アウディ『RS e-tron GT performance』試乗記/電気自動車に受け継がれるアウディ高性能車の系譜

2025年8月に「大幅なアップデート」を受けたアウディ史上最もパワフルな市販モデルである「RS e-tron GT performance」と過ごした数日間の記録をお届けします。圧倒的なパフォーマンスと同時に快適性や静粛性といった高級車としての印象も残してくれました。

最大出力925ps、航続距離631kmの電動グランドツアラー

e-tron GTは、アウディがポルシェと共同開発したハイパフォーマンス電気自動車専用のJ1パフォーマンスプラットフォームを採用しています。2021年2月に世界初公開され、同月に受注が始まり、欧州では同年3月に販売開始、日本では4月の国内初公開を経て、2021年秋に発売·納車が開始されました。

現在の日本でのラインナップは「S e-tron GT(以下、S GT)」と今回試乗したアウディのRSモデルである「RS e-tron GT performance(以下、RS GT)」の2モデルです。どちらも前後に各1基のモーターを搭載したAWDで、今回のアップデートでは150kWの急速充電に対応したことと一充電走行距離が約20%伸びS GTは648km、RS GTは631km(WLTC ※EPA換算推計値は505km)になったことがトピックです。

RS GTのおもなスペックは、全長4995mm、全幅1965mm、全高1380mm、ホイールベース2900mmで、車重は2340kgです。システム最高出力は680kW/925ps、トルクは1027Nm。総電力量105kWh(ネット値は97kWh)のバッテリーを搭載。車両本体価格は2469万円(税込)、国の補助金(CEV補助金、2026年7月現在)は28.8万円です。

「床下にバッテリーを敷き詰めているから」というエクスキューズで、全高が高くなるBEVが多い中での1380mmは兄弟車のタイカン(全高はほぼ同等)とともに空力性能を重視したスポーティなモデルといえます。

なお、セダンやクーペボディのライバルの全高を確認すると、テスラの「モデルS」 1445mmや「モデル3」1430mm、BMW「i4」1455mm、BYD「シール」1460mmと1400mm台ですので、RS GTの低さが際立ちます。

「低い全高はかっこいいけど、乗り降りが不安」という方はオプションのアクティブサスペンションがおすすめです。ドアを開けると瞬時に前後ともに約6cm車高が上がり乗り降りをサポートしてくれます。

前後のクアトロブリスターフェンダーの内側に収まるタイヤは、フロント265/35R21、リア305/30R21とスーパーカー並みのサイズです。フェンダーの膨らみとドアの絞りによって、自然にフロントホイールのアウトレットが形成されています。

さらにこの車両は98万円のオプションである「セラミックブレーキ/カラードブレーキキャリパーレッド」を装備。フロントキャリパーはなんと10ピストンです。このオプションは20kgの軽量化にも貢献します。

後ろ姿は大きな左右のテールランプが特徴的です。それをつなぐ部分も光ります。格納式リアスポイラーは車内からの操作により上げることもできます。モータースポーツからフィードバックされたと謳うRS専用デザインのディフューザーもスポーティな印象を強めます。

充電口は左フロントフェンダーに急速充電(CHAdeMO)、右フロントフェンダーに普通充電が分かれて設置されています。急速充電は、最大150kWに対応しており、今回実際に行った充電でも最大136kWを確認、30分で52.3kWhをチャージできました。

意外なほど広い室内と実用的な荷室

全高が低めのRS GTですが、インテリアは背の高いSUVにもさほど見劣りしない空間を確保しているところにパッケージングの良さが現れています。

身長172cmの筆者がドライビングポジションをとった運転席頭上には11.5cm、後席頭上は3cm、膝前には23cmの余裕がありました。フロントのスポーツシート、同じくフロントのベンチレーションとヒーター、マッサージ機能、ブラウンのシートベルトなどは75万円の「RS Performanceデザインパッケージ」オプションによるものです。

スマートパノラマガラスルーフ(51万円のオプション)は、センターディスプレイで操作することで、透明、不透明に加えて写真のように不透明の範囲の調整も可能です。

荷室容量は350リッターと、数字から判断すると狭そうに感じますが、幅89cmと奥行き103cmのスクエアな形に加えて、手前の左右が大きくえぐられているため、数字よりも広い印象を持ちます。機内持込可能サイズのスーツケースとゴルフバッグを各1個ずつ楽に収納でき、後席が4:2:4の分割可倒式なのも美点です。ボンネット下にも77リッターのフランクがあります。

スーパーカー級の速さと高級サルーンの快適性

RS GTはフロントに出力176kW/約239ps、リアに415kW/約564psのモーターを搭載したAWDです。通常時のシステム最高出力は550kW/約748psですが、ステアリングホイールのPush-to-Passボタン(左スポークのブーストボタン)を押した時はプラス70kWで620kW/約843psに、ローンチコントロール時は680kW/925psになります。0-100km/h加速は2.5秒、最高速は250km/hです。

ガソリンエンジン車で750ps級のパワーを持つクルマをイメージすると、それは8気筒以上の高性能ターボエンジンで、相当な存在感を発揮する排気音を伴うものを想像しますが、BEVのRS GTはもちろん静かな車内です。今回の試乗車にはオプションのe-tronスポーツサウンドが装備されていたので、シフトセレクターがP以外の時は低音が効いたサウンドが流れていて、高性能スポーツ車を扱っていることを思い出させてくれます。

S GT、RS GTともに、各輪に2つの空気室(2チャンバー)を持つエアスプリングと、伸び側·縮み側の減衰力を独立して制御する2バルブ式ダンパーを組み合わせた、2チャンバー/2バルブ式エアサスペンションを標準装備しています。

これだけ低く、重量のあるクルマでありながら、エアサスペンションの効果は絶大で、スポーティーさを保ちつつ路面からの入力の角を柔らかくいなす、エアサスならではの乗り心地が印象的でした。

ドライブセレクトでエフィシェンシー、コンフォート、ダイナミックを切り替えてもり乗り心地が明確に変わらない気がしたのは、オプションのアクティブサスペンションを装備していたからかもしれません。アクティブサスペンションは加減速やコーナリング時に車体を水平に保ち、ステアリングレスポンスの精度向上などを実現すると謳われています。ダイナミックを選択してスポーティな走りをしても、一般道での走り程度では快適さを犠牲にすることはないと理解できます。

回生は、MMI(Multi Media Interface)タッチディスプレイで自動モードを選択できるほか、手動モードではステアリングホイールのパドルで回生レベルを3段階で調整できます。今回のアップデートで最大回生時のシステムから得られる出力は290kWから400kWに向上しています。

美しさ、快適性、実用性、速さを極めた電動GT

RS GTのスペック表に「生産工場:ハイルブロン」と見慣れない地名がありました。調べてみると、e-tron GTは、ドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州ハイルブロン市にあるベーリンガーホフ工場で生産されており、同工場は、約6km離れたアウディ·ネッカーズルム拠点の一部に位置づけられていることが分かりました。

このベーリンガーホフ工場は、「R8」のために整備された少量生産の特別拠点で、現在はe-tron GTを手掛けることで、アウディの高性能フラッグシップモデルの系譜を受け継ぐ中核工場へと発展。ネッカーズルムにはAudi Sport GmbHの本拠もあり、同地はブランドの高性能モデルとモータースポーツを支える象徴的な場所といえます。なお、同工場では27年からの「Concept C」の生産に向けた準備が進められています。

RS GTを試乗していた数日の間に、兄弟車であるポルシェ「タイカン4S」にも乗る機会がありました。同じプラットフォームを採用し、ともにエアサスペンションを備える両車ですが、乗り心地は大きく異なりました。タイカン4Sはより引き締まっており、路面の凹凸を明確に伝えるのに対し、RS GTは角の取れた上質な乗り味で、タイカンの後だと高級サルーンのように感じられました。

ここにこの2ブランドのクルマの作り方や思想の違いを見た気がしました。つまりポルシェはあくまでもスポーツカーを作ろうとしており、アウディは高級車ブランドとして今回のRS GTのような超高性能車であっても、「アウディ」の名に相応しいクルマ作りをしているという違いです。ただし今回はこの2台を直接乗り比べたからこのような差を感じましたが、タイカン4Sを単独で乗れば、乗用車として乗り心地は硬すぎる訳ではなく、全く問題のない快適さレベルだったことをお伝えしておきます。

さらに別の機会に、V8ターボエンジンを搭載した高性能セダンに試乗しました。そのクルマは高速道路での巡航時にアクセルを全開にすると、ひと呼吸置いてから加速に移りました。RS GTはもちろんそんなことはなく、わずかなアクセル操作でも、瞬時に踏んだ分だけ加速力に変えます。このレスポンスの良さがBEVの良さだと改めて実感しました。

RS GTは、今回の一般道での平均電費に加え、すでに記事公開済みの高速道路での電費も約5km/kWhを記録しました(関連記事)。この水準なら、満充電からほぼ500km程度の航続距離が期待できます。

低い全高が生み出す独自のスタイル、実用的な居住性と荷室、長距離移動を支える快適な乗り心地と充電性能。そして、ひとたびアクセルを踏み込めば、スーパーカー並みの加速を味わわせてくれる。美しさ、快適性、実用性、速さを高い次元で併せ持つRS e-tron GT performanceは、電動グランドツアラーとして、ひとつの頂点に達していると思います。

主要スペック

アウディ
RS e-tron GT performance
車両型式 ZAA-FWECXR
全長(mm) 4995
全幅(mm) 1965
全高(mm) 1380
ホイールベース(mm) 2900
トレッド(前、mm) 1700
トレッド(後、mm) 1665
車両重量(kg) 2340
乗車定員(人) 5
最小回転半径(m) 5.2
交流電力消費率(WLTC、Wh/km) 179
一充電走行距離(WLTC、km) 631
EPA換算推計値(km) 505
バッテリー総電力量(グロス値、kWh) 105
使用可能容量(ネット値、kWh) 97
急速充電性能(kW) 150
急速充電時間 33分で10%から80%
普通充電性能(kW) 8
V2X対応 非対応
暖房システム ヒートポンプ
モーター数 2
駆動方式 AWD
モーター型式、フロント EBG
モーター型式、リヤ ECX
モーター種類(前後) PSM(永久磁石同期モーター)
フロントモーター出力(kW/ps) 176/約239
リヤモーター出力(kW/ps) 415/約564
システム最高出力(kW/ps) 680/925
システム最大トルク(Nm) 1027
トランスミッション フロント1速/リア2速
フロントサスペンション ウィッシュボーン式エア
リアサスペンション マルチリンク式エア
ブレーキディスク(前後) カーボンセラミック(オプション)
タイヤサイズ(前) 265/35R21(オプション)
タイヤサイズ(後) 305/30R21(オプション)
タイヤメーカー・銘柄 ブリヂストン ポテンザスポーツ A
荷室容量(L) 350
フランク(L) 77
0-100km/h加速(秒) 2.5
最高速(km/h) 250
Cd値(空気抵抗係数) 0.26
生産工場 ドイツ・ハイルブロン
車両本体価格 (万円、A) 2469
CEV補助金 (万円、B) 28.8
実質価格(万円、A - B) 2440.2

取材・文/烏山大輔

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