日本は水素燃料電池自動車に投資するんでしょ?電気自動車との違いは?

結論:日本は水素燃料電池自動車だけに投資すると決めたわけではありません。水素自動車にも電気自動車にも経済的・技術的課題は山積みですが、電気自動車は2017年ごろをめどに、補助金抜き400万円で実際に320km走行できる実用車が見えてきています。

昨今の水素ブームを見聞きしていると、世の中はガソリン自動車からハイブリッドへ、そして電気自動車がちょっとだけブームになって最終的には水素燃料電池自動車に移行するかのように錯覚します。マスコミの取り上げかたも、水素燃料電池自動車のほうが多いらしいですね(私はテレビを持っていないので伝聞です)。この記事では水素燃料電池自動車(=水素自動車、FCVともいいます)と電気自動車を比較してみたいと思います。

目次

燃料電池車と電気自動車に関する補助金と予算額

昨年、日本初(米国ではすでに現代自動車が燃料電池車SUVを発売しています)の燃料電池車であるミライが発売されました。723万円のミライの購入に対すし、202万と非常に高額の補助金も決定しました。東京都のように国の補助金(次世代自動車振興センター)に追加でミライに補助金を出す地域もありますが、基本的には723-202=521万円で購入できることになります。電気自動車に対する補助金は、最も高額なものでもテスラモデルSの85万円と、電気自動車のほうが圧倒的に少なくなっています。水素ステーション建設の補助金は1か所あたり1億5千万から2億8千万、対する電気自動車の充電設備設置の補助金は大きいものでも1基あたり400万。こう見ると水素燃料電池自動車関連の補助金のほうがずっと多そうに思えます。

国の予算規模でも比較してみましょう。まず電気自動車インフラ関連は、充電設備関連の2015年度予算が300億円です。燃料電池車インフラ関連は、水素ステーションの2014年度補正予算が96億円。また、車両そのものに対する補助金の予算は実は電気と水素は共通で、2015年度予算は計200億円なのですが、ミライの2015年の年間生産台数は700台程度とされているので、燃料電池車の購入に対する補助金額は総額14億円余り。残りの185億円はすべて電気自動車やプラグインハイブリッド向けの予算なのです。

このように見てみると、税金の投入額に関して言えば、まだまだ電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及のための投資が大きいことが分かりますね。

水素燃料電池自動車の仕組み

そもそも水素燃料電池自動車はどのような仕組みで動くのでしょうか?水素を入れると水が出てきて走る。そんなイメージを持っている方が多そうですね。水素燃料電池自動車は、水素を空気中の酸素と反応させて電気を起こし、その電気をバッテリーに貯めつつモーターで走行する車です。小さな発電所を車の中に持っていて、その電気で走る電気自動車の一種なんですね。この発電所のことを燃料電池といい、燃料電池はガソリンエンジンのように急激な加速・減速の変化ができないことから、発電した電気をバッテリーに貯め、燃料電池の電力とバッテリーの電力が力を合わせてモーターを駆動します。燃料電池からは排気ガスは出ず、水蒸気イコール水しか排出されません。

水素燃料電池自動車は、燃料として気体の圧縮水素を使用します。この水素、22.4リットルで2gしかなく、地球上で最も軽い気体と言われています。2gだと300mくらいしか走れません(笑)ので、700倍に圧縮して、700気圧のタンクにいっぱいに詰めます。例えばミライなら4.3kgで650kmを走行できるのです。この作業を充填といい、通常のガソリンスタンドではなく、専用の水素ステーションで行う必要があります。2015年3月末現在の水素ステーションは全国に12か所あり、高圧ガス保安法の対象となりますので、現時点では有人である必要があり、セルフはありません。

ミライの水素タンクは2本あり、700気圧という超高圧のため円筒形をしており、これがそれなりに場所を取っています。バスなどの大型の車両では床下に収納ができず、日野自動車のFCVバスでは屋根に8本の水素タンクを配置しています。

水素の充填は約3分でできますが、水素は気体のため、液体であるガソリンのように流し込んで終わりではありません。ステーションにある高圧のタンクと、中身が減ってしまった自動車のタンクをつなぐと、水素がステーション側から車側に流れ込み、圧力が均衡することで充填します。このタイミングで車のタンク内は温度が上がってしまうので、タンク素材のCFRPの限界85℃を超えないようにするため、ステーション側ではあらかじめマイナス40℃まで水素を冷却し(プレクール)充填しているのです。なかなか高度な仕組みですね。こちらの資料(英語スライド)に参考になるルックアップテーブルなどが掲載されていますが、実際には実験で求めたデータから近似式を用いて制御しているのだと思われます。

水素の価格は現在1kgあたり1000円(ENEOS)から1100円(イワタニ)とされていますので、仮に1000円で充填できたとして、ミライで満タン4300円。これで650km走るのですから、ガソリン車と比較すると、リッター130円として約20km/l。ちなみに650kmというのはカタログ値(JC08)ですから、経済性はほぼガソリン車と同等か安いと言えますね。現時点では、この金額では原料代だけで完全な赤字だそうなので、どこまで維持できるかは未知数です。

水素の製造方法

さて水素ステーションで水素を低価格で充填できることは分かりましたが、実際に水素はどうやって作るのでしょうか。

水素の製造方法には大きく分けて二つあり、メタン(=天然ガス・都市ガス)やプロパン(=LNG・LPガス)の水蒸気改質と、水の電気分解です。メタンは石油の一種ですが気体であり、関東では都市ガスに利用されています。これに水蒸気を高温で反応させるとメタンがバラバラになり、水素と二酸化炭素が生成されます。メタン1に対し、水素4、二酸化炭素1の割合です。そもそもメタンを始め石油は地球上で長年かかって炭素と水素が結合してできたもの(炭化水素)なのですが、それを分割して水素を取り出そうというわけです。メタンは、そのままエンジンで燃やして天然ガス自動車を走らせることもできます。メタンを改質して水素を作って燃料電池車を走らせても、燃やして天然ガス自動車を走らせても、結果としては水と二酸化炭素が排出されます。

取り出した水素をそのまま利用できる水素ステーションをオンサイト型と呼び、水素を運んできて充填する、ガソリンスタンドのようなステーションをオフサイト型と呼びます。オンサイト型は大量のメタンを必要とし、熱もかなり発生しますので、どうしても大規模になりがちです。

水蒸気改質はメタンだけではなく、ガソリンやナフサ、LPGなどからも可能です。どれもメタンと同様、水蒸気を反応させて水素と二酸化炭素を取り出します。ちなみに都市ガス(メタン)の料金は消費者価格で1m3あたり130円くらい。これを20℃くらいと仮定すると1m3 @20℃=0.9318Nm3。メタン1に対して水素は4作れますから、332.8g作れることになります。すると、水素1kgの製造原価は130 x (1000/332.8) = 約391円となります。なお、大阪ガスが販売開始した水素発生装置HYSERVE-300では0.36Nm3の都市ガスで1Nm3の水素が作れますので、1kgの水素=11.2Nm3ですから、必要な都市ガスは0.36 x 11.2 = 約4Nm3、20℃に換算すると約4.3m3ですから、HYSERVE-300で製造すると、水素1kgの製造原価は130 x 4.3 = 559円となり、当然ですが上記の理想的な計算より約30%ほどロスがあることになります。

面倒な計算が続きましたが、都市ガスから考えた場合、出来上がった水素を燃料電池車に充填するための700気圧までの圧縮と、マイナス40℃までのプレクールに必要な電気代、そして水素ステーションの場所代と人件費などは559円の計算に入っていません。水素1kg 1000円は天然ガスという化石燃料を使った場合、二酸化炭素を排出するだけでなく、日本国内ではビジネスとしても継続不能に近い仕組みだということが分かります。

※LPGで計算してもほぼ同等か、より高くなりました。

電気分解はどうでしょうか。電気分解は水に電気を流すと、水素と酸素が発生するという反応です。この水素を燃料電池で酸素と反応させるとまた水ができます。そうです、電気分解は、燃料電池への充電のような反応なので、取り出せるエネルギーと同等以上の電力が必要となるのです。永久機関じゃないですからね。例えばホンダのSHS2ソーラー水素ステーション(注、学術的な資料です)の資料や発表資料などを見てみると、おおよそ60kWhで1kgの水素を製造・充填できるとあります。ちなみに全部東京電力の昼間電力で賄うと仮定すると、水素1kg製造あたり60kWh x 30円/kWh = 1800円となり、電気代だけで街で売っている水素1000円/kgの1.8倍の値段になってしまいます。つまり、電気分解は商用の電力で行った場合はコストが合わず、基本的には太陽光や風力などの再生可能エネルギーで賄うべきということになります。

別の見方をしてみましょう。60kWhの再生可能エネルギー由来の電力で、水素自動車のミライは151km走行でき、電気自動車のモデルSは300km走行できます。

もちろん、再生可能エネルギーの買取価格は太陽光で安くても27円/kWh程度となりますので、60kWh発電して売電したら、買取価格は1620円もらえます。太陽光発電を所有している場合、発電した電力で1kg水素を充填して151km走行するか(1000円相当)、発電した電力を売電して1620円もらうかの選択となるわけですね。

ここまでのお話しで、水蒸気改質も、電気分解にもそれぞれ課題があることがお分かりいただけたと思います。まとめてみましょう。売価1000円分、1kgの水素を製造すると仮定します。これには、前述のように700気圧までの圧縮・マイナス40℃までのプレクール、場所代や人件費は入っていません。

方式機材概算製造原価/1kg二酸化炭素排出その他課題
水蒸気改質HYSERVE-300559円あり化石燃料が必要
電気分解(系統電力・昼間)SHS21800円発電所から排出ありなし
電気分解(再生可能エネルギー)SHS20円なし電力を売電すれば1620円もらえる

参考:水素ステーションの安全性に関する経済産業省の資料(2015年2月)

燃料電池車と電気自動車の比較

最後に次世代自動車として、水素燃料電池自動車(FCV)と電気自動車(BEV)を比較してみたいと思います。

現時点で、「普通の車と同等に乗れる」という意味では、残念ながらどちらも失格ですね。FCVは水素ステーションが存在しない県もありますし、BEVは今までの記事でも書いてきたように、充電計画なしで長距離の移動が難しくなります。プラグインハイブリッド車(PHEV)が、現時点では次世代自動車としてはベストな選択と言えると思います。

ちょっと待ってください。

  • PHEV=ガソリンタンク+ガソリンエンジン+バッテリー+モーター(バッテリーへの外部給電可)
  • FCV=水素タンク+燃料電池+バッテリー+モーター(バッテリーへの外部給電不可)

じゃなかったでしたっけ?それでは、

  • FCPHEV=水素タンク+燃料電池+バッテリー+モーター(バッテリーへの外部給電可)

ってのはできないのでしょうか?

もちろんそれも技術的には可能なのです。そうすれば、水素ステーションがないところでは結局走行できませんが、自宅近辺では水素を使わず家庭の電力で走行でき、圧倒的に水素代を浮かすことができます。現時点では、FCVの水素タンクはまだまだ大きく燃料電池のコストもバッテリーのコストも高いため、バッテリーが多めになるFCPHEVはまだ先の話になると思われます。

ではもっと先、政府が水素インフラにもっともっと投資をして、現在の電気自動車と同様、国内どこでも水素を充填できるくらいまで、水素ステーションを充実させるとどうでしょう。国内ガソリンスタンド3万に対して電気自動車・PHEV用の急速充電器は5千ですから、水素ステーション5千か所と想定します。一か所現在は4億円かかるのですが、半額くらいになると考えて、一か所2億円を投資します。すると総投資額は1兆円ですね。

政府は水素・燃料電池戦略ロードマップでは、2020年代半ばをめどに、海外からの水素輸入をベースとして大規模な水素供給を行う計画のようです。確かに上で計算したように、石油を輸入に頼る日本がその石油から水素を作るより、海外でまだ利用されていないエネルギー源、例えば褐炭のように、そのままでは日本に輸送して運べないが、その場で燃やして発電→水を電気分解→水素を作れるものを活用するのであれば、もう少しコストは下げられるかも知れません。ただし、この場合は水素は何らかの方法で液体等にして、タンカーで日本まで運んでこないといけないのです。

水素はそういう意味で、石油に依存しない代わり、輸入水素に依存するエネルギーでもあるといえます。石油の輸入が日本経済のバランスシートを大きく崩している今、同様に輸入水素に頼る計画が、有益であるかどうかは検討の余地があるのではないでしょうか?

BEVはどうでしょうか。現在、85kWhのバッテリーを搭載するテスラモデルSは、テスラ独自のスーパーチャージャーが展開できれば、ほぼ実用レベルに達していると言えると思います。マンションなどの駐車場への自宅充電設備の展開など、まだまだ課題はありますが、1兆円かかるほどの大規模な投資は必要ないと思われます。

問題はバッテリーのコストです。テスラはパナソニックからバッテリーを購入していますが、2017年をめどにギガファクトリーをパナソニックと共に完成させ、年間50万台のBEVに搭載できる量のバッテリーを、現在のコスト、1kWhあたりおおよそ200米ドルの3割減で生産するとしています。このギガファクトリーは2020年には年間35GWh分のバッテリーを生産する予定としていますが、これは2013年の世界中のリチウムイオン電池の総生産量と同じです。またEV Obsessionによれば、ギガファクトリーの大きさはボーイング社の工場と同じくらいのサイズであり、東京ドームちょうど10個分くらいとされています。

もし320kmを現実的に航続可能な2017年の「テスラモデル3」が50kWhのバッテリーでリリースされると仮定すると、想定電費は(実際使うのは90%の45kWhとして)、140Wh/km。米国基準の現行モデルSがおおよそ187.5Wh/kmですから、小型化と軽量化、タイヤの低転がり抵抗化により達成可能かどうかギリギリ、、というラインかと思われます。この場合のバッテリーのコストは50 x $140 = $7000、すなわち日本円にしておおよそ84万円となります。これを補助金抜き400万の車に搭載するわけですからなかなかコスト的には大きいと言えますが、しかしそれでも実現可能な数値ではないでしょうか?

このように考察を重ねてみると、以下のことが分かります。

  • 現在のガソリン車と全く同じ使い勝手が必要であれば、PHEVはベストな選択である
  • BEVは現時点でも、多少高額ではあるが、自宅充電とスーパーチャージャー・ネットワーク(もしくは同等の100kW級急速充電設備)が完成すれば、ほぼ実用上問題ないレベルにある。また2017年には400万円前後で320km走行できる実用車が発売される技術的見込みがある。
  • 燃料電池自動車は、現時点では水素ステーションが少なく、営業時間も限られ、水素ステーションの収益性にも疑問符が残る。将来に渡っても、ロードマップは存在するものの、技術的にも経済的にも「絵に描いた餅」状態であり、2025年になっても成功するかどうか分からないレベルにある。