バイデン大統領が2030年に新車の50%を電気自動車にすると発表、のポイントを考察

2021年8月5日、アメリカのバイデン大統領が、2030年にはアメリカの新車販売の50%を電気自動車などにする目標を発表。大統領令に署名しました。ホワイトハウスのリリースで強調されていたのは「脱炭素」以上に「電気自動車産業の未来」と「国民のメリット」でした。

目標は「2030年に50%の電気自動車販売シェア」

日本が猛暑に見舞われていた8月5日、アメリカからインパクトの大きなニュースが届きました。バイデン大統領が「2030年までにアメリカの新車販売の50%を電気自動車などのゼロエミッション車にする」という目標を発表、大統領令に署名したのです。

このニュースは、もちろん内外のメディアが大きく報じています。また、ホワイトハウスのウェブサイトでも具体的内容のリリースが発信されました。

リリース中には「Target of 50% Electric Vehicle Sales Share in 2030(2030年までに電気自動車のシェアを50%にする)」という表現もありましたが、この目標が示す「ゼロエミッション車」とは、具体的には「バッテリー式電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車など(including battery electric, plug-in hybrid electric, or fuel cell electric vehicles. )」であるとも明記されていました。目標はあくまでも「ゼロエミッション」なので、今後、もしかすると欧州のように「プラグインハイブリッド車」はダメ、という方向になることも考えられます。根本的にエンジン車である外部から充電できない「ハイブリッド車」は最初から目標には含まれていません。

EUではすでに「2035年までにエンジン車新車販売禁止」の方針を打ち出しています。アメリカでも2030年には50%をゼロエミッション車とする目標が明確になったことで、急速に電気自動車へシフトする「世界の流れ」がさらに決定的になったといえます。

アメリカのリーダーシップを前進させるためのステップ

脱炭素への高い目標をクリアするためには、モビリティのゼロエミッション化=電動化が不可欠であるということは、すでに世界の常識になっています。ただし、今回の発表で強調されたのは、脱炭素へのチャレンジばかりではありません。

そもそも、ホワイトハウスが発信したリリースのタイトルは「President Biden Announces Steps to Drive American Leadership Forward on Clean Cars and Trucks」=「バイデン大統領がクリーンな自動車やトラックでアメリカのリーダーシップを前進させるステップを発表」というものです。「クリーン」というワードは入っているものの、主題は「アメリカのリーダーシップを前進させるステップ」です。

具体的なアクションと電気自動車普及の成果として言及されている部分をピックアップしておきます。

【具体的施策】

●電気自動車充電ステーションの全国ネットワークを設置。

●アメリカの製造業と労働者の仕事を育てるために、消費者へのインセンティブを提供。

●サプライチェーン改善や拡張の資金提供。

●競争力を維持するための次世代クリーンテクノロジー改革。

【目標とする成果】

●高給の仕事を増やしアメリカが世界の電気自動車産業をリードする。

●ガソリン(化石燃料)の消費を減らす。

●消費者の出費(燃料代を中心に)を減らす。

●スマートなCO2排出削減を実現する。

端的に解釈すると、脱炭素社会実現への世界の高い目標設定を契機として「電気自動車産業でもアメリカは勝ちに行くぜ!」という力強いメッセージです。

「電気自動車がー!」とか「燃料電池車の方がー!」とか、太平洋の端っこで、呑気なことを言ってる場合じゃありません。FCVはゼロエミッション車に含まれてるし、将来的に本当にゼロエミッションなモビリティになるよう開発や研究を進めることも大切ですけど、今はもう、というか、10年後にはほぼ確実に、自動車メーカーは電気自動車で勝負できなければ世界に通用しない状況になりつつあるのです。

電気自動車〜2030年への野望

バイデン大統領、そしてアメリカが2030年という、自動車開発にとっては「間近」とも言える時間で電気自動車への大転換を決断したのは、今までの10年間で電気自動車が大きく進歩したから、ということも、リリースに箇条書きされていました。

●バッテリーコストが85%削減され、ガソリン車と同等の価格になる道が開けた。

●充電時間が短縮され、航続距離が劇的に増加した。

●アメリカで購入できる電気自動車の車種が40以上に拡大し成長している。

10年前と比べた市販電気自動車の進化は、たとえば、初代リーフと現行のリーフe+を比較しても明らかです。24kWhだったバッテリーは62kWhに増え、使い勝手は格段に(価格も高くなりましたけど……)向上しています。

ホワイトハウス(バイデン大統領)が挙げる「進化」はまことにもってその通り。とはいえ、日本の現状ではまだちょっと当てはまらない点もあります。

「充電時間が短縮」というのは、テスラのスーパーチャージャーや、CCS1(コンボ規格)急速充電器の150kWや350kWへの高出力化とその普及を示唆しています。日本でもテスラスーパーチャージャーは着々とネットワークを構築しているものの、公共急速充電ネットワークの高出力化や複数台設置はまだあまり進んでいません。

ユーザーが選択できる電気自動車の車種バリエーションという点も、日本でもじわじわと増えつつはあるものの、まだまだ新車価格500万円以上、1000万円クラスといった高級車がほとんど。導入されている車種も欧米に比べて少ないのが現状です。

EUやアメリカが打ち出す「目標」には、各国の自動車メーカーも賛同して進みつつあります。バッテリーコストや航続距離など、電気自動車へのシフトをためらう要因となっていた課題解決の目途がたち、10年後のモビリティは「電気自動車がいい」ということに、各国のリーダーやメーカーが気付き、行動し始めているのです。でも、日本国内を見渡すと、かなり電気自動車に関心の高い方以外にとっては「まだ電気自動車の力に気付きにくい現状」というしかありません。

自動車電動化の世界の流れから日本が取り残されないようにするためには、充電ネットワークの拡充(再整備)と、車種バリエーションの拡大が不可欠。そのためには、アメリカ、そしてEUのような、力強い「政策」やメッセージが必要なのだと思います。

たとえば私自身が、ユーザーとして「できること」は多くないですが、電気自動車と自動車が好きなユーザーのひとりとして、粘り強く「電気自動車を!」の声を上げ続けていくぞ、と、1回目のワクチンを打ち終えて少しけだるさを感じつつ、決意を新たにする夏の夕暮れなのでした。

最後に、アメリカのNBCが、この件についてのバイデン大統領のスピーチと、業界関係者などに囲まれて和気あいあいと大統領令に署名する様子の生中継アーカイブをYouTubeに公開してくれていたので、リンクを貼っておきます。

追記/アメリカの決意に「日本勢」も賛同

「2030年に電気自動車販売シェア50%」というアメリカの目標に対して、自動車メーカー、ことに日本を拠点とするメーカー各社はどのように反応しているのか。日本経済新聞が報じていたのでご紹介しておきます。

日産自動車は2030年までに米国販売の4割を電気自動車にすると明記した声明を発表。

トヨタは「新たな燃費基準と政権の意欲的な目標に対して役割を果たしていく。環境に大変よいことで雇用維持にもつながる。レッツゴー」とコメントしたということですが、具体的な販売計画は表明していません。

ホンダは、米フォード・モーター、独フォルクスワーゲンなど欧米4社と連名の声明で「30年までにEV比率を40〜50%に高める」目標を示すとともに「目標達成には充電インフラへの投資やEV購入の促進策が必要だ」と政策の後押しも求めたということです。

(文/寄本 好則)