BYD「RACCO(ラッコ)」の特徴は「両側電動スライドドア」だけではない。日本車や日本市場を徹底的に研究したとあって、標準およびオプション装備のこだわりポイントも多い。筆者はサクラ、インスターと小型のEVを乗り継いでいる。広報車をお借りして、ラッコのファミリーカーとしての使い勝手とともに実感の違いをチェックした。
RACCOはどうだ? サクラやインスターと充電の手間を比較
今回、レビュー用に使用したのは一充電走行距離(WLTC)320km、バッテリー容量35.84kWhの「BYD RACCO 300 Premium」となる。急速充電性能が最大50kW(49.7kW)、普通充電性能は最大6kWまで対応する。ちなみにバッテリー容量や航続距離を抑えた「RACCO 200シリーズ」はバッテリー容量22.4kWh、一充電走行距離210kmとなっている。
シリーズの中で最上位グレードとなるが、BYD AUTOによれば、8月末現在の受注の8割は300 Premiumだというので、9月後半から納車されるオーナーへの参考情報としては問題ないと思う。
まず、筆者が所有した日産サクラ、現在所有しているヒョンデインスターとBYDラッコのバッテリーと航続距離に関する比較を簡潔な表にしておく。
| 項目 | 日産 サクラ G |
ヒョンデ インスター Lounge |
BYD ラッコ 300 Premium |
|---|---|---|---|
| バッテリー容量 | 20 kWh | 49 kWh | 35.84 kWh |
| 一充電航続距離(WLTC) | 約180 km | 458 km | 320 km |
| 最大急速充電能力 | 最大 30 kW | 最大 85 kW | 最大 50 kW* |
| 最大普通充電能力 | 2.9 kW AC200V/15A |
6.0 kW AC200V/30A |
6.0 kW AC200V/30A |
| バッテリープレコンディショニング | なし | あり(ナビ連動 / 手動) | あり |
*システム公称値:49.7kW(受け入れ上限電流138A×上限電圧360V)
EVを初めて所有するという人には、電費や充電出力など数字で言われてもピンとこないと思う。逆に言えば、1台でもEVを運用したことがある人なら、上記の数字でラッコの潜在能力は推しはかれるのではないだろうか。
筆者の経験則ではあるが、バッテリー容量が30kWh以上、航続距離が300km以上、急速充電能力が50kW以上のEVなら、平均的な乗用車オーナーのファーストカーとして十分運用可能だ。ラッコはこの基準を満たしている。
欲を言えば、自宅に基礎充電設備(普通充電器やAC200Vコンセント)があれば理想だが、ラッコの充電能力(50kW)なら、急速充電を効率よく活用できるため、基礎充電なしでも運用は不可能ではない。
実際、筆者がサクラを所有していた当時は自宅普通充電を多用し(一晩で100%に達するので夜間の自宅充電が便利)ZESP3の契約をどうしようか悩んだくらいだ。しかし、インスターに乗り換えてからは近くのディーラーやショッピングモールの急速充電器が効率よく使え、SOC70%でも300km、60%台でも200kmくらい走れるので、自宅でじっくり90%、100%まで充電するより、出先で10分、20分と区切った外充電の回数が増えた。
9km/kWh越えの電費と高い充電性能
ラッコの航続距離表示は、WLTCベースの数値と、直前50kmの実走行データで計算した数値を切り替えることができる。車両を借り受けたときSOC100%の状態で、走行可能距離が320kmとカタログ値と同じ数字だったが、直近50kmの電費は「10.4kWh/100km」と表示された。1kWhあたりの走行距離に換算すると、9.62km/kWhとなり、バッテリー容量35.84kWhと掛けると344.8kmも走れる計算(過去50kmと同じ走行条件で走れるなら)になる。
今回の走行実績における電費も計算してみた。車両返却時の走行距離は、トリップメーター表示で295.9kmだった。その間消費したSOCは90%。3日の試乗期間の電費は約9.16km/kWhという計算になる。ただし、テストには駐車中の車内で仕事をする想定で2時間ほどのエアコン+PCを稼働させた時間が含まれる(その間のSOC消費は5%)。これを考慮すると約9.7km/kWhだったことになる。
評価中に90kWの急速充電1回と6kWの普通充電を1回ずつ行った。ラッコの充電能力は高く、急速充電機の出力はSOC70%を超えるまで45~48kWを記録し、30分ほどでSOC51%から96%まで回復できた。単純計算で約16kWh分の電力量だ。充電性能が高いので、高速道路で経路充電を重ねる長距離移動も苦にならないはずだ。
普通充電は、IKEAの駐車場で行った。ここにはEV充電エネチェンジの6kWの充電器が設置され、買い物中に充電するのにちょうどよい。充電出力は終了させるまで5.1~5.4kWを維持し、32分で約3kWh分の充電ができた(料金は220円)。
ディスプレイ操作にはGeminiやSiriを積極活用すべし
ラッコは300 Premiumの最上位モデルでも、ディスプレイオーディオしか搭載されない。センターコンソールのディスプレイはAM/FMラジオや車両設定など基本的な操作とBYDアプリとの連携は可能だが、純正ナビの設定がなくAndroid AutoかCar Playを活用することになる。
車載ナビを使い慣れた人は、戸惑うかもしれないが、これは慣れるしかない。Google MapやAppleの地図アプリのナビゲーションは国内の車載ナビと違う独特のクセみたいなものがあり、嫌う人も少なくない。好みやポリシーの問題なので強制はしないが、慣れると、目的地検索、経由地の設定、編集が非常に便利だ。Android AutoならGeminiと連携させれば、会話形式の目的地設定が可能であり、PCやスマートフォンの検索履歴とも連携できる。
たとえば、音声認識を活用し「周辺のグルメ案内」「先週テレビで紹介していたレストランがこのあたりにあるらしいんだけど」といった言葉で調べることができる。筆者は、「ルート上の最寄りのコンビニで90kW以上の充電器を経由地に設定して」などを多用した。1回でベストな回答がくるとは限らないが、条件追加や結果の絞り込みも口頭で可能だし、言いよどみや言い換えも認識してくれるのがエージェントAIの便利なところだ。
サクラのときはNissan Connectと純正ナビの連携が便利(一定の音声操作も可能)で、Android Autoと半々くらいの利用だったが、インスターは純正ナビとBlue Linkの連携がいまひとつと感じる点があり、もっぱらAndroid Autoをつかっている。
なぜかラッコが勝手に常州を思い出した?
ラッコは、AndroidもiPhoneもBluetoothでのワイヤレス接続が可能だ。ペアリングさえしておけば、車に乗り込むだけでスマートフォンと接続して、Android Auto(Car Play)のナビがすぐに起動される。スマートフォンナビを前提としたラッコには、必然の機能だろう。
なお、レビュー中、スマートフォンを鞄の中に入れたまま後席に載せたことがあった。このとき、なぜかナビ(Google Maps)の画面が、突然中国の常州の地図になった。しばらくすると現在位置に戻ったが、鞄を前に移動させるまで、数回同じ現象が発生した。
ラッコが「生まれ故郷」(右ハンドルのBYD車は常州工場で製造されている)を思い出したのかと思ったが、おそらく鞄の中でBluetoothのリンクが弱くなったための誤作動と思われる。
IVI(車載インフォテインメントシステム)関連で特筆しておきたいのは、システムの起動音と終了音だ。スタートボタンでのシステム起動に設定しておけば聞くことができるが、ジングルの最後に「キュー」というラッコの鳴き声が入っている。実際のラッコからサンプリングした音源とのことだ。
電動スライドドアとパワーシートはもはや必需品
ラッコの電動スライドドアは、やはり便利だ。装備としては珍しいものではないが、軽自動車で両側電動、挟み込み防止装置がついているモデルは希少だ。センサーはカメラで足の位置を認識するタイプなので、光学センサーなどを足で遮る方式より使いやすい。
足を置くポイントは高輝度のスポットライトで路面に示してくれる。昼間のアスファルトでも車体の影があるので認識可能だ。足を置くだけなので、片足を浮かせて左右に振る必要はない。両手がふさがっているとき、その状態で片足を浮かせる必要がないのはうれしい。
運転席のパワーシートも軽には珍しい装備だ。2つのレバーで座面の前後移動、後ろ部分の上下、背もたれの角度調整ができる。筆者は家族で使うファミリーカーこそ電動パワーシートを装備すべきだと思う。多くの家族は、1台を夫婦、親子で共用するので、乗るときにシート合わせが発生することが多い。パワーシートは微調整がしやすいので便利だ。
欲を言えば、最低2人分でいいからメモリー機能(できればミラー位置も連動する)が欲しいところだ。
多彩なシートアレンジはファミリーユースの味方
後席は手動で前後スライドさせることができる。一番後ろにして座面を跳ね上げれば、ベビーカーも立てて乗せられるほどの空間ができる。片側をチャイルドシートにすれば、両側スライドドアとともに小さい子供がいるファミリーには最適ではないだろうか。両方ともいちばん後ろにずらせば、子供用の小さい自転車も余裕で入る。リアラゲッジより便利かもしれない。
ラッコのリア空間はシートアレンジによってさまざまな用途に対応するが、前席がフラットにはならない。車中泊をするなら、リアシートを最大まで後ろに下げて背もたれを前に倒す。前席のヘッドレストを外して背もたれを最大まで寝かせればほぼフラットになる。
ラッコは前席、後席ともにアームレストが使用可能だ。前席のアームレストは横幅があり、小物入れも備わっている。後席のアームレスト(オプション)は分割式になっている。前席のアームレストは、おろした状態だとシートベルトの脱着がしにくくなる。軽のボディサイズを考えるとやむを得ないのかもしれない。ベルトの脱着とアームレストの上げ下げをセットで習慣にするしかない。
後席はISOFIXのチャイルドシートに対応する。片側にチャイルドシート、もう片方を跳ね上げ世話をする空間を設ける。あるいは、助手席を前に倒して空間をつくり、親は隣に座って世話をしてもよい。小さい子供なら車内で立てるのもハイトワゴンの便利ポイントだ。
後席の子供の世話でうれしいのは、スライドドアのウィンドウ部分にロール式のサンシェードが内蔵されている点だ。目隠しとして便利であり、シェードをした状態で走行も可能(違反にならない)だ。
収納スペース・ユーティリティは(ほぼ)全部入り
日本の軽市場を調べつくしたというラッコのこだわりポイントはインテリアや収納関係にも現れている。
まず、全席に対するカップホルダーの充実度。運転席、助手席分は独立してダッシュボードの左右に確保され、センターコンソールには保温機能付きのカップホルダーがある。後席は前席背もたれに折り畳み式のテーブルを装着すれば、後席にもしっかりしたカップホルダーが確保される。テーブルをつけなくても後席ドア側に小さいペットボトルなら入るカップホルダー式の小物入れが装備されている。
シートアンダートレーは助手席とセンターコンソール下に追加できる。これの優秀なところは、前にスライドするだけでなく後ろからも引き出して使うことができる点だ。サクラも座席下の小物入れが用意されているが、インスターはエアコンの吹き出し口や樹脂製のボックスがあり、アンダートレーの設定がない(筆者は100均で買ったトレーを使っている)。
前席の背もたれには、シートポケットがある。スマートフォン、タオル、レジャーシートなどを入れるのに便利だ。シートポケットは、後席用のテーブルを装着しても使えるようになっている。
運転席右上の取っ手は省略されているが、代わりにサングラスホルダーがついている。
ダッシュボードは2段になっており、上面はあまり曲面がないフラットなスペース。その下は、メーターパネルまで「返し」のあるトレー状になっている。スマートフォンホルダーなどを後付けする場合、取り付け場所に苦労することはないだろう。
以上は、言ってしまえば目新しいものではないが、細部にまでこだわった配慮を感じる装備といえる。他にも紹介しきれない装備や機能があるが、国産コンパクトカー、ミニバン、軽自動車をよく研究しており、痒いところに手が届く装備を揃えてくれた印象だ。
運転アシストの制御は積極的
ADAS(先進運転支援システム)機能の制御ポリシーは、サクラ、インスター、ラッコでそれぞれメーカーごとの個性がある。介入ポリシー、ブレーキのタイミング、車間の取り方、加速具合、制御のなめらかさなどに違い(クセ)が存在する。端的に評すると、サクラはコンサバ、ラッコはアグレッシブ、インスターはその中間といった印象だ。
BYDでは、前車追従型の速度・停止制御をACC(Adaptive Cruise Control)といい、ステアリング操作まで行う制御をICC(Intelligent Cruise Control)という。ラッコは、放っておくと自分で制御しようとする領域が広い。ICCを設定していても、カーブに差し掛かると自動で減速し、旋回が終わると再び設定速度まで加速し始める。一般道で信号待ちをしていても、ICC/ACC解除までの時間が30秒と長い。サクラやインスターは3秒程度と短い。
ドライバーアシストを有効にすると、まずICCが有効になる。交差点に差し掛かったり、白線を見失ったりすると、制御を解除するのではなく、ACCに切り替える。ステアリングは人間が操作する必要があるが、加減速の制御は車両が行う状態だ。
制御モードが切り替わるときに警告音(+メーターディスプレイのメッセージ)が出るが、デフォルトの音量はちょっと大きめだ。状況がわからない同乗者を不安にさせるし、一般道ではそれなりの頻度で発報するので、設定画面で音量を下げておくとよい。
ICC有効時にアクセル操作で設定速度を変更できるなど、ADAS機能は最新のものが実装されている。制御の進化は感じられるものの、ステアリングの制御、アクセルやブレーキの制御は、もう少し滑らかにしてもよいのではないかと思う場面もあった。とくに、ステアリング、ブレーキ制御を「スポーツ」に設定した場合だ。「コンフォート」にすれば、システムの介入や操作制御はマイルドになり問題はない。
ラッコをリモートオフィスとして使う
ショッピングモールの立体駐車場やビルの地下駐車場でもエンジンをかけずにエアコンや電装品を使えるのはEVの利点のひとつだ。筆者の自宅近くのIKEAには、駐車場に「EV充電エネチェンジ」の普通充電器(6kW)が設置されている。前述のように、ここで普通充電の性能評価とあわせて、リモートオフィスとしてのラッコの性能を評価してみた。
評価ポイントは、助手席、後席でのPCの操作、オンライン会議ができるかどうか。エアコンを稼働させた状態での作業でどれくらいバッテリーを消費するかの2点だ。
エアコンを25℃設定で連続稼働させ、車内のUSBソケット(Type C/A、各18W)でPCとモバイルルーターの電源を取った状態で2時間ほど仕事をしてみたところ、SOCは約5%消費された。300 Premiumの35.84kWhで計算すると、2時間でおよそ1.79kWh消費したことになる。目安としては1時間で1kWhの消費をみておけばよいだろう。
後席はテーブルがあるが、ラップトップPCを置いて作業するには、少し位置が高い。テーブルを使わず、膝にのせて作業するなら、助手席、後席のどちらでもよい。筆者は助手席で仕事をしてみた。窓全閉ならオンライン会議もPCのスピーカーでいけそうだが、ヘッドセットがあったほうがいい。
リモートオフィス時は幼児置き去り検知をオフに
注意したいのは、ドアロックした車内で作業をしていると、稀に「幼児置き去り検知」が働いてしまう。後席は確実に監視対象になっているし、前席で作業していてもなにかの拍子でセンサーを作動させてしまう。車内作業をする場合は、この機能をオフにしておくことにした。
なお、ラッコには電装品やインテリア、車両設定をプリセットできる「シナリオモード」がある。車内作業、車中泊など、よく使うシチュエーション向けの車両設定を簡単にセットできるようになっている。
今回のレビューでは、ラッコの充電性能やユーティリティの使い勝手を、サクラ、インスターと比較しながらチェックした。特徴的な機能、オプションを重点的に取り上げたが、紹介しきれない機能もまだたくさんある。EVのV2Lや場所を問わずエアコンを長時間稼働させられる特長は、自動車に移動以外の付加価値を与えてくれることも再認識した。
EVはセカンドカーとしては有効だが、1台しか持てない場合は選択肢にならないという意見があるが、ラッコは平均的なファミリーなら、EVは初めてというファミリーにとっても、ファーストカーとして十分機能することが実感できた。
取材・文/中尾真二
















