東名300km電費検証【01】BYD『ドルフィン』の実用電費計測〜冬はちょっと苦手?

市販電気自動車の実用的な電費性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ企画を始めたい。第1回は、BYDが「コンパクトEVの決定版」と謳う『ドルフィン』の電費計測を行った。厳寒期である1月の計測となったため電費を伸ばすには厳しい状況だったのだが、果たしてその結果は!?

「東名300km電費検証」企画について

航続距離が「短い」とされる電気自動車の真の実力を炙り出すため、勾配もカーブもある高速道路で「生きた」電費を計り、読者の皆さんの参考になるデータや事実を導き出したいという試みだ。これから様々な車種で同様に検証していくが、まずは基本ルールを説明しておこう。

【計測方法】

高速道路でACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を使用し、80km/h、100km/h、120km/hの各速度で巡航した電費を計測する。ACCを使用することで、誰でも一定速走行を実現しやすく、読者の皆さんの再現性が高いデータを得られる。計測区間に入ったらすぐにACCを巡航速度に合わせ、電費をリセットして計測区間終了直前の電費を記録する。

なお、車両のメーター速度表示と実際の走行速度には差があるため、GPS(スマホアプリ)で実速度を確認しACC設定速度を調整する。そして計測は、一般車が少なく渋滞が発生する可能性の低い深夜に実施する。エアコンは23度でオート設定を基本に常時オンにする。

【計測区間】

120km/h巡航時の電費を計測するため、東名〜新東名を使用する。標高差による電費の有利不利を均すため、同じ区間を同じ速度で往復する。その区間の往復電費は、往復の距離を往路と復路で消費した電力で割って求める。

実際の制限速度を踏まえ、かつ各速度で往復の走行距離を約100kmに合わせるため、下記の5区間を設定する。つまり、東名川崎ICから新東名の新静岡IC間(約147km)を往復する検証ルートとなる。

区間名場所巡航速度距離標高差
A区間東名川崎IC

標高47m

厚木IC

標高22m

100km/h27.4km25m
B区間厚木IC

標高22m

秦野中井IC

標高107m

80km/h15.1km85m
C区間秦野中井IC

標高107m

御殿場IC

標高454m

80km/h33.6km347m
D区間御殿場IC

標高454m

駿河湾沼津SA

標高138m

100km/h23.3km316m
E区間駿河湾沼津SA

標高138m

新静岡IC

標高71m

120km/h47.8km67m

検証ルートにおける巡航速度別の区間距離は以下の通り。

●80km/h巡航区間距離:片道48.7km、往復97.4km

●100km/h巡航区間距離:片道50.7km、往復101.4km

●120km/h巡航区間距離:片道47.8km、往復95.6km

【目標電費の設定】

計測結果では、各区間で「目標電費」を達成できたかどうか確認していく。目標電費とはその車種で公表されている駆動用バッテリーの容量で、WLTC値のカタログスペックで示された一充電走行可能距離(航続可能距離)を割った数値とする。

ただし、一般的な市販EVにおけるWLTC値の航続可能距離は、エアコンを使用して高速道路を時速100kmで走行するといった実用値としては、おおむね8割程度になることが確認されていることは、EVユーザーとしては理解しておくべき。そのため、EVsmartブログで新型EVを紹介する際などは、より実用に近いとされるアメリカのEPA値、もしくはWLTC値に0.8を乗じたEPA換算推計値を紹介することを原則としている。

とはいえ、この検証はカタログスペックで示されている電費と実用電費の違いを確認するため、あえてWLTC値を基準とした目標電費を設定することとする。

BYD『ドルフィン』電費性能の実力は?

ドルフィンは「ドルフィン」(以下、スタンダードとする)と「ドルフィン ロングレンジ」(以下、ロングレンジとする)の2グレードが用意されており、バッテリー容量と一充電走行距離(WLTC値)が異なる。一充電走行距離をバッテリー容量で割った電費(目標電費)はスタンダードが8.91km/kWh、ロングレンジは8.13km/kWhで、この数値を上回れば、一充電走行距離を実現できることになる。

今回の目標電費

一充電走行距離

km

電池容量

kWh

目標電費

km/kWh

**スタンダード**
40044.98.91
**ロングレンジ**
47658.68.13

今回は両グレードともに計測を実施した。各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤字(&太字)にしている。

【今回の計測結果】

スタンダード

ロングレンジ

筆者は今までにも他媒体の記事で同じ計測方法による様々なEV車種の検証を行ってきたが、目標電費超えが1区間だけ(C区間の復路)にとどまったのはドルフィンが初めてだった。勾配が下りであるD区間の往路、B・C区間の復路と往復は全ての車種で目標電費を超えていた。この結果は外気温が10度ほどと低めだった冬季の計測による不利な状況が影響したのだろうか。

往復電費は80km/hのB・C区間はわずかにロングレンジの方が良く、100km/hのA・D区間はスタンダードの方が良い。120km/hのE区間に至っては両グレードともに4.63km/kWhと全く一緒になった。ACCによる巡航走行の場合、グレードによる電費の差はほぼないと言える結果だった。

高速道路で冬の航続距離は6掛け想定が無難

各巡航速度の電費は下記の表の通りだ。「航続可能距離」は実測電費にバッテリー容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は、スタンダードの400km、ロングレンジの476kmとするカタログスペックの一充電走行距離に対して、どれほど良いのか、悪いかだ。総合電費は、スタンダードが5.42km/kWh、ロングレンジが5.41km/kWhとほぼ同じ数値になり、「一充電走行距離との比率」はどちらも60%台に落ち込んだ。

これまで電費計測を行った全ての車種で80km/h巡航の電費は、目標電費を上回っていた(=一充電走行距離以上の航続距離になっていた)が、ドルフィンは届かなかった。これが本当に冬季のハンデなのか、機会があれば別の季節で測定してみたい。

【巡航速度別電費】

巡航速度別の電費計測結果を示す。80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って求めている。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。

スタンダード

**巡航速度****各巡航速度

の電費

km/kWh**

**航続可能距離

km**

**一充電走行距離

との比率**

80km/h6.58295.374%
100km/h5.38241.460%
120km/h4.63207.952%
総合5.42243.461%

ロングレンジ

**巡航速度****各巡航速度

の電費

km/kWh**

**航続可能距離

km**

**一充電走行距離

との比率**

80km/h6.83400.184%
100km/h5.18303.364%
120km/h4.63271.357%
総合5.41316.667%

各巡航速度の比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げるとスタンダードは18%、ロングレンジは24%電費が悪くなった。120km/hから80km/hに下げると両グレードともに1.4倍ほどの航続距離の伸長が期待できる。

**スタンダード****ロングレンジ**
**ベース速度****比較速度****比率****ベース速度****比較速度****比率**
80km/h100km/h82%80km/h100km/h76%
120km/h70%120km/h68%
100km/h80km/h122%100km/h80km/h132%
120km/h86%120km/h89%
120km/h80km/h142%120km/h80km/h147%
100km/h116%100km/h112%

ACCは5km/hごとに設定速度を変更できる

ドルフィンのACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の設定は、ステアリングホイール左側のスポークにあるボタンで行う。中央の速度調整のスイッチの右側を押すとACCが入り、左側を押すとステアリングアシストも行ってくれる。速度調整のスイッチは上げると設定速度も上がり、下げると速度も下がる。1クリックで5km/hずつ、5の倍数の速度に変えられる。83km/hなど5の倍数でない速度にしたい場合は、その速度で走っている時に左右どちらかのスイッチを押せばよい。

下段左右のスイッチで先行車との車間距離を4段階で調整できる。ちなみに上段の左は車両周囲のカメラ映像をセンターディスプレイに表示させるボタンで、右はセンターディスプレイの縦位置と横位置を切り替えるボタンだ。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は、両グレードともに下記表の通りどの速度でも5km/hの差だった。実速度を100km/hにしたい場合は、メーター速度を105km/hに合わせる。

80km/h

巡航

100km/h

巡航

120km/h

巡航

メーター

表示速度

km/h

85105125
ACC走行中

騒音計最大値

db

707069
※ロングレンジ測定値

巡航時の車内の騒音(スマホアプリで測定)も両グレードともに、路面が荒れているところでの最大値で69から70dBと音量としてはほとんど変わらなかった。しかし80km/hでは気にならなかった風切音が100km/hではドアミラー辺りから、120km/hになるとフロントガラスからルーフ前端辺りでも気になるようになった。

急速充電は85%までが効率が良い

ドルフィンはグレードによって急速充電の車両側の最大受入性能が、スタンダードは65kW、ロングレンジは85kWと異なっている。今回は30分の充電をスタンダードで3回、ロングレンジで4回の計7回行った。

スタンダードは3回ともSOC(バッテリー残量)で41〜44%分、航続距離にすると170km分ほどの充電ができた。SOCがわずか4%から充電を開始した2回目は、最後の7分間に「駆動用バッテリー温度制御が作動中」の表示がドライバーディスプレイに出ていたが、充電速度は落ちることなく最後まで42.7kWで充電していた。

充電結果/スタンダード

ロングレンジは、駿河湾沼津SAの90kWと150kWでも充電を行い、結果90kWの方がSOCで2%分多く充電することができた。しかも最初の5分は車両側の受入性能を超える85.4kWで充電していた。90kWでの充電は120km/h走行を行った直後なので、気温は11度と低かったがバッテリーが充電に適した温度まで暖まっていたのかもしれない。

充電結果/ロングレンジ

両グレードともに共通していたのは、SOCが85%を超えると急激に充電速度が落ちることで、スタンダードは24kW台に、ロングレンジは32kW台になった。85%になった時点の航続距離でその後のドライブに支障がないのであれば、85%で充電をやめるのがいいかもしれない(充電料金の節約にもなる)。

7回の充電で、認証エラーなどで充電ができない、もしくは途中で充電が止まってしまうことはなかった。また、SOC増加分による推定充電電力量と充電器に表示された充電電力量では2kWh前後の開きがあった。

なお、ドルフィンはSOCが4%になるとセーフティーモードに入り、出力制限がかかってしまい30km/hまでしか出せなくなる。スタンダードの2回目の充電は、高速を下りて充電器に到着した瞬間に4%になったため事無きを得たが、もし高速道路でこの状況になった場合、30km/h走行は最低速度違反(50km/h以上で走行しなくてはならない)になってしまうので、バッテリー残量には十分気をつけたい。

※SOC10%以下になると定期的に警告音とともにドライバーディスプレイに注意喚起が表示される。

冷暖房により航続距離表示は変化しない

ドルフィンは、冷暖房を使用してもメーター上に表示される航続距離は全く変化しなかった。他社EVでは10%前後変化するクルマもあるが、ドルフィンは両グレードともに変化なしだった。

ドルフィンのドライバーディスプレイの特徴として、走行中に何kWでモーターを駆動させているか、もしくは何kWで回生しているか表示する。停車中に冷暖房をかけるとこの数字も変化し、気温が低いせいか冷房だと0〜1kW、暖房は1〜2kWだった(シートヒーターがオンの状態でも)。2kWは2000Wなので、自宅のドライヤー(1500W)よりも少し多い消費電力で、車内を温められる効率の良さはヒートポンプシステムのおかげだろう。

装着タイヤと今回計測条件への注記

装着タイヤは両グレードともに、メーカー、ブランド、サイズ、製造週年まで一緒だった。ドライバーディスプレイで空気圧を確認できるのも良い。

【装着タイヤ】

メーカー/BRIDGESTONE

ブランド(商品名)/ECOPIA EP150

サイズ空気圧

kPa

製造週年
左側右側
フロント205/55R16 91V25009230923
リヤ205/55R16 91V25009230923

※製造週年は「0923」の場合、2023年の9週目に製造されたことを意味する。

次に、今回計測についての留意点を付記しておく。ドルフィンの電費計は任意の区間を計測することはできず、直近50kmを走行した消費電力をもとに、100km走行した場合の消費電力を表示させるという特殊なものだった。今回の電費計測は各区間の始点と終点のSOCをもとにした消費電力から電費を算出した。

電費計測は、季節、気温、天候による差はどうしてもカバーしきれないこと、また電費は実際の乗車人数や荷物の積載量によっても変わってくるため、あくまでも参考値になることを承知いただきたい。基本的には速度規制や車線規制がない状況で走行するものの、避けられない場合は適切な速度で走行し、その区間の電費については数値の補正や注記を行う。

これまでの電費計測記録との比較

参考までに、これまでに筆者が実際に計測した市販EV5車種の数値から、100km/h巡航時の電費と目標電費をドルフィンの結果とともに記載しておく。

BMW『iX xDrive50』が目標電費と100km/h電費の差が一番少なく、100km/hでもほぼ一充電走行距離(650km)と同等の636kmを走れることになる。BMW『iX1 xDrive30 M Sport』と三菱『ekクロスEV』の100km/h電費があまり変わらないことにも少々驚く。

また、夏期の計測だった他車種と比較して、今回のドルフィンの結果はかなり厳しいことがわかる。冬季(外気温10度程度)の現実として受け止めるとともに、やはり季節を変えた再検証を行ってみたいところだ。

車名100km/h巡航電費目標電費計測年月
**BYD

DOLPHIN(スタンダード)**

5.38km/kWh8.91km/kWh2024年1月
**BYD

DOLPHIN Long Range**

5.18km/kWh8.13km/kWh2024年1月
**BMW

iX xDrive50**

5.71km/kWh5.83km/kWh2023年8月
**三菱

ekクロスEV**

6.63km/kWh9.00km/kWh2023年7月
**BMW

iX1 xDrive30 M Sport**

6.42km/kWh6.99km/kWh2023年6月
**メルセデス・ベンツ

EQE 350+**

6.19km/kWh6.89km/kWh2023年6月
**メルセデス・ベンツ

EQS450 4MATIC SUV**

4.98km/kWh5.50km/kWh2023年6月

取材・文/烏山 大輔