今年も山梨県の富士スバルラインで、夏期マイカー規制中でもEVは五合目まで通行できる優遇措置が実施されています。日産サクラからヒョンデインスターに買い替えた筆者が、スバルライン下り区間の回生ブレーキでどのくらいの電力を回収できるか確認したレポートです。
回生エネルギーの計算方法
筆者はサクラを購入したとき、下り坂の回生ブレーキ能力を調べるため、富士スバルラインで実験を行い、そのレポートを記事にした。では、現在所有するインスターはどうだろうか。サクラのときと同様に富士スバルラインで試すことにした。
前回のサクラの実験では、読者からの指摘もあったように、EVの回生性能はほぼ重量で決まる。したがって下りで回生できるエネルギーは物体の位置エネルギーそのものなので、机上計算が可能だ。
自動車が坂を下るときの位置エネルギーの変化量(E:単位はジュール)は以下の式で求めることができる。
E = m・g・Δh
mは車両重量(kg)、gは重力加速度(9.8m/s^2)、Δhは高低差(メートル)となる。
筆者のインスター(ヴォヤージュ)で車検証の車両重量は1,360kgとなっている。実際には荷物やドライバー1名の体重などを考慮すると1,400kg(車検証の車両総重量は1,580kg)を超えるが、ここでは車検証の車両重量を使う。富士スバルライン入口料金所付近の標高(1088メートル)と五合目の標高(2305メートル)差は1217メートルだ。
1360×9.8×1217 = 16,220,176 (約16.2MJ)
インスターが富士山五合目からスバルラインの料金所まで降りると約16.2MJ(メガジュール)のエネルギーが発生する。エネルギー(J)と電力(W)の関係は以下の式(W×時間)で表すことができる。
J = W ・ s
W = J / s
1Wの電力を1秒発生させるには1Jのエネルギーが必要ということだ。つまり得られるエネルギーを3,600秒(1時間)で割ってやれば、Wh(ワット時)に変換することができる。さきほどの16.2MJを電力量に換算するとおよそ4.5kWhになる。
もちろんこれは理論値で、実際にはタイヤや発電機モーターを回す機械ロス、インバーターやDC/DCコンバーターなど回生充電回路の損失、フットブレーキによる熱などのロスが発生する。さらに、EVシステムを維持する電力、エアコンの電力なども駆動用バッテリーからまかなっている。そのため、EVの回生エネルギーの変換効率は50~60%と言われている。位置エネルギーのおよそ半分を充電に利用することができる。
半分もロスがあるのは効率が悪いと思うかもしれないが、そもそもブレーキやタイヤの熱で捨てていた下りで得られるエネルギーが、半分ほどは回収できると考えれば悪くない。
なお、ガソリン車は走行中にオルタネーターを回して補機類バッテリー(12V)に充電している。しかし、その出力は数百~1kW前後(エンジン回転数による)で、ほとんどが電装品、エアコンなどの電力に使われている。このしくみは登り下りなど関係なく車載バッテリーの消耗回避のためのもので、回生システムとは違うものだ。
実験はエアコンON、Autoモードとi-PEDALを比較
理論値と計算方法を整理した上で、これを検証すべく富士スバルラインに出かけた。実験日は7月9日。自宅を午前8時過ぎに出発し、午前11時すぎに富士スバルラインの富士吉田市側の入り口に到着した。
同道路は7月3日から9月10日まで(2026年の規制期間)、マイカー規制が入るため、路線バス、タクシー、観光バスなどの許可車両、緊急車両以外は通行できない。排気ガスを出さないEVとFCEVは、例外として夏季マイカー規制の対象外となる。麓の「富士山パーキング(富士北麓駐車場)」で車検証を見せれば、当日限りの通行証を発行してくれる。
今回の実験では、インスター(ヒョンデ)がもつ、回生ブレーキの自動制御(Auto)モードと、i-PEDAL(完全停止まで可能なワンペダルドライブモード)をオンにしたときの回生の具合を比較するためほぼ同じ区間を2往復した。「ほぼ同じ」としたのは、計測地点を厳密に固定して行ったわけではないからだ。実験としては条件をそろえる必要があるが、他の交通のじゃまになるような計測はできないので、2回ともまったく同じ位置というわけではない。計測区間の距離は、1回目22km、2回目が21kmとなっている。
エアコンは「ドライバーオンリー」の24度設定とした。インスターには「ドライバーオンリー」という空調設定ができる。同乗者がいないとき、助手席や後席用のファンを止めて、運転席だけ冷気・暖気があたるようにして電装品の消費電力を抑えることができる。
SOCは5%回復、エネルギー回収効率は50%以上
実験時の走行データをまとめた表を以下に示す。数値は原則として車両のメーター表示から拾っている。「SOC推計充電電力量」のみ、SOC表示とバッテリーの総容量(49kWh)から計算した数値になる。
●総移動距離:334km
●この日の累計電費:9.6km/kWh
表を見てもらえばわかるように、車両のメーター表示で5%ほどSOCが増えた。先ほどの計算で、インスターは理論上、富士スバルラインの下りでおよそ4.5kWhの充電ができることになる。実際にはその半分として2.25kWh前後が回生されるはずだ。インスター ヴォヤージュのバッテリーは49kWhなので、SOCで約4.6%増える計算となる。実測値は5%だったので、インスターの回生効率は約54%と優秀だ。
筆者のインスターは、SOC100%で、メーターに表示される航続可能距離は430kmから450kmを示す。仮にフル充電で430km走るとして、その5%は21.5km相当の電力だ。まとめると、インスターは富士スバルラインを下るとSOCで約5%、航続距離で約20km分の電力を回収することができた。
ちなみに、サクラでの実験では10%ほどSOCが増えた。バッテリー容量が20kWh、車両重量が1,090kgで同様の計算をすると、3.6kWhが理論値の回生エネルギーになる。理論値だとSOC18%に相当するが、実際には約10%、2kWhほど増えていた(なおサクラでの実験はエアコンオフで行った)。
Autoとi-PEDALの違いは誤差の範囲
インスターのAuto回生制御とi-PEDALでは回生効率の違いはあるのかという点をみてみよう。
インスターを含むヒョンデEVのAutoモードは、車速やアクセル操作、前方車両の有無などを考慮して、自動的に回生ブレーキの強さを4段階で切り替えてくれる。前方車両がある場合、その減速や停止にあわせて減速(回生ブレーキを強める)し、完全停止まで行ってくれる。コースティングと回生ブレーキを状況に合わせて自動制御してくれる優れものだ。
今回、スバルラインを2往復してそれぞれSOCの回復量を調べてみた。結果はAutoモードよりi-PEDALをオンにしただけのモードのほうが1ポイントほどSOCの回復数値が上回った。
下りでAutoモードを使うと、アクセルを離したときの速度を維持するように回生ブレーキ、フットブレーキを制御してくれる。カーブ手前の減速はフットブレーキを踏む必要があるので、その分の回収効率が落ちる可能性はある。
i-PEDALモードは、アクセル操作でスピードを調整する必要があるが、うまく使えば下りでフットブレーキを踏む必要はない。だが、減速制御には当然フットブレーキの介入も行っているはずだ。i-PEDALならブレーキを踏まないからといって、フットブレーキによる回収ロスがゼロというわけではない。
また、メーター表示の読みでは、小数点以下の丸め方がどうなっているかわからない。スバルラインのような下りが20km以上も続くような条件なら、今回のように差がでてくるかもしれないが、市街地走行や平均的な山越えのアップダウンなら誤差の範囲ともいえる。普段設定している好みのモードがあるなら峠の下りだからといって変える必要はないだろう。
Autoモードとi-PEDALモードの他に、手動のパドル操作(Level1~4)で速度調整を行う設定もある。下りが長く続く場合、回生ブレーキの効きを最大(Level4)でほぼ固定になるので、電費や回収効率の大きな差はでないと思われる。
回生ブレーキによる充電量は普通充電並み?
EVの回生ブレーキシステムは、車格やモーター出力を問わず位置エネルギーのおよそ半分を電力に変えて充電してくれる。充電器としての性能(出力)はどれくらいだろうか。
表から、インスターは2回の富士スバルラインの下りで2.45kWhと2.94kWhほど充電できている。平均すると約2.7kWhだ。仮に30分で料金所まで降りてきたとすると、そのときの平均発電出力は、
2.7 ÷ 0.5(時間) = 5.4kW
となる。実際には車両の走行システムに必要な電力、エアコンなど電装品の電力もまかなっているはずだ。エアコンの消費電力はインスターの場合、0.4kWから0.6kW程度だ(写真:センターコンソールで表示させることができる)。回生システムは正味で3kWh以上の電力量を生成(回収)していることになる。エアコンオフで3kWhの充電が期待できる。それが30分で可能なら、出力は6kWになる。
つまり、回生ブレーキシステムによる発電は6kWの普通充電に匹敵する。富士スバルラインのような下りシチュエーションはそう多くはないが、平均的な峠道でも下りは3kWの普通充電器に繋いでいる状態と考えるとお得感がある。
回生ブレーキの賢明な使い方
回生ブレーキは、峠道などで電力消費を節約したいときは積極的に活用したい。ポイントは、登りはなるべく最初に勢い(慣性)をつけて一定の速度をキープすること。カーブで速度を落とした場合、次のコーナーを予想しつつ速度の変化がなるべく少なくなるように心がける。
下りも考え方は同じで、EVの充電メーターをみながら充電方向を維持してスピードを保つ。速度を出しすぎてフットブレーキを多用すると、その分のエネルギーは熱で逃げてしまう。
だが、これはあくまで流れにのった安全運転が優先される。今回の実験が示すように、その効率は運転の仕方や車両のモード設定で大きく変わるものではない。言い方を変えれば、登りも下りも普通にいつもどおりの運転をしていれば、電費は大きく変わらないようにシステムがうまく制御してくれるということだ。
今回の実験で、自宅に戻るまでの総移動距離は334kmだった。この日の電費を計算すると、9.6km/kWhだった。スバルライン2往復を含む1日の平均電費としてもかなりよい数値といえる。区間電費に一喜一憂するより、移動全体で電費を考えることをお勧めする。
取材・文/中尾真二





