日本の電気自動車充電インフラを支えるべく2019年に設立された『e-Mobility Power』。2021年にはNCSから事業承継をしてJCNも子会社化。はたして、日本のEV充電インフラの近未来にどんなビジョンを描いているのか。四ツ柳尚子社長に伺いました。
e-Mobility Power とは?
株式会社 e-Mobility Power(イーモビリティパワー=以下、eMP)は、日本の電気自動車用充電インフラを支えるべく、2019年に東京電力ホールディングス株式会社と中部電力株式会社が共同出資して設立された会社です。
今年4月には第三者割当増資により総額150億円の資金調達を実施して、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、三菱自動車工業の国内国内自動車メーカー4社と日本政策投資銀行が出資。自動車メーカー4社を中心に設立(2014年5月)されて以来、日本の充電インフラ充実を担ってきた合同会社日本充電サービス(NIPPON CHARGE SERVICE=NCS)からの事業継承が完了しました。
さらに6月には日本国内の充電課金サービス最大手であるジャパンチャージネットワーク株式会社(JCN)の発行済み全株式を取得して子会社化。電気自動車充電サービスの拡充を一本化して推進する役割を担っています。
eMPに関しては、今年になってから、コスモ石油マーケティングと提携して「COSMOサービスステーション」への急速充電器設置を進めたり、横浜市と連携協定を締結して青葉区内の公道上に急速充電器を設置する実証実験を行うといったニュースがあり、その都度EVsmartブログでもお伝えしてきました。
とはいえ、世界中の自動車メーカーの多くがEVシフトを明言し、日本でもEV普及が脱炭素社会実現に向けて必須となっている現状で、ことに火急な課題であるはずの高速道路SAPAへの急速充電器複数台設置や高出力化について、なかなか具体的な動きが見えない状況が続いてきました。
はたして、eMPでは「2030年の電気自動車充電インフラ」について、どんなビジョンを描いているのか。会社設立直後にインタビューして以来、満を持して四ツ柳尚子社長にお時間をいただき、お話しを伺うことができました。
2025年には急速充電器の口数を倍増する
取材ではeMP企画部の花村幸正さんに資料の説明をいただきながら、とくに気になる点について私が四ツ柳社長に質問するスタイルで進めました。一問一答式にまとめるとかえってわかりづらくなりそうなので、四ツ柳社長のコメントをピックアップしつつ、ポイントを整理してお伝えしたいと思います。
現在約7000口の急速充電器を1万4000口に
まず、公共充電インフラの肝となる急速充電器については、ネットワークに接続される提携充電器も含め「2025年をメドに、現在の約7000口から1万4000口程度、倍の規模感に拡大することを目指している」(四ツ柳さん)ということです。
急速充電器の必要台数は日本でどのくらいEVやPHEVの普及が進むかにもよるでしょうが、高速道路の主要SAPAで充電渋滞が頻発している現状を考えれば「4年後までに倍増」はぜひとも実現して欲しい目標です。
急速充電器をどこに増やすのか?
では、どのような場所に急速充電インフラを増やしていくのでしょうか。その優先順位の考え方を説明します。
このグラフは、稼働率順に設置ポイントを並べたイメージです。「設置に関しては、その地点の管理者様との合意が得られることが大前提」とのことですが、稼働率に応じて新増設や高出力化を進めていくビジョンがまとめられていました。具体的な内容を整理しておきます。
現在でも稼働率が高い箇所については、至近年で優先的に「6口化(後で詳しく説明します)も含めた多数口化」することを目指します。
今までに蓄積されたデータによると、稼働率が20〜25%を超えると充電渋滞が多くなることのこと。20%は超えない程度の「中~低稼働率」の箇所についても、2口化を進めていく計画です。それほど稼働率が高くない場所については、充電器の更新時期に合わせて、まずは従来程度の機器に更新し、さらにEV普及率が高まるであろう次の更新時に2口化を検討するとしています。
一般道路上の急速充電インフラでは、横浜市内の公道上や埼玉県朝霞市のカインズに設置されたような最大90kWの2口器(120kW級)が設置されるケースもあるでしょうが、50kWのひと口タイプで事足りる場所も多いはず。一般道路上のインフラとしては、空白地帯を埋める「カバレッジ」を重視していくということです。
「2013年から2015年ごろまでに日本国内には人口カバー率93%に及ぶ急速充電インフラが構築されました。ただし、当時は経産省の補助金などを活用して、まずは設置できるところに設置されたという状況で、稼働率が低い施設が少なくありません。『一周目』のインフラとしては重要な役割を果たしてくれたと思いますが、これから手がける『二周目』では、次世代モビリティを支えるより合理的な充電インフラを構築していきたいと思っています」(四ツ柳さん)
「二周目」のインフラ整備では、主要道であるにも関わらず40km以上急速充電器がないといったような「空白地帯」を埋めながら、稼働率が低くニーズが乏しい急速充電器は撤去や移設を行っていく方針であるということです。
eMPでは「すべてのドライバーが、いつでも、どこでも、ストレスなく、リーズナブルに利用できる充電ステーションの実現」をミッションとして掲げています。EV普及の状況も見極めながら、密度(キャパシティ)と拠点数(カバレッジ)をバランス良く整えていくために、4つの施策を同時に推進していくこととのことでした。
急速充電器の空白地帯=不足は、過疎地域などに限ったことではなく、都市部においても「設置場所がない」という課題があります。横浜市で行っている(2022年3月まで)公道上に充電器を設置する実証実験は「人口密集地や集合住宅周辺で充電スポット設置が難しいという課題解決に向けた取り組みでもある」(四ツ柳さん)ということです。
「6口化」って、何?
さて、ここまでの説明で「6口化って何なんだ?」と疑問に感じた方がいらっしゃるかと思います。私もインタビューしながら「???」だったので、四ツ柳さんに質問しました。6口タイプの充電器、コレです。
この新型急速充電器は、eMPと東京電力HD、ニチコンが共同開発したもので、2020年にグッドデザイン賞を受賞しています。もちろん、そのニュースは私もチェックしていて、事前に送った質問に「新型器の設置計画」を挙げてましたが、「6口タイプ」であることは迂闊にも理解できていませんでした。
簡単に説明すると、ズラリと並んだ最大6口(場所によっては4口などの可能性もあり)の充電器が200kWの電源を共有。充電するEVやPHEVの状況に合わせてパワーシェアリングを行う仕組みとのことです。
チャデモ規格で最大100kWの急速充電性能をもつメルセデス・ベンツ『EQA』で、90kW出力の急速充電器が使えれば東京―兵庫のロングドライブも問題ないことは、先日のレポートで紹介しました。
ただし、現状の日本国内で市販されるEVの大半は最大50kWです。EQA以外では、日産リーフe+が最大70kW、ポルシェタイカンが最大150kWのチャデモ急速充電に対応しており、日産アリアが130kW対応となることが発表されていますが、こうしたハイスペックEVがひとつのスポットにズラリと集結してしまうのは、当面かなりのレアケースでしょう。
一方で、三菱アウトランダーPHEVやトヨタプリウスPHVなど、急速充電も可能なPHEVが受け入れ可能な最大出力はおおむね20kW程度。たとえば、5台のPHEVと1台のEQAが同時に充電開始という、ややあり得ないケースを想定しても「20kW×5台=100kW」なので、EQAはしっかり最大の90kWで充電できます。
欧米では最大350kWというスペックの急速充電インフラ整備が進んでいますが、個人的には「オーバースペックじゃない?」とも感じていて、まずは「200kWをシェアリング」という方法はかなり賢明であると思います。
「高出力対応のEVが増えて200kWで足りなくなれば、受電設備を300kWに上げるといったことは、新規に設置することを思えば比較的容易に実現できます」と四ツ柳さん。
eMPの超急速充電インフラ拡充という追い風を活かし、日本の自動車メーカーや輸入車インポーター各社には、100kWクラスの急速充電性能を備えた利便性の高いEVのラインナップ充実を進めて欲しいと期待します。
この充電器はいつ頃デビューするのか?
この新型充電器が「今秋を目途」に、まずは首都高速道路の大黒PAに設置されることはすでにアナウンスされていました。今回、改めて確認すると「予定通り今秋に運開(運用開始)の見込み」ということだったので、開設の際にはぜひレポートしたいと思います。
また、先に紹介した急速充電インフラの設置の考え方から推し量ると、高稼働率の数十カ所、中稼働率の数十カ所の一部などを対象に「6口化」が検討されています。つまり、来年以降、続々と各地に登場する、はずです。
より具体的な設置場所と開設予定時期も尋ねましたが、まだ調整中で発表できる段階にないということでした。
ちなみに、何か抵抗勢力や異論があって具体化が進まないなんてことではなく、高速道路SAPAに関わるNEXCO各社なども、eMPが提示している高出力複数「口」化には賛同しているとのこと。ただし、SAPAの敷地は限られており、最近は大型トラックの駐車スペース不足の課題もクローズアップされていたりして「SAPA内のどこに設置するか」が悩ましい問題ではあるようです。
eMPが設置する急速充電器
急速充電器設置計画には「2口化」もありました。当面、eMPが設置を進めていく急速充電器は前述の6口タイプと、次の3機種です。
ABBと新電元工業の機種が「2口タイプ」ということになります。
「100kW級で2口タイプ、OCPP(オープン・チャージ・ポイント・プロトコル)対応であることや、ブーストモードを採用すること、また将来的にはV2Gに対応するといった機能をメーカーに求め、各社がそれに応えた機種を開発してくれているところです。次回の調達の機会には、さらに選択肢が増える可能性もあります」(四ツ柳さん)とのこと。
OCPP対応は当面管理側が必要とする機能のためのようですが、いつの日か、カード認証不要の「プラグアンドチャージ」が実現するのかも知れません。
「ブーストモード」というのは、90kW(200A)用のケーブルは太くて重くなってしまうため、50kW(125A)用 のケーブルにおおむね15分だけ200Aの電流を流し、ケーブルの温度が上昇したら125Aに落とすという、eMPが考案した「奥の手」仕様です。ケーブルが扱いやすいのはメリットですが、高出力対応のEVで利用した際の使い勝手がどうなのか、まだちゃんと試したことがないのでわかりません。
提示いただいた資料には「公共充電器の最適な出力」を示す表もありました。高速道路は「90〜150kWがいいな」とも感じますが、現在の私の愛車である30kWhリーフをはじめ現状における市販EVの大半は最大50kWでしか充電できないし、おおむね、納得できる指標だと思います。
とはいえ、日産アリアをはじめ、これから高出力急速充電に対応するEVの車種や台数が増えてくれば、30分間フルに90kW、もしくは150kWなどの高出力で充電したいというニーズが高まるはず。6口タイプの出力増強や、原則30分制限の是非などとともに、そのあたりは「3周目」の課題になっていくのでしょう。
EV社会の未来を目指す思いは同じ
今回、四ツ柳社長にインタビューするまでは、正直「いったい、いつになったら高速道路SAPA急速充電器の高出力化や複数台設置が進むんだろう?」とじれったい思いを感じていました。でも、2025年を目途に6口タイプの新型急速充電器を始め、大幅に増強するビジョンであることを知り、「思いは同じだったんですね!」と、すごく前向きな思いになれました。
事前に用意した取材用のレジュメでは、従量課金への移行や料金制度の改革は? といった質問も用意していたのですが、「2025年までに倍増」する際の急速充電器の設置コストなどは、ほとんどがeMPの先行投資となるはずです。
NCSの場合、充電器設置の主体は各地の事業者で、設置への補助や利用料の再配分を担っていました。eMPの「2周目」インフラ整備では、従来の設置事業者へのサポートは継続して維持しながらも、eMP自身が主体的にコストを負担して充電器を設置、利用料(充電カード会員の月額料金など)でさらなるインフラ整備と事業の維持発展を支えていくビジネスモデルに転換していきます。
重要なのは必要十分なインフラの拡充と維持。従量課金などの課題はまだ優先順位が高くないということが、説明を伺って理解できたように感じます。今のEVユーザーは、社会にとっていわば「ファーストペンギン」ともいえるイノベーターでもあります。こうしてメディアの情報発信に関わるEVユーザーのひとりとして、充電カードの月額料金などはきっちりと負担しつつ、eMPのインフラ拡充と、日本におけるEV普及を応援していこう、と思いを新たにしています。
取材が終わった後の雑談で、四ツ柳社長から「EVユーザーや関係者とざっくばらんに話す機会が作れるといいですね」という提案をいただきました。いいですね! 時節柄オンラインになるでしょうが、ぜひ、企画を考えてみたいと思います。
eMPのビジョンが順調に実現していくことを願っています!
(取材・文/寄本 好則)







