白馬村でEV充電「自己申告課金」の実証実験開始~村長の宿泊施設も参加

長野県白馬村でEV用200Vコンセントを利用した充電課金の実証実験が始まりました。利用者が1時間単位で利用時間を自己申告して、1時間あたり100円の利用料金を設置施設に支払います。実証実験の期間は2023年5月31日まで。

白馬村でEV充電「自己申告課金」の実証実験開始~村長の宿泊施設も参加

利用者の自己申告で1時間100円

2022年12月10日から、長野県白馬村で「EV用200Vコンセントによる充電課金の実証実験」が始まりました。EV用200Vコンセント(出力3kW)や、課金機能がないケーブル付き200V充電器を設置していて実証実験の主旨に賛同した 宿泊施設や飲食店が参加。充電設備の利用客が1時間単位で施設に充電時間を自己申告して、1時間あたり100円(税込)の利用料金を支払います。実証実験の期間は2023年5月31日までとなっています。

このプロジェクトを発案、仕組みを策定して主体的に進めているのは、今年10回目の開催が予定されている『ジャパンEVラリー白馬』を日本EVクラブとともに主催するなど、白馬村で長くEV普及に取り組んでいる「白馬EVクラブ」です。

白馬村では白馬EVクラブの尽力もあって、2014年の第1回ジャパンEVラリー白馬開催直後の早い時期から、EV用200Vコンセントの設置に4万円の補助金が支給される村独自の助成制度を実施。すでに40軒近い宿泊施設などに200Vコンセントを中心としたEV用普通充電設備が設置されています。

今までは宿泊者や施設利用者は無料で充電可能としているケースが多かったものの、EV普及が広がり、大容量バッテリー搭載のEVが増えつつある今後を見据えて合理的な課金の仕組みを確立する必要があるとして、今回の自己申告課金を発案したものです。

宿泊施設などの普通充電設備は、課金可能な充電サービスが拡大しつつあるものの、設置などに必要なコストはEV用200Vコンセントが手軽です。今回の実験で「自己申告課金で問題なく運用できるということが実証されれば、白馬村の補助金も活用して村内の施設にさらに多くの普通充電設備設置を進めたい」(白馬EVクラブ事務局の渡辺俊介さん)という思いがあるのです。

実証実験に参加している施設は以下の通り。

LION CAFÉ
あぜくら山荘
古民家の宿 ゆるり
信州白馬八方温泉 しろうま荘
ペンション ミーティア/ブラウニー コテージ

詳しくは、白馬EVクラブの公式サイトをご参照ください。

大容量EVの車種拡大で無料には限界も

あぜくら山荘。

年末のクリスマス前、白馬村へ出かけてキーパーソンのみなさんにお話しを伺ってきました。まずは、白馬EVクラブの事務局として、今回の実証実験などを中心的に進めている「あぜくら山荘」の渡辺俊介さんです。

Q. 実証実験を発案したきっかけは?

初期のリーフやアイミーブなど、以前の市販EVはバッテリーが小さかったので宿泊者には一晩無料で充電を提供しても宿側の負担はせいぜい200~300円程度でサービスの許容範囲でした。でも最近は、たとえば先だってアナウンサーの辛坊治郎さんが日産アリアで来訪し宿泊してくださったんですが、12時間以上、朝まで充電してもまだ100%になっていなかったりして。小規模な宿泊施設の場合、電気料金は一般家庭とそんなに変わらないので、1kWhが25円として、12時間で900円の電気代になります。

これを、まだ充電設備を設置していない宿に同じように無料でサービスしてくださいと言うのでは、それはなかなか増えないなと……。

最近は、EVsmartブログの運営会社であるエネチェンジなど課金機能付きの普通充電サービスも増えてきましたが、初期コストや維持コストを考えると、現在ある200Vコンセントを活用したいし、白馬村には独自の補助金もあります。

合理的で簡単に運用できる方法がないかと、白馬EVクラブの仲間であるペンションミーティアの福島さんなどと一緒に考えたのが今回の自己申告課金システムです。

あぜくら山荘の渡辺俊介さん。

Q. 1時間100円の根拠は?

たとえば、あぜくら山荘の場合で電気料金は1kWh当たり25~28円くらいです。200Vコンセントの出力は3kWなので、1時間の電気料金は「28×3=84円」ですから、消費税などを考えても適切だろうと話し合いました。消費税込みで110円はどうかという案も出ましたけど、100円ポッキリにしたほうが計算も簡単だし。今後、新たな宿泊施設などに参加してもらうためにも、仕組みはできるだけシンプルなほうがいいと。

白馬村をEVフレンドリーで上質なリゾートに

2022年の村長選挙で初当選を果たした丸山俊郎村長は、実証実験に参加する宿泊施設のひとつである白馬八方温泉しろうま荘のご主人でもあります。年の瀬迫るご多忙中ではありましたが、朝一番にお時間をいただきお話しを伺うことができました。

しろうま荘はケーブルを備えた充電器を設置。

村長自身、役場への登庁など日常の足には中古で購入した40kWhリーフを活用しているEVオーナー。すでに四駆のEVを注文していて納車待ちということでした。「和田野の森の一番高いところにある『あぜくら山荘』さんが後輪駆動のミニキャブミーブを使ってて、EVは雪道にも強いことはわかっているんですけど、やっぱり冬の白馬では四駆の方が安心なので」(丸山村長)とのこと。今年の冬に、納車が間に合うといいのですが……。

Q. 村長として、ご自身の宿でも実証実験に参加する思いは?

ゼロカーボンシティ宣言をしている白馬村として、電気自動車を普及させたいという思いが強いです。充電インフラはEV普及に不可欠ですが、民間施設に設置していただくにはコストも掛かります。白馬村を訪れる利用者の方に一定の受益者負担をお願いする上で、有意義な試みだと思っています。

Q. 村内の急速充電器もリプレイスの時期ですね?

しろうま荘のご主人でもある丸山俊郎村長。

そうですね。今、白馬村には役場と道の駅の2カ所に急速充電器が設置されていますが、ともに最大出力は25kWしかありません。知り合いのドイツ人の方がポルシェのEVで白馬に来てくれましたが、充電が遅いと指摘を受けました。

白馬村には一棟貸しのコテージなども多く、都市圏の富裕層の方が大容量バッテリーを搭載したEVで訪れるケースが増えています。長期滞在型のEVへの理解が深いリゾートとして、高出力な急速充電インフラのあり方を検討しているところです。

白馬村に理想的なEV充電ステーションがあったら素敵

村長ご自身がEVユーザーとして高出力急速充電インフラの必要性を理解して推進しようとされているのは、さすが白馬! という印象です。

たとえば、白馬村役場に近く、白馬駅と八方の交差点を結ぶ道の途中にあるスノーピーク「LAND STATION HAKUBA」には、白馬村観光局のインフォメーションも設置されていて、広い駐車場があります。村長にお話しを伺って「この場所に、テスラのスーパーチャージャー4台と、eMPの新型6口器が並んで設置されているような充電スポットができたら素晴らしい!」と思い付き、ちょこっと視察もしてみました。

スノーピークはもちろん、テスラやe-Mobility Powerなど関係各所の賛同などが不可欠ですが、高速道路のインターチェンジからは遠くても、EVフレンドリーなリゾートに「EV充電パラダイス」が誕生すれば、日本のEV普及にとっても大きなニュースになると思います。関係者のみなさま、ぜひご検討ください。

ちなみに、年が明けてからあぜくら山荘の渡辺さんと連絡を取ったところ「冬になり高騰した電気料金の燃料費調整単価や再エネ賦課金を合わせると、施設によっては1時間100円(税込)では赤字になってしまう状況で、早速検討課題が見つかりました」とのことでした。EVユーザーとしては1時間100円がありがたいですが、充電設備を提供してくださるみなさんが損をするのでは本末転倒。赤字にならないようにお願いします。それにしても、電気料金の値上げは深刻ですね。オール電化にしている私の自宅の電気代もものすごく上がっています。

というわけで、白馬村の自己申告課金実証実験のレポート、前編はここまでです。後編ではさらに実証実験に参加する2名のキーパーソンにお話し(EV普及への思いと裏腹な課題を考えさせられる内容でした)をお伝えします。

【後編レポート】
白馬のEV充電自己申告課金レポート【後編】参加施設の取材で感じたEV普及の課題

取材·文/寄本 好則

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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