電気自動車の命はバッテリーです。オズモーターズが初期型リーフのバッテリーを新型リーフのものに増量交換するサービスを開始して数か月が過ぎました。その後、リーフのバッテリー交換事業はどうなっているのでしょうか。代表の古川さんに現状を聞いてきたので紹介します。
リーフのバッテリー交換サービスが本格化
第3京浜港北ICからほど近い、ちょっと農地が残る郊外にガレージを構えるオズコーポレーションは、『OZ Motors (オズモーターズ)』というブランド名でICE車を電気自動車(EV)にコンバートする事業などを展開してきました。
コンバート事業に加えて、昨年は初期型リーフ(24〜30kWh)のバッテリーを新型リーフが搭載しているもの(40kWhと62kWh)に交換するサービスを発表したのは昨年11月のこと。EVsmartブログでは初めての増量交換リーフが車検を通すところをリポートしました。
容量低下が進んだ24kWhや30kWhのリーフが、40kWhとか62kWhに生まれ変わるなんて、初期型オーナーにとってオズモーターズのサービスは天の助けに思えるのではないでしょうか。
今回、オズモーターズの古川治さんがBYDの『ATTO 3』を購入したというリポートをするのに併せて、リーフのバッテリー交換サービスのその後をお聞きしました。
結論から言うと、古川さんの予想を上回る注文が入ってきたそうです。
スタートから4か月で数十台を交換
オズモーターズの古川さんがバッテリー交換サービスの受け付けを開始したのは、2022年12月でした。その後、実質的にバッテリー交換の作業を手がけたのは2023年1月からだったそうです。
受け付けを開始すると、古川さんが「少し驚いた」というほどに、想定よりも多くの問合せがあったようです。
それからの4か月で、数十台のバッテリーを交換したそうです。
「2022年11月の車検時に取材をしていただいたときには、まだうちも体制が整ってなかったので、バッテリーもあまり用意していなかったのです。正直、多くの問い合わせが来ると思ってなかったのですよ。始める前は、本当にお困りの方や新しい体験好きな方がいれば半年で5台、10台程度かなと思っていました」
「今回の走行用バッテリーのアップグレードは100万円以上するじゃないですか。100万円のドレスアップっていえば高級車のホイールや足回りとか、かなり豪華なことができてしまいます。でも走行用バッテリーのアップグレードってこれまでの自動車アフターサービス・サポートとして無かった初めてのサービスだし、関心は薄いかなと。でも想像以上でした」
【公式サイト】
オズモーターズ「日産 リーフ(ZE0 AZE0)バッテリーアップグレードサービス」
バッテリー確保に尽力
問い合わせや注文が増えるのはありがたいことですが、問題はバッテリーの確保だったそうです。
「なかなかたいへんでした。今は海外の業者との取り合いですね。元々信頼性の高い電池なので、海外でも同じようなサービスをしていたり、バッテリーセルを再構築しソーラーに組み合わせてストレージ(定置型蓄電池)に使っているケースが多いです」」
海外で需要が多いのはロシアやスリランカ、ニュージーランドなどだそうです。古川さんによれば、ニュージーランドへは『リーフ』が並行輸出されているのである程度の車両個体数があるそうです。古川さんも、バッテリー交換時に使用するデバイスやサービスツールはニュージーランドから入れています。
「バッテリーを交換しただけだと、車側で40kWhのバッテリーを認識しません。それをトランスレーターというツールと車両コンピューター(VCU)のデータを書き換えるなどして認識させます。いわゆるファームウェアのアップデート作業などですね。入庫時には、VCUには複数のエラーコード履歴が残っていたり、実際に他の部品の不具合等でエラーを発している状態のこともあります。そうしてエラーなどを全部診断と確認して、車両状態の全体把握とリセット、さらにはバッテリー以外の故障についてはリクエストに応じて部品の物理的な交換や修理なども行う。そうした車両のソフトウェアとハードウェアの両面のサービス体制を持っていないと、アップグレードサービスは成り立たないと考えていました」
古川さんの話は、筆者が思っていたより深いレベルの交換サービスでした。
「正直、アフターマーケットでデバイスだけ提供しますという程度の製品であったら、オズでは本サービスは実現しなかったです。それだとサービス提供後、すなわち納車後のエラー発生時や故障発生時にフォローや修理ができなくなってしまいます。このような新しいサービスを安心して利用いただくには納車後のサービス体制の確立は最も大切です。これはコンバートEVをはじめ、オズの他のサービスでも同じ理念です。サービスツールも完備し、我々自身がソフトウェア面でも知見を持ち、納車後にも自社で診断や修理・修復ができ保守ができるようにしています。特に現時点のアフターマーケットでは、メーカー製量産EVにおいても取り扱いを得意とするショップは、ほとんどないのが実情です。ハード面に加え、ソフト面の故障なども自社内で解決できないと、我々が考えるサービスの基準としては成り立たないですね」
交換用のバッテリーは、時価
では交換費用はいくらくらいになるのでしょうか。
これがなかなか厳しいというか、現状は、前述したようにバッテリーの確保が不安定な状況のため「正直に言うと、時価になっています」と古川さん。
バッテリー交換のメニューとしては、交換後の容量で40kWhと62kWhの2種類を用意しています。価格は、取材時には40kWhの基本パッケージの場合で税込み143万円とのことでした。62kWhの場合は、40kWhに比べて100万円ほど高くなります。
基本パッケージでは、バッテリーが本来持っていた満充電容量に対する現状(劣化時)の充電可能容量(SOH=States Of Health)は80%を確約しています。在庫状況によってはSOH90%確約品などがあるそうです。
SOHが高い場合はプラスアルファのオプション料金がかかりますが、SOH90%でもプラス9万円程度だそうです。そのため、基本パッケージで予約していても、実際の作業までにSOHが高いバッテリーが入荷した場合は「そのくらいなら高いSOHへ変更してしまおうっていう人が多いですね」と古川さんは言います。
の古川さんによれば、これまでに見てきた40kWhのモジュールのSOHは、100%から90%まで落ちるのはけっこう早いものの、80%台が長く続くことが多いのではないかとのこと。入荷するパックもSOH85%強を維持しているものが多いそうです。ということは、まだフルセグですね。
日産リーフ「セグ欠け」電池容量の目安
| 劣化度 | SOH目安 | 推定総電力量
(30kWhの場合) | 推定総電力量
(24kWhの場合) |
|
|---|---|---|---|---|
| 11セグ | 15% | 85% | 25.5kWh | 20.4kWh |
| 10セグ | 21.25% | 78.75% | 23.6kWh | 18.9kWh |
| 9セグ | 27.5% | 72.5% | 21.75kWh | 17.4kWh |
| 8セグ | 33.75% | 66.25% | 19.9kWh | 15.9kWh |
| 7セグ | 40% | 60% | 18.0kWh | 14.4kWh |
| 6セグ | 46.25% | 53.75% | 16.1kWh | 12.9kWh |
さらに、「40kWhと62kWhに使用されているセルは、従来品から電池素材などが大幅に改良されており耐性が非常に良く、容量が大きい分も含めて急速充電も終盤まで多く入りやすいです。単純な容量のみでの比較だけではない部分においても優位性を感じます」とのこと。
実地で現物を扱ってきたからこそわかる情報、リーフユーザーさんにとっては貴重ではないでしょうか。
車両を持ち込めば日帰り交換も可能
申込みから交換までの期間は約2週間~1か月ですが、申込みがあった時点でバッテリー確保に動き、実際の作業は1日で完了するそうです。例えば朝9時にオズモーターズに持ち込めば、夕方の4時~5時には生まれ変わったリーフで帰宅できるというわけです。
大きくセグ欠けしているリーフだと、持ち込むのも大変そうではあります。それでも、神戸から自走してきた人、九州からフェリーにて横須賀から自走で来るだけでギリギリの人など、かなりの猛者もいたそうです。古川さんはこう言います。
「見積もりの時にメーターの写真を送ってもらっているのですけど、2セグメントの車もあったんですよ。初期の6分の1くらいですよね。たぶん満充電でも35kmくらいしか走らない。そういう人でも交換すれば自走で帰ることができるので、交換後は非常に安心です。それにルンルンですね!」
2セグまでガマンして乗っていたユーザーさんには、とても強い「リーフ愛」を感じます。そういう人たちにとっては、ほんとに古川さんは神に見えるのではないかと思います。それに日産も、こうしたユーザーさんは大事にした方がいいんじゃないかなあと思うのです。リアルワールドの走る実験室とも言えるのですから。
持ち込みの他、遠方なら陸送手配で車を入庫することも可能です。この場合は陸送にかかる時間とコストがプラスになります。一番遠いお客さんは、沖縄から車を送ってきたそうです。
陸送手配の場合は、改造申請までオズモーターズでやって返送する、ワンストップサービスもできます。一方で、持ち込みにより日帰り交換をする場合は、基本的にはオーナーが自分で申請することになります。
後日に自分で陸運局へ持ち込んで作業することになりますが、この際もサポート体制を完備しているとのことです。
車検の時にバッテリー交換してしまうのもひとつの手です。オズモーターズは自動車整備の認証工場でもあるので、車検も一緒に依頼ができます。数日預ければ、車検整備、車検の必要に応じて足回りやブレーキ周りなどの部品交換、車検(継続検査と記載変更手続)、そしてバッテリーアップグレードと、戻ってくる時には愛車がまるで別物のようにリフレッシュしている、というこれまでにない新しいサービスの体験をできるのであります。
多かった「リーフのバッテリー交換」の相談
古川さんがリーフのバッテリー交換サービスを手がけようと考えたのは数年前だったそうです。オズモーターズ(オズコーポレーション)では車のアフターマケットをベースに、EVについてはICE車からのコンバートを事業化していましたが、その中で、「リーフの相談がけっこうきていた」そうです。
「リーフやi-MiEVのバッテリー交換ができないかという相談がけっこうきていました。コンバートEVではあらゆるバッテリーの再構築をしているので、それらの投稿などを見ていたリーフなどのユーザーが、ココならできるのでは? という感じで問合せをいただいておりました。でもそれは、基本的にはメーカーさんの仕事だと思っていたのと前述の納車後のサポート構築が出来ていなかった状況でしたのでお断りしていたんです。とはいえ相談の数が増えてきたので本格的に調査をはじめました。そうした結果、製品供給だけではなく、きちんとお客さんにサービスとして提供できるデバイスとサービスツールを用意できることがわかったのです」
それに加えて、EVの市場自体をきちんと確立させたいという思いもあったそうです。
「新しいことをやるためには、ビジネスとして継続できるものにしないと、結果お客様に満足いただけない、そしてご迷惑をかけてしまうこともあります。でも実際、EVのアフターマーケットやサービスはまだほとんど確立できていないと思うんです。我々としては、EVのアフターマーケットの中のひとつとして、コンバートEVやバッテリーのアップグレードサービスがあることで、愛車をより長く乗りたい、モノをより大切に使いたいユーザー、さらには中古EV購入においても航続距離の期待外れや不安がなく、誰もが長く安心してEVに乗れるようなサービスをやっていきたいという思いが出てきたんです。さらに昨今中古EV市場をウォッチしていると、今後の中古EVの評価基準は標準搭載電池容量及びSOH、「電池状態の評価」も強く影響する、すなわち実質的な航続距離に対する付加価値評価の傾向が強くなるのは確実と思います。この点において、自動車査定や中古車流通市場などにおいても、適正な評価が受けられるように市場への影響を与えられれば、と思っております」
実際にバッテリー交換サービスを始めてみて、いちばんよかったと感じたのは、「お客さんの声を吸い上げられることです」と古川さんは言います。
「EVオーナーの生の声が聞けるのは何よりもよかったです。バッテリーのアップグレードサービスを始めたときには、こんなにたくさんお客さんが来るとは思ってなかったんです。でも、ものを大切にしてる方々がいて、バッテリーがダメだから車を捨てるんじゃなくて、愛車を長く大切に使いたいっていう方がいることがよくわかりました」
さらには、EVが壊れにくいということも改めてよくわかったそうです。
「交換部品は本当に少ないです。あと、振動がないのでゴムブッシュ類が傷みにくい。エアコンのガス漏れもほとんどありません。一般的に中古車のオークションでエアコン不良の個体はよくあるんですけど、リーフは驚くほど漏れないんですよ。それにモーターはまず、壊れないと言ってもいいかもしれません。先に故障が来るとすればインバーターや補機類でしょうけど、リビルト品を使えば比較的安価で直せます。逆にEVの特性から強化しておきたい箇所もいくつかあります。そういう意味でも、中古EVのサービスについては、いろいろとやることがあるんじゃないかと思ってるんです。もったいないじゃないですか、リーフって本当にいい車なんですから」
バッテリーの安全基準強化が今後の課題にも
ということで、好評に見える初代リーフのバッテリー交換サービスですが、実は7月上旬に受付を一時的に停止する予定です。理由は、国土交通省によるバッテリーの保安基準の一部変更です。
9月の規制強化では、冠水した場合での絶縁状態確保などが追加され、安全基準などが引き上げられます。リーフのアップグレードサービスにも影響する見込みです。コンバートEVにおいても、製作のハードルがさらに増えるのは間違いありません。
もちろん安全の確保は大切です。とはいえ、旧車をEVに再生して使えばCO2削減にもなるので、メーカーの大量生産品と、限定的な数しか出ないコンバートEVは別に考えてほしい部分はあります。ものを大切に長く使うという発想への転換もそろそろ必要ではないでしょうか。
なお、オズモーターズのバッテリー増量交換サービス再開は半年後くらい、つまり2024年になる予定だそうです。
そんなわけなので、バッテリー交換を考えているリーフオーナーの方、早めに相談するのが吉ですよ。今ならある程度バッテリーの在庫も確保できているようですし、意外に早くリフレッシュできるかもしれません。
オズモーターズのようなサービスは今後のEV普及にとって要になる部分だと、個人的には感じます。時間はまちまちですが、バッテリーはいつか必ず劣化します。でもEVは、古川さんも言うように壊れるところが極めて少ない作りになっています。
バッテリーが劣化したからといって、すべてを廃棄してしまうのはもったいないと思うのです。これからEVが増えるのは確実です。できるのなら、EVの普及と同時並行で、オズモーターズのようなサービスを提供する事業者が増えてほしいと願う今日このごろです。
取材・文/木野 龍逸



