長野県白馬村で、宿泊施設などのEV用200Vコンセントによる充電料金をユーザーの自己申告に基づいて課金するというユニークな取り組みが正式にスタートしました。シンプルだけど必要十分。充電インフラの持続可能な活用例として紹介します。
約半年間の実証実験を経て正式にスタート
2023年12月1日からスタートした自己申告課金制度に参加しているのは、EV用200Vコンセントや課金機能がないケーブル付き普通充電器(いずれも最大出力3kW)を設置している宿や飲食店の9施設です。EVを充電する場合、1時間あたり150円(税込)の利用料金を充電後に自己申告で支払います。宿泊施設については1泊あたり1500円(税込)という定額利用料金も設定されました。
自己申告課金の参加施設 (50音順)
●あぜくら山荘
●カントリーインかしわばら
●古民家の宿 ゆるり
●信州白馬八方温泉 しろうま荘
●白馬ブラウニー コテージ
●白馬ペンション&ログホテル ミーティア
●ホテル五龍館
●ライオンカフェ
●ラントハウス ダンクル ネッツ
この制度については、白馬村でEV普及・啓発に取り組んでいる白馬EVクラブの呼びかけで、2022年12月10日から2023年5月31日までの期間に実証実験が行われていました。
実験期間中、私もEVsmartブログの寄本編集長とともに白馬村を訪れて、白馬EVクラブ事務局を務めている渡辺俊介さんが家族で営む「あぜくら山荘」や、村の中心街にある「ライオンカフェ」での充電課金を体験させてもらいました(関連記事)。
設置している宿泊施設などの負担が少なく運用しやすい課金制度を、ほぼ1年をかけて実現させたわけですが、なぜ白馬村で自己申告課金という取り組みが始まったのかについて、最初からあらためて説明します。全国からEV・PHEVが集まる「ジャパンEVラリー白馬」が10年以上にわたって開催されるなど、EV普及に積極的だった白馬村では、行政も充電設備の設置を支援していて、200Vコンセントを備えた宿泊施設も一昨年までに40カ所近くにまで増えていました。
EVユーザーとしては有難い限りなのですが、設置者にはコスト負担が課題になります。これまでは、宿泊施設や滞在型のレジャー施設での目的地充電は、利用者サービスとして無料とするケースが一般的でした。渡辺さんのあぜくら山荘も、実証実験前までは施設利用者に充電器を無料で使ってもらっていたといいます。
ただ、充電にかかる電気代はバカになりません。初期型リーフやアイミーブなどのようにバッテリー容量が限られたEV黎明期の車種ならともかく、最近は一晩充電しても満充電にならないような大容量バッテリー搭載のEVも増えています。たとえば3kWで12時間充電して、単純計算で36kWh入ったとします。電気料金が一般家庭レベルの1kWhあたり30円と仮定して、充電にかかる電気代は1080円。顧客サービス事業者にとって、無料で提供するのは少し重たい金額ですよね。
受益者負担の原則に基づいて、うまく課金できる仕組みを作りたいところ。ただ、通信回線を介した課金システムの導入にはそれなりの工事や費用が必要になります。そこで、渡辺さんたちが考えたのが自己申告課金でした。
【関連情報】
EV用200Vコンセントによる充電課金を開始します(白馬EVクラブ公式サイト)
充電料金は1時間150円。宿泊者の定額料金も設定
「施設側が充電器の設置コストや電気代が回収できて、また利用者にとっては極端に割高とならない」という相場で料金を設定して有料化。利用してくれたユーザーや施設のオーナーたちからアンケートで意見を聞きました。
半年近くの実証実験を通じて、ユーザーからは有料化についてのネガティブな反応はゼロ。価格に関しても5段階評価のアンケートで「非常に安い」が25%を占めたそうです。みなさん、充電が有料なのは当たり前という感覚になってきているのかもしれません。「宿泊中に充電できる安心感はかけがえがありません。これからも続けてください!」という励ましの声もあったとのこと。EVユーザーとしてはまったく同感です。
一方で「将来的には自動的に決済されるといいと思います」というように、利便性の向上を求める意見も。また、一部のケーブル付き充電器では暗証番号を入力する必要があり、「係の方をいちいち屋外まで呼び出すのが申し訳なかった」という感想もあったそうです。
対して、設置者である施設側からは、充電開始時と終了時で対応するスタッフが違うと記録や請求が難しいという報告や、「フロントに立ち寄らなくても支払いができる方法があればなお良い。夜中から充電を希望される方もいて、人件費等の観点からも、もう少しリスクや負担の少ない手順で出来ればと思います」などと運用上の課題を指摘する意見が出たそうです。ただ、実証実験に参加した7施設とも「継続して実施していきたい」と方向性については一致しました。
渡辺さんによると、自動的に課金してほしいという要望はユーザーと施設側の双方から寄せられました。でも、いろいろと調べた結果として「現状で追加コストをかけても回収できる見通しが立つようなコイン式・アプリ式の課金システムはない」とのことでした。
実証実験の際には、充電料金は1時間あたり100円(税込)に設定されていました。しかし、期間中に燃料調整費が高騰したことなどもあって、3kWhあたりの電気代は平均106.03円になってしまいました。そこで正式発足にあたって1時間当たりの料金を150円としたそうです。出力3kWの充電設備なので「1kWhあたり50円」というのは、現時点では十分に納得できる価格設定だと思います。
充電率(SOC)高めから充電器につないだ場合、就寝中に満充電になることも考えられますが、その場合はスマホへの通知などで確認できる充電停止時間を申告すればOKだそうです。
さらに、1泊1500円という定額利用料金も新たに設定されました。施設によっては、電力使用量のピークを抑制するためにデマンドコントロールをしている場合もあるそうなので、1泊料金では、一般的な時間にチェックイン・チェックアウトをする場合、10時間以上(30kWh以上)の充電を保証するようにしています。
正式スタートにあたっての料金改定について、渡辺さんに解説してもらいました。「利便性を考えて、なるべくシンプルにしようということになりました。1泊料金は宿泊施設のオーナーからの意見を取り入れています。事前に金額を決めておくことで、EV充電付きの宿泊プランなども設定できます。また、最近増えているコンドミニアムや貸別荘では、オンライン決済でチェックイン・チェックアウトでもスタッフと客が顔を合わせないようなケースがあります。そのような場合にも対応しやすくなると考えました」
先日もお伝えしたように、白馬村ではアプリやeMP提携カードなどで利用できる課金機能付きの6kW充電器が急増しています(関連記事)。車種によっては高出力が必要なこともあるでしょう。でも私のHonda e(35.5kWh)のように、バッテリー容量が控えめなEVなら3kWでも一晩で十分満充電になります。
もちろん、ちょい足し充電にも便利な6kW充電器という選択肢が増えるのは大歓迎。ただ、設置費用や維持コストを考えると、手軽に設置できて、フレキシブルに活用できる200Vコンセントは、もう少し見直されてもいいと思えます。故障や車種に起因する不具合が少ないのも大きな利点です。じつはかなり汎用性と持続可能性に優れた充電インフラではないでしょうか。そんな200Vコンセントを活用するための取り組みに拍手を送りたいと思います。
実証実験のアンケートにもあったように、EVユーザーが求めているのは「宿泊中に充電できている安心感」でしょう。申告といってもそれほど面倒ではありません。夕食に現金払いでビールを1本追加するようなもの。なんなら1泊料金を事前に支払っておけば、その手間さえ不要です。
取材の帰り道、「シンプル・イズ・ベスト」という言葉が浮かんできました。200Vコンセントで自己申告課金+1泊料金という白馬村方式、やろうと思えばすぐにでも取り組めますし、これから広がりを見せるかもしれませんね。
取材・文/篠原 知存




