【速報】トヨタ「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」で語られたこと

2021年9月7日、トヨタ自動車が「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」を開催しました。メディア向けに行われた前田雅彦CTOのプレゼンテーションとキーパーソンが登壇しての質疑応答で、はたして何が語られたのか。速報でポイントを紹介します。

【速報】トヨタ「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」で語られたこと

※冒頭写真はナンバー取得した全固体電池搭載車(プレゼン資料より引用)。

世界の投資家にトヨタの姿勢を示すため?

欧州ではトヨタが得意とするハイブリッド車も販売禁止の方向へ進み、アメリカでのBEV普及促進に対して後ろ向きなロビー活動が批判されるなど、トヨタの環境対応については、脱炭素が常識となりつつある世界の投資家からも疑念の声が上がっていました。今回の説明会は、おもにそうした世界の投資家に向けて、改めてトヨタが考えるカーボンニュートラルへの基本的な考え方を示すもの、という印象でした。

プレゼン・メディア向け説明会の様子は、YouTubeでも配信(URL知ってる人向けの限定公開)され、アーカイブを視聴することが可能です。

電池・カーボンニュートラルに関する説明会

電池や電動車両開発、カーボンニュートラルへの姿勢については、今までいろんな機会にトヨタが表明してきた内容と変わりはありません。

一点、おっ! というか、へえ〜、と感じたのが、「2020年6月、全固体電池を搭載した車両を製作、テストコースで走行試験を実施し、車両走行データを取得できる段階に来ました。そのデータをもとに改良を重ね、2020年8月、全固体電池を搭載した車両でナンバーを取得し、試験走行を行いました」というトピックが示されたこと。12秒ほどの短い動画ですが、走行の様子が、これもYouTubeのトヨタ自動車チャンネルで公開されています。

あわよくば、東京2020オリパラで披露するべく開発された車両なんだろうな、というのは私の推察です。

ただし、この車両でのテストによって、現状の全固体電池には劣化リスクなどの課題があることが確認できていて、まだ市販車開発の目途は立っていないということです。

トヨタの電動車両への姿勢を改めて解説

前田CTO(Chief Technology Officer)のプレゼンテーションは、今までトヨタがさまざまな機会で説明してきた電動車開発やカーボンニュートラルへの考え方を改めてじっくりと解説する内容でした。プレゼン資料とともに、ユーザーとして抑えておきたいポイントを紹介します。

2030年に電動車800万台

HEV(ハイブリッド車)を含む「電動車フルラインナップ」を掲げているのは今まで通り。2030年の電動車販売台数の見通しは800万台、そのうち、BEV(電気自動車)とFCEV(水素燃料電池自動車)が200万台としていることが示されました。

電動車販売台数見通しについては。2017年12月の説明会で「2030年に550万台以上を目標」とするマイルストーンを発表。その後、2019年6月に開催した説明会で、目標を5年前倒しして「2025年に550万台」と発表していました。「2030年に800万台」はすでに今年3月の決算説明会でも示されていた数字であり、2017年の見通し台数よりも250万台多くなったことになります。

BEVとFCEVで200万台というのも、上に示した2017年に発表されたグラフではことにEVの推移が「え、こんなに少ないんですか?」という印象だったことを思えば、ずいぶんと多くなったといえます。

質疑応答で「BEVとFCEVの割合は?」という質問がありましたが、前田CTOからは「詳細は明確ではなく、市場のニーズを見ながらフレキシブルに対応していく。お客様の雰囲気からするとBEVが多いのではないかと予想しているが、商用FCV普及が加速すればその限りではない」といった回答でした。

ハイブリッド車のCO2削減貢献も強調

あくまでもカーボンニュートラルへの貢献を第一義とした上で、改めてHEVのCO2削減効果が強調されたのが印象的でした。

説明では、トヨタが1997年のプリウス発売以来、グローバルでのHEV累計販売台数は約1810万台。電池の量としてはBEV26万台分、つまりより少ない電池の量で、BEVに換算して約550万台分に匹敵するCO2削減効果を上げていることが示されました。

このあたり、トヨタとしては世界の投資家やアナリストにぜひとも理解して欲しいポイントなのだろうと思います。

BEV車種バリエーションは明示されず

2021年3月期の決算説明会では「2025年までにbZシリーズ7車種を含む15車種のEVを市場に投入する」と発表されていたので、今回、さらに踏み込んだ車種バリエーションの示唆があるかと期待したのですが、それはありませんでした。

代わりにというか、電動車と合わせて、電池もフルラインナップの体制で対応することが示されました。おおまかに全体として、やはり「ニッケル水素電池を軸としたハイブリッド車が電動車の中心」ということかと理解できます。

BEVの説明で示されている「新型リチウムイオン電池」というのが気になりますが、具体的なケミカルや構造などについては言及されませんでした。

安全と性能のバランスがいい電池開発を

質疑応答でも電池開発に関する質問が複数あり、前田CTOの回答で繰り返されたのが「お客様の安心」を重視した電池開発に取り組んでいるということでした。

「安全」「長寿命」「高品質」「良品廉価」「高性能」という5つの要素は、たとえば「安全」と「高性能」には相反する面があるので、車両と電池を一緒に開発していること、さらには豊富な電動車実績で蓄積したデータを活用して、「5つの要素が高次元でバランスの取れた」電池開発を進めている、ということです。

2030年までに1.5兆円を投資

今回の発表で最も注目すべきトピックだったのが「2030年までに電動車の開発と供給に約1.5兆円を投資する」という発表です。

今年5月にはパナソニックとの合弁会社で電池生産体制を強化、年間180GWhの電池生産(調達)能力を確保する目標が示されていました。今回の発表では、目標を200GWhに引き上げ、電池や電動車製造のための工場ラインを適切に増設していく方針であることが示されました。

200GWhの電池は、たとえば平均50kWhの電気自動車にして約400万台、平均100kWhとして200万台分の量に相当します。

まだ、具体的な投資の内訳などは示されませんでしたが、電動化シフトが進む世界の市場でトヨタが覇権を維持していくためにも、ぜひとも実現しなければならない目標だといえるでしょう。

安くて魅力的なBEVの発表を心待ちにしています

今回の発表会では、トヨタがあくまでもカーボンニュートラルへの貢献のためにハイブリッド車を重視する戦略に変わりがないことを確認する一方で、BEVへの世界の流れにじわじわと対応を迫られている印象を受けました。

質疑応答の中で「今はまだHEVのほうが比較的安価にお客様に提供できる」という前田CTOの言葉がありました。でも、私がトヨタに期待したいのは、そのハイブリッド車の魅力をも凌駕する、お手頃で魅力的な電気自動車がトヨタから発売されることです。

200GWhの電池を確保する戦略は大切ですが、より大事なのは「2030年に200万台の電気自動車(FCVも入れていいですけど)を売るための戦略」ではないでしょうか。

まずは、もうすぐ発表されるであろうトヨタブランドとして初めてのリチウムイオン電池搭載の量産BEVとなる『bZ4X』が、庶民に手が届きやすい価格で登場することを。そして、世界の自動車メーカーが「またしてもトヨタにやられたか!」と地団駄を踏むような、魅力的なBEVの新車種を繰り出してくれることに期待しています。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)13件

  1. 参考になる記事をありがとうございます。
    Vを見て驚いたのは、冒頭でいきなり前田CTOが「HEV3台はBEV1台分のCO2削減効果がある」と言われたことです(再生可能エネルギーがこれから普及する地域でのCO2削減戦略の話の中で)。
    トヨタはこの間まで「現状(つまり再生可能エネルギーがこれから普及する状態)ではHEVのCO2排出量はLCAでBEVとほぼ同等」と言っていて、それこそがHEV戦略の根幹だったと理解していましたが・・・
    Vを何回か見直しましたがLCAから走行時の排出量に基準を変えた訳でもなさそうです。私の理解を超えていますのでどなたか解説していただけないでしょうか?
    もしトヨタが考えを入れ替えて「BEVも頑張るぞ」という決意のあらわれなら拍手を送りたいと思います。

  2. 200万台のBEV+FCV、ぜひとも頑張っていただきたい。
    ……のですが、BEV以外では、自動運転とすごく相性が悪いと思います。
    BEV、FCV、PHEV、HVで別々の運用形態になりそうですが、想像がうまくつかないです。

    待機電力20w、フル稼働200w くらいの半導体を車載するとして、1日5時間フル稼働させたら消費電力が1.38kwh、2週間ガレージに放置したら6.72kwhなので、50kwhくらいの電池を積んでいないとOTAもつらいのではないでしょうか。

    1. mira様、コメントありがとうございます。おっしゃる点、実感できると思います。確かに自動運転は手動運転と異なり、より頻繁にち密な速度調整を行うことが多いと思います。その場合、BEV/PHEV以外ではバッテリー容量が小さく、回生があまり強く効かないため、細かくブレーキパッドを使用することになると思います。これがギクシャクした挙動を生みます。僅かな減速にブレーキパッドを使うことで、ブレーキの摩耗も増加すると思います。
      OTAは直接自動運転と関係ないように見えますが、ソフトウェアをインターネットに接続する以上、セキュリティのために毎月のアップデートは必須になるでしょうね。おっしゃるように、OTAをサポートするためにはAlways Onのハードウェアが必要となり、それらの待機電力は今までの自動車では考えられない規模になると考えられます。興味深い考察をありがとうございます。

    2. BEVって本来、自宅ガレージ駐車中はプラグインしておくものだから、車載半導体の待機/稼働電力はプラグから貰えば良いのでは?
      (BEV乗りの皆さんは、真夏・真冬は出発前にスマホであらかじめクルマの冷暖房を適温にしてますよね。)

      まぁ、たとえば市街地にゴマンとある月極駐車場で、駐車中にプラグインしておけるようにならないとBEV普及は頭打ちになるので、早く、車庫証明の交付条件に「再エネ電力のプラグ有り」を必須とする法改正を期待したい!

  3. 当面軽ev.で、スモールモビリティーから開始し
    維持費や償却費など費用対効果が確認出来るだけ事から開始、社会貢献sdgs運動として高齢化運転の防止機能のシステム構築できれば、生産性が上がります。

  4. 2600万台というのは2030年に生産する台数ではなく、2030年までに生産する台数です。正確に言うと、2030年までにグループ全体で70種類のフル電動車、60種類のハイブリッド車を発売し、今後10年間で2600万台の車両を電動化プラットフォームで生産する計画、と言っています。

  5. トヨタさん

    下請けメーカーから、部品等を原価で提供させる!(汗)

    まあ、これが是正されない限り!リチウム電池を購入するのは難しいか?

    国内に、世界的なバッテリーメーカーが有るのにね!
    パナソニックさんは、テスラ向けの電池は黒字(^-^)

    トヨタさん向けは、赤字だからね!

    義理でリチウム電池を提供する!パナソニックさんも赤字出してまで提供しないでしょう!(笑)

    会社の体質は、変わりようが無いか?

    1. 部品メーカーが原価で納入してたら、とっくの昔にトヨタ系列は崩壊してますよ。また、プライムアースEVエナジーは黒字です。

    2. トヨタ傘下の部品メーカーの業績をご覧になったことはありませんか?

  6. 毎回、記事投稿お疲れ様です。
    現在 トヨタのハイブリッドカー(S220系)を使用しているものです。
    ライブ映像を拝見し、トヨタ側の見解は地に足の着いた対応だったということです。
    BEVについては、B、Cセグメント及び小型商用車 HEV PHEV FCVについてはDセグメント以上の乗用車 中 大型の商用車にすみわけがベターだと思われます。

    1. ねこしゃちょう 様、コメントありがとうございます。
      どのように住み分けるのか、楽しみですね。個人的には、住み分けられるほどの競争になるのか、を不安に思っています。適材適所、とメーカーは思っても、消費者は圧倒的な違いに驚くはずです。ハイブリッド車とガソリン車は使い勝手のうえで大きくは異なりませんでしたが、メリットもデメリットも含めて、BEVとFCEVは大きく異なります。これからの競争を見守りたいと思います。

  7. トヨタのライバルであるフォルクスワーゲングループは7月の戦略発表会において2030年にEVとPHVの生産台数が2,600万台になると発表しています。2020年の同グループの生産台数が1,000万台弱のメーカーが僅か10年で2.6倍の生産台数を実現できるかという大きな疑問はあるものの、トヨタのEV、FCV合わせて200万台という台数は余りにも差が大きいという感じです。これを世界の投資家がどの様に判断するか興味ありますね。

    1. 現状既存内燃機関車を合わせてもそれだけの数の自動車を発売する企業はありませんから(そもトヨタ・フォルクスワーゲン・GMで1000万台前後でトップ争いをしている。一応ルノー日産三菱連合もこれに加わる)

      既存の自動車メーカーはさらに集約が進むと考えているのか
      新興国の需要が伸びると考えているのか
      自動運転が進んだ結果、未成年や高齢者などもユーザーになると考えているのか。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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