フォルクスワーゲンが約260万円のコンパクト電気自動車『ID. LIFE』を世界初公開

フォルクスワーゲンはミュンヘンで開催されている「IAA MOBILITY 2021」で、コンパクトな電気自動車(EV)『ID. LIFE』を発表しました。都市向けのスモールEV(電気自動車)になる『ID. LIFE』は、2025年までに約2万ユーロで発売される予定です。

フォルクスワーゲンが約260万円のコンパクト電気自動車『ID. LIFE』を世界初公開

2万ユーロのスモールEVが2025年までに登場

フォルクスワーゲンは2021年9月7日、ミュンヘンで開催中のモーターショー「IAA MOBILITY 2021」で、都市部での使用を念頭に置いたスモールカーセグメントの『ID. LIFE』を発表しました。すでに発売されている『ID.3』もそれなりにコンパクトなEVですが、新しい『ID.』ファミリーはそれよりも一回り以上小さなBセグメント以下のサイズになるようです。

まだコンセプトカーであり、EVsmartブログでは原則としてコンセプトカーは取り上げないスタンスなのですが、『ID. LIFE』はフォルクスワーゲンが公表している中長期戦略の重要な要素になるので、今回は特別に紹介したいと思います。

『ID. LIFE』の発売目標時期は「2025年まで」のいつかです。あと3年~4年以内ということになります。価格は約2万ユーロ(約260万円)からと明示されました。フォルクスワーゲンブランドのラルフ・ブラントシュテッター最高経営責任者(CEO)は、次のように話しています。

「『ID. LIFE』は、都会のモビリティにおける次世代の電気自動車に関するビジョンを体現したモデルです。このコンセプトカーによって、2025年に約2万ユーロで発売されるスモールカーセグメントの、ID. モデルの姿を垣間見ることができます」

フォルクスワーゲンがこのコンセプトカーで見せたかったポイントはいくつかありますが、まず外観のデザインに大きな特徴があると説明しています。とてもシンプルにまとめていて、余分な装飾がほとんどありません。窓の形状やドアなど前から後ろに流れるラインは基本的に水平で、すっきりしています。

実は、ぱっと見た瞬間に、「あれ『ホンダe』と似てる?」とも思ってしまったのですが、個人的には好きなデザインです。『ホンダe』のデザインの方向性は、ヨーロッパの主流を先取りしてたのかもしれません。ただ、『ID. LIFE』は屋根を取り外せるので、昔のフィアット『パンダ』っぽい印象もあります。『パンダ』も大好きな車なので、なんだかうれしいです。

大出力と大容量バッテリーのスモールEVになる?

『ID. LIFE』は、フォルクスワーゲンのEV用共通プラットフォーム「MEB」(モジュラー・エレクトリック・マトリックス)のスモールカーバージョンを、初めて前輪駆動(FWD)として使用します。MEBはいろいろなサイズ、駆動方式に応用できるのが特徴で、今後はフォルクスワーゲングループ内で幅広く使われていくことになります。

モーターの出力は172kW(234PS)で、0-100km/h加速は6.9秒と発表されています。『ID.3』は最大で150PSなので、かなり強大なパワーです。街乗りで200馬力はいらんのではないかとも思うのですが、実際の市販モデルでどうなるかはまだわかりません。

バッテリーの容量は57kWhで、1回の充電での航続距離は約400km(WLTP)を目指しています。EVsmartブログが目安として使っている係数(1.121)でEPAモードに換算すると、約357kmになります。

航続距離はパワーとのバランスなので、240PSというスモールカーにしては極悪なパワーを抑えて走れば距離は伸びます。一方で、バッテリー容量を少なくしてパワーも抑えたエントリーモデルもほしくなるのは贅沢な望みでしょうか。

充電ポートがフランク内なので、充電時は全開? コンセプトモデルとはいえ、もう少し詰めてほしいところです。

フォルクスワーゲンブランド開発担当取締役のトーマス・ウルブリッヒは、プラットフォームのMEBについて、「私たちはMEBの可能性を活用し始めたばかりです。パフォーマンス、充電容量、航続距離は、ニューモデルの登場や ソフトウェアの更新とともに、さらに進化し続けます」と言っています。スペック設定の自由度が高いのなら、いろいろな性能、形状の車を出してほしいと思ってしまいます。

まあでも、57kWh搭載モデルが2万ユーロ程度で市場に出てくるのなら、イーロン・マスクがたびたび言及している2万5000ドルの新型EVが数年以内に出てきたとしても、真っ向勝負ができそうです

230Vの電源、ミラーの代わりにカメラ装備

その他の『ID. LIFE』の特徴をざっと見ていきます。

EVsmartブログとして注目したいのは、やっぱりこれ、230V/16Aの電源を装備してることでしょうか。室内でAC電源が使えるのは、災害時のことを考えても有用だと思います。この夏はドイツ西部や、米ニューヨーク市で大規模な洪水があるなど、自然災害は相変わらず増えてる印象ですし。

ドアミラーとルームミラーの代わりにカメラとディスプレイを採用しているのも特徴的です。実は老眼が入っている筆者はこうしたディスプレイ表示が見にくいのでミラーの方がいいのですが、暗くても見えるなど安全性は高まりそうです。

ただ、このあたりのディスプレイが運転席のどの部分に付くのかは、公表されている写真を見ただけではわかりません。まだコンセプトモデル、つまりはアイデアにすぎないので形状について細かいことを言ってもせんないことですが、気になると言えば気になります。老眼でも見やすい位置に付けてほしい!と心から思います。

『ID. LIFE』は、室内に大きなディスプレイはなく、スマホやタブレット端末がクルマと連携して活用するのもポイントです。ディスプレイにスマホを活用するアイデアは、フィアット500EVの普及グレードであるACTIONでも採用されていました。

この他、『ID. LIFE』はボディの塗装に天然着色剤を使用し、ルーフとフロントカバーのテキスタイルは100%リサイクルのペットボトルを使用しています。タイヤもバイオオイルや天然ゴムなどの素材を使用し、持続可能性をアピールしています。

もちろん、販売時にこうした素材をどこまで維持できるかは見通せません。とくにタイヤはコスト抑制の要求が高い部分なので、このまま使うのは難しいかもしれません。このあたりは、フォルクスワーゲンの企業姿勢や社会的な要求がこれからどうなるかに影響されそうです。

それにしても、と感じるのは、『ID. LIFE』のように、コストパフォーマンスが高く先進のコンセプトを携えた電気自動車を、願わくば日本の自動車メーカーが提示してくれないものか、ということです。

コンセプト的には『ホンダe』がまさにそんな車なのですが、いかんせん、『ID. LIFE』の2倍近い価格は高すぎます。発売時期が5年近くも違っているので、電気自動車という新しい製品であれば価格差が大きくなるのは当然かもしれません。でも『ライフ』と言えばホンダだろう、とも思うので、こういうのがホンダから出てこないものかと期待してしまうのです。

スモールEVの生産はスペイン工場か

フォルクスワーゲンは2021年5月3日に「ACCELERATE」戦略を発表し、2030年までにフォルクスワーゲンブランドのヨーロッパでのEVの割合を、70%以上にする目標を明らかにしました。同じ時期に、アメリカと中国では50%以上にすることを目指します。

目標達成のために、毎年、少なくともひとつのEVを発表することを計画しています。今年は『ID.4 GTX01』や『ID.501』などが予定されていました。

その後、7月14日には2030年までに経営戦略『NEW AUTO』を発表し、EV用の新しいプラットフォームの方向性やバッテリーの生産計画を明らかにしています。

【関連記事】
フォルクスワーゲンが2030年までにEVシェア50%とするプランを発表~電動化で利益率向上へ(2021年7月21日)

『NEW AUTO』の中では、『ID. LIFE』が発売を目指す2025年がひとつの区切りの年に位置付けられています。たとえばグループ企業で2025年までにグループの基幹ソフトウェア『E3 2.0』を開発しOTAや自動運転のレベルを向上させること、2025年までにヨーロッパで約1万8000カ所の公共急速充電スポットを設置、運営することとしています。

バッテリーに関してはより具体的に、2025年までに中国の『Gotion High-Tech』(国軒高科)とともにドイツ・ザルツギッターでバッテリーセルの工場を稼働させるという目標があります。

加えて『NEW AUTO』では、2025年からスモールEVファミリーをスペインで生産する計画も発表されました。『ID. LIFE』のリリースに工場の記載はないのですが、もしかするとスペイン工場で車体、バッテリーが作られるのかもしれません。

搭載するバッテリーについては、車種によって、エントリーモデルはリン酸鉄、ボリュームゾーンはマンガン、プレミアムモデルはニッケルという使い分けをすることも明らかにしています。『ID. LIFE』がどのグレードになるかはわかりませんが、価格を考えるとリン酸鉄の可能性はありそうです。

いずれにしても、すでに発表されている経営戦略と、今回の発表を重ね合わせると、『ID. LIFE』の具体像がよりはっきりするように思います。発売まではまだ少し時間がありますが、フォルクスワーゲンはこれまでも電動化に関わる戦略を前倒ししてきています。今後の社会情勢や経済環境、バッテリー調達状況などによっては、変更があるかもしれませんね。

(文/木野 龍逸)

追記(2021年9月10日 22時11分)

日本時間9月10日夕方に、フォルクスワーゲンから新たな『ID. LIFE』のリリースが出ました。この中で車のサイズなどスペックのデータに追加があったので、追記します。

スモールカーと言いつつ幅が1800mmを超えているのは、最近の車っぽいですね。タイヤのサイズが20インチというのも、流行でしょうか。タイヤが大きくなると電費が落ちるので、発売時にどうなるかですね。

ID. LIFEスペック(コンセプト)
全長×全幅×全高(mm)4091×1845×1599
ホイールベース(mm)2650
タイヤ235/45 R20
最大出力172kW(234PS)
最大トルク290Nm
バッテリー容量57kWh
一充電航続距離(WLTP)最大400km
一充電航続距離(EPA推計)約357km
0-100km/h加速6.9秒
最高速度180km/h

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 購入候補にノミネートします。外観、内装デザイン性も最高!後はV2Hに対応すれば完璧!

  2. 詳細わかりませんが、57kWhで260万円は、たぶん究極的なところかという気がします。ただ、安かろう悪かろうで電池の急速充電対応性がどうか(もちろん超高出力充電インフラ整備とセットでしょうけど)とか気になります。あまりシンプルに期待しすぎない方がいいような…
    なお、タイヤサイズは大きい方がゴムの変形量が少なくなってエネルギーロスが減るので電費が良くなる、と、BMWのi3リリースの際に聞いたような気がするのですが、反対でしたでしょうか?

  3. VWは商売上手ですね。数年先の電池コスト低下を見込んで57kWhで260万程度とは恐れ入ります。電池のキロワット当たりコストが1万円そこそこになっている予想ですかね。
    アリア91kWh版も数年後は400万円台で買えるようになってほしいものです。

  4. ホンダeのいいとこ取りって、節操のなさ(良い意味で)はどこかの国の大企業みたいで感心してしまいました。ホンダはすでに実車が有るのですからID.LIFEのいいとこ取りをして廉価版なり高性能版を出せばいいと思います。消費者は大喜びするはずです。

  5. 幅が1800mmでも駐車場で車外に出にくいと感じるのに、「全長を短くすればスモールでしょ」みたいな風潮ほんと勘弁してほしい。
    衝突安全性能とかバッテリー搭載場所の確保とか理由があるのは分かるんだけど。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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