トヨタの電気自動車である「bZ4X」の販売が好調です。2025年10月の「一部改良」をきっかけとして、登録車のEVとして車種別新車販売台数のトップを快走しています。電気自動車が売れない日本で、どうしてbZ4Xは売れているのか。販売店の営業担当者に率直な意見を伺いました。
対前年比「9000%」以上の新車登録台数を記録
電気自動車普及がなかなか進まなかった日本で、トヨタの電気自動車「bZ4X」が売れています。上のグラフは一般社団法人日本自動車販売協会連合会の「乗用車ブランド通称名別ランキング」をもとにした月間新車販売台数の推移(2025年9月以前は推計値)です。2025年10月9日に「一部改良」が発表されると、その10月にはいきなり対前年同月比「約1,301%」となる1,106台の販売を記録。50位までしか発表されない「通称名別ランキング」の40位に登場しました。その後も好調を持続。年度末の2026年3月には3,377台(対前年同月比9,127%=約91倍!)の登録台数で、ランキングも26位を記録しました。
2025年10月の一部改良では、搭載する駆動用バッテリーの総電力量を従来の71.4kWhから74.7kWhに増量し、カタログスペックの一充電走行距離が最大567kmから746kmに向上。車両本体価格(税込)を、上級グレードである「Z」FWDは600万円から550万円、AWDを650万円から600万円に50万円の値下げを実現。さらにエントリーモデルの「G」グレード(バッテリー容量は約57.7kWh)は480万円に設定。2026年1月以降、国のCEV補助金額が最高の130万円となったことも追い風になっています。
全国販売店の約8割の店舗に試乗車を配備
2026年2月には、荷室を拡大したステーションワゴンタイプの「bZ4Xツーリング」を発売。新型bZ4Xが2025年度下半期のBEV販売台数1位となったことを受けて、トヨタ広報部に「BEV販売の取り組み」について取材する機会がありました。説明のなかで強調されたのが、メーカーと販売店、両輪でBEV販売に注力していく取り組みの強化です。
ポイントは、全国のトヨタ新車販売店の約8割の店舗にbZ4Xの試乗車を配備。各店舗で「マルチパスウェイスペシャリスト」を任命し、補助金や充電環境などを含めたEVへの乗り換えに関するトータルな提案力を強化するというものです。
EVの魅力を理解するには、実際に自分で運転してみるのが近道です。8割ものディーラーに試乗車が置かれるということは、今までEV販売に消極的だった営業ご担当者の方々も新型bZ4Xを運転するチャンスが増えるでしょう。さらに、トヨタ広報ご担当者の説明によると、全国の営業担当者に対するBEVについての研修プログラムを強化。従来は日帰りだった内容を、一泊二日でサーキット走行まで含めた内容にアップデートしたとのこと。タイムアタックはしないまでも、サーキット走行はEVの「気持ちよさ」を体感するために最高の機会となるはずです。
販売店の知人を通じて営業ご担当者に質問してみました
はたして、トヨタ販売店の営業ご担当者はBEVについてどのように感じているのでしょうか。ここ数年、私はならコープが創設した再エネ協同基金などが主催する「EV講演会&試乗会」(関連記事)の講師として呼んでいただいていて、試乗車で協力しているトヨタユナイテッド奈良株式会社の執行役員である東勉成さんと情報交換させていただいていました。
現場営業マンの方に質問できないか相談したところ快諾をいただき、気になっていたポイントについて、メールで質問&回答のやり取りをさせていただくことができました。回答してくださったのは、トヨタユナイテッド奈良 営業戦略部マーケティング室の内田吉紀さんです。以下、一問一答スタイルで紹介します。
Q. 研修やメーカー本社からの情報の変化は実感していますか?
弊社(トヨタユナイテッド奈良)には「MCSニュース」という情報共有媒体(朝礼で視聴する動画ニュース)があり、毎日全店舗全社員が同じ言葉、同じ映像にて情報を共有することができます。そのニュースで、bZ4X発表直後から隔週にて「bZ4X知識向上編」が発信され、トヨタ自動車の本気度と弊社としてのBEVを提案する背景や目的、そして本気で取り組む姿勢が伝わりました。
全店にMPW(マルチパスウェイ)スペシャリストが選任され、県内3エリアに分かれて定期的にスペシャリスト同士の意見交換会を実施、各店の好事例や改善すべき事例を共有し、さらなる知識向上へと繋げながら自店舗の営業スタッフへとその知識を広げる勉強会が定期的に開催され、今もなお発展していっています。
また、全営業スタッフを対象とした試乗会の研修(PHEVやHEVとの乗り比べ)も実施され、実際に体感することで自身の言葉としてお客様に提案ができるようになりました。座学では毎日利用している社員の実体験からBEVの良いところも悪いところも共有され、お客様が実際に使っていただく中でのイメージを作り提案できるようになりました。
Q. 情報共有が強化される以前、BEVについてどのように感じていましたか?
以前は「BEV=航続可能距離が少ない」、「BEV=リセールが悪い」といった漠然としたマイナスイメージ“のみ”しか持っていませんでした。それも実体験ではなく、伝え聞いた言葉をそのまま捉えただけの何の確証もないイメージを抱いていたというのが本音です。
おそらくお客様もそうではないかと、今となっては思います。
体感し知識を得ることでBEVへの認識は変わる
Q. BEVへの認識(販売意欲)は変わりましたか?
確かな情報と知識によって、BEV自体の魅力への認識が大きく変わりました。車の使用状況やお住まいの環境によっては、マイナスポイントを上回る大きな利点があり、お客様への付加価値を提供できる「われわれ自動車営業にとっての大きな柱」になると思いますし、これをお客様に提案しないのは失礼だと考えています。
トヨタ自動車からの施策「TEEMO特典」や「純正充電器トヨタウォレット10万円キャッシュバック」もあり、私たちが提案しやすい環境を後押ししてくれていることでさらなる利点をもって提案できます。
全てのお客様におすすめできる車種ではないと思いますが、私たちが目指す「一人ひとりのお客様に寄り添ったパーソナルな提案」をするためにはなくてはならない車種です。
Q. 個人として、BEVへの認識が変わった「きっかけ」があれば教えてください
きっかけはやはり「知識」です。お客様にも我々と同様に、漠然としたマイナスイメージだけではなく、正確な情報を提供することで「未来を幸せにする選択肢」を“減らさない”ようにしていただけるよう、カーライフにおける人生設計をお客様と一緒にしていきたいです。
Q. bZ4X(トヨタのBEV)のおすすめポイントは?
「BEV=初動や加速の快適さ」は一般的でどのメーカーでも同様ですが、私たちが最もおすすめしたいポイントは「安全」についてです。
他メーカーBEVとも乗り比べをしましたが、bZ4Xは低重心×高剛性による「安定した危険回避能力」が圧倒的に優れています。現在は装備としての安全性が注目されやすいですが、やはり車にとっての主は人であり、その人の操作にいかに車がスピーディーかつ意のままに反応してくれるかが大切です。このような安全に直結する性能を持ち合わせた車を数多く地元に送り出し、交通事故ゼロをお客様とともに実現したいです。
Q. さらに「こんなBEVがあったら売りやすい」という具体的な車種例があれば教えてください
地域には細い道が多く、また高齢の方の割合もどんどん増えていっています。そのようなお客様たちのニーズとしては、やはりサイズが重要になります。
また、どちらかというと、過疎地であったり、1回の走行距離や年間通しての走行が少ない方にBEVは利点を生み出しやすいということからも、仮に航続可能距離がbZ4Xの半分であろうともコンパクトで安価なBEVが地元の方々の幸せな未来の選択肢を増やすことに繋がると考えています。
トヨタが本気で作ったEV車種の拡大に期待!
内田さんからの回答で改めて実感したのは、bZ4Xの販売が好調を持続している最大の要因は「全国販売店営業ご担当者の意識改革」に違いないということです。トヨタの新車ディーラーは全国で約4200店舗ほどあるそうです。各店舗に平均10名程度の営業マンがいるとして、およそ4〜5万人のクルマのプロの、BEVに対する認識が刷新されつつあることになります。これぞ「トヨタの本気」だと感じます。
また、郷里の高校剣道部の後輩でトヨタ販社の営業幹部がいるので「bZ4Xは勧めてる?」とLINEで聞いてみました。彼によると「以前はマルチパスウェイ戦略による全方位型での車両提案が強調されていて、BEVが全てではない」という意識があったものの、bZ4Xについてのラーニングを通じて「アップデートによって航続距離や急速充電性能を含めたバッテリーへの不安がかなり改善されていて、トヨタがBEVに力を入れてきたなと感じる車両」になったことを評価。「うちでは全店に試乗車があるし、発売当初はリース(サブスク含む)のみだった支払い方法への制限がなくなって、残価もRAV4なみになったので営業スタッフが自信をもって勧められている」とのこと。
さらに「こんなBEVがあったら売りやすいという具体的な車種」については、「コンパクト車もしくはミニバンのスライドドアがある車両」を挙げてくれました。
Facebookに開設されたグループ「bZ4X & SOLTERRA Japan owners & fans」のメンバーも着々と増えているようです。日本のEV普及には、やはり「トヨタの本気」が不可欠です。アップデートで格段に進化した新型bZ4Xですが、以前の試乗記でも少し挙げたように、EVならではの魅力を満喫するために、また先進モビリティとしてさらなる進化の余地はあるはずです。また、EV車種の拡大も必須。コンパクトカーやミニバンで、トヨタの本気を詰め込んださらなるEV車種の登場に期待しています。
取材・文/寄本好則





