自動車の未来を変える 軽EVの可能性【舘内端氏の提言】

自動車評論家で日本EVクラブ代表理事の舘内端氏が電気自動車について語る『Weekly EV Journal』の動画配信を始めました。第7回として公開された『自動車の未来を変える軽EVの可能性』は、EVシフトの意義や日本の自動車メーカーが目指すべき方向について示唆深い内容でした。数年のうちに続々と登場するであろう軽EVについて考えてみたいと思います。

舘内氏が電気自動車について徹底トーク

自動車評論家の舘内端氏は1990年代初頭、電気自動車の可能性に衝撃を受け、自らEVフォーミュラカーを製作してアメリカのレースに出場。1994年には電気自動車普及を目指す市民団体『日本EVクラブ』を設立しました。当時はまだ、量産EVが本格的に市販される見込みは薄く、日本EVクラブではエンジン車に鉛バッテリーとモーターなどを積むコンバート(改造)EVの手作りを推進。年に一度の日本EVフェスティバルに集まって専用コースやサーキットを存分に走るといった活動を続けてきました。

実は、この記事を書いている私も日本EVクラブのメンバーです。1993年くらいだったでしょうか、当時、ライターとして関わっていた週刊SPA!という雑誌で「電気自動車でルマン24時間レースに勝つ!」という舘内さんの計画を取材したのをきっかけに、すっかり電気自動車の虜になって日本EVクラブ設立当初から活動に参加してきました。つまり、舘内さんは私にとって「電気自動車道」の師匠です。

その舘内さんが、今年4月から、YouTubeの「日本EVクラブチャンネル」で、舘内端『Weekly EV Journal』と題した動画配信を始めました。

第1回は『ジャガーよ、お前もか?』、第2回『アップルよ、お前もか?』、第3回『佐川急便よ、お前もか?』と、EVsmartブログでもお伝えしているさまざまなEVシフトのトピックを取り上げた「お前もか?」シリーズを展開した後も、順調に「週刊」ペースの配信が続いています。

日本メーカーは軽EVの可能性の刮目すべき!

今回クローズアップしたいのは、5月22日に配信された、第7回『自動車の未来を変える 軽EVの可能性』です。

**舘内 端『Weekly EV Journal』

第7回『自動車の未来を変える 軽EVの可能性』**

進行役を務めている奥田さんは日本EVクラブの仲間で、某F1雑誌の元編集長です。

ぜひご自身で動画を見ていただきたいのですが、ポイントをピックアップしておきましょう。

**●日本の国民自動車は軽自動車である。

●軽自動車を軽視しているとマーケットに裏切られる。

●EVシフトは軽自動車を基準に見直すべき。

●軽EVは自動車や社会の価値観を見直す基準になる。

●2024年に軽EV発売を表明したホンダは、N360やシビックに込めた魂を思い起こすべき。

●軽EVには日本から世界に発信する新しいモータリゼーションのカタチとして期待したい。**

「舘内さんの評論を評論していいですか?」と舘内さんには許可をいただいているので、いくつか、私なりに解説を加えたいと思います。

日本の本格的な電気自動車シフトは軽EVが先導する

動画の中で舘内さんが触れているように、軽自動車は日本の国民車、新車販売台数の約4割を占めています。日本で本格的なEVシフトを実現するためには、多くの人が欲しいと思う、買うことができる軽EVの車種バリエーションが揃うことが重要です。

世界初の量産市販EVでもあった三菱i-MiEVは軽EVでしたが、バッテリー容量16kWhにして当初の発売価格は400万超え、補助金を使っても300万円以上と、いかんせん高価過ぎました。最後は新車価格300万円前後になりましたが、デビューから10年以上、根本的なアップデートなどは行われず、すでに生産が終了、三菱の車種ラインアップからも姿を消しています。

電気自動車の航続距離については多様な意見があるでしょうが、私自身の感覚としては自分が中古リーフを買うときの基準にもした「150万円で150km」が実現できれば「日常的に不便はなく、年に数回の片道500kmを超えるような長距離ドライブにも使える」と実感しています。

容量16kWhのアイミーブはカタログ値で約170km程度。高速道路を使ったロングドライブでは100km程度が目安となるので、SAPAをひとつ飛ばしに走ることは難しく、急速充電器が設置されているSAPAでの各駅停車が余儀なくされました。たとえば、初代リーフ並みに25〜30kWh程度のバッテリーを搭載し、高速道路で急速充電器を選択できる余裕がある軽EVが、新車価格実質150万円くらいで買えるようになれば、大きな支持を得られるのではないかと思います。

実際、中国で大ヒットしている『宏光MINI EV』は9.3kWhで日本円換算約45万円。13.9kWhの上級グレードでも約60万円です。また、また、同じ中国の自動車メーカーであるGreat Wallの『ORA R1』は33kWhのバッテリーを搭載しておよそ100万円という価格を実現しています。中国にできて、日本にできないことはない、とわがままユーザーとしては思うのですが。

「150万円で150km」の魅力的な軽EVが続々と鎬を削るように登場してきた時、日本のEVシフトが本格的に始まるのだろうと予想しています。

最近の自動車は無駄にでか過ぎる

もうひとつ、重要な気付きとして舘内さんが指摘しているのが「最近のでかいSUVはそろそろ考え直した方がいい」ということです。EVシフトの大きな意義がCO2排出削減ですが、でかいSUVが電気自動車になったとしても、いわゆるLCA(Life Cycle Assessment)を勘案すると、CO2削減効果は小さくなってしまいます。

日本に軽自動車が誕生したのは昭和30年代。装備などは「そこそこ」でも、庶民にも買える自動車として大ヒット。国民車として広がっていきました。

最近、欧州メーカーなどから登場する新型EVにも大型のSUV、あるいはクロスオーバーと呼ばれる高級車が多いですが、あまりに高価で、とても国民車にはなり得ません。

「時は金なりという高度経済成長時代の価値観、大量生産大量消費による拡大志向、高速化志向の価値観そのものがCO2を増やしてきた。自動車を快適で便利な移動手段にするという目的は、電気自動車であれば簡単に実現できる。そんなに速くなくていい、装備はシンプルでいいという軽自動車らしい価値観を提示すれば、なんだ、軽でいいじゃないかという人が増えるはず」と舘内さんは指摘しています。

日産・三菱とホンダに期待!

日産と三菱の合弁会社NMKVによる軽EVはおそらく2022年、そしてホンダが2024年に軽EVを投入することを発表しました。

「ホンダはN360で四輪に進出した。そのN360やホンダライフ、そして文字通り「市民」のためのシビックは、クルマがある生活を実現するツールとして素晴らしい自動車だった。ホンダには、ぜひ原点である魂を思い起こして、市民とともに、大衆の新しいモータリゼーションのカタチが想像できるような軽EVを提案して欲しい。それが、新しいホンダに生まれ変わることにも繋がるはず」(舘内さん)

つまり、庶民が気軽に買えない高価な軽EVを発売しても意義は薄い、ということです。ホンダだけでなく、NMKVにも同様に「大衆の新しいモータリゼーション」となるような軽EVを提案していただきたいと期待しています。

軽自動車は日本のガラパゴス規格ともいわれますが、コンパクトで安価で、魅力的な軽EVを提案すれば「日本から世界に発信する新しいモータリゼーションのカタチ」(舘内さん)となるポテンシャルもあるのです。

オンラインミーティング『EV未来プログラム』

はたして、私たちはどんな自動車を求めているのでしょうか。自動車の作り方や売り方も大きく変革されそうなEVシフトは、私たち市民が、本当に欲しい自動車を実現する手段を手にするチャンスでもあります。そこで、舘内さんを中心に日本EVクラブが今年4月からスタートしたのが『EV未来プログラム』と題したオンラインミーティングです。

4月10日に第1回を開催し、今後、シリーズで参加者のみなさんとともに議論を深めていく予定。次回開催日は未定ですが、開催日が決まったら日本EVクラブの公式サイトなどで告知します。また、Facebookに『EV未来プロジェクト』というディスカッションのための公開グループがありますので、興味のある方はぜひ参加をお申し込みください。

(文/寄本 好則)