白馬のEV充電自己申告課金レポート【後編】参加施設の取材で感じたEV普及の課題

長野県白馬村で実施中のEV用200Vコンセントを利用した充電課金の実証実験レポート。後編では、参加施設のキーパーソンへのインタビューで感じた、日本のEV普及に向けた大きな課題を紹介します。ポイントは車種選択肢の不足と充電インフラ。悩ましい問題です。

白馬のEV充電自己申告課金レポート【後編】参加施設の取材で感じたEV普及の課題

※冒頭写真はLION CAFEのEV充電用コンセント。

白馬にもっとEV用充電設備を!

白馬EVクラブが中心となって実施されている「EV用200Vコンセントによる充電課金の実証実験」は、EV用200Vコンセント(出力3kW)や、課金機能がないケーブル付き200V充電器を設置する施設で、充電設備の利用客が1時間単位で施設に充電時間を自己申告して、1時間あたり100円(税込)の利用料金を支払うという仕組みを試してみる取り組みです。

取り組みの主旨や、自らが経営する宿泊施設も参加する白馬村長の思いなど、前編のレポートで紹介しました。

観光地の宿泊施設など、いわゆる目的地充電のインフラとなる普通充電設備の普及は、日本のEVにとって大切な課題のひとつです。EVsmartブログの運営会社であるエネチェンジなど、数社の充電サービスが意欲的に拡充を進めているところではありますが、設置コストが安価なEV用200Vコンセントで、シンプルな課金を実現する方法として注目すべきチャレンジです。

LIONCAFE で取材中、篠原さんのHonda eを1時間充電。店主の和田吉弘さんに料金の100円をお支払いしました。この店での自己申告課金第1号です!

白馬村では早くからEV用充電コンセントの設置に村独自の補助金を出していて、すでに30軒以上の宿泊施設などに充電設備が設置されていますが、実証実験に参加するのは5軒の宿泊施設と飲食店。昨年末のクリスマス直前、白馬村を訪れて参加する施設のご主人にお話しを聞いてきました。

取り組みを主導する白馬EVクラブ事務局の渡辺俊介さん(あぜくら山荘)と、丸山俊郎白馬村長(しろうま荘)の思いなどは前編で紹介した通り、なのですが。

さらにお二人、お話しを聞いてみると、日本のEV普及が抱える大きな課題が痛感できる内容でした。

予約していたトヨタbZ4Xをキャンセル

痛感した課題のひとつ目は、「欲しくて買えるEV車種選択肢の乏しさ」です。お話しを伺ったのは、『LION CAFE』を運営する株式会社ポップCOOの和田吉広さんです。

LION CAFEの和田吉弘さん(写真右)。

LION CAFEは、白馬村の中心地ともいえる八方バスターミナルのすぐそばにあり、大自然の中で楽しむさまざまなアクティビティを提供する「白馬ライオンアドベンチャー」の拠点でもあります。吉広さんは二代目経営者。先代の頃からジャパンEVラリー白馬で熱気球を飛ばしていただくなど、白馬EVクラブや日本EVクラブとの協力関係があり、店の駐車場にはEV用200Vコンセントを設置していました。

また、白馬EVクラブ事務局の俊介さんとは同級生で幼なじみということもあって、実証実験への参加を快諾したのですが……。

実は、吉広さんはまだEVオーナーではありません。「実は、もともとトヨタが大好きで、EVには興味があったし、トヨタがEVを出すならと思ってbZ4Xを予約していたんです。でも、リコール騒動があったり、いろいろ調べてみるとまだ少し待った方がいいかなと思い直して、予約をキャンセルしたところです」とのこと。

私自身、今までの記事でも書いているように、bZ4Xは「よくできたクルマ」ではあるものの「よくできたEV」にはなり得ていないと感じていることもあり、「それは賢明ですね」と同意することしかできませんでした。

日本には、吉広さんのように「トヨタが大好き」という自動車オーナーさんが少なくないと思います。繰り返し指摘してきた「バッテリー残量の%表示がない」といった物足りないところはトヨタとしても改善の方向で検討しているということなので、1日も早くトヨタから「これはいいEVですよ!」といろんな人にオススメできる新型EVが発売されるのを心待ちにしています。

【関連記事】
トヨタ『bZ4X』東京ー青森長距離走行で実感した「疑問」について考えてみる(2022年12月17日)

また、先日フォルクスワーゲンが200万円台の大衆車EV?という記事などで繰り返し述べているように、日本でのEV普及が本格化するためには「300万円で300km」を実現してくれる大衆的な車種の登場が必要だと考えています。トヨタにはぜひ、フォルクスワーゲンや中国のBYD、テスラの2万5000ドルEVを吹っ飛ばすような、魅力的な大衆車EVをぶちかまして欲しいと期待しています。

充電インフラの脆弱さに「EVを手放すか?」

痛感した2つ目の課題は「日本の充電インフラの脆弱さ」です。不満をぶちまけてくれたのは、「白馬ペンション ミーティア」と、貸切別荘「白馬ブラウニーコテージ」という2施設のご主人である福島哲さんです。

福島さんは、渡辺俊介さんの父親である渡辺俊夫さんらとともに白馬EVクラブ(前身は白馬EV推進協議会)の立ち上げに関わってきた、白馬におけるEV普及のパイオニアです。ご自身も40kWhリーフやミニキャブミーブのオーナーで、ジャパンEVラリー白馬の開催に当たっても何かとお世話になっている方なのですが……。

今回の実証実験への思いを伺って、福島さんの吐き出す言葉は日本の充電インフラがなかなか拡充しないことへの苛立ちを語るものでした。

まず、ご自身の宿に設置している課金機能付き普通充電器についてです。福島さんが経営するミーティアとブラウニーでは、2013年ごろ、いち早く豊田自動織機製の普通充電器を合計で3台導入しました。ところが2020年、この充電器が通信に使用していたauの3G回線がサービス終了になることを受け、課金を継続するには「TOYOTA Wallet(トヨタウォレット)」というスマホアプリを経由することが必要になったのです。

新たなアプリのシステムを導入するかどうか検討するため、福島さんは「まずは自分で一度使ってみよう」とリーフで出かけてみたそうですが、どうにもこうにもわかりづらくて、結局充電するのはあきらめたとのこと。

「それに、僕は日産のZESP3を利用しているから普通充電は無料になってて、使おうとしたホテルの充電器も本来は無料で使える充電器のリストに入っていたはずなのに、いつの間にか使えなくなったんですよ」(福島さん)

普通充電設備のわかりにくさと使いづらさが、充電インフラへの苛立ちポイント「その1」なのでした。福島さんの宿でもTOYOTA Walletの導入を検討しましたが、設置者の立場でもいろいろとわかりにくいところが多く、独自課金にすることを決断。シンプルで合理的な課金を目指す今回の実証実験に賛同&参加したのも、そんな思いが大きな理由になっています。

福島哲さん。

さらに、福島さんは高速道路の高出力急速充電インフラがなかなか拡がらないことにも苛立っています。

「高速道路でも高出力急速充電器がまったく増えていかないのも不満。新東名とかには90kW器が増え始めているようだけど、僕がよく利用する北陸道とか、いったいいつになったら設置されるのかわからない。ZESP3には急速充電の無料充電分が付いてるけど、そんなのいらないから月額料金をなくするとか下げて欲しいと感じるし」(福島さん)

長年のEVオーナーだからこそ、急速充電インフラの拡充や認証システムの合理化がまったく進んでいかないことにも苛立ってらっしゃるのでした。

「それで、こないだ日産のディーラーでいろいろ話してたら、40kWhリーフの下取りが結構高かったから、いったんEVをやめて乗り替えちゃおうかと思っているところなんですよ。アリアとかe+もいいけど、高速の急速充電インフラが今のままだと、長距離を走る時には結局100kmごとに充電しなきゃいけないし」と福島さん。

「充電インフラが脆弱だから、いったんEVを手放そうかと考えている(オーラのe-POWERを注文したそうです)」という福島さんの思いを、吉広さんのbZ4Xキャンセルと同様に、私には否定することができませんでした。

車種選択肢の拡充と、充電インフラの拡充や進化。これはどちらも、日本でEVを発売している、ことに国内の自動車メーカーが果たすべき責務だと思います。

EVに理解が深く、自己申告課金というユニークな試みに参加するキーパーソンを取材して、思いがけず直面した日本のEV普及における深刻な2つの課題。一緒に白馬へ行ったライターの篠原さんの愛車であるHonda eで東京へ戻りつつ、早くなんとかして欲しいと願う取材となったのでした。

取材·文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)14件

  1. 充電代を利益の出る適正価格に改正して充電器の普及を計る必要がありますね。電気代高騰もありますが現状の数倍にすれば良いのではないでしょうか。
    すべてのコンビニや有料駐車場が充電器を設置する日が来ることを期待しています。

  2. 簡単に課金できる普通充電器の普及は大切ですね、
    100円玉を入れる枚数でタイマー設定されるアナログな方式でもいいかも。
    1枚で何時間通電するかは設置者が決められると電気代連動できていいですね。

    1. 同意です。
      製品例)http://www.kyowadensi.co.jp/seisaku/coin/M730AB_W_D.htm
      コインタイマーも良いお値段ですが、ランニングコストもほとんどかからないので通信機能持った認証システムよりは安く済むでしょう。
      電気代が高かったり、6kW対応なら50分/100円、40分/100円と、設定変更すれば良いだけです。

  3. EV用200Vコンセント(出力3kW)は短時間で使用するものではなく、各宿泊施設が宿泊客に提供するものです。この取り組みは少しズレた試みだと思います。白馬はよく行くのでよく知っています。補助金の上限を倍の8万円にすれば、持ち出しがなくなるので充電器の設置が進むでしょう。4万円の上限では、実際に白馬で頼むと設置に8万円ぐらいかかるのでオーナーは躊躇してしまいます。さらに、スノーピークの駐車場はいつもいっぱいなので、コープの駐車場にテスラのスーパーチャージャーの設置を、新しい村長が誘致すれば、EV 乗りの聖地になれると思います。

    1. 白馬でこの実証実験に施設として参加しています。
      この実験は宿泊施設への充電設備増加を主な目的としていますが、この取り組みにより飲食店や観光施設のように短時間滞在の施設でも充電設備が充実してほしいと思っています。
      補助金については財政規模の小さい自治体独自で倍増させるのは困難だと思われ(充電器への補助金は長野県内で白馬村だけ)、またオーナーが設置を躊躇する理由は設置コストよりも運用コストであると感じます。
      スーパーチャージャーまたはチャデモの急速充電器は、充電時間を有効に活用できることが求められるので、場所の選定は重要ですね。

  4. EV充電器が普及しない理由は明らかで、儲からないからです。せっかく設置しても30分の時間単位課金なので、利益が増えない。充電量が多い大きなバッテリのEVほどこの傾向が強いので、せっかく高出力で高額の充電器を設置しても、逆に赤字になってしまいます。
    では、課金を充電量単位にすればよいのかといえば、そうも言えません。充電量単位にすれば、利用者はkWhあたりの料金に敏感になるでしょう。自宅充電の人は、自宅よりも料金が高い場合はできるだけ利用を控えると思います。外部充電が必要なのは、自宅充電ができない人か長距離走行の場合だけであって、それほど多いわけではありません。そんな中で実質値上げを行ってしまうと、EV普及の妨げになると思います。外部充電の競合は自宅充電であることを理解すべきだと思います。
    外部充電で利益を出すには、電力の調達コストを安くする必要があります。そのためには、太陽光発電など再生可能エネルギーを自力で調達して、系統電力よりも安くするしかなりません。例えば、kWhあたり20円ならば自宅よりも安く設置業者も利益が出せるかもしれません。そうすれば利用者が増え、充電器も増えるでしょう。そのような発電・充電システムを作れるかが課題になると思います。

  5. 日本人にとっては、日本メーカー製品所有へのこだわりがまだ強く、日本メーカーのBEVがあの日産リーフを含めても、「すばらしいBEV」にならなく(車側の充電性能も)、BEV応援団の人でさえも、時に苦痛を感じてしまうということなんですね。BEVはテスラ一択?
    ということを再認識しました。
    (あとは、海外のユーザーインタビュー記事も欲しい)

    1. shibata さま、コメントありがとうございます。

      この記事でご紹介した福島さんはとても行動的な方で、頻繁に都市圏へ往復などもしているのでなおさら、という面があります。

      eMPが最大90kW6口器の増設を進めているようですし、さらなる高出力器複数台設置の拡充に期待しています。

    2. なぜ最新のアリアを(意図的に?)無視して敢えてリーフだけを引き合いに出したのか非合理的で意味がわからないです。 
      アリアはまさにこのEVスマートブログ、海外のinsideEVsなどでもテスラ並みの優れた性能を実証してますが。

    3. DDF さま、コメントありがとうございます。

      アリアは福島さんの発言中にも登場しますし、リーフは福島さんの現在の愛車として語っています。
      また、30分充電して100kmは、急速充電器の出力性能に依存した話なので、アリアでも同じです。

      記事では割愛しましたが、福島さんは「高速道路の急速充電インフラが整ったら、またEVに戻ろうと思う」とも仰っていました。90kW以上の高出力器複数台設置を意味しています。

    4. 寄本さま 
      ごめんなさい、先のコメントはshibataさんへの返信でした。誤解を招いてしまいすみません。
      一言shibataさんと明示しておくべきでした…

  6. >>アリアとかe+もいいけど、高速の急速充電インフラが今のままだと、長距離を走る時には結局100kmごとに充電しなきゃいけないし

    これどういうことでしょう?この2車種は現時点でバッテリー容量も大きい方なのに。
    私の所有しているBMW i3(33kWh仕様)でも100kmごとに充電なんて必要ないですが。。。単なる心配性な方なのでしょうか?

    1. Geodesic さま、コメントありがとうございます。

      現状、高速道路SAPAに設置されている急速充電器は40〜50kW出力の機種が中心です。
      充電出力にはロスなどもあるのでおおむね80〜90%程度の効率で充電できるとして、50kW器30分で20〜23kWh程度。
      22kWh充電できて、EVの電費が5km/kWhであれば、30分の充電で走れるのは110kmとなります。

      満充電からの航続距離は長くても、一度バッテリー残量が減ってしまうと、30分で100km程度を繰り返すことになる、ということです。

      i3は、REXでしょうか。だとすると、このあたりのストレスは感じにくいかと思います。

      長距離ドライブの状況やコツ、ユーザーとしての要望などは、EVsmartブログの長距離試乗レポートでも繰り返しご紹介しています。
      「長距離」で記事検索すると、いろいろ参照いただけます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事