『フォーミュラ E』が電欠?〜メルセデスなどが相次いで撤退する理由とは【赤井 邦彦】

電気自動車のフォーミュラカーによる『Formura E』は、2020-2021シーズンにFIA世界選手権に昇格したばかり。ところが、アウディやBMW、メルセデスなどが相次いで撤退を発表しました。いったい何が起きているのか。モータースポーツジャーナリストの赤井邦彦氏に寄稿いただきました。

『フォーミュラ E』が電欠?〜メルセデスなどが相次いで撤退する理由とは【赤井 邦彦】

フォーミュラEはどこへ行く?

ふたりの男がレストランのテーブルでナプキンに描いた夢が現実になった。ふたりの男とはFIA会長のジャン・トッド、もうひとりはスペインの実業家アレハンドロ・アギャグ。ナプキンに描かれたのは電気でモーターを動かして走るフォーミュラカー。つまり、アギャグのアイデアによるフォーミュラEの原型だ。トッドはそれに直ぐに飛びついた。

もしかしたらF1の未来の形かもしれない。よし、二人してこのクルマが走るレースを作ろう。

2人の男の夢が実現したレース

その夢が現実になって、2014年にフォーミュラEが誕生した。アギャグがフォーミュラEホールディングス(FEH)を設立してCEOに就任。クルマを作り、バッテリーを調達し、モーターを揃えた。トッドはFIAを動かしてルール作りを進め、あれよあれよという間にフォーミュラEの形が出来上がった。

時代が2人の夢を後押しした。アギャグのアイデアの重要な点が、世界の大都市の真ん中でレースを行うことだった。爆音が無く排ガスをまき散らさないフォーミュラEは都市部でレースを行える。これまでは街から遠いサーキットまで行かないと見ることの出来なかった世界最高峰の自動車レースが、いつもの街角で行われる。排ガスを出さないから街は綺麗なまま。CO2を撒き散らさないから地球環境への悪影響もない、というのがスローガンだった。このキャッチフレーズに飛びついた都市はいくつもあった。

記念すべきシーズン1の第1戦北京E-PrixはAUDI SPORT ABT のルーカス・ディ・グラッシが優勝を飾った。

バッテリーは現在もワンメイク

そうして始まったフォーミュラEレース。F1や他の重要なレースと日程が重ならないように、スケジュールの立て方を工夫をし、年をまたいでシーズンを戦う。初年度は2014年から2015年。現在は2020〜2021年の第7シーズンが終了したばかりだ。

振り返って見ると、初年度はシャシー、バッテリー、モーター、トランスミッションすべてがワンメイクで、チームは技術的な改良が出来ず、勝負するにはレース戦略を練るかドライバーに任せるしかなかった。それが年を追って規制が緩和され、第2シーズン以降はパワートレイン(MGU=モータージェネレーターユニット、インバーター、トランスミッション)の独自開発が可能になった。しかし、バッテリーは初年度から現在までワンメイクが続いている。

フォーミュラEの、というかEVの心臓はバッテリーだ。量産EVでは自動車メーカー間で電池メーカーを巻き込んでの開発競争が激しいが、その開発には莫大な費用がかかる。初期のフォーミュラEではそれが可能なチームはないし、ましてやコストカットが叫ばれている中、各チームが独自のバッテリー開発に乗り出すことはまず不可能だった。

FEHはそこを見越してワンメイク・バッテリーの採用を進めた。採用するバッテリーは入札で取り決め、これまで『ウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリング』、『マクラーレン・アプライド・テクノロジー』が採用されている。いずれもF1関連の会社だが、これらのメーカーが担うのはバッテリー・パッケージの開発で、肝心のセルは韓国製やスイス製が使われてきた。

しかし、ワンメイクとは言えバッテリーの進化は素晴らしいスピードで進んできた。2016〜2017年の第4シーズンまでは電池容量が25kWhと小さく、途中充電なしでは45分間のレースを走りきることが出来なかった。そこで、チームはひとりのドライバーに対して2台のクルマを用意して、レース途中で乗り換える奇策を採用していた。

それが第5シーズンからは電池容量を約2倍の54kWhとして、レース途中で乗り換えなくても1台のクルマで走りきれるようになった。これでフォーミュラEも本来の自動車レースの姿に近づいたといえる。

自動車メーカーの参戦増加

Audi Sport ABT Schaeffler

バッテリーの独自開発こそ出来ないが、その他のパワートレイン等の開発が自由になった第2シーズンからは自動車メーカーの参戦も増えてきた。初年度から技術支援を行っていたアウディ、ルノー(第5シーズンからニッサンに継承)は独自のチームを所有するようになり、そこにマヒンドラ(インド)、DSオートモビルズ、NIO(中国)、ジャガー、BMW、ポルシェ、メルセデスなどが参入して来た。

自動車メーカーの参入は量産EVの技術開発に繋げるためだが、彼らの参戦は将来のEVに欠かせない技術を持った部品メーカーがフォーミュラEに多く参入して来る(来ている)ことを知っているからでもある。部品メーカーとの協業抜きには将来のEV開発は不可能であることは自明の理で、そのために自動車メーカーは数多くの優れた技術が投入されるフォーミュラEという舞台に上がることを選んだのだ。

優れた部品メーカーといえば、例えば日本の半導体メーカーであるローム社。同社は独自に開発したSiC(シリコンカーバイトデバイス)をチームに提供して、インバーターの効率を大きく進化させ、パワーマネージメント面の画期的な進化を助けた。ローム社にしてみればフォーミュラEは、厳しい条件下における自社技術の評価、将来の開発の方向を知ることが出来る絶好の試験場。そして、優れた半導体を求める自動車メーカーとのビジネスの拡大を望めるステージである。こうした条件が揃って自動車メーカーの参入が増えてきたのがフォーミュラEの実状だった。

Mercedes-EQ

ドイツメーカーの相次ぐ撤退表明

2014年のシリーズスタートから2021年の現在まで、フォーミュラEは確実な進化を遂げ、自動車メーカーはもちろん、様々なEV関連企業が参入してきた。アレハンドロ・アギャグの目論見は見事に当たったといえる。

しかし、ここに来てその展開に少し翳りが見え始めた。顕著なのが自動車メーカーの撤退だ。初年度からフォーミュラEを支えて来たアウディが第7シーズン限りで撤退を表明すると、BMWもそれに続き、メルセデスも同様の動きを見せてきたのだ。

BMW i Andretti Motorsport

ニッサンとポルシェは活動継続を発表しているが、アウディ、BMWの撤退に続きメルセデスもとなると、フォーミュラEが受ける衝撃は大きいものがある。

撤退する自動車メーカーの言い分は、フォーミュラEでやるべき事はやり尽くした、というもの。つまり、これ以上活動を続けてもそこで得られる技術を量産車に活かす機会がないということだ。つまり、量産EV開発に向けてフォーミュラEが担った技術開発の意義や価値はそれほど大きくなかったということだろう。

もちろん、自動車メーカーが撤退する理由はこれだけではない。モータースポーツはエンターテインメントでもあり、それを観戦したファンを虜にするものでなければならない。それは、自動車メーカーに取れば潜在ユーザーであり、彼らを惹きつけておくにはファンに喜びや楽しみを与えるエンターテインメントでなければならない。

この点で、フォーミュラEは少し熟慮が足りなかったのではないかと思う。環境保護、持続可能性、技術開発といった事柄に雁字搦めにされ(というか、そこに絞り込んだのがフォーミュラEだった)、エンターテインメント性を忘れていたのかもしれない。フォーミュラEのレースは観戦してもつまらない、という意見が多かったのは事実であり、何が足りないのか主宰者はもっと真剣に考えなければいけなかったように思う。

日本開催の可能性は?

とは言え、アウディが去っても、BMWやメルセデスがいなくなっても、チームが活動を止めるわけではなく、また新しい自動車メーカーなり電器メーカーなりが参入して来てチームと手を組んで活動を継続するはずだ。

フォーミュラEのコンセプトは間違ってはいない。ただ、そこには余りに多くの要素を詰めすぎた気がする。主宰者はそれを今一度解体し、必要なものだけを残してスリムにする必要があるだろう。アウディとBMW、メルセデスが撤退した理由を分析し、次に繋げなければいけない。そしてなにより、観客やファンにとってフォーミュラEというレースが見て楽しめるものにならなくてはいけない。

さて、最後に日本におけるフォーミュラE開催の可能性はあるのか? 私自身、誘致に向けた活動の取材を続けてきたが、現状では「なし」と言うのが答だ。少なくとも東京での開催は可能性なしとみている。現在の日本の行政にはとても市街地でフォーミュラEレースをやるだけの柔軟性はない。

フォーミュラE主宰者のFEHに尋ねると、「東京は魅力的だったが、手続きが余りに煩雑で、もうやる気は起こらない。いまは世界中により魅力的な場所(都市)がいくつもある」という返事。FEHにそっぽを向かれては叶わぬ夢だ。

※Photo/ABB Formura E Official site

(文/赤井 邦彦)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. FE、競技をする側は速度が遅いだけでレースと舌は成り立っているのでしょう
    しかし、見る側のつまらなさとして
    抜きつ抜かれつはあるものの、市街地コースの狭さと角度のせいもあってか
    2ワイズなど見られず、突っ込みだけの教科書的競り合いで、魅力がない
    そして、FOM(F!機構)が言う様な、音が大きいことなど必要はないが
    ギア唸りなのかギューンという音が大きくなったり小さくなったりするだ
    シフトアップ・ダウンなどドライバーが何をしているかわからず、ラジコンカーレースのよう
    これでは見る気が失せる

    1. 何年か前にテレビで観たが迫力に欠ける。モーター音が寂しく唸っている。モータースポーツに静けさは似合わない。環境問題にこだわるならEVは不向きだろうな。

  2. そもそもFEは面白くないんですよね
    F1がつまらなくなったと言われてから随分経ちますけどその今のF1より遥かにつまらない
    つまらないから宣伝効果もない
    開発制限のせいで技術開発の場としても微妙
    そりゃ撤退しますよね
    EVでレースをやるなら箱車でやった方がいい
    あるいはラリーとか

  3. 撤退するアウディとBMWや継続するポルシェもWECへLMDhでの参戦表明しているし、メルセデスも撤退するならWECへ(できればLMDhではなくLMHで)参戦したらますます群雄割拠で面白そう。

  4. 大メーカーの撤退?

    嫌、メーカー間のEV戦争が始まり!
    流石に、レースとの掛け持ちはキツいのでは?(笑)

    何れ、戻ると考えますが!

    レースは、やはり!何処かに遊びの感覚を覚えますね!
    片手間では無いが!遊び心かな?

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この記事の著者


					赤井 邦彦

赤井 邦彦

1951年生まれ。1977年から続けるF1グランプリの取材を通して世界中を旅し、様々な文化に出会う。若い頃は世界が無限に思えたが、経験を積んだいま世界も非常に狭く感じる。若い人は世界へ飛び出し、勉強や仕事だけでなく無駄な時間を過ごして来て欲しいと思う。その時には無駄だと思っても、それは決して無駄ではないことが分かるはず。 2014年、フォーミュラE誕生に伴って取材を始め、約5年間同シリーズをつぶさに見てきた。その結果、フォーミュラEの価値は大いに認めるが、当初の環境保護、持続可能性といった理念から少し距離が出来たように感じている。こうした、レースそのものよりも取り巻く状況に目を向けることが出来た取材は貴重だった。