テスラジャパンが無人タクシー専用モデル「Cybercab(サイバーキャブ)」を日本で初公開しました。東京・青山を皮切りに、大阪、名古屋、そして再び東京・新宿を巡る「Cybercab Japan Tour」を開催中です。入場無料、予約不要。自動運転タクシーが実際に走り出した「今」を実車で確認できるチャンスです。
ハンドルもペダルもない無人タクシー専用モデル
まず最初に、今後の「Cybercab Japan Tour」開催スケジュールは以下の通りです。
| 会場 | 開催期間 |
|---|---|
| 大阪(テスラ グランフロント大阪) | 9月17日〜9月20日 |
| 名古屋(テスラ名古屋則武) | 9月22日〜9月23日 |
| 東京・新宿(テスラ新宿) | 9月26日〜9月28日 |
サイバーキャブは、無人タクシー専用車両としてゼロから設計された2人乗りのEVです。ハンドルもアクセルやブレーキペダル、ミラーもなく、運転席という概念自体が存在しません。左右のドアが上方に開く「バタフライドア」を採用したクーペライクなシルエットが特徴で、東京・青山のメディア向け発表会に登壇したテスラジャパンの橋本理智社長は、このデザインについて「空力を最大化したデザイン」だと説明しました。ボディカラーのゴールド(塗装ではなくこの色の樹脂製)についても「今後はこういったゴールドを基調にした展開をしていく予定」というブランド戦略の一環とのこと。
車体には8個のカメラが搭載されるなど、自動運転のためのハードウェアはモデル3やモデルYと基本構成はほぼ同じです。橋本社長は「カメラの高さなどには若干のモデルによる違いはありますが、画角や設置位置はある程度同じ」と述べ、チップ(頭脳部分)についても「基本構成は同じ」と説明しました。つまりサイバーキャブは、既存の量販モデルと共通した技術で作られていることになります。
車内はベンチシート型の2人乗りです。前後スライドは2席連動、リクライニングは左右独立で、折りたたみ式アームレストやカップホルダー、USB Type-Cポート、5スピーカーのサウンドバーなどを備えています。乗員の声で空調や音楽を操作できるマイクも搭載されています。
リフトゲート式のリアトランクは、ゴルフバッグや車椅子などを収納できる容量を確保。ただし、この日(おそらく日本での展示中を通して)はトランクを開けるのは不可ということでした。
アメリカではすでに商用運行がスタート
日本ではまだリアリティが乏しい無人タクシーですが、サイバーキャブによる「ロボタクシー」はすでにアメリカで実際に走っています。2026年2月にテキサス州ギガファクトリーでハンドルを持たない量産仕様がラインオフし、4月には連続生産への移行を発表しました。そして9月3日、テキサス州オースティンの一部地域で一般ユーザー向けの有料配車サービスが正式にスタートしました。
当初は数十台規模の商用運行車両が登録され、専用アプリから配車をリクエストする仕組みです。テレオペレーター(遠隔監視者)による遠隔操作への切り替えも可能で、走行中に不具合が起きた場合の対応策も用意されています。
ただし、道半ばであることも事実です。米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、ハンドルやペダルを持たない同車がどのように連邦自動車安全基準への適合を認証したのか、調査に着手しています。ギガファクトリー・テキサスの生産体制もまだ立ち上がり段階で、当面の運行規模は年間数千台程度にとどまる見通しだといいます。
橋本社長自身も、FSD(フルセルフドライビング)の完全な実現時期について、拙速な予測を避ける姿勢を見せました。テスラ車自体は日本でも存在感を強めており、2026年上半期(1〜6月)にはモデルYの販売台数が「日本で売られている外国車の全ての中で車種別で首位」になったことが紹介されました。19の都道府県で首位、38の都道府県で上位5位以内に入り、テスラ車の販売好調は東京や大阪といった大都市だけの現象ではないことがわかります。
未導入&メドも立たない日本で公開する理由とは?
日本国内でサイバーキャブが走る可能性は、現状、まだ目途を示せる段階ではありません。ハンドルのない車両は道路運送車両の保安基準に適合しておらず、レベル4の特定自動運行許可を取得する具体的な協議についても詳細は「まだ未定」(橋本社長)です。それでも、なぜ費用をかけてわざわざ日本でサイバーキャブを公開するのでしょうか。発表会での質問に対し、橋本社長は3つの理由を挙げました。
「テスラの最先端のテクノロジーが、すでに実装されているということを、ニュースを通してだけではなく見てもらう、感じてもらう、触れてもらう」。これが1つ目です。2つ目は信頼性。「絵にかいた餅ではなく、テスラが実際にこれをもう実装しているということをリアリティをもって実感していただく」ことです。3つ目は、サイバーキャブが「現在売られているモデル3、モデルYと全く一緒」の技術基盤である点を伝え、「まだまだ先の未来だと思っていたことが、3やYですぐにでも実現できる可能性がある」と実感してもらうことです。
日本の法整備や道路事情について、橋本社長は「日本の道路は非常に狭かったりですとか」「横断歩道での歩行者妨害の判断が難しい」といった固有の課題を挙げつつ、「関係各所の方にしっかりと理解、納得していただく」ことと「車のAIのトレーニング、実走実験」の両面から一つずつ課題をクリアしていく方針を語りました。目標としている監視付きFSDの2026年内の市販車実装についても「目標は変えていないが、急いで安全を落とすつもりはない」というのがテスラの基本姿勢だと強調しました。
サイバーキャブを見てどんな未来を想像できる?
メディア発表会における橋本社長の言葉でとくに印象的だったのが、展示されているサイバーキャブが「もはやコンセプトカーではなく、量産され、実際に人を乗せて走っている現実の車」だということです。自動運転の危険性や、日本での導入実現性への疑問をあげつらって否定的な意見を並べることには、もうほとんど意味がない段階に来ているように感じました。
発表会で実車を間近に見ながら痛感したのは、今回のサイバーキャブ展示ツアーが、日本人、そして日本社会の「未来への想像力」そのものを試すことになるのではないか、ということです。「ハンドルもペダルもない2人乗りの車が、過疎地でドライバー不足に悩む地域のお年寄りを、行き先を告げるだけで自宅まで送り届ける」。橋本社長が語った将来像は、決して絵空事ではなく、すでにテキサスの路上で走り出している技術の延長線上にあります。
実際、会場では記者から(今回の展示は)「タクシー会社への技術供与や協業を意図しているのか」「FSD(監視付き)解禁を見据えたアピールなのか」といった質問も出ました。これに対し橋本社長は「特に決まった意図というのを定めているわけではなく、常に可能性があることはすべて模索しています」と述べ、タクシー会社との協業やFSDの日本導入などについても、可能性があるなら全力で挑戦したいという姿勢を示しました。今回のツアーで示されたのは、特定のシナリオへの布石というより、「超豊かな世界を創る」というミッションを掲げる「テスラの技術を身近に感じてもらいたい」というメッセージです。
大阪、名古屋、東京と、限られた都市・期間での展示ではありますが、行ける人はぜひ自分の目でサイバーキャブを見て、無人タクシーが日本各地を走る様子を想像してみるべきだと感じます。ハンドルもペダルもない車体を前にして、あなたはどんな未来を想像することができるでしょうか。その想像力の差が、10年後の日本社会の豊かさを左右するのかもしれません。
取材・文/寄本好則





