スズキが「技術戦略説明会」開催/明示された日本のEV普及に関わるポイントと「e SKY」の価格への期待感

スズキは2026年9月25日に「10年先を見据えた技術戦略説明会2026」を開催した。動力のマルチパスウェイを打ち出しつつも、明確に提示された日本のEV普及の根幹に関わるポイントに注目してレポートする。

開発・生産の大幅な効率化目標を明示

2024年に10年ぶりとなる同説明会を開いてから、今年で3年連続の開催となる。同社は2024年に技術哲学として「エネルギー極少化」を提示し、翌2025年にはその実現手段となる「本質価値極大化」と「Right × Light Mobile Tech」を打ち出してきた。そして今年はそこからさらに踏み込み、目まぐるしく変わる環境変化に打ち勝つための「開発・生産変革」を強力に宣言してみせた。

驚かされたのは、その内容の具体性とスピード感だ。従来、新車開発には約48ヶ月を要していたが、これを一気に「24ヶ月」へ半減。さらに開発効率を30%、生産効率を50%向上させるという、野心的な目標が掲げられた。説明のなかで鈴木俊宏社長は、「中国では週7日、3交代・24時間体制で開発が進んでいる」という現地の過酷なスピード感に触れたが、これには現場にいた筆者もかなりの衝撃を受けた。

BEVについては「リアルなスタンス」を示す

説明会後半のQ&Aセッションには、鈴木社長をはじめ、技術統括の加藤勝弘副社長、さらに四輪・二輪・電池・生産などを担う本部長級の役員ら総勢15名がズラリと登壇。まさに「チームスズキ」が一丸となって報道陣の質疑に対応する姿からは、並々ならぬ覚悟と結束の強さが伝わってきた。

今回の取材を通し、筆者が改めて深く感じ取ったのは、スズキの「BEVに対するどこまでもリアルなスタンス」だ。

発表の中で特に強い印象を残したのが、マルチパスウェイ(動力源やエネルギーの多角的なアプローチ)の重要性についての言及である。インド市場で推し進める牛糞由来のCBG(圧縮バイオガス)事業をはじめ、バイオエタノール対応、新型ハイブリッドシステム、さらには熱効率50%を目指す次世代エンジンの開発など、プレゼンの内容は内燃機関に関する話題が大きな割合を占めていた。

スズキの基本姿勢は、世の潮流に流された「BEV一本化」ではない。世界各地の多様なインフラ事情や地域ごとのエネルギー環境を見据え、極めて現実的な解を出していくスタンスを一貫して明示している。発電構成も充電インフラの普及度も、あるいは大気汚染への課題感も、国や地域によってまるで異なる。だからこそ、その土地で求められるモビリティを、その土地で作って使ってもらう。この「地産地消」のアプローチによって、輸送エネルギーやコスト、供給リスクを最小限に抑えつつ、着実にCO2を削り落とせるというわけだ。

この徹頭徹尾の現実主義は、実に見事なまでに「スズキらしい」。グローバル市場を見渡したとき、このマルチパスウェイ戦略こそが最も盤石な正攻法と言えるだろう。もっとも、一足飛びの電動化を期待するBEV推進派の立場から見れば、いささか慎重すぎる足取りに映るかもしれない。

軽EV「e SKY」に注がれた効率化への熱意

しかし、その慎重な姿勢の裏で、彼らが環境負荷の低減やBEV普及に向けてコツコツと積み上げてきた技術の着実さには目を見張るものがある。注目したいのは、単に走らせている間の排ガスを減らすだけでなく、製造から廃棄、リサイクルに至る「ライフサイクル全体」で徹底したエネルギー最小化を図っている点だ。

例えば材料技術の分野では、フロアマットをすべてポリエステル素材に統一する「モノマテリアル化」を採用。解体やリサイクルを格段に容易にすることで、原材料を作る段階のCO2排出量を実に約70%も削り取ることに成功している。さらに、高張力鋼板の多用やボルト1本の形状見直しに至るまで泥臭い軽量化を徹底。走行時の消費エネルギーだけでなく、鉄やアルミ、樹脂、バッテリー材料といった資源そのものの使用量を極限まで削ぎ落とそうとしているのだ。

そうした省資源・高効率の思想が最も濃密に実を結んだのが、まもなく市場へ投入される軽EV「e SKY」に代表される同社のBEV技術である。

過剰な大容量バッテリーを積んで車体を重く、価格を高額にするのではなく、日常の用途にぴったり合わせた「必要十分」な容量に留める「バッテリーリーン」の思想を突き詰める。自社開発で共通化したバッテリーシステムを核に、モーター、インバーター、ギアボックス、さらにはOBCやDC-DCコンバーターまで一体化した「6in1」の次世代eアクスルや、電装品を集中制御して軽量化と低コスト化を両立するセントラルゾーンECUなど、無駄を徹底的に省いた技術が凝縮されている。

効率化によって100kmの航続距離向上を目指した

そして圧巻だったのが、「e SKY」の開発陣が航続距離を引き伸ばすために繰り広げた、泥臭いまでのカイゼン劇だ。

開発当初の試算では、一充電走行距離(航続距離)想定は230kmにとどまっていたという。ガソリンの軽自動車から乗り換えるユーザーの「電欠」への不安をどうしても払拭したいという意図のもと、開発チームが掲げた合言葉が、「1アイテムで1km延ばす×100」という地道なものだった。

この旗印のもと、車両全体の大幅な見直しに着手。タイヤの転がり抵抗の低減や足回りの最適化はもちろん、LEDの個数を削りながらも導光板の工夫で質感を損なわずに省電力を図ったり、小型モーターのギア比を細かく見直したりと、部門の垣根を越えたカイゼンを徹底的に積み重ねていった。バッテリー容量を増やして力技で解決するのではなく、この愚直な「チリツモ」をやり切った結果、軽EVにして航続距離310km(プロトタイプ参考値)という驚くべき数字を叩き出してみせたのだ。

飛び道具のような高価で大掛かりな最新技術に頼るのではなく、地道なカイゼンの積み重ねでリアルな電費を叩き出す。この愚直なアプローチこそ、いかにもスズキらしく、最も評価されるべきポイントと言える。

ちょうどいいEV/「e SKY」の価格はもうすぐ発表

巨大で重く、価格が跳ね上がったスペック至上主義の高級EVが幅を利かせる現状において、スズキが繰り出そうとしている「バッテリーリーン」で「強くて軽い」ちょうどいいBEVの姿は、日本のEV市場において極めて大きな意味を持つ。

EV普及は、一部の愛好家や富裕層に向けた高価格帯モデルだけでは絶対に広がらない。日常の足として誰もが無理なく手に入れられ、気兼ねなく便利に使える、そんな魅力的で「ちょうどいいEV」の登場こそが、何よりも待望されているからだ。スズキが提示する軽量・高効率なコンパクトEVの思想は、まさに日本の街並みと大多数のユーザーの生活に寄り添った「正解」のポジションにあると感じる。

とはいえ、ここで取材者として最大の疑問として残るのが、「さて、このe SKYの価格は一体いくらで登場するのか?」という点だ。

どれほど「ちょうどいい」パッケージングを実現し、実用的な航続距離を確保したところで、軽自動車として誰もが納得できる現実的な価格帯に収まらなければ、結局のところ市場で選ばれることはない。開発期間の半減を目指し、開発効率30%、生産効率50%の向上を掲げるスズキだが、その開発・生産変革の成果がしっかりと販売価格に反映され、ユーザーの手の届くプライスで店頭に並ぶのかどうか。e SKYの正式な価格や国内発売については10月初旬の発表が予定されている。

スズキが示す「ちょうどいいEV」の真価が問われるのは、まさにこれからだ。BYD「ラッコ」の登場によって注目が集まっている軽EV市場が、e SKYの登場でさらに過熱していくことは間違いない。そしてこの日本発の地道で熱い火種が、国内にとどまらず、やがて世界へと伝播していくことを大いに期待したい。

取材・文/諸星陽一

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限らず、適した能力と性能、好みです。

高速道路をLCCで走っていると、かっ飛ぶ軽ワゴン、コンパクトとかサイズ上げればいいのに、思います。意見分かれるのでしょうね。

トルク豊富なBEV、タイヤサイズとアンマッチに思い、スズキの考え、素直に飲み込めます。

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この記事を読んでいると、なんて耳障りの良い記事なのだろう(目で読んでいるから見障り?:sweat_droplets:)と感じてしまいます。本当の意味でマルチパスウェイが日本でできていれば、違う表現になっていたであろうと思います。

目標が「スピード感」が、日本の製品に感じる「コストカット感」同じようなことにならないように期待したいです。記事中にあるマルチパスウェイということも、今までと変わらないような印象です。

EVを主軸に置こうとした日産やホンダが今のような状態になったのは、「EVそのもの」に原因があるのか、「従来の「クルマ」の枠にハマって」いて売れるEVを作れなかったのか、と思うと私は後者だと感じています。一部の国以外ではEVシフトは進んでいて、その中で「売れているEV」というのはあるので、その方向の中で日本独自のものを打ち出すようなニュースがあれば嬉しいともいます。その中で「EVやPHEVやHEV」などがあるのなら期待したいです。

この気持ちは記事の中にあるスズキだけではなく、しかも車だけの話ではない日本のものづくりの思想も変化してほしいなと思っています。