では燃料代以外にも「予想以上の節約につながった」とし、その理由の一つとして従来のパトカーではブレーキの交換だけで1台あたり2,000ドルかかっていた費用が、回生ブレーキにより摩耗が減り、交換が不要になったとしています。(ブレーキの寿命は乗り方によっても変わりますが、実際にSNS上では交換せずに50万km以上使えたとする報告も)。また、メンテナンスが減ることで稼働率を上げられる点も、コスト面で有利といえるでしょう。
【参考記事】
Police Tesla Takeaways — After A Year
これまでEVは車両価格(初期費用)が高いことが、公用車や商用車として導入する上でハードルになると言われていました。ところが近年の車両価格の低下と相まって、内燃機関車とくらべて維持費を大幅に節約できることから、長期での保有コストは逆転。充電速度や航続距離の課題が解決されつつある今、公用車だけでなくバスやタクシー、物流業界などの商用車でもEVの採用が広まり始めています。
これに加えて木更津市のように単なる「車」や「移動手段」を超えた活用方法が認知されれば、さらに存在感を増すでしょう。今回の「木更津オーガニック シティ フェスティバル2022」では、EVという選択肢が「もはや特別ではない」と思えるイベントとなりました。
取材・文/八重さくら





