トヨタとパナソニックの合弁会社が車載用リチウムイオン電池の生産体制強化を発表

プライム プラネット エナジー&ソリューションズ株式会社が、日本国内と中国の生産拠点に生産ラインを新設し、電気自動車などの車載用角形リチウムイオン電池の生産能力を拡大することを発表しました。2021年内にも生産開始を予定しています。

トヨタとパナソニックの合弁会社が車載用リチウムイオン電池の生産体制強化を発表

国内ではBEV8万台分の電池を増産

『Prime Planet Energy&Solutions(プライム プラネット エナジー&ソリューションズ株式会社 ※以下、PPES)』は、2020年4月、トヨタ自動車が51%、パナソニックが49%を出資して設立された合弁会社です。

2021年5月19日、PPESが車載用角形リチウムイオン電池の生産能力を拡大することを発表しました。

【ニュースリリース】
プライム プラネット エナジー&ソリューションズ、 車載用リチウムイオン電池の生産体制を強化

兵庫県姫路市と、中国大連市の子会社『大連プライムプラネットエナジー有限公司(PPEDL)』にある既存の生産拠点(工場)に、車載用角形リチウムイオン電池の生産ラインを新設します。

新設される生産ラインは、姫路拠点が「電気自動車(BEV)用角形リチウムイオン電池」で「BEV 約8万台」分の増産見込み。大連拠点では「ハイブリッド自動車(HEV)用角形リチウムイオン電池」を「HEV約40万台」分相当の増産を見込んでいます。

具体的な増産容量などは発表されていなかったので、PPESに確認してみました。

まず、BEV用とHEV用と区別されているのは、「BEV用=高容量型」「HEV用=高出力型」と理解してよいかという質問には「YES」の回答。「リチウムイオン電池」という品名は同じでも、BEV用の電池は重量当たりのエネルギー密度を高めることを重視したもので、HEV用は瞬間的に出せる出力を重視したものが使われます。同じ「ランナー」でも、マラソン選手と短距離選手くらい違う、と私は理解しています。

ちなみに、Honda e はBEVですが、高出力型の電池を採用していることが発表されています。HEV用とされる高出力型の電池でも、たくさん積めばBEVとしての総容量は確保できるということですね。

増産される電池の容量についても確認してみましたが、これは「車両の電池容量に関わる話となっており、お客様の情報に関係するため回答を控えさせていただきます」ということでした。

「お客様」とは、当然、おもにトヨタ自動車のことでしょう。具体的な回答はいただけなかったので、簡潔に想定します。現在、トヨタが日本国内で発売しているBEVであるレクサス『UX300e』の電池容量は54.4kWhです。来年以降、ローンチされる新型EVではより大容量になることも想定できるので、1台平均が60kWhとすると、姫路で増産されるBEV用電池8万台分は約5GWhになります。

HEVである『プリウスα』の駆動用リチウムイオンバッテリーは電圧が207.2V、容量が5Ahなので、総電力量(容量)は約1.03kWh。ざっくり1kWhとして、40万台分は0.4GWhに相当します。

つまり、日本と中国の工場を合わせて増産されるのは、おおむね5.4GWh程度と推計できます。

年間180GWhに向けて

先日、『トヨタが2021年3月期決算説明会で示した「年間200万台」売れる電気自動車とは』という記事で、トヨタ自動車が開催した2021年3月期 決算説明会で、長田准執行役員(CCO)が「2030年にはグローバルで、電動車販売台数の見通しは800万台。うちBEV(バッテリー電気自動車)とFCEV(水素燃料電池自動車)を200万台とする」というプランを示したことを紹介しました。

この時の記事では「BEV200万台」にフォーカスしましたが、説明会のなかで長田氏は電動車用電池生産についても言及しました。

トヨタの電池生産と調達の現状は年間6GWh程度。2030年の目標を達成するためには、おおむね180GWhの電池を調達することが必要であるという見解です。説明の中では調達量増加のために協力するパートナーとしてパナソニックの名前も挙がっていたので、おそらくはPPESでの増産にも期待していると思われます。

現状が6GWhで、今回発表された増産分が推計で約5.4kWh、ちょっと盛りをサービスして数字を揃えると「だいたい6GWh」なので、トヨタの電池調達量は今年中にも倍増することになります。とはいえ、現状と合計しても12GWhとなり、目標の180GWhの10分の1にも足りません。

2021年中に12GWhになるとして、180GWhまでは残り168GWh、2022年から2030年までの9年間は、毎年約19GWhずつ生産能力、もしくは調達能力を増強していく必要があるということです。

ちなみに、アメリカ・ネバダ州にあるテスラの「ギガファクトリー1」の生産能力は年間約39GWh。ベルリンのギガファクトリーは「まずは年間100GWh以上を目指し、その後、年間200~250GWhまで能力を引き上げる予定」であることをイーロン・マスク氏が示しています。

トヨタ、もしくはPPESがベルリンギガファクトリー級の工場をひとつ建てれば、年間180GWhくらいは一気に生産できる、ということですね。個人的には、ウーブンシティより電池工場が大事じゃないの? と思ったりもして。

トヨタの決算説明会を受けて、トヨタの電動車割合についてEVsmartブログチームリーダーの安川さんと雑談していたら、HEVの割合やBEVやPHEV、NEVのバッテリー容量をアレンジしてシミュレーションできるGoogleスプレッドシートを作成してくれたので、共有しておきます。

TOYOTA 8 Million Electrified Vehicles

編集可能な権限で共有しているので、いじったら元に戻しておいてくださいね。

PPESの電池生産能力向上は、トヨタをはじめとする日本自動車メーカーの電気自動車生産能力にも直結します。これからも、PPESの動きに注目していきたいと思います。

※記事中画像はPPES公式サイトより引用。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. パナソニックがトヨタと組むなら日産三菱は東芝と組みますね。既に三菱アイミーブMで実績ありますしTMEIC(東芝三菱電機産業システム)という太陽光関連設備会社もありますから!
    ただ鉄道マニア的に言うなら電力変換や耐久性は重電機会社が強いジャンルなんで耐久性は言わずもがなになると思いますが。むしろ問題は価格になるかもしれませんよ!?
    そうなるとインフラ屋としては安くて耐久性が低いものより高くても壊れにくいものを選びたくなる…こればかりは出た時勝負ですかね!?
    さぁガテン系に好かれるのはどっちの会社でしょう!?

  2. 姫路市近郊に住んでいますが、半年ぐらい前から派遣やアルバイトの採用募集が活発化していますね。
    姫路工場は元々液晶ディスプレイの生産拠点として整備されたものなんですけどねぇ・・・

    それにしてもリチウムイオン電池ですか。

  3. >ウーブンシティより電池工場が大事じゃないの? と思ったりもして。
    トヨタはムダな投資が多すぎます。2年前にBEV向けリチウムイオン電池の生産を優先すべきだった。いまからでも動き出したので安心した。

    1. 安心した、と言うよりトヨタを信じて待っていた。
      Woven Cityの中か、隣裾野に、その待望の「電池工場」が出来たらしたらいいな。

  4. HEVの割合やBEVやPHEV、NEVのバッテリー容量をアレンジしてシミュレーションできるGoogleスプレッドシート,
    はどちらのリンク先にございますでしょうか。

    1. TAU さま、ご指摘ありがとうございます。

      リンクを貼り間違えていました。失礼しました。
      修正しましたので、お試しください。

      よろしくお願いします。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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