長野県白馬村がEV充電パラダイスに〜急速充電器高出力複数口化で普通充電器も激増

長野県白馬村で、村役場と道の駅にあった急速充電器が複数口&高出力化。さらに宿泊施設などへの普通充電器の設置数が急増しています。EVユーザーにはうれしい進化を遂げていると聞いて、1泊2日で訪ねてきました。

長野県白馬村がEV充電パラダイスに〜急速充電器高出力複数口化で普通充電器も激増

設置者への電気代還元で一気に拡大

白馬村は、1998年長野五輪の会場にもなった国際的スノーリゾートです。EVsmartブログ読者には、電気自動車の普及を目指す祭典「ジャパンEVラリー白馬」(関連記事アーカイブ)の開催地としても知られているはず。地元有志による「白馬EVクラブ」が持続可能な観光地づくりを目指して活動していて、日本屈指のEV先進地帯と言っていいと思います。

夏の白馬に全国からEVが集結!

筆者もたびたびHonda eで白馬村を訪ねていますが、以前から宿泊施設などに充電設備(コンセントや充電器)が多く、いわゆる目的地充電が充実していることは感じていました。それでも、2023年7月のジャパンEVラリー白馬の開催時には、EV用充電設備を備えた施設はたしか40カ所ぐらいだったはずです。

それが白馬EVクラブのHPで確認したところ、91施設(23年12月現在)に。最大出力44kW~90kWの急速充電器もあって、200Vコンセントや高出力のテスラ・ウォールコネクターも含む普通充電器は150口以上になっています。驚くべき拡充ぶりです。

年明けの24年1月に再訪問しました。宿泊先に選んだのは、白馬EVクラブ事務局の渡辺俊介さんがご家族と営む「あぜくら山荘」。もともと200VのACコンセント(3kW)が2口あって、以前に宿泊した際にも利用させてもらいました(関連記事)。到着してみると、その隣には新たにTerra Charge(テラチャージ)の6kW普通充電器(2口)が増設されていました。

このテラチャージの6kW充電器が、村内で一気に普及率が上がった理由です。渡辺さんによると、昨年、テラチャージが白馬村内の宿泊施設オーナーらを対象に6kW充電器の無料設置を案内する説明会を開催。そこで興味を持って導入を決めたオーナーが多かったそうです。渡辺さんのような増設組も含めてテラチャージの充電器が54施設に84口設置されました。地面が凍結する冬季は基礎工事ができなくなっていて、雪解け以降に充電器はさらに増える見込みだそうです。

テラチャージの提案が支持を集めた理由は、無料設置だった上に、6kWの充電料金を1時間350円(3kWの場合は200円)として、さらに設置者の電気代負担を軽減する一定額の還元があったことでした。

充電器増設はEVユーザーにとっては単純にうれしい話ですが、設置者側にとっては電気代の負担が課題になります。仮に宿泊施設の電気代が30円/kWhとして、宿泊客が30kWhを充電したら900円、50kWhで1500円のコスト増。一泊の料金をそれだけ値下げしているのと同じ。もちろん私のようなEVユーザーを新規顧客として呼び込める効果もあるでしょうが、費用対効果は考慮されて当然でしょう。

このため、渡辺さんたちの「白馬EVクラブ」では、それまで多くの宿泊施設が無料で提供していた200Vコンセントでの充電について「自己申告課金」の実証実験(関連記事)を行っていました。この結果や新たな取り組みについては、しっかり紹介したいので別記事で詳報しますね。

テラチャージが設定した電力量換算で約58.3円/kWhという充電料金も、EVユーザーが納得できる価格帯です。目安として月額料金や無料枠のないENEOS Charge Plusを例にとると、50kW急速充電器を会員価格46.2円/分の30分利用で22kWh充電できたと仮定して、約63円/kWh(これも急速充電料金としては納得価格)です。設置者への還元とリーズナブルな利用料金が白馬村で普通充電器激増の流れを作ったようです。

白馬ジャンプ競技場の目の前にある「白馬山のホテル」には、エネチェンジの6kW充電器が設置されていました。ホテルの正面に置かれて目立っています。使い勝手の良さを求めてわざわざ充電しに来るEVも多いとのこと。代表のMさんは「どんどん使ってもらって、充電器があるから泊まろうという人が増えてくれればいいですね」と話していました。みなさんご存知の通り、エネチェンジの充電器はeMP認証できるのが便利。お話を聞いている間、さくっと充電させてもらいました。

経産省は2030年までに普通充電器30万口という設置目標を掲げていますが、目的地充電施設がここまで充実しているエリアは日本国内でまだそんなに多くない(以前の補助金で3kW普通充電器が多く設置された温泉地などはいくつかありますが、機器更新の課題などが持ち上がっています)と思います。白馬村の事例は先進的取り組みとして要注目です。

白馬EVクラブウェブサイト(Googleマップ)より引用。※クリックすると拡大します。

急速充電器も高出力&複数口で更新

さて、今度は急速充電器です。白馬村では「白馬村役場」「道の駅白馬」「白馬樅の木ホテル」「Hakuba 47」の4ヵ所に設置されていましたが、このうち白馬村役場の25kW器が50kW器2基に、道の駅白馬の25kW器(1口)が90kW器(2口)にアップデートされました。しっかり高出力&複数口化。最近進んでいるEV用充電インフラ更新のセオリー通りです。

更新された役場と道の駅もすでに運用開始されていたので、渡辺さんのミニキャブ・ミーブと私のHonda eで試しに行きました。

まずは道の駅白馬から。設置はe-Mobility Power。以前使われていた25kW器の向かって右側に、真新しい90kW器がありました。1基からケーブルが2本出ているタイプです。駐車スペースの都合で、車室が縦列になっています。

車体前部に充電口があるHonda eは、どちらからも充電ケーブルが届きそうなので、先を譲りました。ミニキャブ・ミーブは助手席側に充電口があるので、向かって左側の車室を選択。私は向かい合わせになるように止めました。あまり体験したことのない配置で新鮮です。

充電器のケーブルは、吊り下げ式。筐体の両肩にケーブルを通す部分がついています。初めて使いましたが、いい感じです。引き出すのに少し力が必要でしたが、地面で絡んだケーブルを伸ばしたりほどいたりするよりは全然いい。これ、ケーブル放置対策にも良さそうです。積雪の多い地域では、駐車スペースを何度も除雪する必要があります。この方式なら雪の下に埋まったケーブルを除雪車が傷つけてしまう心配も減りますね。

充電はいつものように、eMP提携カードでピッと認証して問題なくスタート。たぶん2台で充電すると45kW×2の最大出力になると思われますが、そもそも90kWなどという高出力では充電できない2台ですし、Honda eは30kW程度でしか入らないので、出力の検証はできませんでした。最大出力については、高出力対応EVのみなさんの検証を待ちたいと思います。

SOC高めとあって、2台とも30A以下しか流れませんでした。

続いて白馬村役場です。古い急速充電器が置かれていた屋根付きスペースにニチコン製50kW器が2台並んでいました。屋根などはそのままにリプレイスされたようです。ただ、こちらもスペースが限られていて、車室は変則的な「L字」配置。充電風景としてはこっちの方が珍しいかもしれません。

こちらの充電器はe-MP提携カードは使用不可。テラチャージの専用アプリを使います。「白馬村でテラチャージ増加中」と聞いていたので、クレジットカードの登録など、事前にアプリは利用可能にしてありました。段取りって大事ですね。さっそく2台で繋いで試してみます。

スマホのアプリ画面。本来はQRコード読み取りで充電できます

ところが、アプリでQRコードを読み込むと、「同時に利用できる充電器台数に制限がかかって……」という表示が出て、先に進めません。あれ? 逆にHonda eから充電スタートさせてみると、ミニキャブ・ミーブが充電できない、という状況になってしまいました。

あぜくら山荘に設置されたテラチャージの普通充電器は問題なく使えていたので、専用アプリの設定ミスなどではないはず。うーん、と2人で首を捻り、テラチャージに問い合わせることにしました。

後日、カスタマーサポートから以下のような回答がありました。

「(取材日だった)1月18日時点では、デマンドコントロール設定されていたため、1台しか稼働できておりませんでした。現在は、解除済みですので2台同時にご利用いただけます」(メールから引用)。

いわゆる初期トラブルだったということでしょう。白馬村によると、2月9日にテラチャージとニチコンが現地で点検して、無事に2台同時に50kW+50kWで充電できることを確認した、とのことです。

充電では、もうひとつ気になることが。Honda eは10分以上充電したつもりが、終了後にアプリで確認したところ、充電利用時間が3分、電力量2kWh、充電料金84円という結果が表示されました。SOC高めの充電だったので、出力低下は想定していましたが、利用時間が短いのが不思議です。1kWhあたり42円という料金に不満はありませんが、途中で充電停止したのでしょうか。

東京に戻ってから、2台であれこれやったのが原因かも……と思いつき、1台で再検証してみることにしました。テラチャージの急速充電器と普通充電器が設置されている埼玉県新座市の「コジマ×ビックカメラ新座店」を訪問。急速は白馬村と同じニチコン製です。さっそくつないでアプリを操作。

すぐにHonda eの充電ランプが点滅を始めます。問題なくチャージされましたが、やはり利用時間が短く表示。開始から終了まで16分つないだのに、充電利用時間は8分。電力量は6.2kWh、料金は214円でした。1kWh当たりの料金は約34.5円とさらにリーズナブルだったので、何も文句はありませんが、利用時間が控えめに表示されるのは、なぜでしょうか。

追加でテラチャージに問い合わせたところ、カスタマーサポートから以下のような回答をもらいました。

お問い合わせをいただきまして、ありがとうございます。実際のEVへの充電量にできるだけ近くなるよう時間課金ロジックを組ませていただいておりますので、ご認識の通り、現在は通常の時間課金よりも短い時間分のご請求となるケースがございます。アプリ上の表記につきましては、現在、改善を検討しております。

必要なお知らせに関してはアプリやHP内で周知させていただく予定です。今後もユーザーの皆様がより快適なEVライフになるよう開発をしてまいります。この度は貴重なご意見をいただきましてありがとうございました。今後とも変わらぬご愛顧のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
(引用ここまで)

Honda eや日産サクラのように高出力での急速充電が難しい車種でも、損をしないように考慮されているとのことで、これはありがたい仕様ですね。

ちなみにそのあと普通充電器も試しましたが、こちらは開始・終了時間と充電利用時間に齟齬はなく、1時間できちんと6kWh充電できていました。料金は400円。1kWhあたり約66.7円でした。

じつは最近、出先でも6kW充電器をよく使っています。Honda eの急速充電での期待値は30kW前後ですし、SOC70%を超えると受け入れ可能な出力は約20kWまで急落します。一方で、テラチャージやエネチェンジの普通充電はきっちり6kW入ってくれますし、食事や休憩に30分では足りないこともあります。今回も、1時間充電する、と決めて、近くのファミレスで食事とコーヒーを楽しみました。急速+普通で12kWh以上入ったので、自宅から30kmぐらいの場所でしたが、出発時より帰宅後のほうがSOCは増えていました。

白馬村での取材でも、移動するたびに充電器につないで、ちょい足しを重ねていたら、SOCはどんどん増えていきました。どこでも駐車するたびにカチャッと充電器をつないで気軽にチャージできる、というのは、Honda eのような小容量バッテリーのEVにはうれしい環境。EVパラダイスの実現が一歩近づいたと感じました。

白馬村で環境政策を担当している総務課企画調査係長の山岸大祐さんによると「今後は、村営施設にも普通充電器の設置を検討していきたい」とのこと。今夏の「ジャパンEVラリー」で白馬村を訪ねるころには、さらに充電環境が拡充されているかもしれません。EVユーザーのみなさんの感想を、ぜひ聞いてみたいと思います。

取材・文/篠原 知存

【編集部追記】 役場の山岸係長にはEVラリー開催時などもお世話になっていて、白馬村の前進を応援しています。ただ、自宅充電可能な村民の利用が多い村営施設に何基の充電器が必要か? といった点は、ぜひ慎重に検討して欲しいと感じます。むしろ、八方の湯やスノーピーク、スキー場の駐車場(うまく民間とコラボしていただいて)など、遠来客が多く滞在時間がある程度長い場所に6kW器があれば、と。
また、小規模な宿泊施設の充電器稼働率は、当面、そんなに高くならないと思うので、白馬村に提示された価格設定で質の高い充電サービスが持続可能なのか、興味深いところです。
(寄本)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 2024年にもなっても充電事業者ごとにアプリや専用カードが乱立し、いちいち設定や準備が必要、料金もガソリンと違い不明朗だなんてこれじゃいくら充電器が増えたところで電気自動車が普及しないのも仕方ないなと記事読んで感じました。

    技術的にプラグアンドチャージがすぐ難しいのは分かりますが(それでも10年以上前からテスラは実現さています)アプリのインストールや通信でのビジター認証を要求せず誰もが持っているような決済手段ですぐ充電できる事を補助金の条件にしなかった役人やCHAdeMOと共に沈んでいく日本の自動車各社による盛大な失敗だったと思います。

    役人任せにせず、1日も早いNACSへの移行を政治判断すべきです。

    1. NACSは単なる規格で,プラグアンドチャージはテスラとスーパーチャージャーが自社で整備しているから可能だと認識しています(間違っていたらごめんなさい)
      先日DMMのNACS規格の急速充電器がニュースになっていましたが,プラグアンドチャージは無理とのことですので,残念ながらNACSに移行しても同じことではないかと…
      せめて電子マネーかクレジットカード等,広く使われている手段で簡単に決済できてほしいですよね。

  2. なるほど、計量法のスキをついて、あくまで時間課金ですよと。
    ちょっとグレーですが、ユーザーには嬉しいですね。

    1. yukibonさま
      コメントありがとうございます。

      充電器の高出力化はどんどん進んでいますし、遅かれ早かれ従量制課金が導入されると思いますが、まだまだ過渡期ゆえ「快適なEVライフ」のためには、みんなで知恵を絞るしかない、という感じでしょうか。
      普通充電は3kWと6kWで料金を変えていますし、急速充電もEV側に合わせてもらえるとうれしい(時間制だと損をしがちなHonda e 乗りの私見)です。

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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