街なかベストの『Honda e』で東京=白馬の冬ドライブ〜高速道路であわや電欠?

長野県白馬村で始まった自己申告制による充電課金の実証実験を取材するために電気自動車の『Honda e(ホンダe)』でドライブしてきた。ユニークな実証実験については編集長のレポートを読んでもらうとして、冬季の往復600キロEVドライブの道中記をお届けしたい。

街なかベストの『Honda e』で東京=白馬の冬ドライブ〜高速道路であわや電欠?

中央道釈迦堂PAで日産サクラと遭遇

東京・白馬間はルートにもよるけれど、ざっと300kmほど。最新EVなら楽々無充電で走れてしまう距離なのだが、ホンダeはご存知の通り「街なかベスト」のシティーコミューター。総電力量は35.5kWhで、航続距離は約226km(EPA推計値)程度なので、途中で急速充電しなければ辿り着けない。

今回は中央道から長野道という高速道中心のルートを走ることにした。EVsmartブログの寄本編集長との同行取材だったため、世田谷区内で編集長をピックアップして首都高永福ICから中央道へ。出発時のSOC(充電率)はほぼ満充電の96%だったので、1回目の充電は八ヶ岳PAあたりで……と目論んでいたが、いつもより電費が悪い。

いつもの長距離ドライブでは1kWh当たり7~8キロ走れるのに、今回は平均電費が5キロ台。東京から長野へ向かう中央道は多くが登り勾配という地理的条件に加えて、12月下旬の寒さに耐えかねて、運転席と助手席のシートヒーターに加えて20度設定でエアコンON(いつもはあまりエアコンを使用しない)というのが原因だろうか。外気温が2~3度なので走行用バッテリーの水加熱ヒーターも作動しているかもしれない。スタッドレスタイヤだというのも一因かも。みるみるSOCが低下していくので、最初の充電ストップは釈迦堂PAと決めた。出発から115kmでSOCは18%に。

初めての急速充電という日産サクラと一緒に充電。

PAの充電スポットに入っていくと、おっと、日産サクラが充電中。でも、ここの充電器は56kWの2口出し。充電渋滞は免れた。EVがどんどん増えている中で経路充電の不安を払拭するには、未設置のSAPAへの増設に加え、既存の急速充電器の複数化と高出力化が望まれている。「2口」でよかった、と素直に感謝できるのは、こういうときだ。ただし、ホンダeは受け入れ電力が最大でも30kWh前後。サクラも同程度と聞いているので、高出力の恩恵は受けられない2台ではあった。

初心者マークをつけた日産サクラのカップルと少しだけ言葉を交わす。なんと前日に納車されたばかりで、ディーラーで充電の練習はしたものの、実際に急速充電するのはこれが初めてだとか。都内から走ってきて、SOC4%でここの充電器にたどりついたそうだ。登り勾配でバッテリー残量が急減したのだろう。笑顔で話してくれたが、かなりドキドキしたのでは。電欠しなくてほんとによかったですね。サクラは30分で70%まで充電できて「これで帰れます」と笑顔で去っていった。スリリングな幕開けとなったEVライフが、これからも楽しいものでありますように。

諏訪湖SA手前で電欠の危機?

オジサン2人をホッとさせてくれた看板。

ホンダeは30分で15.5kWh充電できて、SOCも80%近くまで回復。寄本編集長に運転を交代して先を目指す。ACCをセットして80km程度の定速走行というエコドライブだが、相変わらず電費は5キロ台だ。航続距離表示で考えると次の充電は八ヶ岳PAが安全圏。しかし編集長はひとつ先の諏訪湖SAを目指すという。

いやいや、ちょっと待ってください。こないだ愛車の日産リーフで電欠されて、たしか「急速充電は少し早めで」とお書きになっていたのでは? という助手席からのツッコミはニヤッとかわされる。八ヶ岳PAを過ぎたところに中央道の最高標高点があって、その先は下りになるから大丈夫という読みだった。

ということで八ヶ岳PAをスルー。ところが登りはまだまだ続く。「あれ、もっと近いと思ったけどなー」とのんきな編集長。どんどん減っていく航続可能距離。一方、ナビに表示されている諏訪湖SAまでの距離はなかなか減らない。とうとうあと15分20キロの地点で余裕はゼロに。いよいよやばいかも、と覚悟し始めたところで「中央道最高標高点1015m」という看板が登場した。ほっと胸を撫で下ろす。そこからの下りで充電量も少し回復。「充電残量低下」の警告表示は出たものの、8%残して諏訪湖SAに到着できた。

とうとう航続可能距離表示は余裕ゼロに。

ここの急速充電器は44kWなのだが、充電量は16.6kWhだった。さきほどの56kW器よりたくさん入ったことになる。SOCが低いほうが充電効率がいい(というよりSOCが高くなると充電がセーブされる)というのはホンダeの特性で、これがギリギリまで攻めたくなる理由にもなる。編集長にツッコんではみたものの、じつは私だって気分は同じ。効率良く充電できるから、ついつい減らしてから入れたくなるのだ。

長野道を安曇野ICで下りて白馬を目指す。現在の充電量でも到着できる計算だが、電欠ギリギリでは取材に差し支えるので、大町市内の日産ディーラーでもう一回充電。e-NV200が充電中だったが、待つほどのこともなく数分で交代。12.2kWhを足して、白馬村には余裕で到着することができた。

眺望抜群の諏訪湖SA。

充電口の雪対策は必須であることを実感

午後からの取材を終えて宿泊したのは、やはり取材先のひとつでもあった「あぜくら山荘」。普通充電の200Vコンセント(自主申告制)にホンダeをつながせてもらう。充電器を備えた宿はやっぱりありがたいのだが、今回、寒冷地ならではの貴重な体験となったのが積雪への対応だった。

朝起きたら車は雪だるまに。

到着時に雪がちらついていて、夜には降雪量が増えるという予報。駐車場に屋根はない。ホンダeの充電口はボンネットに上向きについている。雨の日の充電でもトラブルは経験していないものの、雪が積もっちゃうとどうなのか。半開きで固定できないかなぁ、などと試していると、宿の主人で白馬EVクラブのメンバーでもある渡辺俊介さん(愛車はミニキャブ・ミーブ)が、「これ使ってください」とビニール袋にマグネットをつけた手製カバーを貸してくれた。これが良くできていて大助かり。

充電口にかぶせる手製カバーを貸してもらった。

翌朝、ホンダeは10センチほどの新雪に埋もれて雪だるま状態。でも充電口を掘り出してみると、雪はほとんど内部には侵入していなかった。すごいぞ手製カバー。シンプルな道具なのに効果抜群。まさに雪国の知恵である。これまで充電口をカバーする必要性を感じたことはなかったけれど、やっぱり備えあれば憂いなし。ホンダeにも「ポートリッドカバー」という純正オブション(税込1万6500円)が用意されているのだが、コストパフォーマンスや使用頻度を考えて、私も簡単なカバーを自作してみようと思う。

充電料金は400円でした。

雪を積んだままでは走行禁止!

コードを繋いだままの充電口を発掘。手製カバーが雪から守ってくれていた。

さらに「長野では車の雪を全部落とさないと走り出せない(知らなかった!)」と渡辺さんから教育的指導を受けた。交差点などに雪が落ちて溜まることを防ぐため、長野県道路交通法施行細則で、車体や積荷の積雪をそのままにして走行してはいけないと決まっているそうだ。

雪だるま状態を少しでも解消するべく、ホンダeのリモート操作アプリで、事前エアコンを試してみる。これも普段はまったく使っていない機能。エアコン最大のHiで30~40分ぐらい回してみた。車内は温まって、バキバキに凍っていた窓も動くようになったものの、せっかく100%になっていた充電率は88%に。やっぱりエアコンはかなり電気を食う。EVでの冬季ドライブは、余裕を持った充電プランを組んだほうがよさそうだ。

復路の釈迦堂PAで最後の充電。

白馬村内での取材を終えて、帰路は同じルートをたどって、大町市内のディーラー充電を除く高速道路の2回充電だけで東京まで帰り着いた。しばらくエアコンOFFで走ってみたり、全体に下り勾配だったりしたこともあって、往復トータルで電費は6.3km/kWhまで回復。往路のようなギリギリのピンチもなく、のんびりしたドライブとなったのだが、気になったのは充電の不規則さだった。

それぞれの充電量は、諏訪湖SA(44kW)で12.6kWh(SOCは20→62%)、釈迦堂PA(56kW)で15.9kWh(SOCは25→84%)。往路とは逆に出力相応の結果となった。受け入れ電力が高い車種なら順当なのだが、ホンダeの急速充電は、たとえ90kW器でも約30kW以上は出ない。なので、SOCの低かった諏訪湖SAの方がたくさん入るはずなのに、時々こうやって違った結果になる。充電器の状態や気温なども関係しているのかもしれないが、いつまでも謎だ。

充電効率については「30分程度の急速充電において、満充電量の約80%充電を達成しています」(ホンダ公式HP)といったあいまいな説明だけでなく、もっと具体的な情報があるとうれしい。

ま、ああでもない、こうでもない、と頭をひねって充電プランを立てるのもEVの楽しみではあるし、寄本編集長のように経験豊富ならSOCや地形を考えてギリギリを攻めるのもエンタメだけれど、やはりちょっとマニアック。往路で出会った日産サクラのような初心者マークのユーザーも含めて、どんな人でもパッと理解できて不安を持たなくてすむような表示システムや情報提供は、EVシフトを進めるために大切なことのような気がする。

往復約617kmの平均電費は6.3km/kWhだった。

取材・文/篠原 知存

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 往路の電費低下の理由として、トータルでの上り勾配や暖房関係を挙げておられますが、風向きも多分に影響している可能性があります。

    初代リーフでの経験ですが、北西の季節風が強い日に、追い風で南東へ向かう往路では電費が11km/kWh台、向かい風で北西へ向かう復路では8km/kWh台だったことがあります。

    12月下旬とのことなので、冬型の気圧配置だったのでしたら、東京から白馬へは概ね北西に向かうため、風の影響が大きく作用したかもしれません。

    また、復路の急速充電での充電量の逆転現象は、走行用バッテリーの水加熱ヒーターがあったとしても、真冬の低温のため諏訪湖SAで電池温度がまだ低く充電量が少なくなり、そこでの急速充電と次の釈迦堂PAまでの高速走行で高電圧バッテリーの温度が上昇し、釈迦堂PAではより大きい電流を受け入れることができたのかもしれません。

    いずれにしろ、BEVはまだまだそうした不安定な部分が多く、一般人が誰でも気軽に使えるレベルではないのかなぁとも思いますが、将来はBEVの性能が向上し、「昔は電費も充電も行き当たりばったりで大変だったんだよ」などと言えるようになるのかもしれません。

    1. tottonさま、コメントありがとうございます。
      風向き!まったく想像から抜け落ちていました。おっしゃる通りですね。とくに助手席に乗っているとほとんど感じられないですが、強い逆風だとスピードアップしているのと同じ。なるほどです。
      電池の温度についての考察もありがとうございます。バッテリー温度は走行性能に直結するデータですし、タコメーターとかブースト計とかのように、運転席で視認できるようになったらいいのになぁ、と思います。

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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