トヨタ自動車が投資額や電気自動車(EV)の目標生産台数を引き上げた「バッテリーEV戦略に関する説明会」から1週間。基本的には発表を肯定的に歓迎する報道が多いように感じる一方で、中身を子細に見ると疑問符もいろいろ浮かんできます。トヨタの発表を少し細かく検証してみたいと思います。
トヨタの発表は本気の本気なのか?
トヨタは2021年12月14日に開催した「バッテリーEV戦略に関する説明会」の中で、バッテリーに関する2030年までの投資額を1.5兆円から2兆円に引き上げるとともに、EVの年間生産台数をそれまでの燃料電池車(FCEV)を合わせて200万台から、EV単独で350万台に引き上げました。
加えて、2021年3月決算で発表していた「2025年までにbZシリーズ7車種を含む15車種のEVを市場に投入」の目標は、2030年までに30車種のバッテリーEVを乗用・商用の各セグメントで展開することに更新されました。
これらの計画のための投資額は、バッテリーの2兆円の他に車両開発の2兆円で、合計4兆円になります。
この発表会の3か月前の9月7日にトヨタは「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」を開催して、バッテリー関連に1.5兆円を投じると発表したばかりだったので、短期間での上方修正に、筆者は素直に驚きました。
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バッテリーへの投資額増額やEVの生産台数増加は、豊田章男社長が発表会冒頭のプレゼンテーションで述べています。
これらの豊田社長の説明を聞くと規模が大きい印象を受けるのですが、具体的な数字を見ていく中で「あれ?」と思うことにも出くわしました。順番に検証してみたいと思います。
フォルクスワーゲンは2025年までに約4兆5千億円投資
ということで、まずは各社のEVやバッテリーに関する投資額を見ていきます。この数字は筆者が調べられる範囲でまとめたものです。調べ始めて改めて気がついたのですが、なにしろ数が多い上に、数字が時折アップデートされるので、最新情報がどこにあるのかわかりにくいのでした。
などと言い訳していますが、過不足あればご指摘いただけると嬉しいです。とにもかくにも見ていきましょう。
●フォルクスワーゲン 2025年までにEVやデジタル化に890億ユーロ(約11兆55220億円)投資(2021年12月13日発表)
現時点で投資額が最大なのはフォルクスワーゲンです。フォルクスワーゲンは2021年12月13日、つまりトヨタの発表の1日前に5か年計画「プランニング ラウンド70」を発表しました。計画では、2025年までにe-モビリティとデジタル化の開発等に890億ユーロ(約11兆5522億円)を投資することが明らかにされました。この金額は、フォルクスワーゲンの総投資額の56%に達します。
フォルクスワーゲンは2020年11月に公表した「プランニング ラウンド69」の中で、2025年までにEVやデジタル化に730億ユーロを投資すると発表していました。今回の発表では、160億ユーロ(約2兆768億円)が上乗せされたことになります。
この投資によって、2026年までに販売される車の4台に1台がEVになると予想しています。フォルクスワーゲンの2021年の販売台数は全世界で約900万台なので、約225万台がEVになります。
なお2020年の「プランニングラウンド 69」では、730億ユーロのうち約半分の350億ユーロをEV開発に、110億ユーロをハイブリッド車開発に、270億ユーロをデジタル化関連に投じるという内訳が公表されました。
今回の「プランニングラウンド70」では、EV関連分野が50%増加の520億ユーロ、デジタル化が10%増加の30億ユーロになりました。一方でハイブリッド車関連は、ハイブリッドの技術を移行期のものと捉えて約30%削減し、約80億ユーロになります。昨年よりもe-モビリティへの傾斜を明確にしたことになります。(※この部分修正)
欧米各社はトヨタの約2倍の投資を予定
この他、わかっている範囲で各社の投資額をざっと見ていくと、以下のようになります。
**●日産 今後5年間で約2兆円を電動化に投資(2021年11月29日発表)
●ダイムラー 2022年から2030年の間にEV関連で400億ユーロ(約5兆1920億円)以上を投資(2021年7月22日発表)
●フォード 2025年までにバッテリー開発を含む電動化に300億ドル以上(約3兆4320億円)を投資(2021年5月発表)
●GM 2025年までにEVと自律運転に350億ドル以上(約4兆40億円)を投資。前年発表より75%増(2021年6月22日発表)
●ホンダ 今後6年間で、環境と安全に関する研究開発に5兆円投資(2021年4月23日発表)**
これらの投資額は、EVの車両開発単独なのか、あるいはバッテリーに関する投資を含むのか、明瞭ではありません。でも仮に車両とバッテリーを含んでいるとしても、トヨタが約10年間で4兆円なのに対し、フォルクスワーゲン、フォード、GMは5年間でほぼ同額を投じる計画です。年間投資額はトヨタの約2倍です。
トヨタの絶対額が少ないとは言いませんが、他社と比較するとことさらに多いわけではありません。そのため、トヨタが本気になればもっとできるのではないかと思ってしまうのですが、買いかぶりすぎでしょうか。
バッテリーの生産容量はドイツメーカーが先行
ではEVsmartブログとして気になるバッテリーの確保状況を見ていきます。ここでもやっぱり先行しているのはフォルクスワーゲンのようです。
●フォルクスワーゲン 2030年までに年間240GWhを確保(2021年3月15日発表)
フォルクスワーゲンは2021年3月15日に、ノースボルトなどと共同でヨーロッパに6つのバッテリー工場を建設し、2030年までに年間240GWhを確保することを発表しました。その直後には、ノースボルトに年間40GWh、10年間で140億ドル分のバッテリー生産を発注するなど、動きを具体化させています。
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この次に来るのがメルセデス・ベンツ(ダイムラー)です。同社は2021年7月22日に、今後はパートナーと共同で8つのギガファクトリーを建設し、年間200GWhのバッテリーセルを生産することを発表しました。200GWhは、ざっくり約200万台のEVに相当します。
●メルセデス・ベンツ 年間200GWh生産予定(2021年7月22日発表)
この計画は、いつまでにという年限が明確ではないのですが、メルセデス・ベンツは10年後には新たに販売する車をすべてEVにすることを発表しています。メルセデス・ベンツは、2019年に約282万台、2020年に約246万台を販売しているので、現時点では、過半数をEVにしても間に合う生産量の確保を目指しているように見えます。
ちなみにトヨタの前田昌彦執行役員(CTO)は先日の発表の時に、2030年に年間350万台を生産するために必要なバッテリーは「280GWhくらいの規模感になると予想」という見通しを示しています。しかし同時に、「どのくらいのボリュームが揃ったところでどういう調達するかは、現時点でははっきりしきらない部分があると思っている」とも述べています。
つまり明確な生産目標や調達手段は、まだ見えていないことになります。フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツに比べると、明らかに出遅れているように見えるのです。
各社のバッテリー確保目標は数字が具体的
ではバッテリーの生産目標を見ていきましょう。バッテリー確保競争はどのような状況でしょうか。
**●GM LGエナジー・ソリューションと共同で2工場を建設し70GWh生産を計画。当初は2023年に年間35GWh生産。(2021年3月11日発表)
●フォード SKイノベーションと共同でアメリカに3工場を建設し、年間129GWhを生産。2025年~2026年に操業開始予定(2021年9月27日発表)
●ステランティス 2024年にLGエナジー・ソリューションと共同で40GWh、2025年にサムソンSDIと共同で年間23GWh生産予定。後者は年間40GWhになる予定。2025年までに年間130GWh確保し、2030年までに年間260GWh目指す(2021年10月18日と22日発表)
●日産 パートナー企業と共同で2026年度までに52GWh、2030年度までに130GWh(2021年11月29日発表)
●ボルボカーズ ノースボルトと共同で年間50GWhを生産。2023年生産開始で26年までにフル操業(2021年12月10日発表)**
いずれも、トヨタの年間280GWhという予想には届きませんが、大きな差があるのは、トヨタの数字はとりあえず出してみたという数字なのに対し、ここで挙げた各社の目標値はすでに動き始めている経営計画に含まれるものであることです。
トヨタも、プライムアースEVエナジーや、プライムプラネット・エナジー&ソリューションズなどを通じてバッテリーを確保する動きを始めていますが、いずれの会社も現在はHEV用のバッテリーが中心です。これらの会社から、EV用バッテリーの生産が増えたというニュースが聞こえてくるのがいつになるのか、とても気になるところです。
気になる豊田社長の言葉の意味
ここまで見てきたように、12月14日にトヨタが発表した数字は、欧米メーカーと比べると目を見張るようなものではないことがわかります。それを踏まえて当日のトヨタ幹部の言葉を見直してみると、もう少し他に言い方がなかったのかと感じるものがありました。
例えば豊田社長は、「私たちは、この26年間、1兆円近い投資をし、累計1,900万台以上の電池を生産してきた」と自賛し、目標台数の350万台について、ダイムラーやスズキなどの年間生産台数と同規模で「とてつもない数」だと強調しました。
さらには「パーセンテージで100%じゃないのはやる気がないとかいうのではない」、「パーセンテージというよりは、絶対台数で是非ともご評価いただきたい」とも話しています。
でもトヨタの目標値を他社と比較すると、パーセンテージの問題ではなく絶対数として、「とてつもない数」と自ら強調するようなものではないことがわかります。
もちろん、簡単な目標ではないのは確かです。10年後の予測は難しいです。けれども自社の目標を「とてつもない」と自分で評価してしまえば、その先に伸びる余地がなくなってしまいそうです。目標が高ければいいというのではないですが、見ている到達点が欧米と違うように見えてしまうのです。
豊田社長はまた、記者からEVについての印象を聞かれると、以前はEVに「興味がなかった」と答えてしまいました。久しぶりに本気で、ポカーンとしてしまいました。
いやいやいや、仮に本心で思っていても、経営トップが自社で開発しているものについて「興味がなかった」って言っちゃダメなんじゃないの? と、頭の中に疑問符がグルグルと渦を巻きました。当時の開発者がどう感じたのか、聞いてみたいところです。
一方で豊田社長は「これからのEVには興味がある」とも話していましたが、追い打ちのひと言が待っていました。興味があると言った直後に、「電気自動車になるとコモディティのようになってしまう」、つまり一般化してしまって個性がなくなるという否定的な見方を披露したのです。これでは、いいのか悪いのかわかりません。これが豊田社長の本心なのでしょうか。
そしてもっとも残念だったのが、説明会最後のコメントでした。トヨタにおけるEVの位置づけを聞かれた豊田社長は、回答を執行役に振り、最後に強い口調でこう話しました。
「EVに前向きでないというご評価に対して、350万台目線にいきますよとか、30車種投入、これでも前向きじゃない会社と言われるならば、どうすれば前向きな会社とご評価いただけるのか、逆に教えていただきたいなと思います」
12月21日の記事で舘内さんが指摘しているように、なぜ社長自ら、EVの位置づけを説明しないのでしょうか。批判に対して批判するような言葉からは、社長が自らEV開発を先導していくという印象は感じられなかったというのが、正直な感想です。
定例の決算発表会ならまだしも、『バッテリーEV戦略に関する説明会』と銘打って緊急に実施した戦略説明会です。もう少し経営トップが自らの言葉で、前向きな方針を語ってもいいのではないかと思ってしまいました。
トヨタが目標を上方修正したのは大歓迎です。巨人なので柔軟な動きがしにくいのかもしれませんが、短期間での上方修正は、少しずつ、柔軟に、前に進んでいることを裏付けているとも思います。だからこそ、トップの発言には残念さを感じてしまうのです。
まあでも、トップの発言内容にかかわらず、トヨタが確実に変革していくのであれば、なんの問題もありません。むしろ今は、そうなってほしいと強く願っています。
(文/木野 龍逸)
(※)2021年12月28日修正:フォルクスワーゲンの「プランニングラウンド70」の記述でe-モビリティなどの内訳が公表されていないと記述していましたが、内訳が出ていたので修正しました。




