BYDのコンパクトEV『ドルフィン』試乗で体感〜よりオススメするために望みたい改善点

BYDが日本市場に投入する電気自動車の2車種目として、2023年9月に発売した『DOLPHIN(ドルフィン)』を4日間で800km走らせて分かったADAS(先進運転支援システム)の弱点や2つのグレードを乗り換えながら走ったからこそ分かる差異を詳しくお伝えしたい。

BYDのコンパクトEV『ドルフィン』試乗で体感〜よりオススメするために望みたい改善点

日本で一番安価に新車購入できる普通車の電気自動車

『DOLPHIN(ドルフィン)』はバッテリーメーカーからスタートしたBYDのコンパクトな乗用車で、「伝家の宝刀」であるブレードバッテリーやe-Platform 3.0(関連記事)を活かした電気自動車(BEV)だ。2022年の発売以来、グローバルで43万台以上もの販売実績がある。

マークラインズ(自動車産業の情報プラットフォーム)によると、電気自動車の世界販売の約90%をカバーする主要14カ国(中国、米国、日本、インド、ドイツ、フランス、ブラジル、英国、韓国、カナダ、イタリア、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)のグローバル市場における2023年12月の電気自動車販売台数は142.7万台で、メーカー別のトップはBYDの31.2万台と2位のテスラ16.2万台を大きく引き離した。名実ともに現状トップのBEVメーカーになったと言えるのではないだろうか。

ドルフィンが日本で発売された2023年9月当時は、軽の『サクラ』と『ekクロスEV』を除けば、国内で唯一300万円台の最も入手しやすい電気自動車だった(現在は『ヒョンデ・コナ』のカジュアルグレード399.3万円が存在する)。

グレードは『ドルフィン』(以下、スタンダート)と『ドルフィン ロングレンジ』(以下、ロングレンジ)の2つ。価格(税込)はスタンダードが363万円、ロングレンジが407万円で、どちらも65万円のCEV補助金の対象なので、それぞれ298万円、342万円で購入可能だ。

日本では昨年9月20日の発売以降、12月までの登録台数は243台だった。実質3ヶ月での成果なので、1ヶ月あたり81台、このペースが続き、かつ店舗数が増えることも加味すると1年で1000台超の販売と登録が見えてくる数字だ。グレード比率は6:4でスタンダードの方が多い。これは発売当初にはロングレンジが選択できなかったことも関係していると思われる。

ドルフィンはグレードにより搭載するバッテリーとモーターが異なる。

スタンダード
バッテリー:44.9kWh、モーター出力:70kW(95ps)、トルク:180Nm(18.4kgm)
ロングレンジ
バッテリー:58.56kWh、モーター出力:150kW(204ps)、トルク:310Nm(31.6kgm)

0-100km/h加速は、スタンダードが12.3秒、ロングレンジが7.3秒。スタンダードはコンパクトクラスに見合う十分な動力性能、ロングレンジはスポーツカー並みで高速道路でも力不足を感じることはない。

充電に関しては、両グレード共に6kWの普通充電に対応していているが、急速充電はスタンダードが65kW、ロングレンジは85kWとその性能には差がある。

一充電走行距離(WLTC)のカタログスペックは、スタンダードが400km、ロングレンジは476kmで、バッテリー容量の差は1.3倍だが、一充電走行距離の差は1.2倍となっている。
(編集部注※実用に近いEPA換算推計値はスタンダード=約320km、ロングレンジ=約381km。試乗記後編で電費レポートをお届けする予定です)

リヤサスペンションの形式が異なっていることも特徴で、スタンダードはトーションビーム、ロングレンジはマルチリンクを採用している。フロントはマクファーソンストラットで共通だ。

装備差は、スタンダードにはパノラミックガラスルーフやスマホワイヤレス(1台分のみ)充電がないくらいで、アダプティブクルーズコントロール(ACC)やレーンサポートシステム(LSS)、幼児置き去り検知システム(CPD)などの安全や運転支援に関する43! もの装備は両グレードに標準で装備されている。

パノラミックガラスルーフには電動(!)のシェードも備わっている。

ボディカラーはスタンダードが白、グレー、ピンクの3色、ロングレンジは白、ピンク、水色、紺の4色が用意されており、ロングレンジは全4色の上半分がグレーか黒のツートーンになるので、見分けるのは簡単だ。内装色は4種類(ブラック&ブラウン、ブラック&グレー、グレー&ピンク、ブラック&ブルー)がボディカラーに合わせて用意されている。

ブラック&グレーのインテリア。

ボディサイズは、全長4290mm、全幅は1770mm、全高1550mm、ホイールベース2700mmで、どちらのグレードでも変わらない。

日本導入にあたり、全高は1570mmから機械式駐車場に対応するためシャークフィンアンテナの高さをおさえて1550mmにしたことや、ウインカーを右側にしたなどの配慮がありがたい。

一番の課題はレーンサポートシステムの制御

広報車を引き取りに行った際、「レーンサポートシステムの反応が過敏なのでご承知おきください」と言われた。実際に下記の2点でこのシステムは早急な改善が必要だと思った。

1点目は、警告を出す範囲についてだ。高速道路を走行中にペースの遅いクルマを追い越し、走行車線に戻る際に、追い越したクルマと十分な距離を空けているにもかかわらず反応してしまう。正確な計測はしていないが、20mごとにある白い車線(破線)をミラーで確認した感覚で言うと、200mは離れている場合でも反応してしまう。3車線の一番左の車線から真ん中の車線への車線変更の際に、一番右の追越車線のクルマに反応することもあった。

2点目は、警告とともにステアリングホイールをもとの車線に戻そうとするアシストについてだ。この制御が急激すぎる。どれほどのレベルかと言うと「エルクテスト(ヘラジカなどを想定した突然現れる障害物を回避する安全性試験)並み」が一番分かりやすいだろうか。120km/hで走行している中でのこの動きは挙動を乱しそうで怖かった。

高速走行中は常にこの問題に悩まされた。この機能をオフにすることはできる。しかし一旦クルマ自体のシステムをオフにしても、デフォルトの設定がオンなので、乗車のたびにオフにする必要がある。安全に関わる機能をオフにしてしまいたくなるというのは本末転倒だ。次第に車線変更が億劫になってしまう人もいるだろう。

ただし、前述のようにBYD auto japanもこの問題は認識しており、既に中国の開発部と連携して早急に解決する計画とのこと。今夏に厳しくなるネットワークセキュリティ法規に対応していればOTA(オーバージエア)で、対応していなくてもUSB経由によるアップデートでソフトのプログラムを変更できるそうだ。

また、レーンサポートシステムと同様に、改善を要求したくなる点があった。交通標識認識システム(TSR)とスピードリミットインフォメーション(ISLI)だ。

この機能の何が問題かと言うと、高速道路の本線を走っているのに、パーキングエリアへ進入する減速車線の40km/hの標識を認識したり、新東名の制限速度120km/h区間にある80km/hと120km/hの標識が併設されている箇所では80km/hを認識してしまうことがあった(この80km/h標識の誤認は他社でもある)。

スピードリミットインフォメーションは、車両が認識している速度標識から1km/hでも超過すると、警告音を発するので、PAやSAを通過する、もしくは80km/hと120km/hの併設標識が出てきた時に高い確率で警告音が発せられた。

さらにレーンサポートシステムからも(十分に他車との距離があるにもかかわらず)車線変更のたびに警告音が発せられる。この両方の原因により、新東名を走行中はかなり頻繁に警告音が車内に響き、ストレスを感じた。

レーンサポートシステムとスピードリミットインフォメーションの問題が解決されないと、安楽で満足感の高い高速道路走行は厳しいことを実感した。

音に関する不可思議なこと

警告音以外にも「音」に関して2つのグレードで異なる点があったので報告したい。

まずは警告音について。高速道路走行中に車内に警告音が鳴るのは両グレードともに一緒なのだが、その音量に差があった。走行中なのでタイヤのパターンノイズや風切り音があるため、警告音だけの計測はできていないが、ロングレンジの音量レベルを1とすると、スタンダードは5くらいの差がある。つまりスタンダードの方は、かなり大きめの警告音だった。

スタンダードの後にロングレンジに乗ったせいもあるが、ロングレンジの警告音は、そのよりパワフルな性格上静かすぎるのでは? と思ったほどだ。

音に関する2点目は「車両接近通報」について。この機能もグレードによる差があり、かつ車内に響いてくる音量が大きすぎて馴染めなかった。

車両接近通報は、スタンダードグレードはスタンダードとブランドの2種類があり、ロングレンジはスタンダード、ダイナミック、ブランドの3種類がある。ブランドは可愛らしい音楽が流れる独特なものだ(BYDドルフィンのホームページ「DRIVEABILITY」で聴くことができる)。その他の音は文字にすると「ウーン」や「クーン」などの模擬機械音だ。

試しに車内で窓を閉め切った状態で計測してみると、両グレードともに無音時は27dB、スタンダードグレードのスタンダードは35dB、ブランドは45dB、ロングレンジのスタンダードとブランドは47dB、ダイナミックは43dBだった。

35dBのスタンダードのみが、これまでに経験した他社のBEVの車両接近通報と同じくらいの音量で普通だと思った。その他の40dB台は大きすぎるように感じた。

車両接近通報について国土交通省に確認したところ、音量(音圧)の測定は、走行中に車外で測定する。下限は前進時に50dB(10km/h)、56dB(20km/h)、後退時は47dB、上限は前進時に75dBとのこと。35dBのスタンダードでも基準は満たしているはずなので、他の音ももう少し静かにしてもいいのではと思う。

ナビの案内音声の音量が大きすぎることも気になった。最小の「1」にしてもかなりの音量なので、「0」にして使用していた(このナビ案内音声音量も本国と連携して調整中とのこと)。

素人考えで恐縮だが、システムの制御や音量は、ソフトのプログラムを変更することで修正・調整できると思う。ハードを変えるよりは工数もかからないだろう(間違っていたら、ごめんなさい)。日本側の技術者がBYDの本社に出向くことも多いと聞くので、中国側とも風通しも良い。そんなBYDなので早期の問題解決を願い、激励の思いも込めさせていただき、上記を報告したい。

ガソリン車からでも違和感なく乗り換えられる作り

ここまではドルフィンの気になる点を挙げてきたが、それ以外の部分ではとても良くできたクルマだと思った。

ドラポジを決めても頭上には10cmの余裕があった。

まずはフロントシートについて。シートの形状が良く、腰の曲線にピッタリ合う作りで5時間ほどの連続ドライブでも全く疲れや痛みを感じなかった。ヘッドレストが背もたれと一体型だと、頭と肩の位置関係が合わないモデルもあるが、この点も違和感なく快適に過ごせた。中国製なのでアジア人に合う設計になっているのかもしれない。2段階で暖かさを変えられるシートヒーターも付いている。

リアシート。身長172cm、座高が高めな昭和体型の筆者が背もたれと腰の間に隙間を作らずにきっちり座ると天井に髪の毛が触れてしまうが、まあレアケースだろう。筆者のドラポジに合わせたフロントシートとひざの間には21cmの余裕があった。

ドライビングに関する部分も感心する点が多かった。ACC(アダプティブクルーズコントロール)で走行中に、先行車がいなくなると、緩やかにスムーズに加速していくので、全く不安感がない。渋滞中に停止と発進を繰り返す場面でも、発進の仕方も自然かつ自動(一定時間ならアクセルやスイッチの操作は不要)で楽だ。もし加速が足りない場合はアクセルを踏み込んで調整すればよい。

ロックトゥロックが約2.7回転とステアリングギヤ比もスローで、左右に振るとロールしながら、外輪に荷重をかけてじわーっと曲がっていく感じで、スポーティとは異なる安定したハンドリングだ。

グレードによってリヤサスペンションの形式が異なることで、乗り心地にも差があった。基本的に両グレードともに道路の継ぎ目などの目地段差を「タタン」と一発で収めてくれるのは共通。明確に異なるのは高速道路で路面のうねりを通過した際に、スタンダードは一発で「スッと」収めるのに対して、ロングレンジは「ふわっふわっ」と2バウンドで優しく収める。このセッティングに対して一部にはダンピング不足との声もあるが、個人的には気に入った。

ロングレンジのマルチリンクサスペンションをのぞいた写真。アームの締結部のナット(銀色に光り目立っている4箇所)がかなり車体中央にあることからも長めのアーム長を確保していることが分かる。

回生ブレーキはスタンダードとハイの2種類から選択できるが、ハイでも他のBEVにあるような強い回生はかからない。ワンペダルモードもない。

ハザードスイッチの右が回生ブレーキの切替スイッチ。一番右がシフトコントロールで、「パーキング」は側面にある。ハザードスイッチはブラインドタッチできる独立した場所に欲しい。

ハンドリングや回生ブレーキ、ワンペダルモードについては、BYDの「ガソリン車から自然に乗り換えられる作り」という考え方が反映されている。

ワンペダルモードはないので、停止時にはブレーキを踏まなければならないが、ここでドルフィンのブレーキオートホールド機能の特性にひざを打った。それは停止した時のブレーキペダルの踏み込み具合のままでホールドしてくれるので、他車のように停止してさらに踏み込む必要がないのだ。これはストップ&ゴーが多い日本では地味にありがたい機能ではないだろうか。

荷室容量は345L、後席を倒せば1310Lまで拡大できる。荷室の大きさ(筆者実測値)は、最大幅は118cm、最小幅は98cm、奥行は61cm、トノカバーまでの高さは39cmだった。写真は機内持ち込み可サイズ(国内線、座席数100席以上)のスーツケース(高さ52cm、幅35cm、奥行25cm)を入れてみたところ。

冒頭で軽BEVのサクラとekクロスEVを除いて最も安いBEVと書いたが、サクラでドルフィンと同等の装備を揃える場合、自ずと最も高いGグレード(304.04万円)になる。プラス60万円(サクラではオプションの200V充電ケーブルなどを勘案するとさらに価格差は小さくなる)で、バッテリー容量と一充電走行距離が倍以上のドルフィン・スタンダードを購入できるのは魅力的ではないだろうか。つまりサクラと同じくらいの台数が売れるだけのコスパがあるクルマだと思う。

レーンサポートシステムとスピードリミットインフォメーションの点だけ改善されれば、BYDが言っているように、まさに「コンパクトEVの決定版」になるのは間違いないのではないか。

DOLPHIN、2グレードの長距離試乗レポート。次回は少し意外だった電費計測の結果についてお伝えしたい。

取材・文/烏山 大輔

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 確かにレーンサポートシステムは過敏すぎると思う。安全装備のはずなのに危険度が増す可能性があるので早急に改善して欲しい。幸い制御系なのでソフトの変更だけでできそうなのはありがたい(万一ハードの変更も必要ならリコールレベルだと思う)。高速道路以外の細めの片道3車線の場合、危うく隣のレーンを走る車に当たりそうなくらいのハンドル戻しがある(これがあるのでカミさんは怖がって運転しない)。また田舎道の白線が消えかけたところや波線部分、工事途中で仮の白線なんかが危険ゾーンである。まだ絶対数が少ないから大きな問題になっていないが、これが量販車だったら大変なことになっていることをBYDjapanにはしっかり認識してもらいたい・

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					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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