トヨタは2023年発売の「bZ3」を皮切りに、中国専売BEVの投入を加速させています。今回はトヨタの中国向けBEVでフラッグシップを担う「bZ7」に試乗、中国の需要を満たしつつも「トヨタらしさ」を追求したBEVの魅力を探りました。
トヨタの中国向けBEV最新フラッグシップ
今や世界最大の自動車市場へと変貌を遂げた中国ですが、ここ数年は外資系メーカーも中国メーカーに負けじと、現地向けモデルの開発を次々と進めています。昨今の電動化の流れ以前から多くのメーカーが中国専売車種を投入していましたが、その多くが他国で販売済みのモデルに少し手を加えた程度だったりして、文字通り「ゼロ」から中国向けに新規車種を開発する例は稀でした。
2020年代初頭から中国国内で新エネルギー車(含PHEV・BEV・FCEV)への需要が高まり、中国メーカーは品質と技術力の両面で大躍進を見せています。コストの安さで圧倒する中国勢を前に、外資系は従来の戦い方では太刀打ちできない世界となってしまったのです。
この「現地化」の流れにいち早く挑戦の名乗りをあげたのがトヨタでした。トヨタは2020年に中国の「BYD」とBEV開発において技術提携、合弁会社「BYD TOYOTA EV TECHNOLOGY」を設立しました。その初の成果として、2023年に一汽トヨタ(第一汽車との製造・販売合弁)が発売した「bZ3」(関連記事)が世に送り出されました。
以来、トヨタは一汽トヨタから「bZ5」、広汽トヨタ(広州汽車との製造・販売合弁)からは「bZ3X」などを中国で投入、BEVラインナップを拡充させています。そして2026年3月に発売された最新作が、今回の主役である「bZ7」です。
広々とした室内空間を特徴とするbZ7は5130 × 1965 × 1491 mmのボディを誇り、その大きさは2026年6月にレクサスが発売したばかりの新型「ES」に匹敵します。一方、全高を抑えてファストバックとして後端を処理したおかげで、BEV特有の厚ぼったさを感じさせない美しい見た目となっています。
上質だけど素性は意外にもスポーティ
2段構えのシンプルなダッシュボードと中央に交差するセンターコンソールが描く「T字」状のコックピット空間は、昨今の中国EVでのスタンダードです。15.6インチのセンターディスプレイやQi(無線充電)パッド、冷温庫といった要素も流行りの装備ですが、その一方でエアコン操作用の物理スイッチも残すなど、実用性もしっかりとしています。エンタメ方面ではヤマハ製23スピーカーシステムを採用しており、極上のオーディオ体験が味わえました。
フラッグシップセダンは後部座席の快適性も重要です。その大きなボディのおかげでリアは広々としており、折りたたみテーブルや後席リクライニング機能も活用することで快適な移動時間が過ごせることを実感しました。後部座席のセンターコンソールではフロントのダッシュボード同様にダークブラウンの木目調デザインをあしらっており、前後で統一された上質感を演出しています。
中国では衝突した際の発煙や発火に起因する死亡事故が多く発生しており、消費者は緊急時の安全策にも高い関心を寄せています。中国では2027年から販売される新モデルを対象に「格納式ドアハンドル」を禁止し、事故などの電源喪失時でも開けられるよう、手動のドアハンドルをドア内外に搭載することと定めました。bZ7では他車に先行してこの新基準に対応、内外どちらのドアハンドルも通常時はボタンを押して電動で作動するほか、手動で手前に引っ張っても開けられます。ダッシュボードには通常のクルマで見られる電源ボタンの代わりに「キルスイッチ」を配置しており、意図しない操作や暴走の際に押すことで強制的に車両をシャットダウンできます。
駆動方式は全モデル共通で出力277 hp(207 kW)/トルク320 NmのRWDと、上質な内外装の印象からは意外なほどにスポーティな一面をもっています。パワートレインには中国の「ファーウェイ」が開発した駆動用モーターやインバーター、DC/DCコンバーター、減速機をひとつに統合したユニット「DriveONE」を採用し、コストを抑えつつ効率化を図ったとしています。DriveONEを採用するメーカーは海外勢でも増えており、搭載車種はこれまでに250万台以上が出荷されています。
駆動用バッテリーはCALB(中創新航)製の71.35 kWh、もしくはゼナジー(正力新能)製の88.13 kWhの2種類から選択可能です。中国独自のCLTCモードでの一充電航続距離はそれぞれ600 kmと700~710 kmと公表していますが、実環境では71.35 kWh で480 km程度、88.13 kWh が550 km前後になることでしょう。
乗り心地の良さを実感
実際に運転してみると、アクセルを踏み始めた際の初期加速は日本車らしく優しい味付けです。だからと言って鈍いわけではなく、しっかりと踏み込んだ分だけリニアに加速してくれる、扱いやすい乗り味となっています。
bZ7はフラッグシップセダンらしい「快適な移動」だけでなく、ドライバーとして運転する際の楽しさも追い求め、トヨタのGR部門とレクサス部門の両方がシャシー開発に携わっています。そのおかげもあってかボディ剛性はしっかりしており、一般道の領域でも地面に吸い付くようなコーナリング感覚が病みつきになります。
サスペンション形式は前・ダブルウィッシュボーン/後・マルチリンク、さらには四輪それぞれにエアサスペンションを搭載するなど、かなり豪華です。エアサスペンションの採用は中国メーカーでもかなり広まりましたが、一方でその裏にはサスペンションの基礎技術が足りておらず、その開発を避けるためにとりあえずエアサスペンションを採用しているような気がしてなりません。そういった中国勢の高級車はたとえエアサスペンションを奢っていても乗り心地が今ひとつと感じてしまうのですが、bZ7はしっかりと設計されており、老舗メーカーらしい堅実な足回りの良さを体感しました。
ドライブモードは「コンフォート」と「スポーツ」の2種類で、それぞれ加速フィーリングや足回りの硬さなどを切り替えられます。コンフォートではさらに「車酔い防止モード」も用意しており、これをオンにすることで路面の凹凸に起因する揺れを極限まで抑えてくれます。車酔いを防ぐ各種技術や機能は日産も中国向けEV「Nシリーズ」でアピールしている点ですが、乗り心地が未熟な中国EVが多い中でこういった要素が日本メーカーらしい武器となるのでしょう。
スポーツモードではモーターの味付けがよりスポーティに、アクセルのレスポンスも敏感になることで刺激的な走りへと変化します。「ハイパフォーマンスBEV」とまではいかないものの、重さ2.2トンの車体を277 hpのモーターで駆る感覚は良い意味でちょうど良い操縦フィーリングです。
ハンズオン高度先進運転支援も日本車らしい挙動
レベル2+のハンズオン高度先進運転支援「NOA(Navigation on Autopilot)」機能ではMomenta製のソフトウェアを搭載、フロント上部のLiDARユニットに加えて11個のカメラと12個の超音波センサーが安全な運転を実現しています。学習データなどはMomenta製としていますが、加減速や右左折の挙動はトヨタらしく優しい味付けです。今は同時にBYDの高級ブランド「仰望」のハンズオン自動運転も試しましたが、各種操作は正確なものの、加減速が急なために不快なGをところどころで感じてしまいました。
一方でbZ7はそういった不快感はなく、変に身体に力を入れることなく快適な移動を味わえました。他にも、低速車両を追い越す場面で、軽い蛇行運転を繰り返して車両の前の様子を観測、何もないと判断して追い越したのにはちょっとした感動を覚えました。
bZ7のメーカー希望小売価格は16.98〜22.98万元(約407.4〜551.4万円)ですが、優遇策を駆使することで最上位グレードでも約510万円前後で手に入ります。数多くの先進技術や機能を盛り込んだBEVがこれだけ安く買えるのは日本の感覚からすれば新鮮と思うと同時に、ちょっと羨ましくも思います。実際にこのコストパフォーマンスの良さは中国の消費者にも響いたようで、販売台数は最初の約1か月で約5300台を記録しています。ちなみに、大ヒットを記録しているSUV「bZ3X」は現在でも月間8000〜1万台を売り上げており、その人気は確かなものと言えます。
トヨタは今後も中国向けにEVを投入していく方針です。BEVはもちろん、SUV「ハイランダー」とミニバン「シエナ」の次期モデルではトヨタ初となるEREV(レンジエクステンダー付きEV)にも挑戦すると予告しています。中国ではBEVだけでなく、PHEVやEREVのモデルも同時に揃える戦略が一般的となっており、それを考慮するとごく自然な流れと言えます。
同じ日本勢の日産は中国向けEVを拡充するだけでなく、中国で開発・製造した車種の輸出も進めています。トヨタも香港向けにbZ3Xの右ハンドルモデルを発売したばかりですし、これからの輸出展開も大いに期待したいところです。
取材・文/加藤ヒロト(中国車研究家)







