日本初! 横浜市内の公道上に電気自動車2台用の急速充電器が出現

神奈川県横浜市と株式会社e-Mobility Powerが、公道上に電気自動車用の急速充電器(QC)を設置してその可能性や問題点を検証する実証実験を開始しました。道路上にQCが設置されるのは日本国内で初のことです。開業翌日の実際に現地に行って試すとともに、担当部署にお話しを伺いました。

日本初! 横浜市内の公道上に電気自動車2台用の急速充電器が出現
前回の取材では横浜スタジアム隣りの旧庁舎にお邪魔しましたが、今回は桜木町駅前の新庁舎に。24階に「温暖化対策統括本部」はあります。

設置場所

2021年6月8日、QCが設置されたのは、神奈川県横浜市の内陸部にあたる「青葉区」で、設置された道路は「県道」です。横浜というと港のイメージが強いですが、ここは田園風景の広がるのんびりとした郊外です。

画面右下が横浜市の臨海部、いわゆる「みなと横浜」です。QCが設置されたのは内陸部。渋谷から長津田方面を結ぶ「東急田園都市線」沿いの、田奈(たな)という駅からほど近い場所です。左上の赤いマーキングの場所が「しらとり台」です。画面左上には玉川大学が見えていますが、ここはもう東京都町田市です。(Google Mapより転載)

QCは「しらとり台」という地区南西部の県道上に設置されました。この道路は、台地を「恩田川」が削った河岸段丘沿いにあります。

青葉区の中心地は、区役所のある「市が尾(いちがお)」です。画面右上に区役所が見えています。今回QCが設置が設置された場所は、画面左下「しらとり台」という地名が見えますが、その左下の川に近い道路沿いです。「田園都市幼稚園」や「横浜みどりの学校ひまわり」に沿った道です。(Google Mapより転載)

行ってみると、片側1車線の道路のわき、北西に向かう側の車線の、道路が少し広くなっている場所に設置されていました。EVが駐車して充電できる枠が2つ、路上に描かれています。

北西に進む道路側に設けられたQC。画面奥が「東急田園都市線田奈駅」方面にあたる。

車線と充電スペースを区切るものはありません。6月8日の開業式では、人が集まるため安全を配慮してか、車線との間には仕切りが設置されていました。

2021年6月8日の開業式、テープカットのようす。(横浜市温暖化対策統括本部が撮影した記録写真)
2021年6月8日の開業式、テープカットのようす。(横浜市温暖化対策統括本部が撮影した記録写真)

ここは将来的には片側2車線になる予定で、将来の車線になる部分を借りて設置している、と言えます。

充電器の概要

設置された急速充電器(QC)は、e-Mobility Powerが各地に設置しているABB製のもので、充電用ケーブルが2本出ています。EVが1台で充電する際は最大90kWの出力ができて、2台同時充電の場合はそれぞれ56kWの出力となります。

【関連記事】
イーモビリティパワーがABBの高出力急速充電器で電気自動車充電インフラ最新化へ(2020年8月7日)

道路わきに設置されたABB製のQC本体と、付帯の変電設備。比較的コンパクトな印象。道路上に設置ということもあり、地上に落ちたケーブルにつまずいて人が転ばぬように、ケーブルがなるべく空中に位置するような工夫がなされている。ケーブルにつまずいて転んで、車線に身体が出てしまったら命にかかわります。

ただし、今回の横浜市の場合、2021年10月までは1台充電時でも最大56kWまでしか出ません。もっとも、56kWを受電できるEVはまだまだ少ないのが現状ですから、問題にはならないでしょう。また、今回の実証実験は2022年3月下旬までとされています。

実際に継ぎ足し充電してみましたが、筆者のSCiB搭載のBEVも、125Aのフルパワーで充電できました。56kWまでは使っていなかったものの、44kW以上のパワーが出ていたことは間違いないでしょう。

今回、横浜市では「EV」を「BEV(バッテリー式電気自動車、完全に電気だけで走るもの)」と「PHEV(プラグイン式電気自動車、エンジンが付いていて、車検証には『燃料』として電気だけでなくガソリンも並記されているもの)」の両方を含めたものとして定義しています。

余談ですが、ABB社は、かつては「ブラウン・ボベリ」と名乗っていたこともあるスイスの老舗電機メーカーです。鉄道黎明期の日本には、このブラウン・ボベリ製の電気機関車も輸入され、国産電気機関車の模範となったことも思い出されます。国鉄のED12型(西武鉄道に売却されてE51型になる)、ED41(横川・軽井沢間のアプト式軌道時代に活躍)、ED54(東海道本線の丹那トンネル開業後を念頭に、急行列車牽引用として導入)などがありました。

これまでの動き

まず2020年3月に、横浜市と株式会社e-Mobility Powerが連携協定を結びました。EVsmartブログでは、同年4月9日にこれをリポートしています。

【関連記事】
横浜市とe-Mobility PowerがEV普及促進に向けた連携協定を締結 〜 これまで無かった場所にも設置か(2020年4月9日)

同年9月には、国土交通省の「道路に関する新たな取り組みの現地実証実験(社会実験)」に採択されました。こうした流れを受けて、2021年6月8日(火)から実証実験が始まりました。

これまで横浜市では、店舗などといった「QCがあったら良いと考えられるおおかたの場所」には設置をすませてきたので、これまでに無い形の設置に踏み出したいと考えていました。

集合住宅・マンションに電気自動車用充電器を設置する 【第2回】総会・施工・運用 編

また、住民の60%ほどが集合住宅に住んでいるという事実からも、自宅にまだ充電設備を付けられていない集合住宅住まいの人たちにも、EVを運用しやすくしたい、という意図もあります。市民のうち、EV用充電器を持っていると回答している人の90%は、戸建て住宅に住んでいるというデータもあります。

検証すべき課題

実証実験で検証したい課題は、大きく分けて4つあります。

1. 周辺交通に及ぼす影響

懸念されるのは、充電する車両が何台か集まったりして渋滞が起きないか、ということです。「交通管理者」である警察も、これを気にしているそうです。道路上に用意されているのは充電用の2区画だけで、待機用のスペースはありません。

2. 利用者のマナー

監視カメラはあるものの、周辺に店舗があるわけでもないので、ゴミなどを散らかす人が出ないか、充電器などにイタズラをする人が出ないか、利用者だけでなく、そこを通る人のマナーも気になるところです。

充電器の南西側は、恩田川をはさんで長津田方面の台地が遠望できる。畑の広がる田園地帯だ。

3. EVユーザーのニーズはあるか

設置はしてみたものの、道路上だと利用しにくいというような感想が出ないか、気になるところです。

4. 事業性

そして、今後を見すえるとき、事業として成り立つかどうかは重要なポイントです。今回の設置に関しては、全てe-Mobility Powerの費用負担で実施されています。

市が行った業務はむしろ、各行政機関との折衝と調整でした。大きなものとしては、「交通管理者」である「神奈川県警」と、「道路管理者」である「青葉土木事務所」との調整がありました。

法的なことを言うと、交通管理者からは「道路使用許可」を、また道路管理者からは「道路占有許可」をそれぞれ貰わなければなりません。今回の実証実験が2022年3月いっぱいとされたのも、道路使用許可と道路占有許可が同じ期限で発行されていることによります。(なお、横浜市は政令指定都市なので、県道でも県ではなく、区の土木事務所が道路管理者としての業務をカバーしています。)

EVsmartブログチームで出た疑問

せっかく取材にお邪魔させていただいたので、いろいろと質問もしてみました。EVユーザーとして聞きたいであろうものをかいつまんで書いてみます。

Q1:最大30分の充電時間が終わっても、そのまま駐車し続けていたらどうなりますか?

A:充電中のみ駐車が可能なので、ふつうの「駐車違反」扱いになる、とのこと。

Q2:充電しないで駐めていたらどうなりますか?

A:上記同様、普通の駐車違反の扱いになる、とのこと。

Q3:今回は郊外の田園地帯での実証実験ですが、市街中心部などでの実証実験も検討されているのですか?

A:検討しています。各所との調整があるので、まだはっきりとは言えませんが、いろいろと検証してみたいと考えています、とのこと。

おわりに

真夏並みの暑さのなか、取材に行ってまいりました。現地では特に立ち寄れる店舗なども近くには無いため、充電中は車内で待つしかなさそうです。そうした意味では、放置される可能性はまず無いと感じました。

設置前の現地のようす。(横浜市温暖化対策統括本部が撮影した記録写真)

ただ、著者の i-MiEV は初期のBEVのため、充電中は空調が使えません。( i-MiEV でも、最後期のものは充電中エアコンが使えます。)おかげで、オーブントースターで焼かれているような気分(焼かれたことは無いですけど)でした。

利用開始前の現地のようす

仕方がないので、近くの木陰に避難していました(笑)。

筆者が利用時のようす。

EVユーザーも、慣れてくると「必要な分だけ充電」が分かるようになります。初めの頃は多くの人はビビって、とにかく上まで充電しがちですが、慣れてくるとそれが馬鹿馬鹿しいことだと分かるものです。そうした意味でも、移動途中に必要な分だけ「継ぎ足し充電」できる機会が増えることは喜ばしいと思います。

こうした実証実験がさらに積み重ねられて、EVユーザーにも街にも地球にも優しいシステムが構築されることを期待しています。横浜市の次の一手も楽しみにしています!

(取材・文/箱守 知己)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 近くにコンビニが、無いとしたら、せめて自動販売機を設置して欲しいと思います。
    近くに公園があってトイレが有れば、その案内看板が欲しいですね。
    それと、eMPの急速充電器には、雨よけの簡易屋根付きもあったと思います。

    1. たしかに30分停車するならトイレと自販機は欲しくなりますよね。自販機はAC100Vさえあれば何とかなりますし、トイレも仮設なら安く済みますし(ただし要汲取作業)。
      これは各自治体の公園整備事業の一環に取り込んだほうが効率エエかもしれまへん。つーか逆に公園やと普通充電器数台もしくは急速1台+普通充電器複数かもしれまへんが(新電元の連立充電システムが該当)。

      そういやこの充電器は高圧受電設備(キュービクル)とセットですね。電気主任技術者の保守点検による駐車はokなんだろうか!?…最低限自治体担当者から許可は取ってるんでしょうが。

  2. 道路わきに広いところがあるとトラックや営業車が休憩している挙句
    ゴミを棄てていく、不法投棄をしていく
    という経過があってポールで閉鎖されているところがかなり多いですから
    電動車オーナーがいくらマナーよくしてもごみまみれになるのは目に見えてます。
    やるのなら一定程度の広さの駐車場をもつコンビニに「場所を借りる」という形での設置がいいでしょう。
    多少なりとも集客が望めるのですから、行政に頼るよりはコンビニやホームセンター、スーパーの方が良いと思いますけどね。
    出来れば24時間使えるようにしてほしいところですが。

    後思うのは、ガソリンスタンドがそうであるように
    高速道路や専用道路のインターチェンジの出入り口に欲しいですね。
    将来的には現在ETC2.0で実証実験しているように、全てのインターチェンジで途中下車を認めてくれればSA/PAに充電器がなくても文句は出にくいだろうと思う。

  3. 実証実験なので敢えて問題点が出そうな条件で設置したのでしょうね。
    本文中でもご指摘のように、近くの自宅充電設備を持たない人びとが出発時あるいは帰宅前に利用することが想定されます。
    付近に日産ディーラーが三軒ありますが朝夕は混んでいるのかも知れませんね。
    集合住宅などの普通充電器を充実させることが必要といった結論になるかも知れません。

  4. 1. 周辺交通に及ぼす影響
    2基とも塞がっている様なら諦めて他所へ移動する可能性が高速道路よりもずっと高いので、頻繁に充電待ちが発生して交通の流れに支障をきたすことはないかと予想します。
    2. 利用者のマナー
    監視カメラが有る状態でゴミを散らかす勇気のある人は少ないと思われます。
    3. EVユーザーのニーズはあるか
    トイレの有無と充電速度の兼ね合いから、速い充電器を持つ車メーカーの車両の場合は、
    カーディーラー>公道上充電器>コンビニ
    の優先度で、それ以外は
    公道上充電器>カーディーラー>コンビニ
    の優先度で使われると予想します。
    利用者の腹の調子によってトイレと充電速度のどちらを優先するかで変わりますね。
    4. 事業性
    日本の電力会社の高い電気料金ですと、採算が取れずに当分厳しいのではないかなと思います。

    その他、起こりうる問題点ですが、法的には駐車禁止になると決まっていても、デカデカと駐車違反とその罰金の事が看板に明記されていないと駐車違反は防げないだろうという点が考えられます。

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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