電気自動車(EV)を「走る蓄電池」として活用するV2X(Vehicle to Everything)の用途が、家庭やキャンプでの電源確保から、集合住宅や大型施設などへの給電へ広がりつつあります。新電元が三相系統連系を実現した新製品の充放電器実証実験の概要をレポートします。
三相電力対応のV2X充放電器による実証実験
2026年9月1日の「防災の日」に、東京都江東区の高層マンションで、EVから建物へ電力を供給し、エレベーターと揚水ポンプを動かす実証試験が実施されました。実証を行ったのは、EV用急速充電器メーカーの新電元工業株式会社、非常用発電設備などを手がける株式会社辰巳菱機、このマンションを所有し運営する株式会社アド・テックの三社です。
今回のポイントは、家庭用V2Hで一般的な単相6kWクラスの機器ではなく、新電元が新たに開発した三相交流200V/10kWクラスのV2Xシステム「EVS010T200B」を使用したことです。EVの電力で照明や家電を動かすだけでなく、エレベーターや揚水ポンプなど、三相電源を使う設備を稼働させられることを実証しました。
2台の電気自動車からマンションへ給電
実証実験の舞台となったのは、東京都江東区の地上12階建てマンション「TEC Residence」です。同マンションは、東京都の「東京とどまるマンション」登録制度で最高ランクの「☆☆☆(三つ星)」に登録され、自家発電設備や太陽光発電、蓄電池、防災備蓄倉庫などを備えています。
このマンションでは非常用電源設備として、合計40kWhの蓄電池と充放電装置を設置しています。太陽光発電設備や非常用ガス発電機も備え、蓄電池とともにエレベーターと揚水ポンプの回路に接続されています。
エレベーターと揚水ポンプはマンション本体の各家庭への電力供給とは別系統になっていて、通常時でも蓄電池や太陽光発電、非常用ガス発電機から電力を供給できる構成です。さらに、荒川の水位などを考慮し、非常用電源設備を建物の3階以上に設置している点も特徴です。
今回の実証では、商用電源や既設の蓄電池、太陽光発電、非常用発電機から切り離した状態で、EVだけを電源として三相電源系統へ給電して、エレベーターと揚水ポンプを実際に同時に稼働させました。
その結果、EVからの給電でも、平常時と同様にエレベーターを昇降させられること、また揚水ポンプを動かせることが確認できました。この「平常時と同様に動かせる」ことが、今回の実証で狙った点でした。
40kWhと91kWhのバッテリーを搭載した2台のEVを電源に
使用したEVは40kWhのバッテリーを積む日産リーフ(ZE1)と、91kWhの日産アリア(ZAA-FE0)の2台。およそ1時間にわたって給電を行い、居住者の利用を想定して重量物を載せたエレベーターを最上階まで昇降させる試験も行いました。
【実証実験の概要】
●電源とするEV:2台
●車載電池容量:40kWh+91kWh
●給電方式:三相交流200V
●出力性能:9.4kW×2台、合計18.8kW
●接続負荷:エレベーター、揚水ポンプ設備系統
●給電時間:約1時間
●実証時最大出力:約10kW
「V2X機器の放電性能は9.4kW×2台なのに、実証の最高出力は約10kW?」と思うかもしれませんね。今回の実証は18.8kWを常時消費するものではなく、エレベーターなど実際の設備を動かしながら、必要な電力(10kW程度)を供給できるかを検証することが目的です。
なぜ「三相10kW」が重要なのか
家庭向けのV2H機器は、EVの電力を個人住宅で一般的な「単相交流」として供給するものです。一方、マンションや商業施設、工場などには、エレベーター、業務用空調、ポンプ、機械式駐車場など、三相交流の電力を契約して利用している設備が数多くあります。
そのため、三相電力を利用する施設でEVを災害時の電源として活用するには、単にEVから電気を取り出せるだけでなく、建物の重要設備へ直接給電できる三相対応のV2Xシステムが必要になります。
今回、新電元工業などが実証したのはまさにこの領域です。このV2X充放電器は、通常時にはEVの充電器(出力は11kW)として使い、停電時にはEVのバッテリーから電力を取り出して、マンションや事業施設の三相設備を動かす非常用電源として利用できます。1台の設備で、「EVを充電する装置」と「EVを非常用蓄電池として使う装置」の両方に活用できるということです。
このV2X充放電器は今年5月にCHAdeMO認証を取得した新規開発品で、7月に発売を開始、令和7年度補正のV2H補助金の対象となっています。
エレベーターや揚水ポンプだけではないV2Xの可能性
今回の実証ではエレベーターと揚水ポンプが対象となりましたが、新電元工業は、機械式立体駐車場や業務用エアコン、業務用冷蔵庫、アリーナ照明、三相式LED照明、電化厨房設備などへの活用も想定しています。
これは、災害時に「最低限の電気を確保する」というV2Hから一歩進み、EVの電力で「建物そのものの機能を維持する」という考え方です。たとえば高層マンションでは、停電時にエレベーターが使えることは居住者、とりわけ高齢者などにとって大きな意味があります。揚水ポンプを動かすことができれば、給水設備の維持にもつながります。
「EV=移動する非常用電源」という発想
EVの大容量バッテリーは、災害時の電源として以前から注目されてきました。今回の実証が興味深いのは、その用途を住宅への給電から、集合住宅の共用設備まで広げたことです。
EVが普及すれば、マンションの駐車場には複数台の大容量バッテリーが存在することになります。平常時には移動手段として使われているEVが、災害時には建物を支える分散型電源になるわけです。しかも固定式蓄電池とは違い、EVは必要に応じて移動できます。文字通り「乗って走れる蓄電池」です。
もちろん、災害時にどの程度の電力を何時間供給できるかは、EVの台数や電池残量、設備の負荷などによって変わります。それでも今回の実証は、「EVのバッテリーでエレベーターを動かす」というV2Xの具体的な利用イメージを示した点で注目できます。
EVが「防災設備」の考え方を変える?
新電元工業は今回のシステムを「産業用V2Xシステム」と位置づけています。家庭用V2Hの単相6kWクラスに対して、三相10kWクラスに対応し、EVの直流電力を三相交流へ変換することで、家電だけでなく施設の電気設備を動かせることが大きな特徴です。
今後EVがさらに普及すれば、EVを単なる「移動のためのバッテリー」ではなく、地域や建物に分散配置されたエネルギー資源として捉える必要性が高まっていくでしょう。「停電したらEVから電気を取る」から、「EVで建物の機能そのものを維持する」へ。今回の実証は、V2XがEVの価値を「走行」以外にも広げ、防災の考え方まで変える可能性を秘めた、興味深い取り組みだと感じます。
新電元工業では、従来からある「災害時なんだから、まずは最低限の機能(設備の稼働)を確保しよう」という考えから一歩進んで、「災害時でも、普段の暮らしの質を守れるようにしよう」と考えて設計してきたそうです。インフラのレジリエンスを高め、災害時でも平常時とほぼ同じ環境を保つ、そうした未来が見えてきました。
取材・文/箱守知己
【関連情報など】
●新電元工業株式会社 ソリューション営業推進部(V2X充放電器製造販売)
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●辰巳菱機 (マンション電気設備設計、運営)
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