専用の「超急速充電器」開所式を開催〜エムケイが挑むEVシフトへの課題

京都市のエムケイ山科営業所に、パワーエックスのハイパーチャージャーと、e-Mobility Powerの超急速充電器が導入され、オープニングセレモニーが開催されました。エムケイでは2030年までに全車両をEVを中心としたZEVにする目標を掲げています。

専用の「超急速充電器」開所式を開催〜エムケイが挑むEVシフトへの課題

3基6口の自社専用超急速充電器を設置

エムケイ株式会社(以下、MK)が京都市内の山科営業所に、自社のEVタクシーやハイヤーで活用するためのEV用超急速充電器を設置。2024年2月20日、急速充電器を設置した株式会社パワーエックスのCEOである伊藤正裕氏、株式会社e-Mobility Power(以下、eMP)社長の四ツ柳尚子氏らが出席しテープカット&セレモニーが行われました。

※冒頭写真はパワーエックスのプレスリリースより引用。

テープカットの様子。
お恥ずかしいことに、屋外での撮影時、コンデジの露出設定を指で引っかけてしまったようで、ぼやっとした写真になってしまいました。

新たに設置されたのは、パワーエックスのハイパーチャージャーが1基(2口)と、eMPによる最大150kW器が2基(計4口)、計3基6口です。充電区画が並ぶ駐車場には、新設された3基のほか、以前の営業所(最近移転したばかり)から移設された50kW器(1口)があり、合計7台が同時に充電することができます。また、隣接する区画には6kW普通充電器10基が新たに設置されました。

MK山科営業所の充電設備は自社のEVタクシーやハイヤー専用なので、一般のEVユーザーが利用することはできません。とはいえ、大型蓄電池を備えて最大240kW(120kW×2口同時充電 ※1台充電時は最大150kW)のハイパーチャージャーと、eMPのラインナップ中でも高出力であるABB製「Terra 184」(1台充電時は最大150kW ※2台同時充電時は最大90kW×2口)が並ぶのは「日本でもEVシフトが着々と進んでいる」と実感できる光景でした。

3基6口の自社専用超急速充電器を設置

i7にハイパーチャージャーで充電する青木社長。

MKはかねてから脱炭素社会実現に向けた取り組みとして、タクシーやハイヤーのEVシフトを進めており、2025年までに保有する台数の30%、2030年までには全車をZEV(EVやFCEV)とする目標を示しています。現在の保有台数は約850台のうち、約180台のEV(うち80台程度は装備取り付けなどの準備中)を導入しているので、すでに2割以上に達しています。今後も、車両入替のタイミングに合わせて積極的にEVシフトを進めていくとのことで、少なくとも2025年までに保有台数の30%という目標はクリアされるでしょう。

MKでは以前から日産リーフなどのEVタクシー導入を進めてきたこともあり、山科以外の拠点にも充電設備を設置しています。京都MK全体で、専用のEV用急速充電器の数は19基になったとのこと。かねて設置していた充電器はリーフのスペックに合わせて最大50kW出力のものが多く、昨年からヒョンデ IONIQ 5などの新型EVを積極的に導入したことでより高出力な急速充電器が必要となり、今回の超急速充電器導入となりました。

ちなみに、EVタクシーの平均的な走行距離は「昼勤で約130km、夜勤で約150km。合計で1日300km程度(1年で約10万kmくらい)」とのこと。とはいえ、これは平均なので「大阪へ」とか「福井まで」といった乗客に遭遇すると必要な走行距離は一気に200kmや300kmが必要になります。そのため、ドライバーのみなさんは朝夕の交替時はもちろん、休憩時などのタイミングでこまめに急速充電を行っているそうです。基本的には自社拠点での急速充電を推奨しているものの、ドライバーはeMP提携の充電カードをもち、出先の公共用充電器を利用することもあるということでした。

ドライバーが交替しながら1日24時間、急速充電を繰り返して走り続ける……。ある意味、新型車開発に役立つ情報の宝庫ともなるような、EVにとって最も過酷な使われ方をしている現場では? とも感じます。

エムケイ株式会社の前川博司社長。

国内メーカーのEVは発注しても納車されない……

前述の導入台数181台のうち、すでに稼働しているEVは約100台。最も多いのがIONIQ 5で55台ほど。さらに、タクシー専用装備を付けてもうすぐデビューする約80台は、ヒョンデのIONIQ 5とKONAが中心になるそうです。

ほかに、BMW『iX』のタクシーが5台ほど、高級セダン『i7』もハイヤーとして10台が導入されているとのこと。i7のハイヤー、一度乗ってみたいです。国内メーカー製のEVとしては、リーフが何台生存しているのか確認し忘れましたけど、日産アリアが1台だけ納車されたとのこと。

テープカットに先立つセレモニーで語られた、エムケイホールディングス株式会社の青木信明社長の挨拶が印象的でした。

車両価格や充電設備などは相当の投資となるものの「脱炭素に向けた方法としてEVを選ぶのは、約5年間の稼働期間の車両関連コストがハイブリッド車より2〜3割減らすことができ、SDGsにも貢献できる」からというEVシフトへの前向きな姿勢を示すとともに、現在導入しているEVはヒョンデやBMWが中心で国内メーカーの車種台数が少ないのは「注文はしているが納車されない」「50台、100台と注文しても1年に1台しか入ってこない」のが現状だからということでした。

さらに「(国内メーカーから)要望する車両がなかなか出てこないことには忸怩たる思い」であるという青木社長の言葉は、日本のEV普及がなかなか進まない最大の理由を言い当てていると感じます。

さらに、ライドシェア事業にも「最低でもPHEV」以上のZEVを主力として参入する意欲を示した上で「今の業態にこだわっていると破滅する。(多くのお客様の)移動の足を守る、適切な商品やサービスを提供し、やりがいを求める人材確保にも役立てたい」という見解を示しました。

エムケイのEVシフト、さらなる前進を応援しています。

ちなみに、取材の合間の立ち話で伺ったところ、青木社長の現在のマイカーはBMWのPHEV。早く買ったモデルなので「一充電で30kmくらいしかEV走行はできないけど、通勤は電気で十分ですよ」とのことでした。やはり、自分で乗って感じていることが、企業のトップとしての「EVシフトへ!」という決断に結びついているのでしょう。

最後に、ちょっと唐突ですが、セレモニーの最初に行われたMKドライバー&社員のみなさんによる社歌斉唱などの様子を、サクッと動画で撮影したので、YouTubeの個人チャンネルにアップしておきます。実は、昨年10月のEVレンタカー取材で京都駅前のMK本社ビルへ訪れた際、同様の光景に遭遇(MKの朝礼が修学旅行の見学カリキュラムのひとつになっていた)して驚いたことがあったので、「ああ、これだったのか」という感じです。

正直、長年フリーランスで気楽にやってる僕には無理、、、と感じる面もありますが。世界の中で、日本が衰退し続けないようにするためにも、今一度、こういう気概を思い出すことが必要なのかも知れません。

取材・文/寄本 好則

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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