約45万円という激安価格で大ヒットしている中国の電気自動車『宏光 MINI EV』。今年になって欧州進出が伝えられていましたが、すでにローンチされていました。名前は『FreZe Nikrob EV』。欧州での価格は9999ユーロ(約130万円)〜です。
ラトビアのニッチなメーカーが導入&開発
電気自動車普及における障壁をギュッと凝縮すると「車種バリエーションの不足と車両価格が高いこと」といえます。昨年、中国で登場した激安EVの衝撃は『45万円で9.3kWh〜中国の電気自動車『宏光MINI EV』が発売早々大ヒット中』という記事でお伝えして多くのアクセスをいただきました。
ベースグレードで2万8800元(当時のレートで約45万円。今日のレートで換算すると約49万円でした)という価格は、理屈抜きに衝撃的。中国ではテスラモデル3と販売台数争いで鎬を削る大ヒット電気自動車となっています。
「欧州に進出するらしい」という情報も、ぼんやりと認識はしていたのですが……。先日『宏光MINI EV』の英語表記である『HongGuang Mini EV』でなんとなくググっていたら、『FreZe Nikrob EV』という車名とともに、「the cheapest EV in the EU」として発売されたことを伝える欧米メディアの記事がいくつかヒット。なんと、2021年4月、すでに欧州でローンチされていたようです。
公式サイトが公開されていましたが、とてもシンプル。欧米メディアの記事で確認すると、『宏光 MINI EV』の欧州進出は中国の上汽通用五菱汽車(SAIC-GM-Wuling Automobile)やGMが直接手がけるのではありません。極度にヘヴィデューティなラトビアの自動車メーカーである『Dartz Motorz』が『FreZe』というEVブランドを立ち上げて、『宏光MINI EV』のプラットフォームを欧州仕様に改良&調整して発売するスキームになっています。『CENNTRO』社の小型商用EVのベースモデルを日本仕様に改良している『ELEMO』の仕組みにも似ています。
『ELEMO』を日本で発売している HW ELECTRO もベンチャー企業ですが、公式サイトを見る限り『FreZe』もまずは心意気先行のベンチャー企業、のようです。
ともあれ、すでに発売されているということは、欧州の安全基準はクリアしていると理解できます。報道によると「3万台の販売を目指す」とありました。4月の発売以降、販売状況はいかがなものか。各種サイトのランキング情報を検索してもベスト10圏内とかには入っていないので、メールで質問を送ってみましたが、まだ返事は来ていません。返事が来たら、追記しますね。
何語で説明されているかすらわかりませんでしたが、紹介動画もありました。
FreZe Nikrob EV – The Cheapest and Bestselling M1 EV in Europe. Video by AutoPilotas
基本的なスペックは中国版とほぼ共通か
欧州仕様の価格は、9999ユーロ(約130万円)〜。公式サイトに「technical data」が紹介されていました。
3サイズは中国仕様と同じ。バッテリー容量は中国仕様の発表値が「9.3kWh」と「13.8kWh」に対して、「9.2kWh」と「13.8kWh」のリチウムポリマー電池となっていて、ベーシックモデルの容量が若干違っています。また、モーターの最大出力が中国仕様では「20kW」ですが、欧州仕様では「13.0kW」になっています。
欧州仕様の公式サイトには一充電航続距離の明示はありませんが、欧米メディアが伝えるところではヘッドライトをLEDに変更するなど効率を上げることで「一充電航続距離が延びている」ということなので、もしかするとモーターの出力をあえて落として消費電力を抑えている、のかも知れません。
使う人の「当たり前」を変えていくことも大切
この点もメールで確認中であり、あくまでも推測でしかないことはお断りした上で。航続距離を稼ぐために「モーターの出力を落とす」というのは、エンジン車の常識からすると少々貧乏くさいというか、ネガティブな選択であるように感じるでしょう。
でも、パーソナルなモビリティを電気自動車にシフトするためには、エンジン車の常識から脱却して、電気自動車の新しい当たり前を受け入れていくということも大切である、と、私自身は長年の電気自動車体験で感じています。
『FreZe Nikrob EV』は『宏光 MINI EV』と同様に急速充電には対応していません。つまり、あくまでも拠点での普通充電で、日常の足として活用するためのクルマです。であれば、0-100km/hを俊敏に加速するような出力は必要ないという判断は、十分に「アリ」と評することができます。
「急速充電ができない」といっても、おそらく、このクルマの使い方として「急速充電が必要なシチュエーションはほとんどない」と考えられます。突発的に、高速道路を使って100km先に急用が、といった場合は困るでしょうが、そういう時はこのクルマで出かけるのではなく、公共交通機関(都市部の場合)やほかの長距離を苦にしないクルマ(地方など一家に複数台所有が多い地域の場合)を使えばいい話です。
日本にも、こういうEVの選択肢が生まれて欲しい
『FreZe Nikrob EV』が欧州で発売された、つまり欧州の安全基準に適合できたということは、日本で発売できる可能性が高まったともいえます。
とそれよりも、今回、ちょっと旬を外してしまったこのニュースを記事として取り上げたのは「数ある日本の自動車メーカーが、日常の足として必要十分な性能を備えた安価なEVを提案してくれないものか」という思いを改めて強く感じたからです。
出光タジマが開発中の超小型EVがもうすぐお披露目されるはずであるのは、とても楽しみにしています。来年の、日産&三菱からの軽自動車も楽しみです。でも、庶民の選択肢はまだ十分とはいえません。先日、ドイツのIAAでフォルクスワーゲンが発表した『ID.LIFE』の記事でも触れましたが、EVのプラットフォームには「スペック設計の自由度」が高く、ひとつのプラットフォームで商用車から4WDやスポーツモデルまで、さまざまなバリエーションを展開しやすい特長があります。バッテリー容量からボディタイプ、駆動方式など、手頃なEV車種バリエーションで「どれを選ぶか」悩める日が来ることを願っています。
また、『FreZe Nikrob EV』の欧州発売を伝える記事に「このクルマはカーシェア企業などに多く導入されて、バッテリーを充電したり交換するのではなく、シェアステーションごとにクルマごと乗り替えていくサービスが構想されている」とも紹介されていました。
始まった当時のフォーミュラEみたいな感じ、ですね。ビジネスモデルとして成立するのかどうかはわかりませんが、面白いと思います。これもまた「常識の転換」といえるでしょう。
日本の自動車メーカーが、常識を打破する手頃なEVを発売してくれることに期待を深める、ヨーロッパからの情報でした。
※記事中画像はFreZe Nikrob EV 公式サイトから引用。
(文/寄本 好則)



