買わずに楽しむ超高級EV〜フェラーリ『LUCE』【デザイン編】フェラーリが自身と業界に投げかけた5つのディスラプション

フェラーリが同社初のBEVモデルとなる「LUCE(ルーチェ)」のエクステリアデザインを発表しました。フェラーリはルーチェを「新章の幕開け」と表現しており、これまでの価値観を当てはめようとすると本質を捉えられない可能性があります。ルーチェが具現化したディスラプションを考えてみます。

近年で最も話題になったフェラーリ

フェラーリは、同社の記念すべき初のBEVモデルについて、シャシーとコンポーネント、その次に「LUCE(ルーチェ)」という車名とインテリアと段階的に情報を公開してきました。そしてエクステリアデザインを2026年5月25日に発表しました。実際に購入できる方は少ないでしょうが、考察を楽しむのは自由です。同社の歴史的転換点として後世に語り継がれるであろうルーチェが具現化したディスラプション(創造的破壊)を読み解きます。

ルーチェのエクステリアデザインが発表されると、瞬く間にその形状について賛否両論が巻き起こり、明らかに「否」の方が多かったように思います。ネガティブな声は一般のファンからだけではなく、1991年から2014年までフェラーリを率いた元会長、ルカ・ディ・モンテゼーモロ氏やイタリアの運輸大臣からも出ていることが事態の大きさを物語っており、発表翌日に株価が下がったことも報じられました。

私自身、これまでのフェラーリと異なり、シャープなラインで構成されるカッコ良さやエモーショナルさはなく、丸くてかわいいデザインだと感じました。一方で、このデザインはフェラーリに新しい顧客層を呼び込み、相当な人気を集めるのではないかとも思いました。

内外装デザインを手掛けたのはアップルでデザイン責任者を務め、iPhoneやiMac、iPodなどのデザインを率いたジョナサン・アイブと、マーク・ニューソンらによるデザイン集団LoveFromです。

フェラーリはかつて、デザインを外注する場合、ピニンファリーナやベルトーネといった自動車デザインに精通した名門カロッツェリアと協業してきました。一方、ルーチェでは、伝統的なカロッツェリアではなく、LoveFromを起用。その理由は、初のBEVであるルーチェを従来の自動車デザインの延長ではなく、新しいフェラーリ像として表現するために、彼らの持つ外部視点と工業デザインの知見を取り入れるためとしています。

完成車のデザインを手がけたことがないLoveFromにデザインを託すという前例のないチャレンジを行ったことが、フェラーリが自身に向けたひとつ目のディスラプションだと思います。

なお、ルーチェのボディサイズは全長5026mm、全幅1999mm(ミラー含まず)、全高1544mm、ホイールベース2961mmで、フェラーリ初の5人乗りです。タイヤサイズは前265/35R23、後315/30R24で、24インチは量産フェラーリとしては最大径のため、5m超の全長の割にコンパクトに感じられます。

語られるべきルーチェの空力性能

BEVの航続距離に直結する空気抵抗の低減は、各メーカーがデザイン、パッケージング、冷却性能とのバランスを探りながら最適化する重要な開発領域です。この値を0.01小さくすると、航続距離を2.5%伸ばせるとされています。

Cd値のトップクラスは、メルセデス・ベンツEQSセダンの0.20、テスラ・モデルSの0.208、SUVではテスラ・モデルYやポルシェ・カイエンクーペの0.23などです。

ルーチェはボディ前端からルーフを通過し後端に至るまでEQSセダンと同じような一本の滑らかなラインで繋ぎ、フロントとリアにボディカラーと同色のウイングを設けました。そのウイングも単体で独立するのではなく、ボディとシームレスにつながっています。そのためフロントはヘッドライトの間、リヤはテールランプの上部がトンネル形状で空気の通り道になっています。

フェラーリの空力へのこだわりはワイパーの常識も覆しました。通常ワイパーの停止位置はフロントガラスの前端です。ただしルーチェでこの位置にしてしまうと、せっかくきれいに流れる空気の流れを邪魔してしまいます。そこでルーチェはワイパーの停止位置を左右のAピラーに沿わせる配置にしました。このワイパーの新しい設計も、自動車デザインに持ち込んだディスラプションのひとつです。

レーシングカーでも同じように1本のワイパーをガラス中央に設置し、停止位置を可動域の中央とすることで空気の流れをよくしようとしている例をみますが、乗用車でそれをやってしまうとワイパーが視界を邪魔してしまいます。

また今回の発表ではルーチェは左ハンドル車のみでしたが、右ハンドル車もある場合、このルーチェ方式であれば、自然に両方のハンドル位置に対応できる利点もあります。

さらにはワイパーがフロントガラス面を流れる空気をルーフに真っ直ぐに導くガイドの役割も果たし、直進安定性にも寄与しそうです。

車内からの見た目では、停止位置にあるワイパーアームがAピラーよりも内側に見えるため、この点だけが運転中に多少は気になりそうではありますが、上記のような空力面での効果の方が、より大きな利点になりそうです。

空気の流れを邪魔しないという意味では静粛性にも寄与していると考えられます。高速走行時にボンネットとガラスの段差により、ガラス辺りからの風切り音が発生しているとすれば、このルーチェの形状はより静かな室内を実現している可能性があります。

このようにボディに様々な工夫をこらして、プレスリリースでもフェラーリ史上最も効率が良いと謳っていますが、具体的なCd値の発表はありません。ルーチェ(全高1544mm)より背の高いSUVであるモデルY(同1625mm)でさえ0.23を達成しているため、おそらく0.21から0.25の間に入っているのではと推測します。

歴代のフェラーリモデルにおいてCd値の最小はおそらくF12ベルリネッタの0.299になると思います。

サーキット走行では、4輪のタイヤを路面にしっかりと接地させ、安定したグリップを引き出すことが重要です。軽量なスポーツモデルでは、自重による接地荷重だけに頼らず、速度に応じて発生するダウンフォースによってタイヤを路面へ押し付けることで、高速域での安定性と旋回性能の向上を図っています。

ところがダウンフォースは一種の空気抵抗にもなり得るため、Cd値の悪化を招く可能性があります。エアロダイナミクスにこだわるフェラーリでさえ、そのバランスを突き詰めても2013年当時のF12でやっと0.3を切る0.299を達成したと考えることができます。

アウターハンドルの新常識を作ったフェラーリ

ルーチェのつるんとした外観は、アウターハンドル(ドアノブ)を持たないサイドビューによっていっそう際立っています。このデザインこそが、3つ目のディスラプションだと思います。

ルーチェのドアはプロサングエと同様に観音開きです。プロサングエのフロントドアは従来のハンドルの位置にあるボディに溶け込むように設けられたフラップを押し込んで開けます。リヤドアはベルトラインの前端にあるフィン形状のスイッチを引くと電動で開きます。プロサングエも従来のドアハンドルを設けないデザインのため、サイドビューがすっきりしています。

ルーチェの場合は、このプロサングエのリヤドア方式を発展させたようなもので、フロント、リヤともにドアパネル上端中央にスイッチがあります。このスイッチはドアと面一ですので目立ちません。リヤが電動なのもプロサングエと一緒です。

プロサングエのリヤドアのフィン形状は珍しいですが、実は2015年デビューの488GTBから採用されていたデザインです。488GTBではフィンがドアハンドルの位置に取り付けられているため、プロサングエよりは目立ちますが、シャークフィン形状のそれは、サイドインテークへ向かう空気の流れを整える意図を感じさせる造形です。

488GTB、プロサングエ、ルーチェとドアハンドルだけでもフェラーリの空力へのこだわりが見て取れることが興味深く、確実な進化を感じます。

ルーチェの「Dynamic Island」

ルーチェのエクステリアは、ベルトラインより上と下部の黒、前後ライト周辺部の黒に対してボディカラーが明確な対比になっていますが、サイドビューはフロントドア前方のタイヤハウスの空気を抜くため黒い開口部が悪目立ちしているように感じます。

なぜボディ同色にしなかったのかが気になりますが、ふと手元のiPhoneを見て「そうか、これかもしれない!」と答えにたどり着いた気がしました。それはiPhoneの画面上部のフロントカメラやFace ID関連センサーを収めた黒い横長のオーバル部分「Dynamic Island」もこの部分だけが黒いからです。

ルーチェのデザインを手がけたジョニー・アイブ氏は、アップルでデザインを率いた人物です。アイブ氏がアップルを去った2年後に発売されたiPhone 14でDynamic Islandが搭載されたため、同氏が直接関与したデザインとは言い切れませんが、アップル在籍時から温められていた発想が、その後の製品に結実した可能性はあります。

Dynamic Islandは、黒い表示領域の幅や高さを状況に応じて変化させます。例えば音楽を聴いている時にホーム画面へ戻ると、再生中の楽曲のジャケットが小さく表示されるなど、Dynamic Islandを情報表示の一部として活用しています。

ルーチェのドア開口部も通常は黒ですが、オプションでカヴァリーノ・ランパンテ(跳ね馬)を入れることができます。機能的な黒い領域をデザインの見せ場として扱う点に、iPhoneとの共通性を感じます。

助手席ディスプレイに感じる「引き算」の美学

BEVを中心に、近年はインパネ全体をディスプレイ化する流れが広がっています。ドライバー用、センターディスプレイ、さらに助手席用ディスプレイまで備え、インパネに3枚の画面が並ぶクルマも珍しくなくなりました。

その流れのきっかけのひとつを作ったのは、フェラーリだったのではないかと思います。FF(フェラーリ・フォー)やF12ベルリネッタの時代から、フェラーリは助手席側に専用ディスプレイをオプション装備として設定していました。

その後のモデルでも、オプション/アフターセールスアクセサリーとして展開され、同乗者にも速度やエンジン回転数などの走行情報を共有するという考え方を、早くから取り入れていました。

しかしルーチェでは、センターディスプレイにあたる「コントロール・パネル」を手動で左右に振れる構造とした一方、独立した助手席ディスプレイは採用されておらず、コンフィギュレーターでも見当たりません。これは単なる装備の省略ではなく、ディスプレイを増やしていく近年の流れに対し、あえて情報表示を整理し、インテリアを引き算で再構成したように見えます。

フェラーリはルーチェのインテリアを「明るく広々としたインテリア」と表現しています。これまでフェラーリの室内といえば、ドライバー中心のコックピット感やスポーティさが語られることが多く、明るさや広さを前面に出す表現はかなり異例です。5人乗りBEVであるルーチェが、従来のフェラーリとは異なる価値を提示していることを象徴する言葉だと感じます。

かつて助手席ディスプレイという発想を早くから提示したフェラーリが、今度はその延長線上にある「インパネ全面ディスプレイ化」の流れから距離を置く。これも、ルーチェがフェラーリ自身と業界に向けて投げかけた、4つ目のディスラプションだと思います。

ルーチェは「BEV時代のフェラーリ像」を示す存在

The Ferrari Luce full reveal

スポーツカーメーカーやスーパーカーメーカーがSUVをリリースすることに、いまだに眉をひそめる方がいます。しかし現実には、SUVが販売の過半を占めるブランドもあり、いまや単なる派生モデルではなく、ブランドの収益基盤を支える重要な存在になっています。

その収益があるからこそ、歴史と伝統を象徴するスポーツカーはブランドの頂点として輝き続け、さらなる高性能化にも挑むことができます。SUVが事業を支え、スポーツカーがブランド価値を高めるという、明確な役割分担と好循環が生まれています。

ではフェラーリにおいてもルーチェが販売の大黒柱になるのかと言えば、そうはならないと思えるところが、フェラーリらしくて非常に興味深く、トップブランドならではの余裕と戦略性を感じさせます。

フェラーリは2030年時点のモデル構成について(販売台数ではなくモデル数ベース)、ICEを40%、ハイブリッドを40%、BEVを20%としています。2022年以降の納車台数は1万3500台前後で安定しています。フェラーリは元来、販売台数の拡大よりも、希少性と収益性を重視するブランドです。

仮に2030年に1万4000台がモデル構成比率と同じ割合の販売台数になったとするとBEVは年間2800台になります。フェラーリはグローバルで60カ国(市場)以上に展開しており、そのディーラー数は197に及びます。つまり2800台を均等に割ると1国につき46台、1ディーラーではわずか14台(ひと月に1台程度しか売れない!)の割り当てになります。

さらにフェラーリは2025年通期決算で、受注残が2027年末近くまで及んでいることを明らかにしています。つまり、少なくとも今後1年半ほどの生産分については、すでに相当程度のオーダーで埋まっているとみられ、需要が供給を大きく上回り、限られた人だけが手にできる、きわめて希少性の高いブランドであることが分かります。

ルーチェを増車したいフェラーリオーナーに加えて、Netflixの「Formula 1: 栄光のグランプリ」でフェラーリのファンになったような若い世代の富裕層にもルーチェは大人気になり、年間2800台はあっという間にソールドアウトになると思います。

そうした若い世代には、「フェラーリはV12エンジンでなければならない」といった固定観念がありません。甲高いエキゾーストノートを当然のものとして求めるわけでもなく、V6ハイブリッド時代のF1を入口にフェラーリを知った人にとっては、V12エンジンのF1サウンドは映像の中の存在に近いかもしれません。なかには、初めて買ったクルマがBEVという人もいるでしょう。

つまりこのクルマはフェラーリにとって、前述のような収益を支えるためのSUV(フェラーリはSUVとは呼んでいませんが、便宜上この表現を使用します)ではなく、電動車時代における新しいフェラーリ像を提示するための象徴的なモデルだといえます。このSUVの新たな立ち位置を確立できれば、業界に向けたディスラプションになる可能性があります。

5つ目のディスラプションとルーチェのパフォーマンスについては後編で紹介します。

フェラーリ ルーチェ主要スペック
全長(mm) 5026
全幅(mm) 1999
全高(mm) 1544
ホイールベース(mm) 2961
トレッド(前、mm) 1696
トレッド(後、mm) 1690
車両重量(kg) 2260
前後重量配分 47:53
乗車定員(人) 5
一充電走行距離(km、推定値) 530
EPA換算推計値(km) 424
電費(目標電費、km/kWh) 4.34
バッテリー総電力量(kWh) 122
バッテリー種類 高ニッケルマンガンコバルト正極
バッテリーメーカー 韓国SK on®と共同設計
急速充電性能(kW) 350
急速充電時間 350kW器20分で70kWh
モーター数 4
駆動方式 AWD
回生による最大減速度 0.5G(日常走行でのブレーキングのほぼすべてが該当)
モーター種類(前後) ラジアル・フラックス型永久磁石同期モーター
フロントモーター出力(kW/ps) 105/143
フロントモータートルク(Nm) 140
リヤモーター出力(kW/ps) 310/421
リヤモータートルク(Nm) 355
システム最高出力(kW/ps) 772/1050
最高出力 ps 1050
サスペンション(前後) セミバーチャルダブルウィッシュボーンサスペンション
(ハイマウントアッパーアーム付き)
タイヤサイズ(前) 265/35R23 J9.5
タイヤサイズ(後) 315/30R24 J11
荷室容量(L) 597
0-100km/h加速(秒) 2.5
0-200km/h加速(秒) 6.8
最高速(km/h) 310
車両本体価格 (万円、A) 7623

文/烏山大輔

iPhoneを使っている身としては、そのデザイナーに信用感はありますが、独特な車になっていますね。

最近の車のデザインは国産車であっても「?」という変化が多いと思います。

ざっくりいうと「こんなの〇〇じゃねぇ」とか思うような車か、もしくは。無難すぎてパッとみても見分けがつかない車が多いかなと思っています。

若い時に出会っていた「かっこいい車」というのは、今時には出会えなくて、パッと瞬時に「あのクルマ」ってわかるのが良いデザインかなと思う感じになっています。

「引き算」の美学っていうところ、共感できますね、この新サイト「EVsmartPark」にも取り入れていってほしいです。