この記事は普通充電器の設置を検討している方で、特に旅館やホテルの方向けに書いています。機器の選定・設置業者の選定・配線容量の決定そして運用方法などまでまとめてみます。
普通充電器といっても結構ノウハウが必要なもの。旅館やホテルを運営されている方にしてみれば、コストがかかる上にノウハウも必要ということになるとちょっと腰が引けてしまいます。しかし年々電気自動車やプラグインハイブリッド車のユーザーは増え続けています。特に完全電気自動車である日産リーフ、BMW i3やテスラモデルS・モデルXのユーザーにとって、宿泊施設に普通充電器があるかどうかはアメニティの一つとして選択条件に入ってきます。
私は今まで、何件も充電設備がある宿泊施設に泊まってきました。その経験談なども交えて、当記事ではできる限り分かりやすく、保存版の記事として書いてみたいと思います。
目次
急速充電器か、普通充電器か、それが問題だ
急速充電器の設置のポイントについてはこちらの記事の後半でも解説していますが、そもそも旅館やホテルに急速充電器は必要なのでしょうか。まず、旅館やホテルの運営者の方々が充電器を設置するモチベーションにはいくつかあると思いますが、一番大きいのは集客、そしてCSR的というか、二酸化炭素排出の低減などが挙げられると思います。まず集客の点で考えた場合、現時点では欧州車のプラグインハイブリッド車のほとんどが急速充電に対応していないことから、急速充電器の集客効果は限定的と言わざるを得ません。
また急速充電器は短時間で充電が完了するため、機器も高額になり、配線も高コストになり、また充電が完了した車を移動するという手間が発生します。自ら充電完了してから移動してくださるようなお客様が多いとは思いますが、一部にはマナーが悪く、充電後その場所に放置し、他の急速充電したいお客様からクレームが出ることも。また補助金を受けて急速充電器を設置すると、その充電器は一般に開放せざるを得ず、通りすがりの電気自動車ユーザーも充電のために立ち寄ることから、駐車場の小さい宿泊施設では問題になるかも知れません。
このような理由から、急速充電器の設置は宿泊施設への集客効果はなくはないが、コストパフォーマンスが悪いと言えます。
逆に普通充電器があれば、電気自動車やプラグインハイブリッド車のお客様は到着してから充電器に接続し、その後チェックアウトするまでの約16時間(午後6時から午前10時までを想定)、充電器を占有して利用できます。このため車は移動する必要がなく、宿泊施設のバレー係の仕事も減らせるわけです。電気自動車のユーザー同士のトラブルも減らすことができ、一石二鳥となります。ただ先ほどの急速充電器と同様、補助金を受けて設置した場合には、その充電器は宿泊者限定使用とすることができません。この点は非常に勘違いされている方が多いので、注意が必要だと思います。
宿泊施設に普通充電器を設置するなら、コストを完全にゼロにしたい場合はともかく、自費で設置することがおすすめです!
旅館やホテルに適した機器の選定
さて、普通充電器を設置することにした場合、機器を選定しなければなりません。ここで一番重要なのは、使いやすい充電器を選択する、ということです。普通充電器には大きく分けてケーブル付き充電器とコンセントがありますが、はっきりいってコンセントは非常に使いにくいだけでなく、コンセントと車両を接続するためのケーブルを宿泊者自身が用意しなければならず、自宅に置きっぱなしにしている方も多いのです。せっかく宿泊するためにいらしていただいたのに、ケーブルがなくて充電できない、というのでは困ってしまいます。ちなみにこの充電用のケーブル、各メーカー(トヨタ・日産・三菱・テスラ等)から販売されていますが、他メーカーのものでも使えることも多いです。確実に使えるということではありませんので、他メーカーの充電ケーブルを使う場合には事前にテストをすることをお勧めします。
ケーブル付き充電器には、地面から立ち上げるタイプ(スタンドタイプ)と壁掛けのタイプがあります。壁掛けタイプのほうが安くコンパクトでお勧めです。ただし、補助金を使い、かつNCSに加盟・提携する場合には、課金機付きの充電器にする必要があり、その場合はスタンドタイプを選択せざるを得なくなるかも知れません。しかし、当記事での立場は、前述の理由から課金式には否定的です。そのため、もし駐車場の奥が壁になっている、または杭のようなものが打てるのであれば、そこに壁掛けタイプの普通充電器を取り付けるのが最も安くあげられると思います。EVPOSSAのサイトにケーブル付き充電器の一覧がありますので、チェックしてみてください。壁掛けだと日東工業様のEVP-1GTAか矢崎エナジーシステム様のYDCH01-01で、おおよそ15万円前後です。
もう一点、テスラは前述の壁掛け式普通充電器でも、標準で全車に搭載されている「J1772アダプター」を介して充電することができますが、テスラ専用の充電器も存在しています。テスラウォールコネクター(注、英語ページ。テスラジャパンより購入できます)というものがそれで、78,000円程度で購入できるようです。安いですね。米国では500ドルです。残念ながらこれではテスラモデルSとモデルX(とモデル3)しか充電できませんが、もう一つ特長があります。それは、「4基までの負荷分散機能が付いている」ということ。2基購入して、配線は1本だけにしておけば、自動的に2台のテスラ車を同時に充電してくれるのです。しかもよりバッテリーが空に近いほうに多くの電気を流してくれるという賢さ。それで日本製の充電器の半額なのですからお得ですね。
さらにテスラ用ウォールコネクターを検討する場合、知っておくべき情報があります。テスラ デスティネーションチャージング プログラムです。これに参加すると、ウォールコネクターを無償で提供してもらえるうえに、テスラ社の充電マップに掲載してもらうことができます。テスラのオーナーへのアピールを考えるなら、ケーブル付き普通充電器に加えて、テスラ ウォールコネクターも合わせて設置すると良いかも知れません。
普通充電器の工事業者・設置業者の選定
さて普通充電器の機種が決まったら、当然工事をしなければなりません。工事には、充電器を地面から立ち上げる場合には基礎工事と電気工事が必要ですし、壁に取り付ける場合にも取り付け工事と電気工事が必要です。また設置場所までパネルから離れている場合には、埋設配管なども含めて検討しなければなりません。普通充電器は、建物から離れたところである程度の電力量を使う、ちょっと普通の電気工事とは異なるノウハウの必要な工事です。そのため、業者様を選定される場合には、必ず充電器設置工事の経験があるかどうかを確認しましょう。以下のような質問をしてもよいかも知れません。
- 充電器を設置するスペースはどこがよいか?(答え:建物またはパネルから近いほど、埋設配管や配線の距離が短くて済み、その分配線も細くできるため、コストを下げられる。ただし建物の入り口に近ければ近いほど、ガソリン車に駐車されるリスクが高まる)
- 雨にさらされてもよいか?(答え:屋外設置対応の機種であれば特に問題ないが、ユーザーの操作を考えると、屋根があるとベター=費用はかなり増)
- 枠のペイントや看板の設置は必要か?(答え:補助金を受けて公共の充電器を設置する場合は必要だが、プライベートに集客目的で設置する場合は不要。ただし、コーンを設置することが望ましい)
- 配線の容量はどのくらい必要か?(答え:普通充電器一基あたり200V 15Aを要求するが、配線のスペックは20Aが必要。また将来を見越して倍の一基あたり40A~50Aを確保することをお勧めします)
- 故障した場合は?(答え:うちで見ますよ、という回答がない場合は依頼してはダメ)
- 設置する位置はどこがよい?(答え:バック駐車なら、充電器は車から見て後ろ中央がベスト。ケーブルは長めとする。右後ろは可。左後ろは△。車から見て横や前を提案した業者は絶対ダメ。ちなみに普通充電口の位置は、リーフとBMW i3はフロント中央、アウトランダーPHEVとアイミーブ・メルセデスC350eはリア右、テスラモデルSとモデルXはリア左、ミニキャブミーブはボディ中央右、BMW X5e/225xe/330eはフロント左。1基の充電器で2枠の駐車スペースを使うこともできるが、その場合は駐車スペースの間に設置する)
配線容量の決定方法
工事業者も決まったところで、設置台数と配線容量を決めます。設置台数は予算でも決まってしまうと思いますが、可能であれば2基以上設置したいところです。1基が故障してももう1基が使えますし、万が一お客様がバッティングしても2基あれば時間を分けて使うなどもできるかもしれません。もしくは普通充電器を1基、テスラウォールコネクターを1-2基(1基はタダなので)でもよいのかも知れません。
普通充電器は日本国内では3kWとなっており、これは200V 15Aにあたります。しかし!確かに日本国内で3kW以上のパワーで普通充電できる車はテスラだけなのですが、2017年の後半には日産がリーフをフルモデルチェンジすることが正式に発表されています。この新型リーフは今までのバッテリー容量の二倍程度を搭載し、実走行で300kmを走行できるとされています。このバッテリー容量を60kWhと見積もると、普通充電にかかる時間はこんな感じになります。
| 車種 | バッテリー容量 | 空から満充電にかかる時間@3kW普通充電 | @6kW | @14.4kW |
|---|---|---|---|---|
| 新型日産リーフ
2017年内 | 60kWh? | 20時間 | 10時間? | ? おそらく10時間 |
| 現行日産リーフ | 24kWh | 8時間 | 8時間 | 8時間 |
| テスラモデルS/X 100D | 100kWh | 33時間 | 16時間 | 8時間 |
| テスラモデル3
2018年ごろ? | 50kWh? | 17時間 | 8時間 | 3時間 |
それでは実際に容量を計算してみましょう。普通充電器1基、テスラウォールコネクター2基(1基はタダ)を導入すると仮定します。将来的に6kWまでパワーアップすることを想定するならば、普通充電器側は30Aが必要です。テスラウォールコネクターは1基分の電気を2-4基で分けて利用できる機能がありますので、40A、8kWを想定します。これで必要な容量は合計70Aとなりますので、配線は90Aで用意するのが最適ということになります。これ以上充電器を増やす可能性があるなら、もう少し余裕を見ておくのが良いかも知れません。
2017/6/15追記: 建物またはパネル、キュービクルから充電器の設置場所が離れている場合、配線の電圧降下に気を配る必要があります。充電器が利用する電流は比較的大きいものなので、配線を引き回すとかなりの電力が熱として消えてしまいます。以下の式で電圧降下を5V未満程度までに抑えておきましょう。
単相2線式配線の電圧降下(線間) e = (35.6 × 電線長[m] × 電流[A] / 1000 / 断面積[sq]) ※単相3線式200Vでも同じです。
例えば、70Aの最大電流を30mの22sqケーブルに流した場合、電圧降下は約3.4Vとなり許容範囲になります。sq(スケア)は単位mm2で、ケーブルの導体断面積のことです。
旅館やホテルでの普通充電器の運用方法
電気自動車用普通充電器は、他の設備と同様、メンテナンスと運用が発生します。普通充電器はめったなことでは故障しませんが、よくある故障はコネクターを地面に何度も落としてしまったり、ケーブルを車のタイヤでひいてしまったりして、充電ができなくなるというものです。また、普通充電器にバックで車をぶつける事故も数多く報告されています。このような場合は迅速に修理が必要となりますので、修理にすぐ駆けつけてくれ、すぐ修理の日程を組める会社と契約するのが良いと思います。
実際に旅館やホテルのお客様が宿泊される際、普通充電器はどのように使っていただいたらよいのでしょうか?まず予約時に、○○日に使いたい、と言われた場合、どう対応するのがよいでしょうか?
宿泊施設としての考え方によりますが、電気自動車で長距離旅行をする場合、充電に関する計画をするのはある程度必要です。そのため、宿泊施設で充電できるかどうか、またどのくらい充電できるかはあらかじめ分かっていると非常に助かりますし、その宿を選択する理由の一つにもなります。予約を受ける場合、1台の充電器につき1台・1晩の車を割り当てる必要がありますので、カレンダーに印をつけるなどしてちゃんと管理するほうが良いでしょう。また予約が入っている日は、充電器のある駐車スペースに予約済みの札を出し、他のお客様が先に使ってしまわないようにすると良いでしょう。充電器がせっかくあっても、その駐車スペースが他の車で埋まっていると、結局ケーブルが届かず充電できません。
特に予約が入っていなくて、使わせて欲しい、と言われた場合は、空いていれば使ってもらえれば良いと思います。充電は、お客様に操作していただくことをお勧めしますが、係の方が操作を覚えて「やっておきます」というのは非常に良いサービスとなると思います。このような場合に備えて、充電器のある駐車スペースには普段はコーンを設置しましょう。
2017/6/13追記: もう一点絶対に忘れてはいけないことがあります。宿泊施設の充電器は利用時間を制限してはいけませんし、充電時間に制限を設けるのは良くないです。私自身も、21時を過ぎてチェックインすると充電が開始できない充電器や、2時間で自動的に止まってしまう充電器に何度も出会ったことがあります。このような普通充電器は、全く使い物にならないばかりか、宿泊されるお客様にご迷惑をかけることにすらなってしまいますので、必ず導入したら夜間でも使えるか、充電時間は無制限に設定されているか、確認されることをお勧めします。
問題は、普通充電器の台数以上のお客様が充電器を使いたい、とおっしゃった場合です。テスラ以外の普通充電器は一晩に1台しか充電できませんので、基本的に先に予約または利用を開始した方のみとするのが正しいです。2台目の方が、時間で分割して利用させて欲しい、というリクエストを出してくる可能性もありますが、これはお断りしたほうがよいでしょう。1台目の方がどのような計画を立てているか分からず、例えば午前6時に車を入れ替えしたとしても、1台目の充電が不足する可能性はゼロではないからです。テスラウォールコネクターの場合は、数時間で満充電まで持っていくことができますので、一晩に2台の充電をすることも不可能ではありません。しかし、しっかり計算しないと失敗する可能性がありますので、慣れないうちは、他の普通充電器と同様一晩1台で考えておいたほうが良いでしょう。
1基のテスラウォールコネクターで一晩に2台のテスラを充電する場合の計算方法をまとめておきましょう。
予約または先に到着している車をA車、次の車をB車とします。充電はB車から開始します。A車とB車のバッテリー容量(60,75,85,90,100のような数字)と、現在何%くらいなのか、そして何%まで充電するのかを聞きましょう。遠くへ帰るお客様の場合は100%充電が一般的です。仮にA車が90kWhバッテリーで現在60%、100%まで充電する場合、90kWh x (100%-60%) / 100 = 36kWhを追加で充電する必要があります。ウォールコネクターのアンペア数は15Aから72Aまで(もちろん15A以下も作れますがそれでは利用価値が半減します)ですが、仮にここでは40A(50Aブレーカー)だったとします。40A x 200V = 8000W = 8kWですね。先ほどの36kWhを8kWで充電するのにかかる時間は36kWh / 8kW = 4.5時間、すなわち4時間30分となります。仮にA車のお客様が10時チェックアウトまで車を使わない場合は、遅くとも朝5時30分から充電を開始すれば、チェックアウトまでに充電が完了します。例えばフロントの方は午後10時で勤務終了、翌朝は8時から、などのようなケースでは、B車がチェックインしてからすぐB車の充電開始、午後10時に充電ケーブルをA車に繋ぎ変えれば、両方の車ともそれなりに充電ができることになります。予約または先着のA車はお客様のご希望通り、B車は可能な限り充電、というわけですね。
これを公式にすると以下のようになります。
{A車バッテリー容量kWh} x ({A車充電完了時%} – {A車充電開始時%}) / {ウォールコネクターのアンペア数} / 20 = {A車の充電にかかる時間}
そして、A車の充電にかかる時間に少しだけ余裕を見て、B車の充電を終了すればよいというわけです。複雑ですが、慣れてくれば何とか。個人的意見ですが、こんなに悩むくらいならウォールコネクターをもう1基追加したほうが簡単だと思います。
最後に、運用に当たって考える必要があるのはコストです。普通充電器をNCS加盟または提携で、公共の充電器として運用する場合は、電気代はNCSが払ってくれますし、利用代金はユーザーが自動車会社またはNCSに支払いますので、宿泊施設側で何かを気にする必要はありません。しかし、この記事でお勧めしているように、宿泊施設がご自身で充電器を設置している場合、充電した分だけ電気代が発生しますので、その分はお客様にチャージするのが正しいと考えられます。それではどれくらいお客様にチャージするのが正しいのでしょうか?
先ほどの計算式に似た公式・早見表を作ってみましょう。充電する電力量を計算すればよいわけですね。例えばバッテリー容量24kWhの日産リーフを空から満タンまで充電すると24kWhです。1kWhは、低圧受電の場合には約30円、高圧受電(施設にキュービクルがある場合)の場合には約20円程度でしょうから、24kWhは低圧だと720円、高圧だと480円というところでしょう。もう一つ、例えばバッテリー容量100kWhのテスラモデルXを20%から100%まで充電すると80kWhです。低圧だと2400円、高圧だと1600円ですね。
このように、車両のバッテリーの容量や実際に充電する%によって、宿泊施設の負担は変動します。多くのお客様は1kWh=30円という頭があるので、料金を高圧受電ベースで設定しておくと、実際にほとんどの旅館やホテルは高圧受電ですから、「充電料金はリーズナブル」という評価を得ることができます。すると、リーフやアイミーブの場合は一晩500円、テスラの場合は一晩1600円、と設定することで、少なくとも旅館やホテル側の持ち出しはゼロにできます。細かく見るなら、以下のようにしてはいかがでしょうか?
| 車種 | 残20%以下 | 残40%以下 | 残60%以下 | 残80%以下 | 81%-100% |
|---|---|---|---|---|---|
| プラグインハイブリッド車 | 300円 | 300円 | 300円 | 300円 | 300円 |
| 30kWh以下の電気自動車 | 600円 | 500円 | 400円 | 300円 | 300円 |
| 31kWh-60kWh以下の電気自動車 | 1200円 | 1000円 | 800円 | 500円 | 300円 |
| 60kWh以上の電気自動車(現時点ではテスラのみ) | 2000円 | 1600円 | 1200円 | 800円 | 400円 |
なかなか複雑ですが、記事をお読みいただき、ぜひコメント欄にてフィードバックをお願いいたします。









